「妻じゃなく俺が死ねば……」 被災父子家庭を支える政治はどこに (「宮城県父子の会」代表・村上吉宣)<衆院選・特別コラム>
2012年12月13日(木)13:00
今回の衆院選の私なりの争点は『震災の経験から何を学び、何に生かそうとしているのか?』だと思っています。(「宮城県父子の会」代表・村上吉宣)
わたしは長年、父子家庭の問題に取り組んできました。問題に取り組むきっかけとなったのは息子の3度にわたるガンとの闘病生活であり、それによって貧困状態に陥った経験からでした。
子どもの病気が完治し、僕も仕事に就き、これから自活した生活へと進んで行こうとしていた矢先。平成23年3月11日に東日本大震災が発生しました。僕は宮城県仙台市に住んでいました。海からは離れている地区の為、津波の被害を直接受ける事はありませんでした。しかし、僕は山形県へ通勤する毎日でしたので、9歳の息子と8歳の娘は自宅で2人、大地震に襲われました。本当に怖かったと思います。10時間かけてやっと家にたどり着いた時、子ども達は2人身を寄せ合っていました。
携帯のテレビに映る津波の映像を親子3人で眺めながら、僕は思いました。僕に出来る事はなんだろう。子ども達を守る事はもちろんですが、それでも何かをせずにはいられませんでした。
そこで僕は気づきました。被災地となった東北で、父子家庭への支援活動がますます必要だと。なので3.11の「あの日」から僕はそれまで以上に、父子家庭への支援の必要性を訴える活動を世論に訴え続けています。
「母子家庭という言葉は聞いたことがあるけど、父子家庭は……』という方も多いでしょう。しかし、父子家庭の抱える現状と課題は過去幾度となく見過ごされてきました。
東日本大震災という1000年に1度とまで言われた天災で、2万人近い死者を出しました。その中には父親がいて、母親がいて、子ども達がいました。当然の事ながら、死別によるひとり親家庭が増えてしまったのです。
そして母子家庭と父子家庭の間に存在する支援格差が、遺児家庭の支援を通して浮き彫りになりました。被災地で子育て支援活動をしているNPOやNGOや任意団体では、父子家庭への支援が届かないことが問題として明確に認知されています。
ある震災父子家庭の父親は言いました。「妻じゃなく俺が死ねば良かったんだ。そうすれば行政の支援も受けられて、子ども達にここまでの負担を強いなくても済んだのに」と。父子家庭へは遺族年金は支給されません。就労支援も技能習得支援も雇用促進事業も該当しないのです。
また、父子家庭はジェンダーバイアスの問題により社会的に孤立してしまいました。震災当時、仮設住宅の優先入居や児童扶養手当12条(財産の2分の1を災害により損失した場合、前年度の収入に関係なく児童扶養手当を申請できる)などのひとり親へ対する支援情報が、「母子家庭等」と表現され、父子家庭は「等」の部分にひとくくりにされてしまい、そのせいで当事者達に支援情報がなかなか届かない問題が発生しました。
このような問題を僕たちは、震災後から地方議会を通して、また政府へも直接訴え続けてきましたが、未だ具体的な解決策は見出されていません。
今回の震災で浮き彫りになった父子家庭の抱える問題は本来ならば、神戸の震災の時点で議論され改善されるべきでした。しかし、この問題が今の今まで手を付けられてこなかった事を見てもこれは、危機に対するリスクマネジメントをハード面でしか取り組んでこなかった、政治の問題なのではないかと僕は考えます。
原発の存廃やTPPへの対応、消費増税への賛否も確かに大事な焦点です。中でも原発の問題などは震災をきっかけに熱を帯びましたが、被災地支援の象徴にはなりえず、あくまでも側面でしかありません。震災によって浮き彫りになった多岐に渡る制度上の不備や問題の議論は、棚上げになっているように見えてならないのです。
わたしは一人一人の候補者について、その人が『震災の経験から何を学び、何に生かそうとしているのか?』という見識の有無を、一票投じるかを決める基準にしたいと思っています。
いま現地では沢山の民間組織が精一杯活動しています。民間組織が出来る一時的な支援も必要です。そして長期的に継続した支援体制も必要です。何十年と継続した支援が続き、包括した支援ネットワークを形成し、更に被災3県のどこにいても同じ支援を受けられるようにするためには、国の法律を変え、地方行政で対応できるようにすることが必要です。
そうすれば日本国内のどこで天災がおきたとしても、事故や病気でパートナーを失ったとしても、支援の手が届くセーフティーネットの拡充に繋がって行くことになると思うのです。
その為に僕が政府へ求めるのは、母子家庭のみを支援対象と明記している母子及び寡婦福祉法を父子家庭へも拡充するとともに、正式表記を母子家庭等から、ひとり親へと統一する事。
これも被災地から見えてきた一側面ですが、こうした課題に対しても議論を進め、行動に起こしてくれる候補者を選ぶためにも、じっくり発言や訴えに耳を傾けていきたいと思います。
--------------------------------------------------------------------------------
<筆者紹介> 村上吉宣(むらかみ・よしのぶ) 仙台在住。「全国父子家庭支援連絡会」 理事、「宮城県父子の会」代表。33歳。ホームページ「崖っぷちシングルパパ、ただいま奮闘中!!」
