これはひどい、としか言いようがない。
消費者委員会の7日の会議だ。ぜひ、日経BP Food Scienceの森田満樹さんの連載「目指せ! リスコミ道」をお読みいただきたい。当日の審議の模様が詳細にリポートされている。議事録がまだ出ていない中での貴重な記録だ。森田さんのことだから、間違いはないはずだ。Food Scienceは有料サイトで月500円。だが、このリポートを読むだけでも十分に価値がある。それくらいすごい審議内容だ。
私は残念ながら所用で傍聴に行けなかったのだが、森田さん、さすがです。素早いリポートを、ありがとう。今回は、このリポートを引用しつつ、論を進めたい。
会議ではエコナの問題が取り上げられていて、特定保健用食品(トクホ)の認可について検討されている。だが、多くの委員がジアシルグリセロール(DAG)とグリシドール脂肪酸エステルという二つの問題があることを分かっていない。ごっちゃにしている。
さらに、「発がん性は一切ないということを担保できて初めて許可を与えるのが普通ではないか」というような発言が出ている。「一切ない」などということは確認できない、という科学的基本が、無視されている。発言した委員は「遺伝毒性で発がん性が疑われているので、遺伝という言葉がある以上、子供孫にかかわる」というトンデモ発言もしている。うーん、この委員は消費者団体の事務局長である。
結局、問題の本質を科学的に把握しないまま、「トクホは取り消せ」の大合唱。一人の委員だけが「非常に重要なことが分からないという状況がエコナについて発生している。この重要なポイント、分からないということはどういうことか。いったん許可したものを取り消すというのは、消費者庁長官の判断で取り消さないこともできるということだが、今はこの不明であるという状態でどのような判断をするのかとても大切で、このような問題はこれからも起こりうる。白か黒か分からない場合にどういう対応をするか、というのはよく議論していかなくてはならない」と、まともな発言をしている。
この委員はさらに「このように、どうか分からないということで、物事を決める場合は危なかったという結果と、安全だったという結果の二つがある。その場合に取り消す時、補償の問題も出てくる。そこをきちんとした仕組みをとらないととんでもないことになる」と発言しているが、委員長はまともに取り合っていない。
どうも、「健康によいとされるトクホに発がん性の懸念なんて、とんでもない」というのが、多くの委員の考え方の根底にあるようだ。だが、トクホがほかの食品に比べてより高い安全性を求められているわけではないはずだ。
トクホは、厚労省のウェブサイトでは「からだの生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含む食品で、血圧、血中のコレステロールなどを正常に保つことを助けたり、おなかの調子を整えるのに役立つなどの特定の保健の用途に資する旨を表示するもの」となっている。保健機能があるということと、安全性が高いということは、まったく別の事柄である。
そして、食品中に発がん物質が含まれてはいけないわけでもない。酒も野菜も、発がん物質が含まれている。
エコナの場合、含有成分が体内で発がん物質に変わる可能性がある、とされているだけで、実際にどうなのかはまだ分からない。リスクの大きさをまだ把握できていない。これまでの実験から、そのリスクはとりわけ大きいとは考えにくいが、「健康上の危惧が存在しないとは言えない」という段階だ。なのに、いきなり「トクホの認可を取り消せ」と迫るとは、なんとも飛躍した議論である。私は、花王を弁護する気はさらさらないし、トクホを守ろうなどという気持ちもないが、このような10年前に戻ったようなゼロリスク志向を認めることはできない。
もし、消費者庁がこの議論を基に決定を下したら、さすがに食品安全委員会も「科学的に非常に大きな誤解があります」と説明せざるを得ないだろう。この議論を認めたら、これまでの食品安全委員会の緻密なリスク評価はいったいなんだったのか、ということになるからだ。そして、消費者庁と消費者委員会は大恥をかくことになる。
だが、花王が許可の失効届を自主的に出してくれた。その結果、消費者庁と消費者委員会は救われた。よかったね。
ただし、「食の安全」にかかわる企業や行政の関係者、生協関係者などはみんな、消費者委員会の実力を知った。とんでもない審議内容だったようだ、と私に真っ先に教えてくれたのは、生協職員だった。そのメールには、こう書かれていた。「まるでわかってないおばちゃん達の井戸端会議を覗いてるような…」。たしかに。別の知人はこう言う。「議事録が楽しみだ」。つまり、議事録でどれくらい取り繕われているか、という意味だろう。
消費者団体も消費者委員会もこの程度、と露呈したことが今後、どこにどのように波及していくのか、見くびっていい加減なことをする企業などが出てこないか、心配になってくる。
