フィールドワーク通信

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スラム環境の何が悪い?051228

2006-02-12 16:18:42 | カンボジア通信
WDAティダさん案内によるスラム視察/WDA事務所訪問/環境省の事務次官と面談/ひろしまハウス打ち合わせ/芸術大学建築学科打ち合わせ

翌日はいきなり仕事。学生たちが、すでに予定を手配してくれていたので、それに乗っかって動いた。

朝一はWDA関連の視察である。WDAは、日本語に訳せば女性開発協会だろうか。広島ともつながりのあるNGOである。広島の市民団体がプノンペンに建設をすすめているひろしまハウスの施工業務担当企業を決める際にも、名前が挙がったNGOである。そのつながりもあって今日の視察が実現した。前回の調査では、バサックスラムを訪れたが、それはSVAのサポートによるものだった。なかなか単独でのスラム訪問がしにくいという認識の中、カウンターパートとなるNGOを探していてWDAと出会った。

スラムでは、プレスクールを視察した。10数名の子どもたちに教師が教えている。スラム内の建物の2階部分を借りて運営している。2箇所のプレスクールを見せてもらった。スラム改善には、教育が重要だという認識である。衛生感覚をいかに身につけるかは、基本的な問題である。

スラムに対して何ができるか、という問いに対する議論は、バサックスラムを視察したときに行った。安全、衛生について最低限のレベルをクリアする必要があり、そのためには、少なくとも下水道の完備やゴミ収集システムが確立される必要がある。

フィジカルな居住環境をどう整備すべきかは議論の的になる部分である。インドネシアのKIPが、コミュニティレベルのインフラ整備を行うことで成功したように、住居のレベルに踏み込まずに、公共空間の整備に重点をおく手法が東南アジアのスラム整備に有効である。それは費用対効果の話もあるし、アジアの住宅更新の漸進性にあっているということもある。

根底には、スラム環境の何が悪い?という根本的な問いかけがある。

確かに悪い面もある。だが良い面のほうが多い。悪い面というは、衛生だ。安全と先に書いたが、安全については実はあいまいだ。少なくとも簡素な材料でつくられた住宅が安全性に乏しいという意味ではない。構造的に壊れやすいことが問題なわけでもないし、きちんと戸締りできないことで、防犯上問題があるというわけでもない。逆にコミュニティの質が高いので、防犯的な問題は少ないといっていいのではないか。もし安全というのが改善すべき点であるとすれば、犯罪の温床になりやすいという点だろうか?しかしそれはフィジカルな環境が第一義的な要因になっているというよりも、ソフトの話が大きいように思う。不法占拠地であることで治外法権的な場になっていることや、教育レベルが低いことなどだ。

スラムは、心地よい空間を我々に提供してくれる。

しっかりとしたコミュニティ、あふれる子どもと女性たち、道端で作業をする男たち、ヒューマンスケールな空間、土、水たまり、木、草、犬、猫、鶏、人々の笑い声、昼ごはんのニオイ、素朴な建物。

我々はなぜかスラムでなつかしさを感じるのだ。

近代建築が用意する空間は、一般的に非人間的だ。スラムが改善されて、そうした非人間的空間になることを我々は望まない。改善されるのは、衛生と安全だけでいい。それ以外には手を加えて欲しくない。

