10月25日に明らかになった伊藤ハムのシアン問題の情報が、1カ月たった今もどうも妙に錯綜しているように思う。整理してみたい。
伊藤ハム東京工場は竣工以来、約40年間にわたって地下水をくみ上げ浄化処理をして使用してきた。ところが、一部の水源の水質の自主検査でシアン(シアン化物イオンと塩化シアン)が基準値の0.01mg/Lを超えた。
社内の連絡体制に不備があり公表が遅れ、約20日間にわたって製造し続けてしまった。そのため、製品自体の安全性にはなんら問題がないけれど、自主回収に踏み切ったというのが、今回の問題の概要だ。
情報が混乱したままなのは、伊藤ハムが細かな情報を公表していないこと、そして、週刊誌AERAが「地下水の塩素消毒によって、塩化シアンが発生」という説を出したこと、さらにそれを、中西準子先生が自身のHPの雑感「地下水原水の汚染だったのか、塩素処理後の水の汚染だったのか-伊藤ハムは至急明らかにしてほしいー」で紹介したためだと思う。この問題に注目している食品関係者も、わけがわからなくなっているのだ。
私が入手した内部資料によれば、シアンは浄化処理する前の原水からも出ている。伊藤ハム東京工場には、井戸が三つある。そのうちの2号井戸から揚水し浄化した処理水を9月18日に定期検査したところ、24日にシアンが基準を超えているという結果が出た。数値は0.022mg/L。
専門業者から「基準外の数値は、浄化の過程で加えられる化学物質の影響の可能性がある」との指摘を受けたため、同工場の担当課は翌25日、再び浄化処理水を採取し検査した。この結果は、10月2日に出た。0.034mg/Lで、基準を超えた。
同工場は、3日に今度は3号井戸の浄化処理水の検査を実施。さらに7日には、2号井戸の浄化する前の原水検査も行った。3日の検査結果は9日に出て、これも0.014mg/Lで基準超え。さらに、原水の結果は15日に明らかとなり、こちらも0.037mg/Lで基準を超えた。結局、2号井戸の浄化処理水で2回、原水で1回、3号井戸の浄化処理水で1回、基準を超えている。
その後は、原水、浄化処理水共に何度となく検査しているが、基準は超過していない。
原水超過を記載した資料は社員から入手したし、社内説明会でも幹部が言及したようなので、この内容は間違いないと思う。
原水の汚染だとすると、中西先生が書いている通り、問題はややこしくなる。地下水を周辺の企業も柏市も揚水して使っている。伊藤ハムで超過したのなら、ほかの井戸水でも超過した可能性があるのではないか? そんな疑いを否定することができなくなる。
柏市は、伊藤ハム工場付近7カ所を含む市内36カ所の井戸水の水質を調べ、すべての井戸で0.001 mg/L 以下だったと発表した。しかし、だからといって、柏市の地下水が常に基準を下回っていると保証できたわけではないのだ(だが、伊藤ハムの原水も、安全性に懸念が生じるようなレベルの基準超過ではない。このことにも、十分配慮しなければならない)。
伊藤ハムが設置した調査対策委員会の議事内容を見る限り、ずっと塩素処理による塩化シアンの発生にこだわっているようで、再現実験なども行っている。原水からの検出について、委員会でどのような議論が行われているのかは、よく見えない。
私は、内部資料をかなり前に入手して、調査対策委員会の議論の内容や伊藤ハムの再現実験の内容が、どのように逐次公表されるのかに注目していた。原水の基準超過は、前述した通り、かなり公共性の高い出来事なので、情報は公開されるべきだ、と思った。残念ながら情報はほとんど公表されなかった。
だが、今週末にはメディア関係者も集めて報告会を開くそうだ。報告会で、同社がどのような実験結果を発表するのか。原水の検出をどう解釈するのか。ここが、伊藤ハムの今回の問題の一つのポイントであろう。
どれほど再現実験をして「塩素処理で塩化シアンができる」ことを証明したところで、原水からの検出についてうまく解釈したところで、それは今回の問題の原因を突き止めることとイコールにはならない。伊藤ハムの「汚名をそそぐ」ことにはならない。
しかし、地下水を浄化処理して使っているほかの多くの食品企業や自治体にとっては、その実験結果や検討内容はおおいに参考になるはずだ。
