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松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

花王に救われた消費者庁と消費者委員会

2009-10-11 04:39:33 | Weblog
 これはひどい、としか言いようがない。
 消費者委員会の7日の会議だ。ぜひ、日経BP Food Scienceの森田満樹さんの連載「目指せ! リスコミ道」をお読みいただきたい。当日の審議の模様が詳細にリポートされている。議事録がまだ出ていない中での貴重な記録だ。森田さんのことだから、間違いはないはずだ。Food Scienceは有料サイトで月500円。だが、このリポートを読むだけでも十分に価値がある。それくらいすごい審議内容だ。
 私は残念ながら所用で傍聴に行けなかったのだが、森田さん、さすがです。素早いリポートを、ありがとう。今回は、このリポートを引用しつつ、論を進めたい。

 会議ではエコナの問題が取り上げられていて、特定保健用食品(トクホ)の認可について検討されている。だが、多くの委員がジアシルグリセロール(DAG)とグリシドール脂肪酸エステルという二つの問題があることを分かっていない。ごっちゃにしている。
 さらに、「発がん性は一切ないということを担保できて初めて許可を与えるのが普通ではないか」というような発言が出ている。「一切ない」などということは確認できない、という科学的基本が、無視されている。発言した委員は「遺伝毒性で発がん性が疑われているので、遺伝という言葉がある以上、子供孫にかかわる」というトンデモ発言もしている。うーん、この委員は消費者団体の事務局長である。

 結局、問題の本質を科学的に把握しないまま、「トクホは取り消せ」の大合唱。一人の委員だけが「非常に重要なことが分からないという状況がエコナについて発生している。この重要なポイント、分からないということはどういうことか。いったん許可したものを取り消すというのは、消費者庁長官の判断で取り消さないこともできるということだが、今はこの不明であるという状態でどのような判断をするのかとても大切で、このような問題はこれからも起こりうる。白か黒か分からない場合にどういう対応をするか、というのはよく議論していかなくてはならない」と、まともな発言をしている。
 この委員はさらに「このように、どうか分からないということで、物事を決める場合は危なかったという結果と、安全だったという結果の二つがある。その場合に取り消す時、補償の問題も出てくる。そこをきちんとした仕組みをとらないととんでもないことになる」と発言しているが、委員長はまともに取り合っていない。

 どうも、「健康によいとされるトクホに発がん性の懸念なんて、とんでもない」というのが、多くの委員の考え方の根底にあるようだ。だが、トクホがほかの食品に比べてより高い安全性を求められているわけではないはずだ。
 トクホは、厚労省のウェブサイトでは「からだの生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含む食品で、血圧、血中のコレステロールなどを正常に保つことを助けたり、おなかの調子を整えるのに役立つなどの特定の保健の用途に資する旨を表示するもの」となっている。保健機能があるということと、安全性が高いということは、まったく別の事柄である。
 そして、食品中に発がん物質が含まれてはいけないわけでもない。酒も野菜も、発がん物質が含まれている。

 エコナの場合、含有成分が体内で発がん物質に変わる可能性がある、とされているだけで、実際にどうなのかはまだ分からない。リスクの大きさをまだ把握できていない。これまでの実験から、そのリスクはとりわけ大きいとは考えにくいが、「健康上の危惧が存在しないとは言えない」という段階だ。なのに、いきなり「トクホの認可を取り消せ」と迫るとは、なんとも飛躍した議論である。私は、花王を弁護する気はさらさらないし、トクホを守ろうなどという気持ちもないが、このような10年前に戻ったようなゼロリスク志向を認めることはできない。

 もし、消費者庁がこの議論を基に決定を下したら、さすがに食品安全委員会も「科学的に非常に大きな誤解があります」と説明せざるを得ないだろう。この議論を認めたら、これまでの食品安全委員会の緻密なリスク評価はいったいなんだったのか、ということになるからだ。そして、消費者庁と消費者委員会は大恥をかくことになる。
 
 だが、花王が許可の失効届を自主的に出してくれた。その結果、消費者庁と消費者委員会は救われた。よかったね。
 ただし、「食の安全」にかかわる企業や行政の関係者、生協関係者などはみんな、消費者委員会の実力を知った。とんでもない審議内容だったようだ、と私に真っ先に教えてくれたのは、生協職員だった。そのメールには、こう書かれていた。「まるでわかってないおばちゃん達の井戸端会議を覗いてるような…」。たしかに。別の知人はこう言う。「議事録が楽しみだ」。つまり、議事録でどれくらい取り繕われているか、という意味だろう。
 消費者団体も消費者委員会もこの程度、と露呈したことが今後、どこにどのように波及していくのか、見くびっていい加減なことをする企業などが出てこないか、心配になってくる。

