マリアノは、その年端に似合わぬトゥパク・アマルそっくりの切れ長の目元を決然と吊り上げて、険しいほどに凛々しく母とディエゴを見上げている。
しかし、長男のイポーリトが、すかさずマリアノを制した。
「年下のおまえを、一人、別行動になどできない!!
分かれるなら、僕が!!」
「兄上……!」
兄の挑むように真剣な眼差しと、その兄の常の性格から、イポーリトが本気で己の身を案じ、己の代わりを申し出ていることは、マリアノには痛いほど分かった。
マリアノは、そんな兄に、潤みかけた瞳で深く礼を払い、それでも決然と首を振った。
「いいえ、兄上は、どうか母上をお守りして!!」
マリアノの凛とした声が、雨音を凌駕し、響く。
思わず、ミカエラはマリアノの前に跪(ひざまず)き、ずぶ濡れになっている少年の漆黒の髪に手を添え、そのまま両手で少年の褐色の頬を包んだ。
その手の中に、冷え切った表面のその奥で、この瞬間も、しかと脈打っている我が子の肌の感触が伝わってくる。
「マリアノ…おまえたちの、誰一人とて、わたくしの元から離すことなどできようか…!!」
「母上……!」
涙を見せまいと俯(うつむ)きかけたマリアノの声が、詰まる。
それでも、彼は、再び、きっ、と、父トゥパク・アマルに生き写しの精悍な顔を上げ、まるで母を諭すがごとくに毅然と言う。
「フェルナンドはまだ小さくて、母上から離れることはできないでしょう。
それに、兄上は長男です。
父上の跡を継ぐ正統な皇位継承者として、兄上こそ、絶対に生き延びなければならないはず!!」
「マリアノ!!
わたくしにとって、おまえたち三人とも、全く変わらず、同じに大切なのです。
長男とか、次男とか、そんなこと……!」
ミカエラは、もうそれ以上言葉を続けられず、マリアノの体を強く抱き寄せた。
マリアノも、しっかりと母の体を抱き締めた。
二人に降り注ぐ豪雨も、今は、まるで、この母と子を大きな翼で守り、包み込んでいくかのようにさえ見える。
傍で二人の抱擁を見守るディエゴの目頭も、突き上げるように熱くなった。
幼い末子のフェルナンドなどは、もう完全にしゃくり上げて、長男イポーリトに縋(すが)るように身を寄せている。
イポーリトはフェルナンドの肩を優しく抱きながら、彼もまた、母ミカエラを青年に移し替えたがごとくのその美麗な顔に、隠すことなく滔々(とうとう)と涙を流し、震える唇を噛み締めている。
やがて、ディエゴが、己の情を振り切るようにして、ミカエラとマリアノの横に跪き、深く礼を払った。
そして、マリアノを抱き締めたまま放さぬミカエラに、雨音を振動させるほどの、太く、どっしりとした声で言う。
「ミカエラ様、ご案じ召されるな!
マリアノ様のご決意、決して無駄にはいたしません!!
さあ、お時間がありません。
マリアノ様は、別のルートで参りましょう。
なに、心配せずとも、必ず、また皆で相見(あいまみ)えましょう!
一時の辛抱です!!」
ディエゴは元気づけるようにそう言うと、大らかな笑顔をつくってみせた。
◆◇◆物語へのご招待◆◇◆
物語概要 物語目次 登場人物の紹介 現在の物語の流れ
ホームページ(本館)へは、こちらからどうぞ(♪BGM♪入りでご覧頂けます) ***HPの現在の連載ページはこちらです***
ランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。
ネット小説ランキングに投票 (月1回有効)
Wanderring networkに投票 (随時)
しかし、長男のイポーリトが、すかさずマリアノを制した。
「年下のおまえを、一人、別行動になどできない!!
分かれるなら、僕が!!」
「兄上……!」
兄の挑むように真剣な眼差しと、その兄の常の性格から、イポーリトが本気で己の身を案じ、己の代わりを申し出ていることは、マリアノには痛いほど分かった。
マリアノは、そんな兄に、潤みかけた瞳で深く礼を払い、それでも決然と首を振った。
「いいえ、兄上は、どうか母上をお守りして!!」
マリアノの凛とした声が、雨音を凌駕し、響く。
思わず、ミカエラはマリアノの前に跪(ひざまず)き、ずぶ濡れになっている少年の漆黒の髪に手を添え、そのまま両手で少年の褐色の頬を包んだ。
その手の中に、冷え切った表面のその奥で、この瞬間も、しかと脈打っている我が子の肌の感触が伝わってくる。
「マリアノ…おまえたちの、誰一人とて、わたくしの元から離すことなどできようか…!!」
「母上……!」
涙を見せまいと俯(うつむ)きかけたマリアノの声が、詰まる。
それでも、彼は、再び、きっ、と、父トゥパク・アマルに生き写しの精悍な顔を上げ、まるで母を諭すがごとくに毅然と言う。
「フェルナンドはまだ小さくて、母上から離れることはできないでしょう。
それに、兄上は長男です。
父上の跡を継ぐ正統な皇位継承者として、兄上こそ、絶対に生き延びなければならないはず!!」
「マリアノ!!
わたくしにとって、おまえたち三人とも、全く変わらず、同じに大切なのです。
長男とか、次男とか、そんなこと……!」
ミカエラは、もうそれ以上言葉を続けられず、マリアノの体を強く抱き寄せた。
マリアノも、しっかりと母の体を抱き締めた。
二人に降り注ぐ豪雨も、今は、まるで、この母と子を大きな翼で守り、包み込んでいくかのようにさえ見える。
傍で二人の抱擁を見守るディエゴの目頭も、突き上げるように熱くなった。
幼い末子のフェルナンドなどは、もう完全にしゃくり上げて、長男イポーリトに縋(すが)るように身を寄せている。
イポーリトはフェルナンドの肩を優しく抱きながら、彼もまた、母ミカエラを青年に移し替えたがごとくのその美麗な顔に、隠すことなく滔々(とうとう)と涙を流し、震える唇を噛み締めている。
やがて、ディエゴが、己の情を振り切るようにして、ミカエラとマリアノの横に跪き、深く礼を払った。
そして、マリアノを抱き締めたまま放さぬミカエラに、雨音を振動させるほどの、太く、どっしりとした声で言う。
「ミカエラ様、ご案じ召されるな!
マリアノ様のご決意、決して無駄にはいたしません!!
さあ、お時間がありません。
マリアノ様は、別のルートで参りましょう。
なに、心配せずとも、必ず、また皆で相見(あいまみ)えましょう!
一時の辛抱です!!」
ディエゴは元気づけるようにそう言うと、大らかな笑顔をつくってみせた。
◆◇◆物語へのご招待◆◇◆
物語概要 物語目次 登場人物の紹介 現在の物語の流れ
ホームページ(本館)へは、こちらからどうぞ(♪BGM♪入りでご覧頂けます) ***HPの現在の連載ページはこちらです***
ランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。
ネット小説ランキングに投票 (月1回有効)
Wanderring networkに投票 (随時)