NHKスペシャル「世界同時食糧危機」が17日と19日の2回にわたって放送された。もう時間が経っているのだが、感想をちょっと書いておきたい。
番組の流れは、次の通り。
穀物の安値に喘いだアメリカが、市場を諸外国に拡大し、諸外国もアメリカからの輸入に依存した。アメリカはさらに、共にバイオエタノールで新需要も拡大し、中国などの食生活の欧米化、穀物需要増大なども相まって、穀物の供給不足が起き高値になった。
自給率が40%しかない日本は大変だ。さあ、米を育てて米粉や飼料などとして利用し、自給率をアップしていこう!。
このストーリーを縦軸に、アメリカが食生活の欧米化を日本やほかの国に押しつけて穀物の需要拡大につなげたとか、遺伝子組み換えとか、日本の味噌メーカーが来年の大豆をまだ手当できていない、とかいろいろなエピソードが横軸として盛り込まれて、視聴者の情緒に訴えていくという趣向だった。
私の印象は「アンフェアな番組だ」というものだ。
「トウモロコシの安値に苦しんできたアメリカが、まぬけな国を陥れた」というのは、あまりにも一面的な見方。トウモロコシの収量の推移を見たらいい。アメリカは、USDAによれば、この100年で収量をなんと7・5倍に挙げている。1960年頃の収量と比較しても、現在の収量は3倍だ。
莫大な研究投資、圃場整備、農法の改善によって、トウモロコシの生産性は大きく向上した。たくさん収穫できるから、安値安定だったのだ、とも言える。ほかの穀物にしても、同じことだ。
その恵みを享受し、日本は安い穀物を大量に輸入して肉をたらふく食べる生活に変わった。
日本のコメの収量は、この30年くらいほとんど変わっていない。「おいしさ」追求だったし、コメとトウモロコシでは作物の性質も違うし、コメの栽培技術は昔からかなり優れ収量が高かった、というような事情はあるにせよ、日本が米の収量改善や生産性向上、消費拡大策に多くの資金を投じてきていないのは事実だ。
こういうことを検討せずに、嫌米の論調で押されても、説得力はない。
トウモロコシとコメの収量比較は、ほんの一例だ。アメリカがなぜ今、「勝ち組」なのか、ということがきちんと分析されないし、あの国がしている多額の食料援助などにも一切触れない。これは、アンフェアだ。
それに、日本は米を作って自給率向上を、という第2回の結論は、安易すぎる。休耕田や耕作放棄地で米を作れば自給率は上がるだろうが、米を作るには養分を与えなければならない。化学肥料を使うなら、化石燃料が必要。有機質肥料や堆肥を運んでくるにも、化石燃料が必要。収穫物を運ぶにも、化石燃料が必要。
とりあえず補助金を積んで米を作らせて、米粉などで食用需要を拡大し飼料としても使えば、目先の自給率は少し上がるだろう。でも、結局は海外の化石燃料に依存する構造は変わらないから、その自給率を持続できるとは思えない。
担当だった農水省職員や審議会の偉い先生方は、自給率を上げたことで出世するかもしれないが、サステイナブルな自給率アップにはならないだろう。
また、作物は投入した養分(肥料)の半分程度しか吸収できず、残りは環境中に放出される。休耕田や耕作放棄地に十分な肥料をやれば、それが化学肥料であれ堆肥・有機質肥料であれ、環境の富栄養化に直結する。
食料生産は、環境を破壊する行為だ。自給率を上げれば環境汚染は進む。これが真理だ。
化石燃料をどんどん使い補助金を積み環境を破壊しても、自給率を上げるべきだ、というコンセンサスが国民にあるのなら、それもいいだろう。だが、「国産だから安全・安心。地産地消で環境にもいい」というウソが、今はまかり通っている。
NHK取材班は、「食料が足りなくなる」と不安を煽り、「国産振興を」と言っていれば得をする企業や学者、官僚相手の取材に、引きずられてしまったのではないか。短期的な穀物不足による高騰と、長期的な穀物供給と需要の動向を一緒くたにして考えるのは、危険だ。
もう少しマクロな視点で考えたい、という方はぜひ、川島博之さんの「世界の食料生産とバイオマスエネルギー 2050年の展望」(東京大学出版会)をお読みいただきたい。
川島先生は、FAOなどのデータを分析し、「世界はまだ、食料生産を拡大する余地がある」と主張し、「中国はが食料需要を急増させる時代は、もう既に終わりつつある」とみる。「21世紀において人類が世界規模の食料危機に直面することはない。食料の供給が問題となるのはサハラ以南アフリカなどに限定されよう」というのが、川島先生の見方だ。
本では、日本農業についても説得力のある論考が展開される。読んだうえで、昨今の穀物高騰や自給率向上の議論について考えても、決して遅くはない、と私は思う。
番組の流れは、次の通り。
穀物の安値に喘いだアメリカが、市場を諸外国に拡大し、諸外国もアメリカからの輸入に依存した。アメリカはさらに、共にバイオエタノールで新需要も拡大し、中国などの食生活の欧米化、穀物需要増大なども相まって、穀物の供給不足が起き高値になった。
自給率が40%しかない日本は大変だ。さあ、米を育てて米粉や飼料などとして利用し、自給率をアップしていこう!。
このストーリーを縦軸に、アメリカが食生活の欧米化を日本やほかの国に押しつけて穀物の需要拡大につなげたとか、遺伝子組み換えとか、日本の味噌メーカーが来年の大豆をまだ手当できていない、とかいろいろなエピソードが横軸として盛り込まれて、視聴者の情緒に訴えていくという趣向だった。
私の印象は「アンフェアな番組だ」というものだ。
「トウモロコシの安値に苦しんできたアメリカが、まぬけな国を陥れた」というのは、あまりにも一面的な見方。トウモロコシの収量の推移を見たらいい。アメリカは、USDAによれば、この100年で収量をなんと7・5倍に挙げている。1960年頃の収量と比較しても、現在の収量は3倍だ。