遺伝子組換えイネ裁判棄却

2009-10-05 22:41:43 | Weblog
 新潟地裁で行われていた遺伝子組換えイネ裁判の判決が1日あり、原告側(反対派)の訴えが全面棄却となった。
 農研機構中央農業総合研究センター・北陸研究センターの組換えイネ栽培試験について、有機農家や有名歌手、漫画家などが差し止めを求めていたものだ。

北陸研究センターのプレスリリース
共同通信記事
判決前に裁判を詳しく説明した朝日新聞記事
判決を伝える朝日新聞記事

 私は、裁判が起こされた直後に関係書類を読んで、原告側の荒唐無稽な主張に呆然となった。推論に推論を重ねて、「実験に使われる組換えイネは危険だ。大変なことが起きる」と主張する。一つ一つの推論にかなりの無理があるのに、それを積み重ねて行くのだから、どうしようもない。
 これは、科学裁判と言えるような質のものではないというのが私の印象だ。

 ただ、裁判を起こす権利はだれにでもある。世の中に常識の通用しない人はいっぱいいるし、運動のツールとして裁判を使う人もいる。ちなみに、この裁判の訴訟代理人弁護士の中には、京大教授が中西準子先生を訴えて敗訴した例の裁判で、原告側の代理人を務めたおひともいる。「裁判闘争ごっこ」なのだ。
 被告側の北陸研究センターは大変だっただろうしお金も使っただろう。今回の裁判は原告全面敗訴で、裁判費用は原告負担となったが、研究者や関係者の無駄に費やした時間を考えると、被告側は莫大な損害を被っている。本当に同情するけれど、空しいけれど、でも、やっぱり仕方がない。

 だから、私が腹が立つのは、こういう裁判をさも科学的な論争であるように報じる新聞や雑誌だ。「なぜ、取材が足りないことに気づかないのか? もっと勉強しろよ」と正直に言ってこれまでたびたび思った。
 判決後の朝日新聞記事を読んで、さらに赤面。この手の、分かってないのに上から目線、というのは、同じ取材を生業としている人間として、読んでいて辛い。ああ、でも、新聞ってよくやります。私も現役の若い新聞記者だった頃にはやってしまったような。なんで、私が他人の書いた記事を、こんなに恥ずかしがらなきゃならんのだあああ。

 そこで、ちょっと思い出したことがあった。提訴後の2006年6月、栽培試験の一般説明会があったので、私はわざわざ新潟まで聞きに行った。裁判が絡んでいるので、地元の農家の反応を知りたかったのだ。その時の様子が、この写真。
 ざっと数えたところ、参加者は報道陣の数まで入れて40人強。報道陣とつくばなどから駆けつけたらしい関係者を除くと、たしかに前の方に反対派らしき人たちが10人くらい。でも、一般市民も普通の地元の農家も見当たらない。「もしや、一般市民は私一人では…」。そう思いながら、傍聴した。

 肝心の質疑もつまらなかった。前に陣取った反対派はいろいろと言うけれど、鋭い質問はなく、センターの説明もまったく面白くなく、「うーん、交通費を返してくれ」という感じ。後で聞いたところによれば、地元の農家の方々は、その前の説明会で実験の意味をすんなり理解してくれたそうで、わざわざこの説明会に足を運ぶということがなかったらしい。
 ところが、翌日の新潟日報の記事の見出しはこうだった。「2年目実験へ 疑問の声次々」

 記事は、説明する。
…………………………………………………………………………
 実験ほ場の周辺住民を対象にした、県条例に基づく説明会は4月に開かれたが、農林水産省の実験指針による一般向け説明会は本年度初めて。県内の農家ら約40人が参加し、同センターの研究者が今年の実験計画を説明した。
 質疑では、会場から「本県の農業にとって迷惑な実験。遺伝子組み換え食品を食べたい人はいない」「歓迎されない実験だ」など、実験の必要性を疑う質問が出た。
…………………………………………………………………………
 こう書いたら、なんだか農家がいっぱい集まって熱く抗議したような印象を与えるじゃありませんか。一般説明会といいながら、一般市民はたぶん私一人なんだけど……。
 うーん、やっぱり文章を書くというのはマジックだ!
 私は、この後しばらく講演などで、「マスメディアはこういう手口を使う」と説明しながらこの写真を見せていたけれど、あまりにも低レベルというかくだらないので説明するのも恥ずかしくなり、スライドから外してしまった。こういう裁判だったのだ。

