松永和紀blog

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産地表示の法的義務付けは必要か?~NHK「追跡!“国産食品”偽装」の感想

2008-12-17 11:22:04 | Weblog
 遅まきながら、NHKスペシャルを見た。14日に放送された「追跡!“国産食品”偽装」の再放送。産地偽装の現場を食品表示Gメンと追う場面など臨場感たっぷりで面白かった。
 だが、番組を見ながら、何度も思った。産地表示なんてものを法的に義務付けるから、国産に付加価値が過剰にうまれ偽装が起きるのでは? 本当に、2000人の食品表示Gメンは要るのか? 産地偽装のトラックを追うようなことが、農水省職員のすべき仕事か? 

 番組には消費者団体の女性たちも登場し、店頭で冷凍食品をさんざんひっくり返して表示を確かめて、「産地を知りたい。きちんと表示してほしい」というようなことを言っていた。
 でも、彼女たちがほしい産地を表示した商品は、既に生協や高級店にはあるのだ。なにも普通のスーパーに行って、主婦が半額セールになるのを待ちかまえて買うような商品を手にとって言う必要もないだろう。消費者団体のステレオタイプのポーズに見えて、不快な気分になった。
 
 私は、産地表示は基本的に、民間レベルで自主的にすればいいことだと思っているので、食品表示Gメンの活動に最後まで違和感を拭えなかった。一生懸命にやっているのは分かるし産地偽装を図る不正な業者が多いのも事実。だけど、民間の取引の中で厳しい契約を結び確認することで、ある程度は防げるはずだ。それに、ウソつきの商売に対応する法律は、別にある。

 産地は変動する場合も多く、表示対応は煩雑な作業になる。コストもかかる。国産に対する優良誤認も産む。表示義務付けが、本当に必要なのか? 
 そういう視点が、番組全体からも消費者団体の発言からも感じられず、残念だった。食糧庁がなくなった後に仕事探しに躍起になっている農水省の思惑に、消費者団体やNHKがなんだかうまく乗せられているような気がして仕方がなかった。

 産地表示に、これだけの資源を投入しているのは日本くらいのものだという。農水省消費・安全局審議官の山田友紀子さんが「生物資源から考える21世紀の農学第5巻 食品の創造」(京都大学出版会)で書いている。
 また、ニュージーランドのFood Safety Authority長官が、11月末にウェブサイトに出したコラムで、産地表示を取り上げている。同国でも産地表示は論議の的だそうだ。だが、長官は「任意表示の方が法的な規制よりもよい。法的規制は困難を極めるし、食品価格を押し上げることにもつながる」と慎重な姿勢を示している。

 畝山智香子さんの「食品安全情報blog」12月1日付で、コラムが翻訳されて紹介されているので読んで欲しい。私は、この長官の主張をもっともだと思う。日本でも、こういうことを言える役人や政治家が出てこないものか。
 当然、反対意見は多いだろう。だが、こういう根源的な疑問をきちんと議論することがこれからの時代には必要ではないか。

 結局、違和感を抱えたまま番組視聴は終了。一番気に掛かったことは、情けないことに番組の主題とは全然違っていた。主婦としては、消費者団体に尋ねてみたい。「当然、見た商品はちゃんと購入したでしょうね。さんざん手で触って温めて冷凍ショーケースに戻したら、承知しないわよ!」。
 最近、スーパーに行くとよくいるのです。ショーケースの奥から引っ張り出してべたべた触り、ひっくり返して表示をじっくり眺めて、ぽいっと一番上に置いて行ってしまうお方が…。「ああ、温度が上がる~。品質が劣化する~」。そちらのマナー違反の方がよほど気になる私、である。