伊藤ハムの問題が発覚した当初は、「地下水を使うなんてとんでもない」という的外れの批判もあったと聞く。だが、全国の食品企業が地下水使用をやめて水道水にシフトしたら、水道水はまったく足りない。したがって、多くの企業が地下水を管理しながら使わざるを得ない。
皮肉なことだが、伊藤ハムの“事故”は他社に極めて有意義な情報を与えてくれた。さらに、再現実験までしているのだ。同社の社会貢献の価値は、実はこれから、非常に大きくなるかもしれない。
伊藤ハムの事故の主な経緯
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9月18日 2号井戸浄化処理水を採取しシアン検査(検査1)
24日 検査1の結果が判明。0.022mg/L→基準超過
25日 2号井戸浄化処理水を採取し検査(検査2)
10月2日 検査2の結果が判明。0.034mg/L→基準超過
3日 3号井戸浄化処理水を採取し検査(検査3)
7日 2号井戸の原水を採取し検査(検査4)
9日 検査3の結果が判明。0.014mg/L→基準超過
14日 1~3号井戸の浄化処理水を採取し検査(検査5)
15日 検査4の結果が判明。0.037mg/L→基準超過
担当課が工場長に報告。工場長が2号井戸の使用中止を指示
16日 検査5の結果が判明。すべて、基準内におさまる
17日 2号井戸の原水検査(検査6)
21日 検査6の結果が判明。0.001mg/L未満で基準内におさまる
22日 工場長から本社へ報告
23日 工場担当者が柏市保健所に相談
24日 柏市保健所が1~3号井戸から採水。製品も収去(検査7)
25日 記者会見し公表
27日 検査7について、柏市保健所が結果を公表。すべて検出せず。ただし、
3号井戸浄化処理水から塩素酸1.1mg/L(基準値0.6mg/L)を検出し、公表
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このほかにも検査がたびたび行われているが、検査1~4以外は、基準超過していない。また、製品検査でもシアンは検出されていない
伊藤ハム東京工場は竣工以来、約40年間にわたって地下水をくみ上げ浄化処理をして使用してきた。ところが、一部の水源の水質の自主検査でシアン(シアン化物イオンと塩化シアン)が基準値の0.01mg/Lを超えた。
社内の連絡体制に不備があり公表が遅れ、約20日間にわたって製造し続けてしまった。そのため、製品自体の安全性にはなんら問題がないけれど、自主回収に踏み切ったというのが、今回の問題の概要だ。
情報が混乱したままなのは、伊藤ハムが細かな情報を公表していないこと、そして、週刊誌AERAが「地下水の塩素消毒によって、塩化シアンが発生」という説を出したこと、さらにそれを、中西準子先生が自身のHPの雑感「地下水原水の汚染だったのか、塩素処理後の水の汚染だったのか-伊藤ハムは至急明らかにしてほしいー」で紹介したためだと思う。この問題に注目している食品関係者も、わけがわからなくなっているのだ。
私が入手した内部資料によれば、シアンは浄化処理する前の原水からも出ている。伊藤ハム東京工場には、井戸が三つある。そのうちの2号井戸から揚水し浄化した処理水を9月18日に定期検査したところ、24日にシアンが基準を超えているという結果が出た。数値は0.022mg/L。
専門業者から「基準外の数値は、浄化の過程で加えられる化学物質の影響の可能性がある」との指摘を受けたため、同工場の担当課は翌25日、再び浄化処理水を採取し検査した。この結果は、10月2日に出た。0.034mg/Lで、基準を超えた。
同工場は、3日に今度は3号井戸の浄化処理水の検査を実施。さらに7日には、2号井戸の浄化する前の原水検査も行った。3日の検査結果は9日に出て、これも0.014mg/Lで基準超え。さらに、原水の結果は15日に明らかとなり、こちらも0.037mg/Lで基準を超えた。結局、2号井戸の浄化処理水で2回、原水で1回、3号井戸の浄化処理水で1回、基準を超えている。
その後は、原水、浄化処理水共に何度となく検査しているが、基準は超過していない。