 WDAと歩いたスラムには、集合住宅が建っていた。ヴァン・モニヴァン設計の集合住宅だ。フランス在住のカンボジア人建築家ヴァン・モニヴァンのことはあまり知られていない。大建築家である。国家的事業をいくつも手がけ、作品としてはオリンピックスタジアムや独立記念塔などが知られている。アジアンな環境適合型の建築をつくるというよりも、ナショナルな建築を手がける大建築家として位置づけるのが適当だと思う。日本で言えば、丹下健三や黒川紀章である。世代的には黒川紀章と同じくらいだと思う。その彼が設計した集合住宅である。直線的に何百mと続いている。スラムはその裏にできている。スラム視察の後、その集合住宅も歩いたが、中廊下型で廊下は昼間でも真っ暗である。住戸と廊下とは扉一つでしかつながっておらず、生活を感じることができない廊下は、きわめて排他的な空間になっている。スラムのヒューマンな空間とは対比的である。この中廊下には問題を感じるが、住戸の立体的構成は興味深い。住戸のブロックを互い違いに立体的に配置することで、スケールの違う空間をシステマティックに作り出している点が面白いといえば面白い。まあ、どこかで見たことがあるといえば、見たことがある造形ではあるが。ただ外側に2層分のふきぬけベランダを設計しているが、それらはすべて屋根がつけられ1層分のスケールに改築されていた。抜けの空間は残念ながら受け入れられなかったのである。

 午前の部後半は環境省にて事務次官に面会。ティーさんの配慮である。議題は、シェムリアップの学校建設。政府関係者は2人目である。前は、地理局系の大統領アドバイザーにあったが、彼のときは、コンポンチャムの小学校建設であった。なかなか背景が読めないが、日本の資本を引き出すことが目的ではないだろうか。政治家が地元に厚く投資を持っていくことで、票集めをするのと同じ論理で動いているのではないだろうか。想像の域を出ない。今回の打ち合わせでは、我々の版築学校の説明をしながら、また新しい学校モデルの必要性も話をした。土地の取得ならびにもろもろの事務的な手続き、地元との連携はすべてこちらでするから、建設の協力をして欲しいとのことであった。

 午後はひろしまハウス。施工業者がSOMコーポレーションに決まり、鍵の引渡しへの立ち会いであった。以下広島に送付した文書転載である。現場で解決しないといけない問題は山積である。

鍵の引渡しの際の打ち合わせ記録

日時:平成17年12月28日 14時~16時
出席者:ウナローム寺院日本図書館小笠原館長、SOMコーポレーションモノラック専務取締役、広島工業大学脇田、白石、持田
(渋井氏は2月5日にカンボジア帰国予定。それまでは小笠原氏がひろしまハウスの管理代表者代行)
脇田立会いのもと、ひろしまハウス2階の鍵が小笠原氏よりモノラック氏へ渡された。1階作業所の鍵は、渋井氏(小笠原氏)の管理となる。

