伊藤ハムが12月5日、記者会見を開いたので行ってきた。調査対策委員会が発足してから1カ月がたち、5回の委員会で議論してきたことの中間報告である。主に、基準超過の原因を科学的に解明するための調査研究の内容について、説明が行われた。
既に、資料がウェブサイトで公表されているのでご覧いただきたい。
委員会の見方は、「基準超過は、井戸水そのものに問題があったわけではない。塩素添加の不足、つまり不十分な塩素処理に起因するシアンの生成が起こり、基準を超えた」というものだ。
中間報告で提示された主な事実は次の通り。
・水中のアンモニア性窒素は、塩素の添加によって塩素と結合し、さらに水中や濾過材中の有機物と反応して塩化シアンを生成する場合がある。
・伊藤ハム東京工場の井戸水は、アンモニア性窒素が多い
・再現実験で、塩素添加が不十分だとシアン生成量が増えることが確かめられた
・水質基準項目にこの4月から塩素酸濃度(0.6mg/L以下)が追加され、7月の自主検査で0.62mg/Lという数字が出て再検査したところ下がるなどしていたため、添加する塩素量を抑えめにしていた
・11月始めに濾過材を交換したところ、シアンはほぼ検出限界以下となった
これらのことから、委員会は「塩素添加が不足したことから、塩化シアン濃度が上がり基準を超過してしまった」と推測した。
だが、これだけでは原水が基準を大幅超過した(0.037mg/L)ことと話のつじつまが合わない。原水は、塩素処理前の水だからだ。
委員会は塩素注入地点と原水サンプリング地点が極めて近いうえ、塩素が逆流する可能性もある構造であることを説明。採取された原水に塩素が混入していた可能性を指摘した。
なんだかつじつま合わせの理屈のようにも見える。大幅に基準超過した試料はもう残されておらず、検証のしようがない。
しかし、この推論に二つの傍証が加わる。委員によれば、0.037mg/Lという値の大部分は、シアン化物イオンではなく塩化シアンとして検出されている。自然水に塩化シアンが含まれることはほぼなく、塩素の混入が強く疑われる。
さらに、地下水では急激な水質変化はまず生じないと考えられ、基準超過がこの1回きりで、ほかの検査では見られないことも、この検査でなんらかのアクシデントが起きたことを疑わせる。
こうしたことから、委員会は「原水自体には問題がなかった」と考えた。
私も、大筋で妥当な推論だと思う。一つだけ引っかかるのは、再現実験などで塩素処理が不十分な場合に検出したシアン濃度と、実際の基準超過濃度の間に、いくぶん乖離がある点だ。再現実験では、シアン濃度は0.002~0.003mg/L程度。実際には、この10倍程度の濃度が検出された。報告書は、ほかの悪条件も重なってシアンの量が増えたことを示唆しているが、はっきりとは書いていない。
気になって、調査対策委員会委員で再現実験を行った北里大医療衛生学部講師の伊与亨さんに尋ねてみたところ、微妙な返事だった。この、微妙という言葉を、私は良い意味で使っている。科学者として、この程度の濃度上昇は起こりうるという感触は持っているけれども、まだ公の場で明言はできない、という感じ。これから、再現実験を詳細に詰めて、学会発表や論文という形で出してほしい。
今回の事故の場合、原因を確定させることは難しい。だが、伊藤ハムは、仮説をたて再現実験などを行い検証した。この姿勢は、立派だ。記者会見でも、伊予さんらが、実に丁寧に科学的なメカニズムを説明。あくまでも仮説の検証に過ぎないことを伝え、推論をしっかりと述べ、科学的に不明であること、推測できないことは「分からない」とはっきりと示した。
委員会、伊藤ハム共に、見事な姿勢を見せてくれたと私は受け止めている。地下水を使用しているほかの企業などに極めて有益な事例研究となりつつある。委員会は今回、塩素処理に用いる次亜塩素酸ナトリウムの管理や使い方など、いくつかの提言をしている。ぜひ、ほかの企業も参考にしてもらいたい。最終報告書は、後日公表されるそうだ。
さらに二つ、私は伊藤ハムの今回の事故を契機に考えたいことがある。一つは、検査をなんのためにやるのか、ということ。もう一つは、自主回収は必要だったのか、である。