エコナ問題で思うこと

2009-09-28 03:14:07 | Weblog
 時間がなく、非常に粗い原稿をすっ飛ばして書いている、という前提で、お読みください。とても長いです。

 さて。
 エコナの問題は、二つの事柄がごちゃごちゃになって語られていて、混乱を来しているように思うのだ。

(1)発がん物質への対応

 食品中に含まれていて、これまでも普通に食べていた数々の物質の中に、体内で発がん性に変わる可能性のあるものがあった。それが、今回の場合はグリシドール脂肪酸エステル。食品中の物質は、調べようと意図して測定してみてはじめて、その物質が存在するかどうか、どのくらい含まれているかどうかが分かる。これまでは、だれも調べていなかったけれど、ドイツでの研究によって食用油中に存在することが確認された。今でも、定量法は確立していないし、体内で発がん性があるとされるグリシドールにどれくらいの割合でなるか、発がん性はどれくらいの強さなのか、よくわかっていない。

 こういうことはよくある。アクリルアミドと同じパターン。アクリルアミドも、これまでも人類はずっと食べ続けていて、ちゃんと調べ始めたらフライドポテトにも、ビスケットにも、ということになった。発がん性の強さは、今でも検討中だ。
 食品中に発がん物質があることなど、当たり前のことでもある。これでじたばたしていたら、世の中の食品全部食べられなくなる。例えば、野菜には、発がん物質が含まれていることははっきりしているし、体内で発がん物質になりうる未知の物質もうじゃうじゃ入っているはず。
 したがって、新たに発現した問題であるグリシドール脂肪酸エステルについても、定量法の確立、体内での変換確率、発がん性の強さの研究など、粛々と進め、対策を講じてゆくしかない。

(2)新開発食品の安全性評価、どうしたらいい?
 しかし。
 エコナは、特定保健用食品として、厚労省の認可を受けていた。しかも、特殊な製法のせいでどうも、一般の食用油の約100倍のグリシドール脂肪酸エステルが含まれているようだ。
 
 これまで、主成分であるDAGについての検討は手厚く、ラットやイヌなどを使って急性毒性試験や亜急性毒性、慢性毒性試験、発がん性試験などを実施。DAGはどうも懸念する必要はなさそうだ、というところに落ち着きつつある。
 製品自体の安全性評価試験でも、「問題なし」という結論だった。これの前提にあるのは、主成分ではない物質についてなにか問題があれば、動物への長期投与試験などで異常が出てくるはず、という考え方。

 繰り返しになるが、物質は調べようとしないと、その物質が食品中に存在するかしないかなど分からない。食品中に含まれる物質は多岐にわたるから、なにが含まれているか、いちいち調べることなどしないし、できない。
 したがって、安全性評価はやっぱり、製品を長期に経口投与する試験に頼らざるを得ない。エコナは、この試験で問題は出ていない。だから、花王は「安全性に問題なし」と主張している。

 でも、ドイツの研究の進捗という“偶然”があり、グリシドール脂肪酸エステルを調べてみたら、とんでもない量が含まれていることが分かったのだ。
 誤解を恐れずに言えば、花王は運が悪い。分かっていて、グリシドール脂肪酸エステルが大量に含まれている食用油を作っていたわけではないのだから。でも、問題が発現した以上は、対応しなければならない。

 ただし、製品自体を高用量、動物に長期に経口投与する試験において、問題が出ていない以上、それほど大きな発がん性があるとは考えにくいということも、やっぱりしっかりと押さえておきたい。

 さて、ここから導きだされるのは、こうした問題はグリシドールだけに限らない、ということだ。また、エコナだけの問題でもない、ということだ。
 エコナに、グルシドール脂肪酸エステルのような発がん性に結びつくような物質がほかにも、非意図的生成物として含まれている可能性を否定できない。特殊な製法をとる以上、別の物質も非意図的生成物として、ほかの食用油に比べてはるかに多い量あるかも。もしかしたら、未知の物質もいっぱい増えているかも。