莫大な研究投資、圃場整備、農法の改善によって、トウモロコシの生産性は大きく向上した。たくさん収穫できるから、安値安定だったのだ、とも言える。ほかの穀物にしても、同じことだ。
その恵みを享受し、日本は安い穀物を大量に輸入して肉をたらふく食べる生活に変わった。
日本のコメの収量は、この30年くらいほとんど変わっていない。「おいしさ」追求だったし、コメとトウモロコシでは作物の性質も違うし、コメの栽培技術は昔からかなり優れ収量が高かった、というような事情はあるにせよ、日本が米の収量改善や生産性向上、消費拡大策に多くの資金を投じてきていないのは事実だ。
こういうことを検討せずに、嫌米の論調で押されても、説得力はない。
トウモロコシとコメの収量比較は、ほんの一例だ。アメリカがなぜ今、「勝ち組」なのか、ということがきちんと分析されないし、あの国がしている多額の食料援助などにも一切触れない。これは、アンフェアだ。
それに、日本は米を作って自給率向上を、という第2回の結論は、安易すぎる。休耕田や耕作放棄地で米を作れば自給率は上がるだろうが、米を作るには養分を与えなければならない。化学肥料を使うなら、化石燃料が必要。有機質肥料や堆肥を運んでくるにも、化石燃料が必要。収穫物を運ぶにも、化石燃料が必要。
とりあえず補助金を積んで米を作らせて、米粉などで食用需要を拡大し飼料としても使えば、目先の自給率は少し上がるだろう。でも、結局は海外の化石燃料に依存する構造は変わらないから、その自給率を持続できるとは思えない。
担当だった農水省職員や審議会の偉い先生方は、自給率を上げたことで出世するかもしれないが、サステイナブルな自給率アップにはならないだろう。
また、作物は投入した養分(肥料)の半分程度しか吸収できず、残りは環境中に放出される。休耕田や耕作放棄地に十分な肥料をやれば、それが化学肥料であれ堆肥・有機質肥料であれ、環境の富栄養化に直結する。
食料生産は、環境を破壊する行為だ。自給率を上げれば環境汚染は進む。これが真理だ。
化石燃料をどんどん使い補助金を積み環境を破壊しても、自給率を上げるべきだ、というコンセンサスが国民にあるのなら、それもいいだろう。だが、「国産だから安全・安心。地産地消で環境にもいい」というウソが、今はまかり通っている。
NHK取材班は、「食料が足りなくなる」と不安を煽り、「国産振興を」と言っていれば得をする企業や学者、官僚相手の取材に、引きずられてしまったのではないか。短期的な穀物不足による高騰と、長期的な穀物供給と需要の動向を一緒くたにして考えるのは、危険だ。
もう少しマクロな視点で考えたい、という方はぜひ、川島博之さんの「世界の食料生産とバイオマスエネルギー 2050年の展望」(東京大学出版会)をお読みいただきたい。
川島先生は、FAOなどのデータを分析し、「世界はまだ、食料生産を拡大する余地がある」と主張し、「中国はが食料需要を急増させる時代は、もう既に終わりつつある」とみる。「21世紀において人類が世界規模の食料危機に直面することはない。食料の供給が問題となるのはサハラ以南アフリカなどに限定されよう」というのが、川島先生の見方だ。
本では、日本農業についても説得力のある論考が展開される。読んだうえで、昨今の穀物高騰や自給率向上の議論について考えても、決して遅くはない、と私は思う。
穀物高騰はアメリカの農業政策が長年の努力の甲斐あってやっと実ってきたといえるのではないでしょうか。日本にもハイブリッド米というものが研究されていたと思うのですが、どこへ行ってしまったのでしょうね。パンの価格が上がるとコメの消費が増えたというのなら、ライフスタイルが変化してコメの消費が減ったのではなく、単に安かったからパンを食べていただけなのかなとも思ったりします。
それに、中国以外のアフリカや南アメリカに商社が森林を切り開き農地を開拓する流れで確かに農地は増やそうと躍起です。これは、日本の休耕田を開発するより、環境負荷は大きいと思います。日本は綺麗なままで他国の環境をぼろぼろにするのは虫が良すぎませんか?
>>たくさん収穫できるから、安値安定だったのだ、とも言える。
この辺りは、ちょっと誤解があるような気がします。安い国際価格に合わせて、輸出補助金を米政府が出していました。
それで、世界中が米国の安いトウモロコシを買ってくれたので、生産は多くなってきたのです。
ところが、WTOで農業への直接補助金が出せなくなったので、補助金をバイオエタノール向けて、市場コントロールを仕掛けたのです。それが大成功でダイズ、小麦へも影響して米国の農家は万々歳で、まだバイオエタノールの増産を進めているわけです。
そういう意味で、NHKはアンフェアといえないと思ってます。
米国を好意的に見るとひどい目にあいます。京都議定書を無視しているところをみても、米国中心で世界のことは関係ありません。
貴方のフェアは農薬が安全ということ?
いまどき、フェアをもとめるほうがおかしいよ
>食糧の増産は環境を破壊するのであれば、アメリカではかなりの環境破壊が起こっているということですか?あまりそういうことは聞きませんが・・・
合衆国での環境破壊例
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%94%E3%83%9C%E3%83%83%E3%83%88
>等高線耕作を無視して土壌流出が起こったり、塩害が発生したりと、問題も多い。またアメリカ合衆国ではオガララ堆水層をはじめとする地下水の枯渇や、化学肥料による地下水(飲料水)の汚染が問題となっている。