コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~

制圧者とインカの末裔たちとの戦いの物語

コンドルの系譜 第九話(1010) 碧海の彼方

2014-11-29 15:07:59 | 碧海の彼方

他方、アラゴン軍の大軍の只中では、獣のように吠え上げながら斧や鎌を振りかざして飛び込んでくるアパサ軍や、強壮な生気を取り戻したビルカパサ軍の両軍のインカ兵たちの襲撃に、スペイン兵たちがサーベルや銃剣を振るって懸命に対抗している。


その中央では、副官エドガルドを筆頭としたアラゴン王子の親衛隊たちが、堅固に王子を囲んで護りながら、続々と襲いかかりくるインカ兵たちと激しく斬り結んでいた。


「何があろうとも王子をお護りするのだ!」


険しい声で命じたエドガルドの言葉に、「はっ!!」と応じた親衛隊員たちは、このスペイン王党軍きっての精鋭たちである。


高速、且つ、正確な彼らの剣捌きは見事であるが、それにしても、豪雨は視界を霞めさせ、ドロドロにぬかるんだ大地は、足を絡めとり、滑らせる。


ひときわ剣の腕の立つエドガルドも、この時ばかりは、引き結んだ唇を歪めている。


エドガルドは、己に向かって飛び込んできた褐色のインカ兵を、目にも留まらぬ剣の一撃で薙ぎ払うも、ほぼ時を同じくして、すかさず別の方向から襲いかかってきた新手のインカ兵が、獰猛な斧を振り下ろし、エドガルドの愛剣を中央からぶった切った。


「我が一族に代々伝わる高貴な宝剣を、そのような野蛮な斧で汚(けが)すとは


貴様、許せぬ……!」


エドガルドの緑碧色の瞳が怒気をはらみ、美麗な目元が修羅の如く吊り上がる。


「ふふん、そんな細っこいサーベルが宝剣とは、笑いが止まらねぇ!


俺たちなら、そんな剣じゃあ、ガキどものチャンバラごっこにも使えねえなあ。


それに、そんなもんより、あんた自身の身を心配した方がよかねえかっ?!」

 

そう咆哮したかと見るや、次の瞬間には、そのインカ兵は、大きく斧を振りかざして宙空に高く跳躍し、エドガルドの頭頂目掛けて、斧を一直線に振り下ろしてきた。

 

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≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪アパサ≫
「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。
「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。
かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。

≪アラゴン≫(スペイン軍)
スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。
反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。

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コンドルの系譜 第九話(1009) 碧海の彼方

2014-11-27 02:53:44 | 碧海の彼方

傷だらけの顔を決然と上げて、光の甦った双瞼で己を注視する自軍の兵たちに、ビルカパサは、さらに力強く語を継いでいく。


「もはや敵軍は、火器を殆ど使えぬ状態だ。


この豪雨の中、我が援軍から水攻めに合い、火器が萎え果てている上に、体温も下がり、体力的な消耗も激しかろう。


援軍は敵の背面から猛撃している。


よって、我らは、即座に反転し、敵正面から突撃を敢行する。


腹背からの挟撃による肉迫戦にて、一気に勝負を決しようぞ!!」


血塗れの顔面を炯々とさせて、そう猛々しく声を張ったビルカパサに応えて、彼の兵たちが「オー!!!」と、勇壮な雄叫びを上げた。


そのような仲間たちを隅々まで見渡して決然と頷くと、ビルカパサは、すかさず馬ごと踵を返し、自ら陣頭を切って、一直線に敵軍に向かって突撃を開始した。


己の後を追って進撃してくる自軍の兵たちが上げる雄々しい咆哮を背後に聞きながら、ビルカパサは、胸の内で、援軍の将に向かって呼びかけずにはいられない。


(あなたは、ラ・プラタ副王領を護っていてくださるよう、トゥパク・アマル様から重々依頼されていたはず。


にもかかわらず、あなたは、いつもご自身の判断で、陛下の許可を得ることも無く、勝手気儘に動かれる。


それでは、インカ軍全体としての統制がとれず、とても困るのです。


ですが――


そう胸の中で呟きながらも、アラゴン軍の真只中で破竹の勢いで剛腕を振るっているに違いないその援軍の将を見通すかのようなビルカパサの目元には、逞しい笑みが滲んでいる。


(ですが、此度ばかりは、そのようなあなたの到来が、誠に有難い。

 

心より礼を申し上げますぞ、アパサ殿!!)

 

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≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪アパサ≫
「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。
「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。
かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。

≪ビルカパサ≫(インカ軍)
インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。
ロレンソの恋人マルセラの叔父でもある。 

≪アラゴン≫(スペイン軍)
スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。
反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。

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コンドルの系譜 第九話(1008) 碧海の彼方

2014-11-22 13:09:49 | 碧海の彼方

山裾に広がる荒野から、突如、雪崩れ込む黒い大河のように現われ、そのままアラゴン軍の背面に突撃敢行してきた援軍の到来に、砦下で身動きを封じられていたビルカパサ軍の兵たちが驚嘆していたのは言うまでもない。


