明日香の細い道を尋ねて

生きて行くと言うことは考える事である。何をして何を食べて何に笑い何を求めるか、全ては考える事から始まるのだ。

酒のツマミ話(36)元旦特番「芸能人格付けチェック」の仕掛け

2022-01-01 22:56:57 | 今日の話題

1、ワインの場合
一本100万円と5000円のワインを飲み比べるという問題だが、そもそも物の価値というのは「最高ランクの5%」が特別に高価なのであって、両者の違いは1本1000円と5000円との「違い」程は無い、というのが常識である。極端に言えば100万円と5000円の違いは「ほんの僅かの違い・・・というか、滅多にない品か酒屋で買える品か」の差でしかない、と言える。その僅かな違いに対して、通人は90万円なにがしかを「余分に支払う」のだ。有り体に言えば「散々ワインを飲みすぎた酔っ払いが、たまたま珍しい味にぶつかって、その希少価値に狂喜した」というのが100万円の真実だと思う。こういうビンテージワインというのは、美味いワインとは「別物である」と思ったほうが良いと思う。

よくワイン通が目隠しで高級ワインを当てるテストで、思いがけなく「ハズレ」を引いて驚く番組を目にすることがある。これなどは、超高級ワインだから「さぞかし美味いだろう」と思う消費者心理につけ込んで、ついつい間違わせる「番組側の常套手段」に引っかかった犠牲者と言えるのだ。100万円のワインは、美味しいワインの中でも「一番美味しい」ワイン、というわけでは全然なく、全く別の「殆ど味わったことのない」味の「変なワイン」なのである。これを一口飲んで「美味い」と感じる人は、余程味覚が狂っているか、それとも「重箱の隅をつつくような」微妙な違いを言い当てる、特殊な感覚を持っている変人であろう。どちらにしても美味しいかどうかという観点で言えば、今回出演者の殆どが間違えたように、5000円のワインの方が「絶対美味しい」のは間違いない。そもそも美味しいという感覚自体が、味覚のスケールの「延長線上の最高到達点」を意味している。そういう意味では、100万円のワインは、その延長線から「外れている」のだ。

まあ、こういうクイズは得てして「どちらが高いワインか」を当てるように出来ている。どちらが高いか、というのは市場原理から言えば「どちらが希少か」と言うことであろう。もし100万円のワインが5000円のワインと同じ数だけ市場に並べられたら、果たしてこの超高級ワインを100万円も払って飲もうとする人がいるかどうか。要は美味しいワインを知っているかどうかではなく、たまたま希少ワインの味を「知っているかどうか」に掛かっていると言える。美味しいワインとは希少性や価格ではなく、ワイン好きの「最大公約数」が求める味の中で、その美味いと感じる部分を「最大限増強した」製品を言う。だから等級に従って誰もが美味いと感じ、誰もが優劣を付けて「間違わないワインこそ」が最高のワインであろう。それを「味覚の標準化」という。優劣を間違わなければ、価格も当然リーズナブルになっていく。

例えばその年に出来たワインを「美味い順に一列に並べて」、一番美味い物を「特級」とし、一番美味しくないのを「普通」とランク付けして、あとは売り切れるように価格差を付けて市場に出せば醸造家の値付け作業は完了する。もしコストの関係で個々の製品が市場の価格帯より高くなったとしたら?、・・・ただ単に「売れないだけ」というのが業界の真実だ。世に美味いワインは存在しない。ただ「値段に見合ったワイン」があるだけである(これ、私の作った格言!)。

以前、酒屋の主人に「美味い酒」が欲しい言ったら、美味いか不味いかは「体調次第だよ」と言われて、妙に納得したのを覚えている。それ以来、無理して高い酒を買うのではなく、自分の「体調」を整えるのに気を使うようになった。酒は高くても1本「1万円」まで。それ以上は「美味い」というよりは「ただ珍しい」酒というのが本当のところであろう。まあ、ソフトバンクの孫正義さんのように資産何十兆円もある人にすれば、1本100万円でも「駄菓子屋の飴」みたいなもんだけど、我々にしてみれば「一生呑めなく」ても、一つも羨ましく無い種類の酒である。だって、美味しく無いんだもん!

2、バイオリンの場合
出演者と視聴者が同じ条件でクイズを楽しめるのが、このストラディヴァリを当てるチェックである。私もこのテストが大好きで、いつも挑戦しているが大体「正解」しているから、まあ得意分野と言えるだろう。出演者も「耳が悪い」と言う訳では決して無く、双方の違いのポイントは「しっかり聴こえて」いて、ただ肝心の「ストラディヴァリの音」がどんなものか、を知らなかっただけというのが真相のようだ。ストラディヴァリは華やかで綺羅びやかな「ふくらみのある高音」が最大の特長であり、普通のバイオリンでは「それほど高音が鳴らない」という、歴然とした差がある。

しかし初めてクラシック音楽を聞く者からしてみると、ストラディヴァリはその自己主張の特性が逆に作用して「ガサツで馬鹿鳴り」する安物のように、聴くものには音楽性が低く感じられてしまうのである(私の個人的評価です)。実際に今回の6重奏では安物のバイオリンの方が、高音が弱く低音が強く出て、全体に「こもったような音色」の方を「まとまりの良い和声的な音」と出演者は受け取ったようだ。結果、出演者は皆「不正解の方」を選んでしまった。これは「どっちが良い音か」という音質の美醜の評価ではなく、どちらの音のほうが「好みか」というのに結果としては近い。我々を取り巻く現代の音楽環境を考えれば、より低音を強調した「ボワーっとした重量感」のある合奏音の方を皆が「好きな音」だ、ということの結果である。

この超高額バイオリンを簡単に見分ける方法は、合奏したときの主メロディ、つまり第一バイオリンの音が「際立って聞こえる」かどうか、で判断すると良い。ストラディヴァリではない普通の楽器の場合、高音の鳴りがそれほど出ないので「合奏の和音の中に隠れてしまって」余りよく聴こえない。各パートが全体の中に埋没しないで、個々のパートが「それぞれ個性を発揮し」自己主張しながら、それでいて尚且つ「主題(メロディ)が一番キレイに鳴り響く」、というのが「作曲技法」なのだと私は考えている。今回の演奏でもメロディが自由闊達に美しく鳴り響いていて、同時に音の広がりやパートごとの旋律が楽しめたのは「ストラディヴァリ」の方であった。

言うならば「グングン前に出て」きて、観客の耳に迫ってくるようなステージ映えする音を奏でている方が「ストラディヴァリ」である。この理屈を知っていれば、ストラディヴァリを見分けるのは素人でも「それ程難しくは無い」だろう。耳がどうこうではなく、単なる「慣れ」の問題である。ちなみに、音と音楽性は関係ない。まあ、出演者の皆さんが「〇〇の方が心に響いた」とか言っていたのは、視聴者サービスのご愛嬌ですね。

以上。まあこの番組は見ている我々にとってはとても楽しく笑えるから、是非とも続けてほしいと願っています。それにしても YOSHIKI が全問正解だったのには感服しました。次回がますます楽しみになって来ました。


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