原水超過を記載した資料は社員から入手したし、社内説明会でも幹部が言及したようなので、この内容は間違いないと思う。
原水の汚染だとすると、中西先生が書いている通り、問題はややこしくなる。地下水を周辺の企業も柏市も揚水して使っている。伊藤ハムで超過したのなら、ほかの井戸水でも超過した可能性があるのではないか? そんな疑いを否定することができなくなる。
柏市は、伊藤ハム工場付近7カ所を含む市内36カ所の井戸水の水質を調べ、すべての井戸で0.001 mg/L 以下だったと発表した。しかし、だからといって、柏市の地下水が常に基準を下回っていると保証できたわけではないのだ(だが、伊藤ハムの原水も、安全性に懸念が生じるようなレベルの基準超過ではない。このことにも、十分配慮しなければならない)。
伊藤ハムが設置した調査対策委員会の議事内容を見る限り、ずっと塩素処理による塩化シアンの発生にこだわっているようで、再現実験なども行っている。原水からの検出について、委員会でどのような議論が行われているのかは、よく見えない。
私は、内部資料をかなり前に入手して、調査対策委員会の議論の内容や伊藤ハムの再現実験の内容が、どのように逐次公表されるのかに注目していた。原水の基準超過は、前述した通り、かなり公共性の高い出来事なので、情報は公開されるべきだ、と思った。残念ながら情報はほとんど公表されなかった。
だが、今週末にはメディア関係者も集めて報告会を開くそうだ。報告会で、同社がどのような実験結果を発表するのか。原水の検出をどう解釈するのか。ここが、伊藤ハムの今回の問題の一つのポイントであろう。
どれほど再現実験をして「塩素処理で塩化シアンができる」ことを証明したところで、原水からの検出についてうまく解釈したところで、それは今回の問題の原因を突き止めることとイコールにはならない。伊藤ハムの「汚名をそそぐ」ことにはならない。
しかし、地下水を浄化処理して使っているほかの多くの食品企業や自治体にとっては、その実験結果や検討内容はおおいに参考になるはずだ。
伊藤ハムの問題が発覚した当初は、「地下水を使うなんてとんでもない」という的外れの批判もあったと聞く。だが、全国の食品企業が地下水使用をやめて水道水にシフトしたら、水道水はまったく足りない。したがって、多くの企業が地下水を管理しながら使わざるを得ない。
皮肉なことだが、伊藤ハムの“事故”は他社に極めて有意義な情報を与えてくれた。さらに、再現実験までしているのだ。同社の社会貢献の価値は、実はこれから、非常に大きくなるかもしれない。
伊藤ハムの事故の主な経緯
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9月18日 2号井戸浄化処理水を採取しシアン検査(検査1)
24日 検査1の結果が判明。0.022mg/L→基準超過
25日 2号井戸浄化処理水を採取し検査(検査2)
10月2日 検査2の結果が判明。0.034mg/L→基準超過
3日 3号井戸浄化処理水を採取し検査(検査3)
7日 2号井戸の原水を採取し検査(検査4)
9日 検査3の結果が判明。0.014mg/L→基準超過
14日 1~3号井戸の浄化処理水を採取し検査(検査5)
15日 検査4の結果が判明。0.037mg/L→基準超過
担当課が工場長に報告。工場長が2号井戸の使用中止を指示
16日 検査5の結果が判明。すべて、基準内におさまる
17日 2号井戸の原水検査(検査6)
21日 検査6の結果が判明。0.001mg/L未満で基準内におさまる
22日 工場長から本社へ報告
23日 工場担当者が柏市保健所に相談
24日 柏市保健所が1~3号井戸から採水。製品も収去(検査7)
25日 記者会見し公表
27日 検査7について、柏市保健所が結果を公表。すべて検出せず。ただし、
3号井戸浄化処理水から塩素酸1.1mg/L(基準値0.6mg/L)を検出し、公表
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このほかにも検査がたびたび行われているが、検査1~4以外は、基準超過していない。また、製品検査でもシアンは検出されていない