松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

なんでも「偽装」にしてしまう新聞

2008-10-07 09:29:43 | Weblog
 いきなりですが、問題です。

 日本人乗組員の乗った中国船籍の船がインド洋で漁獲し、神奈川県の三崎港に水揚げしたマグロの原産地表示はどうなりますか? 次の4つから選びなさい。

(1)マグロ(日本産)
(2)マグロ(インド洋)
(3)マグロ(中国産)
(4)三崎のマグロ

 次回、答えを発表します!



 というわけで、関連する話題を一つ。

 農水省が3日、「株式会社東京コールドチェーンにおける調味魚介類(西京漬)の不適正表示に対する措置について」というプレスリリースを出した。
 同社の「さわら西京漬」、「いか西京味噌漬」に、不適正表示があったという。
 さわら西京漬については、『原料に使用した「さわら」は中国船籍の船が東シナ海で漁獲したものであるにもかかわらず、原料原産地を「中国」と表示せず、「東シナ海産」と国産である旨の原料原産地表示を行っていたこと』が問題だという。昨年4月から今年7月までに約7万パックを販売していた。
 いか西京味噌漬は、『原料に使用した「むらさきいか」は中国船籍の船が北太平洋で漁獲したものであるにもかかわらず、原料原産地を「中国」と表示せず、「北太平洋産」と国産である旨の原料原産地表示を行っていたこと』が問題だった。やはり同様に約3万パックを販売していた。

 で、朝日新聞は3日付で「中国産サワラ・イカ、国産と偽装 首都圏中心に10万袋」と報じちゃった。
 最初の段落はこうだ。

 中国産のサワラとイカのみそ漬けを国産と偽って販売していたとして、農林水産省と千葉県は3日、川崎市宮前区の冷凍食品販売「東京コールドチェーン」と製造委託先の千葉県船橋市の水産加工「協同水産流通」に対し、JAS法に基づき改善を指示した。


 でも、私が取材したところ、これは偽装じゃないんですよ。2006年10月のJAS法改正に対応しなければならなかったのに気付かなかったうっかりミス。
 この時の法改正で、加工食品の品質表示基準の原料原産地表示のやり方が明確になり、魚介類の原産地(国)は「船籍主義」になった。東シナ海でとれたさわらであっても、北太平洋でとれたいかであっても、船籍に基づき原料原産地を「中国」と表示しなければならなくなった。それを知らずに、従来のまま東シナ海産とか北太平洋産と表示していたので、農水省に怒られた、というのが、ことの真相。

 さわらといかは、中国で水揚げして切り身加工してから日本に持ってきて、味付けをしてパック詰めされた。パルシステム生協がさわらを、東都生協がさわらといかの両方を売っていた。東京コールドチェーンが意図して偽装したわけではないことを、生協は確認しているようだ。
 JAS法改正をフォローしておらず、漁獲した水域を表示していた同社のずさんさは責められてしかるべきだけれど、これを「偽装」と報じるのは行き過ぎだ。


 実際にこの手の間違いは結構起きているのに、農水省は見過ごしている。告発があったものを調べて見せしめ的に公表して、業者に注意喚起しているのが実情だ。そこを記者が分かっていれば、記事や見出しで「偽る」とか「偽装」という言葉を安易に使えないはずなのだが…。
 農水省に乗せられてしまった朝日新聞。ということです。

 商品を取り扱っていた両生協はそれぞれ6日、プレスリリースしている。
東都生協
パルシステム生協

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3 コメント

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産地表示の義務化は必要なし (OKIT)
2008-10-07 21:25:24
魚は海をある程度自由に泳ぎます。どこで捕れたかというあいまいな情報にあまり意味はないと思えます。
店頭では賞味期限を気にするのに、自宅の冷蔵庫には賞味期限切れのものがあったりする消費者の、どこぞの海で捕れたという情報は不要です。表示したい業者が正直に表示すればいいわけで、それを義務化したりするからおかしな話になるわけです。
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食を扱うプロ集団としての意識 (seed)
2010-05-02 14:04:26
「食」についてはマスコミに操作されているにしてもそうじゃなくても国内での関心が高まっていることは事実。その中で「法の改正に気づかない」・「自社商品の原産地表示について見直しをしない」というスタンスには問題があると思う。
うっかりミスであれなんであれ、商品を手にしたお客様が不安や不信になるような商品管理をしていた事実は「食」を扱うプロとしては手痛い失敗と言わざるを得ない。それをどう記事にするかはマスコミの問題であって、商品管理についてもう一度意識を高める必要があるでしょう。
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自業自得 (ヘルムート)
2010-05-02 15:51:38
そもそも価格破壊などという愚劣な消耗戦で疲弊しつくし、ヤバくなったら<「原料品質」差別化-淘汰-一人勝ち>という低能なシナリオを描いて、消費者迎合の農水と二人三脚でこの漫画そのものの安心制度を暴走させてきたんだろうが。今更泣き言など片腹痛いわ。
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