「お、叔父様、援軍が来るなんて聞いていました?」


自弁の武器を振りかざして、みるみる敵軍の中に斬り込んでくる新参のインカ兵たちを、恍惚と驚きの入り混じった表情で見つめながら、騎乗のマルセラが擦れ声を漏らした。


ビルカパサもまた、その鷲鼻の際立つ鋭利な横顔に驚きを隠せぬまま、「いや。援軍が来るなぞ、聞いてはいない」と、固唾を呑んでいる。


そう答えながらも、ビルカパサの脳裏には、この予期せぬ援軍の正体が何者たちなのか、早くも薄々予測がつき始めていた。


(この唐突な現れ方、それに、あの機動性の高さや、鈍器による戦闘の並外れた強さ。


あのお方に相違あるまい)


豪雨に加えて、先刻の水袋攻撃に止(とど)めを刺され、今や殆ど火器を使用できなくなったアラゴン軍の兵たちは、たちまち自軍の奥深くまで斬り込んできた敵援軍の肉弾戦に、彼らもまた、サーベルや銃剣による肉弾戦で応じるしかなかった。


しかしながら、新手のインカ兵たちは、獰猛な斧や、鋭い突起付きの棍棒、分厚く鋭利な刃が光る鎌などを得意の武器としており、筋骨隆々たる腕で振るうそれらの鈍器は、スペイン兵たちのサーベルを易々とへし折り、鋼の鎧さえも貫いて破壊していく。


夜闇と雷雨の中で、それらの様子をしかと感じ取りながら、ビルカパサは、自分の周囲で、みるみる生気を取り戻していく自軍の兵たちを凛然たる面差しで見渡した。


「皆、願ってもない援軍の到来だ!

 

我らも、今ひとたび、敵軍との決戦に挑もうぞ!!」

 

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反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪アパサ≫
「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。
「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。
かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。

≪ビルカパサ≫(インカ軍)
インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。
ロレンソの恋人マルセラの叔父でもある。 

≪アラゴン≫(スペイン軍)
スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。
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コンドルの系譜 第九話(1007) 碧海の彼方

2014-11-20 12:52:58 | 碧海の彼方

アパサは、眼前のスペイン軍の火器が自軍の水袋攻撃と豪雨によって、すっかり萎え切っているのを見極めながら、チラリと、その奥に聳える敵の高い砦に視線を馳せた。


(あの砦は、なぜ、ずっと黙りこくっているんだ?


トゥパク・アマル、おまえ、どういう戦いをしているんだ?


アンドレス、ビルカパサ、おまえたち、一体、何をやってやがる?!)


幾ら斥候を放っても、掴める情報には限りがあった。


アパサは、トゥパク・アマルやアンドレスの今の戦いぶりに猛烈な苛立ちを覚えつつも、ひどく案ずる思いに駆られてもいた。


(そもそも、おまえたちは無事に生き延びているのか?


何が起きているのか全く分からんが、とにかく俺が行くまで、なんとしても凌げよ!)


「お頭、アラゴンの部隊にこのまま突っ込みますか?!」


勢いある部下の声に、アパサは、砦に向けていた視線を素早くアラゴン軍に戻した。


「ああ、このまま突っ込み、間髪与えず、一気に白兵戦に持ち込む。


あいつらに火器さえ使わせなければ、分(ぶ)があるのは、肉迫戦を得意とする俺たちだ。


副王の王子だかなんだか知らねぇが、大砲やら銃やらばかりに頼ってきた軟弱者どもに、本当の男の戦いってもんを教えてやろうじゃねえかっ!


敵軍の向こう、砦下には、インカ軍の部隊が数千はいると見た。


今はアラゴンに動きを封じられているようだが、俺たちが攻め込めば、必ず、そのインカ軍も動く。


敵を腹背から肉弾戦で挟撃する!」

 

眼光を炯々とギラつかせながら豪語したアパサに鼓舞されて、彼の兵たちから、猛々しい鬨の声が、ドッと、天高く湧き上がった。

 

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インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪アパサ≫
「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。
「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。
かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。

≪アラゴン≫(スペイン軍)
スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。
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コンドルの系譜 第九話(1006) 碧海の彼方

2014-11-15 17:05:14 | 碧海の彼方

とはいえ、決して、気を緩めているわけではなかった。


自らが放った斥候の報告によって、対峙している敵軍の将が、副王の嫡男アラゴンらしいと掴んでいるアパサにとって、相手が油断ならぬ大敵だという自覚は十分にあった。


それでも、いや、それだけに、このアパサにとっては、愉快でならなくもあったのだ。


「あのトゥパク・アマルにしろ、アラゴンにしろ、皇族だの、王族だのってのは、いつだって軟弱だったらありゃしねえなぁ!!」


疾駆しながら傲然と言い放ったアパサの周囲では、「へぇ、全く、お頭(かしら)の言う通りでさぁ!」「情けねえっすよねぇ!」と、彼の部下たちも、アパサ同様、口の減らない者たちばかりである。


アラゴン率いる大軍1万は、もう、すぐ目の前である。


アパサの目つきが鷲のように鋭くなった。


腰に括(くく)り付けた、いかにも獰猛そうな斧に、自動的に右手が走る。


そんな彼の風貌はといえば、身長は中位で筋骨逞しく、その相貌も、その目は小さいながらも深く窪み、活動性と意志の強さが漲っている。


地方豪族にすぎない彼は、外見に頓着しない性格もあいまって、戦闘姿も貫頭衣に胸甲を当てただけという簡素さだが、それだけに、機動性が高く、身も軽い。

 

決して美男とはいえないが、不遜なほど不敵な覇気を全身に纏ったその姿は、多分に人目を惹く雰囲気をもっている。

 

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「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。
「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。
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