2012年12月13日(木)13:00
今回の衆院選の私なりの争点は『震災の経験から何を学び、何に生かそうとしているのか?』だと思っています。(「宮城県父子の会」代表・村上吉宣)
わたしは長年、父子家庭の問題に取り組んできました。問題に取り組むきっかけとなったのは息子の3度にわたるガンとの闘病生活であり、それによって貧困状態に陥った経験からでした。
子どもの病気が完治し、僕も仕事に就き、これから自活した生活へと進んで行こうとしていた矢先。平成23年3月11日に東日本大震災が発生しました。僕は宮城県仙台市に住んでいました。海からは離れている地区の為、津波の被害を直接受ける事はありませんでした。しかし、僕は山形県へ通勤する毎日でしたので、9歳の息子と8歳の娘は自宅で2人、大地震に襲われました。本当に怖かったと思います。10時間かけてやっと家にたどり着いた時、子ども達は2人身を寄せ合っていました。
携帯のテレビに映る津波の映像を親子3人で眺めながら、僕は思いました。僕に出来る事はなんだろう。子ども達を守る事はもちろんですが、それでも何かをせずにはいられませんでした。
そこで僕は気づきました。被災地となった東北で、父子家庭への支援活動がますます必要だと。なので3.11の「あの日」から僕はそれまで以上に、父子家庭への支援の必要性を訴える活動を世論に訴え続けています。
「母子家庭という言葉は聞いたことがあるけど、父子家庭は……』という方も多いでしょう。しかし、父子家庭の抱える現状と課題は過去幾度となく見過ごされてきました。
東日本大震災という1000年に1度とまで言われた天災で、2万人近い死者を出しました。その中には父親がいて、母親がいて、子ども達がいました。当然の事ながら、死別によるひとり親家庭が増えてしまったのです。
そして母子家庭と父子家庭の間に存在する支援格差が、遺児家庭の支援を通して浮き彫りになりました。被災地で子育て支援活動をしているNPOやNGOや任意団体では、父子家庭への支援が届かないことが問題として明確に認知されています。
ある震災父子家庭の父親は言いました。「妻じゃなく俺が死ねば良かったんだ。そうすれば行政の支援も受けられて、子ども達にここまでの負担を強いなくても済んだのに」と。父子家庭へは遺族年金は支給されません。就労支援も技能習得支援も雇用促進事業も該当しないのです。
また、父子家庭はジェンダーバイアスの問題により社会的に孤立してしまいました。震災当時、仮設住宅の優先入居や児童扶養手当12条(財産の2分の1を災害により損失した場合、前年度の収入に関係なく児童扶養手当を申請できる)などのひとり親へ対する支援情報が、「母子家庭等」と表現され、父子家庭は「等」の部分にひとくくりにされてしまい、そのせいで当事者達に支援情報がなかなか届かない問題が発生しました。
このような問題を僕たちは、震災後から地方議会を通して、また政府へも直接訴え続けてきましたが、未だ具体的な解決策は見出されていません。
今回の震災で浮き彫りになった父子家庭の抱える問題は本来ならば、神戸の震災の時点で議論され改善されるべきでした。しかし、この問題が今の今まで手を付けられてこなかった事を見てもこれは、危機に対するリスクマネジメントをハード面でしか取り組んでこなかった、政治の問題なのではないかと僕は考えます。
原発の存廃やTPPへの対応、消費増税への賛否も確かに大事な焦点です。中でも原発の問題などは震災をきっかけに熱を帯びましたが、被災地支援の象徴にはなりえず、あくまでも側面でしかありません。震災によって浮き彫りになった多岐に渡る制度上の不備や問題の議論は、棚上げになっているように見えてならないのです。
わたしは一人一人の候補者について、その人が『震災の経験から何を学び、何に生かそうとしているのか?』という見識の有無を、一票投じるかを決める基準にしたいと思っています。
いま現地では沢山の民間組織が精一杯活動しています。民間組織が出来る一時的な支援も必要です。そして長期的に継続した支援体制も必要です。何十年と継続した支援が続き、包括した支援ネットワークを形成し、更に被災3県のどこにいても同じ支援を受けられるようにするためには、国の法律を変え、地方行政で対応できるようにすることが必要です。
そうすれば日本国内のどこで天災がおきたとしても、事故や病気でパートナーを失ったとしても、支援の手が届くセーフティーネットの拡充に繋がって行くことになると思うのです。
その為に僕が政府へ求めるのは、母子家庭のみを支援対象と明記している母子及び寡婦福祉法を父子家庭へも拡充するとともに、正式表記を母子家庭等から、ひとり親へと統一する事。
これも被災地から見えてきた一側面ですが、こうした課題に対しても議論を進め、行動に起こしてくれる候補者を選ぶためにも、じっくり発言や訴えに耳を傾けていきたいと思います。
--------------------------------------------------------------------------------
<筆者紹介> 村上吉宣(むらかみ・よしのぶ) 仙台在住。「全国父子家庭支援連絡会」 理事、「宮城県父子の会」代表。33歳。ホームページ「崖っぷちシングルパパ、ただいま奮闘中!!」