打ち合わせ内容
1.施工業者の選定
SOMで正式に決定なのか連絡が欲しいとのこと。
2.1階部分の60cmの突出部の計画
 設計図書によると、壁は1階から4階まで垂直に立ち上がるのではなく、1階部分では末広がりに外側に傾斜している。地面部分では2階以上の壁より60cm突出している。
 南側と東側に問題がある。
 南側は、図面どおりに施工すれば寺院内道路にはみ出してしまい、車等の通行を妨げる恐れがある。東側は、住居が建てられているため、施工しようとすれば、住居を撤去する必要がある。
解決案
 1階部分の外側に傾斜した壁は、建物のデザインにとって重要な要素であり、設計者の意図を尊重したい。南側は、建物の正面であり、多くの人の目にふれるため、できるかぎり突出できるよう現場の状況にあわせて設計変更を行う。東側は、現実的に施工が難しいのと、住居が隣接し人の目にふれることもないため、壁は傾斜させず垂直のまま施工する。
3.1階突出部の構造
 設計図書によると、1階部分の傾斜壁は、3.5mの高さをレンガの積み上げのみで支える構造になっているが、現実的には、これで支えることは不可能だとSOMから指摘があった。
解決案
 レンガを積み上げるだけでなく、背後を支える構造を付加することにする。
4.1階で使用中の機材の移動ならびに1階部分完成後の引渡し
 1階部分は現在渋井氏らが作業所として使用している。作業用の機材は高価なものが多く、管理を厳重に行う必要がある。SOMより機材をすべて移動することが提案されたが、現在も作業が進行していることもあり、移動は1月末以降となるとの回答を得た。工事の着手自体が1月末からとなるため善後策を検討した。
 1階をいくつかの区画に区切り、その都度1階内で機材を移動しながら工事にあたる案について検討した。この場合、工事完了後の引渡しについて問題がある。SOMは1階部分をすべて完了させ、広島側の工事完了の確認を得た後、使用を開始するという段取りを経ることが施工者としての責務と考えているが、区画に区切って作業を行う案では、工事完成直後にその区画へ機材を移動せざるを得ないため、その区画の瑕疵がその後明らかになった時に責任の所在が不明確になる。
 今回の協議では、区画案を推進するという方向で今後検討していくことでモノラック氏ならびに小笠原氏の了解を得た。詳細は広島側で検討し回答することとした。
5.外壁のコンクリート、ならびにレンガ壁の構造
 外壁の帯状のコンクリートは構造的な支えをもたないため、図面どおりに施工することは難しいとの指摘がSOMよりあった。
解決策
 壁の厚さは200mmあるが、コンクリートの帯の部分は、180mmをレンガ、20mmをコンクリートの左官仕上げとして対処する。レンガの自立壁では、高さ2m以上のものはもたないため、適宜コンクリートの補強材を入れる。ただし、このコンクリート補強材はデザイン的な影響をなるべく与えないように配慮することとする。
 レンガ壁に対するコンクリート補強については、内装についても同様に対処する。
6.建物内部の既設の手積みレンガ
 既設の手積みレンガをすべて撤去して、新たに壁を造るという案がSOMより提示された。
解決策
・多くの人たちの思いが込められたものであり、撤去しない方向で検討する。
・構造的に問題のある箇所については補強する。
・塗装するか否かは今後の検討を要する。
7.石山修武研究室と広島、SOMコーポレーション相互の関係
 石山修武研究室と広島、SOMコーポレーション相互の関係があいまいなため、石山修武氏との合意内容を再確認し、今後の体制を検討する必要がある。
 特に、現場での調整が今後しばしば必要になると考えられるので、対応策を早急に検討する必要がある。
8.雨、風、光
 雨、風、光に関する対処の具体的方策を、早急に検討する必要がある。
雨季のよこなぐりの豪雨によって、4階部分からの雨が建物内部にふきこむ可能性が高く、雨に対する対処を検討する必要があるとの指摘が小笠原氏よりあった。

 午後後半は芸術大学訪問である。ひろしまハウスが押してしまって、だいぶ遅れてしまった。学科長ならびに、しばしばメールでやり取りをしているニーンとの打ち合わせである。広島工大の学生と王立芸術大学の学生との合同調査を仕掛けたかった。最初は、研究協力の話から入ったが、いろいろともめた。研究協力の実施には、大学間の協力協定が必要であるとのことだった。正式な協定も後々は考えているが、協定があってから動くのではなく、実態として研究協力の関係を動かしながら、その実績をもとに正式な大学間協定を締結するという流れのほうが現実的ではないかというのが私の意見であった。学科長は、共産圏(ソ連)の大学を出ているため、制度と個人とで言えば、制度よりだ。なので、形式を整えることが先だという考えが染み付いてしまっている。

学生間の合同調査についても、なかなか賛同が得られなかった。これは学生の気質を考えての発言でもあった。交通費などの経済的な問題や授業とのからみでの時間的な問題があるのに加え、そもそもそんな調査をしたいと思う学生はほとんどいないという認識である。とはいえ、そのミーティングの場には、学生も1名参加しており、彼女の希望もあって、いっしょに調査を行うことが実現するはこびとなった。もともとは白石の発意からであり、この実現は後々大きな意味をもってくると考えられる。

家族は、一日ラッフルズで遊んでいた。午前中と午後とプールで泳いでいたという。食事は、ホテル内のカフェである。ワインさえ飲まなければ、そんなに高いわけではない。ウェイターの教育も行き届いており、子どもたちがナイフやフォークをじゃんじゃん落としても嫌な顔ひとつしない。すごいことだ。ホテル内にはスウィーツの店もあり、子どもにも人気である。

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