これについては、明日か明後日、また書きます。
既に、資料がウェブサイトで公表されているのでご覧いただきたい。
委員会の見方は、「基準超過は、井戸水そのものに問題があったわけではない。塩素添加の不足、つまり不十分な塩素処理に起因するシアンの生成が起こり、基準を超えた」というものだ。
中間報告で提示された主な事実は次の通り。
・水中のアンモニア性窒素は、塩素の添加によって塩素と結合し、さらに水中や濾過材中の有機物と反応して塩化シアンを生成する場合がある。
・伊藤ハム東京工場の井戸水は、アンモニア性窒素が多い
・再現実験で、塩素添加が不十分だとシアン生成量が増えることが確かめられた
・水質基準項目にこの4月から塩素酸濃度(0.6mg/L以下)が追加され、7月の自主検査で0.62mg/Lという数字が出て再検査したところ下がるなどしていたため、添加する塩素量を抑えめにしていた
・11月始めに濾過材を交換したところ、シアンはほぼ検出限界以下となった
これらのことから、委員会は「塩素添加が不足したことから、塩化シアン濃度が上がり基準を超過してしまった」と推測した。
だが、これだけでは原水が基準を大幅超過した(0.037mg/L)ことと話のつじつまが合わない。原水は、塩素処理前の水だからだ。
委員会は塩素注入地点と原水サンプリング地点が極めて近いうえ、塩素が逆流する可能性もある構造であることを説明。採取された原水に塩素が混入していた可能性を指摘した。
なんだかつじつま合わせの理屈のようにも見える。大幅に基準超過した試料はもう残されておらず、検証のしようがない。
しかし、この推論に二つの傍証が加わる。委員によれば、0.037mg/Lという値の大部分は、シアン化物イオンではなく塩化シアンとして検出されている。自然水に塩化シアンが含まれることはほぼなく、塩素の混入が強く疑われる。
さらに、地下水では急激な水質変化はまず生じないと考えられ、基準超過がこの1回きりで、ほかの検査では見られないことも、この検査でなんらかのアクシデントが起きたことを疑わせる。
こうしたことから、委員会は「原水自体には問題がなかった」と考えた。
私も、大筋で妥当な推論だと思う。一つだけ引っかかるのは、再現実験などで塩素処理が不十分な場合に検出したシアン濃度と、実際の基準超過濃度の間に、いくぶん乖離がある点だ。再現実験では、シアン濃度は0.002~0.003mg/L程度。実際には、この10倍程度の濃度が検出された。報告書は、ほかの悪条件も重なってシアンの量が増えたことを示唆しているが、はっきりとは書いていない。
気になって、調査対策委員会委員で再現実験を行った北里大医療衛生学部講師の伊与亨さんに尋ねてみたところ、微妙な返事だった。この、微妙という言葉を、私は良い意味で使っている。科学者として、この程度の濃度上昇は起こりうるという感触は持っているけれども、まだ公の場で明言はできない、という感じ。これから、再現実験を詳細に詰めて、学会発表や論文という形で出してほしい。
今回の事故の場合、原因を確定させることは難しい。だが、伊藤ハムは、仮説をたて再現実験などを行い検証した。この姿勢は、立派だ。記者会見でも、伊予さんらが、実に丁寧に科学的なメカニズムを説明。あくまでも仮説の検証に過ぎないことを伝え、推論をしっかりと述べ、科学的に不明であること、推測できないことは「分からない」とはっきりと示した。
委員会、伊藤ハム共に、見事な姿勢を見せてくれたと私は受け止めている。地下水を使用しているほかの企業などに極めて有益な事例研究となりつつある。委員会は今回、塩素処理に用いる次亜塩素酸ナトリウムの管理や使い方など、いくつかの提言をしている。ぜひ、ほかの企業も参考にしてもらいたい。最終報告書は、後日公表されるそうだ。
さらに二つ、私は伊藤ハムの今回の事故を契機に考えたいことがある。一つは、検査をなんのためにやるのか、ということ。もう一つは、自主回収は必要だったのか、である。
これについては、明日か明後日、また書きます。