コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~

制圧者とインカの末裔たちとの戦いの物語

コンドルの系譜 第九話(801) 碧海の彼方

2013-01-02 22:37:21 | 碧海の彼方

さらに、同じ頃、出撃の時を計りながら樹林地帯に潜んでいたトゥパク・アマルたちインカ軍本隊もまた、衝撃の空気に包まれ、騒然となっていた。

 
背後に大軍を控えさせて陣頭に立つ騎馬のトゥパク・アマルも、その横顔に強く案ずる面差しを宿し、険しくなった切れ長の目の端が微動している。

 
彼の唇から、悔恨の声が漏れた。

 
「昨日の海戦、現場を偵察するマルセラ殿の報告の秀逸さ、詳細さに目を奪われ、まさか当人が戻っていないことに気付かぬとは、なんと迂闊だったことか!」

 
己自身を激しく悔いながら、マルセラの叔父でもあるビルカパサの方へ、苦しげな視線を向けた。

 
「そなたの大切な姪子殿が、このようなことになり、詫びの言葉も無い」

 
対するビルカパサは、唇を噛み締めて首を振り、その厳つい体躯を深く低めた。

 
「トゥパク・アマル様、めっそうもございません。

 
インカ軍にとって、このような重要な局面で、マルセラがあのような不始末を仕出かし、もはや償いのしようもございませぬ。

 
すぐにも、この命で購(あがな)いたい思いでございます。

 
皆々方にも、申し開きの言葉も無く――

 

彼の言葉をそのまま裏付けるかのように重い苦悩に覆われゆくビルカパサの表情は、同時に、姪を心から案ずる叔父のそれでもある。

 

【登場人物のご紹介】

≪トゥパク・アマル(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪ビルカパサ(インカ軍)
インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。

マルセラ
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官である重臣ビルカパサの姪。

アンドレスやロレンソと同年代の年若い女性だが、青年のように闊達で勇敢な武人。
女性ながらもインカ軍をまとめる連隊長の一人。
此度の作戦では、昨日の英国艦隊とスペイン艦隊の戦況を陸上のインカ軍陣営に報告するため、少人数の部下と共に沖合の小島に渡っていたのだが

 

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コンドルの系譜 第九話(800) 碧海の彼方

2013-01-02 00:34:25 | 碧海の彼方

その頃、砦の海側方面の石壁を無我夢中で登っていたアンドレスたちの一団にも、屋上階での喧騒が、風に乗って届いてきていた。

 
夜の大気を震わせて凛と響き渡る聞き慣れた女性の声、そして、断片的ながらも聞こえくるアレッチェの言葉――それらを耳にして、アンドレスもまた、愕然とその場に凝固した。

 
(まさか、マルセラ?!

 
なんで、こんなところに?!)

 
アンドレスの周囲のインカ兵や黒人兵たちも、衝撃を隠せぬ表情でアンドレスの方を振り向き、声無き声で叫んでいる。

 
「あれは、マルセラ様の声では?!

 
もしや、砦のスペイン軍に囚われているのでしょうか?!」

 
アンドレスも、衝撃を隠しきれぬ表情で、呆然と頷いた。

 
何とかして起こっている事態を把握しようと、必死で耳をそばだてながら、頭を整理しようとする。

 
(きっと、昨日、マルセラが、敵軍同士の海戦の偵察に出た時だ。


あの時、スペイン兵に見つかり、補縛されたに違いない!)


アンドレスは、自身の手足が震えてくるのを感じた。


(敵の目につきにくいようにと、ほんの数名で偵察に乗り込んでいったが、それがまずかったか!

 
それもこれも、俺やトゥパク・アマル様の計画の甘さだ……

 
マルセラ、すまない――こんな目に合わせて!)

 
常に、強気に、気丈に振る舞うマルセラの、実は、気弱で繊細な一面も、幼い頃から彼女と付き合いの長いアンドレスは、良く知っていた。

 
それに、こんな状態のマルセラを目の前にして、ロレンソはどんな思いでいることだろう?!

 
もし自分の愛するひとが、同じ境遇におかれたら――

 
アンドレスの背を、幾筋もの冷たい汗が伝い落ちる。

 
(まずいまずい事態だぞ

 
ロレンソ、先走っちゃ駄目だ!!

 
マルセラは、すぐに俺が助けに行くから、堪えてくれ!)

 
アンドレスは、険しい表情で周囲の兵たちを振り向いた。

 
「急ごう!!

 
一刻も早く、ここを登りきらねば!」

 
このような場所で兵たちの不安をこれ以上煽らぬよう、懸命に己の動揺を押し隠しながら、アンドレスが皆を鼓舞する。

 
とはいえ、振り仰ぐ遥かな屋上部までは、まだ3分の1以上の長い距離が残されている。

 
「くそぅ!」

 
固い石壁に拳を叩きつけるアンドレスの胸甲の下では、今にも張り裂けそうなほどに、激しく心臓が脈打っていた。

 
☆★☆
ご挨拶☆★☆

 新年あけましておめでとうございます.:*
昨年は、本当にありがとうございました!
これからは完結を目指していく方向ですが、とはいえ、まだ少なからぬ道程がありそうです。
今年も、一歩一歩、書き進めていきたいと思います。
本年もどうぞ宜しくお願いいたします。
全ての皆さまにとりまして、新たなる年がいっそう輝きに満ちた飛躍の年となりますように!

【登場人物のご紹介】

アンドレス(インカ軍)
トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。
剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。

ロレンソ(インカ軍)
アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友。生粋のインカ族。
反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。
アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。
現在、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて、若きインカ兵たちを統率している。

マルセラ
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官である重臣ビルカパサの姪。

アンドレスやロレンソと同年代の年若い女性だが、青年のように闊達で勇敢な武人。
女性ながらもインカ軍をまとめる連隊長の一人。
此度の作戦では、昨日の英国艦隊とスペイン艦隊の戦況を陸上のインカ軍陣営に報告するため、少人数の部下と共に沖合の小島に渡っていたのだが

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