消費者委員会の7日の会議だ。ぜひ、日経BP Food Scienceの森田満樹さんの連載「目指せ! リスコミ道」をお読みいただきたい。当日の審議の模様が詳細にリポートされている。議事録がまだ出ていない中での貴重な記録だ。森田さんのことだから、間違いはないはずだ。Food Scienceは有料サイトで月500円。だが、このリポートを読むだけでも十分に価値がある。それくらいすごい審議内容だ。
私は残念ながら所用で傍聴に行けなかったのだが、森田さん、さすがです。素早いリポートを、ありがとう。今回は、このリポートを引用しつつ、論を進めたい。
会議ではエコナの問題が取り上げられていて、特定保健用食品(トクホ)の認可について検討されている。だが、多くの委員がジアシルグリセロール(DAG)とグリシドール脂肪酸エステルという二つの問題があることを分かっていない。ごっちゃにしている。
さらに、「発がん性は一切ないということを担保できて初めて許可を与えるのが普通ではないか」というような発言が出ている。「一切ない」などということは確認できない、という科学的基本が、無視されている。発言した委員は「遺伝毒性で発がん性が疑われているので、遺伝という言葉がある以上、子供孫にかかわる」というトンデモ発言もしている。うーん、この委員は消費者団体の事務局長である。
結局、問題の本質を科学的に把握しないまま、「トクホは取り消せ」の大合唱。一人の委員だけが「非常に重要なことが分からないという状況がエコナについて発生している。この重要なポイント、分からないということはどういうことか。いったん許可したものを取り消すというのは、消費者庁長官の判断で取り消さないこともできるということだが、今はこの不明であるという状態でどのような判断をするのかとても大切で、このような問題はこれからも起こりうる。白か黒か分からない場合にどういう対応をするか、というのはよく議論していかなくてはならない」と、まともな発言をしている。
この委員はさらに「このように、どうか分からないということで、物事を決める場合は危なかったという結果と、安全だったという結果の二つがある。その場合に取り消す時、補償の問題も出てくる。そこをきちんとした仕組みをとらないととんでもないことになる」と発言しているが、委員長はまともに取り合っていない。
どうも、「健康によいとされるトクホに発がん性の懸念なんて、とんでもない」というのが、多くの委員の考え方の根底にあるようだ。だが、トクホがほかの食品に比べてより高い安全性を求められているわけではないはずだ。
トクホは、厚労省のウェブサイトでは「からだの生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含む食品で、血圧、血中のコレステロールなどを正常に保つことを助けたり、おなかの調子を整えるのに役立つなどの特定の保健の用途に資する旨を表示するもの」となっている。保健機能があるということと、安全性が高いということは、まったく別の事柄である。
そして、食品中に発がん物質が含まれてはいけないわけでもない。酒も野菜も、発がん物質が含まれている。
エコナの場合、含有成分が体内で発がん物質に変わる可能性がある、とされているだけで、実際にどうなのかはまだ分からない。リスクの大きさをまだ把握できていない。これまでの実験から、そのリスクはとりわけ大きいとは考えにくいが、「健康上の危惧が存在しないとは言えない」という段階だ。なのに、いきなり「トクホの認可を取り消せ」と迫るとは、なんとも飛躍した議論である。私は、花王を弁護する気はさらさらないし、トクホを守ろうなどという気持ちもないが、このような10年前に戻ったようなゼロリスク志向を認めることはできない。
もし、消費者庁がこの議論を基に決定を下したら、さすがに食品安全委員会も「科学的に非常に大きな誤解があります」と説明せざるを得ないだろう。この議論を認めたら、これまでの食品安全委員会の緻密なリスク評価はいったいなんだったのか、ということになるからだ。そして、消費者庁と消費者委員会は大恥をかくことになる。
だが、花王が許可の失効届を自主的に出してくれた。その結果、消費者庁と消費者委員会は救われた。よかったね。
ただし、「食の安全」にかかわる企業や行政の関係者、生協関係者などはみんな、消費者委員会の実力を知った。とんでもない審議内容だったようだ、と私に真っ先に教えてくれたのは、生協職員だった。そのメールには、こう書かれていた。「まるでわかってないおばちゃん達の井戸端会議を覗いてるような…」。たしかに。別の知人はこう言う。「議事録が楽しみだ」。つまり、議事録でどれくらい取り繕われているか、という意味だろう。
消費者団体も消費者委員会もこの程度、と露呈したことが今後、どこにどのように波及していくのか、見くびっていい加減なことをする企業などが出てこないか、心配になってくる。