 そして、製法や加工法がこれまでとかなり大きく違う新開発食品も、同じ危険をはらんでいる。発がん物質や体内で発がん物質に変わりうる既知の物質、未知の物質が、爆発的に増えているかもしれない。
 ちまたにあふれる健康食品。機能性のある物質を抽出した、みたいなものはたくさんあるけれど、製造、加工の段階で、エコナと同じようなことが起きているかもしれない。ほかの特保、○○茶みたいなものでだって、同様の現象はあるかも。
 でも、現状では、増やした機能性成分に特化した安全性評価試験をして、製品自体の投与試験も行って、というエコナと同じ方法しか、とることができない。

 う-ん、新開発食品ってなんだろう。どう安全性を評価したらいいのだろう? でも、人類は新しい製法、加工法を次々に生み出して「食」の質を上げていったのも事実だし…。

……………………………………………………………………

 以上2点が、私が主に考えたこと。なので、消費者団体が拳を振り上げる感じに違和感を感じる。なんだか、後出しじゃんけんで、勝った勝ったと言っている感じ。
 ともかく、エコナをこれまで食べていたからといって、大きな不安を感じる必要はないのではないか。もし仮に、体内でグリシドールにかなりの量変わっていたとしても、エコナよりもはるかに発がん性が高い食品を、私たちはおそらくいっぱい、食べてますよ。
 私はエコナを一度も買ったことがないし、自分が料理をする時に使ったことも一度もないけれど(私は、特保もいわゆる健康食品も食べない)、どこかで食べていることだろう。

 さらに二つ、補足したい。
 一つは、「中西準子先生の見通しが、やっぱり当たったなあ」ということ。
 中西先生は、アカネ色素に対する厚労省や食品安全委員会の対応を批判していた。アカネ色素は、遺伝毒性のある発がん物質であり、同委員会はリスクの定量的な評価をせず、厚労省は添加物リストから外した。事実上の禁止措置である。
 しかし、アカネ色素の発がん性は非常に弱く、しかも摂取量は少ない。中西先生は「厚労省や食品安全委員会は、ゼロリスクを求めている。一方で、BSEや微生物の管理などについては、『ゼロリスク』はあり得ないと言う。食品安全行政は、ダブルスタンダードに陥っている。このままでは、破綻する」と主張していた。

今年4月の農林水産技術会議で先生が情報提供された時の資料の最後の方に、アカネ色素に関するスライドがある。

 今回のエコナの問題でも、「発がん性があるかないかではなく、リスクの大きさを考えて判断します」からスタートしていれば、「製品の投与試験では、発がん性は確認されていない」という重要な事実を、議論の根底に据えることができた。「製品としては大丈夫そうだけれど、これからリスクをしっかりと定量しましょう」ということだ。
 でもこれまで、添加物など食品に人為的に追加する物質については「遺伝毒性のある発がん物質ならば、即刻禁止」にしてきたから、今回のエコナについても、「加工の過程でできる不純物、つまり人為的に追加する物質が、体内で遺伝毒性のある発がん物質に変わりうるのだから、即刻禁止だ」と言えなくもない。実際に、消費者団体はそういう趣旨の主張をしている。
 
 じゃあ、ほかの食用油に含まれるグリシドール脂肪酸エステルをどうする? これは、人為的に追加する物質か、食品成分か? 話がどんどんややこしくなる。
 中西先生の言う通り、遺伝毒性のある発がん物質についても、リスク評価と管理に転じてゆくべきなのだろう、と私は思う。

 最後にもう一つ。花王は、販売自粛の発表を、組閣の日にぶつけた。これは明らかに意図的なものだと思う。組閣であれば、新聞もテレビも花王のニュースを小さくしか扱えない。問題の本質的な重大性とはまったく関係がなく、マスメディアは初動で盛り上がらなければ後は尻すぼみになりがち、という特性をよく知っている。
 あとは、花王が広告収入減に悩むマスメディアにとって非常に大きなスポンサーだ、という事実も重要ですね。

かわいい! でも、笑っちゃいけない

2009-09-14 11:20:02 | Weblog
 しらすにフグ混入。共同通信が流した記事。知り合いの生協職員が教えてくれた。しばし、なごむ。
 以前に「タモリ倶楽部」で、しらす干しにどんな生き物が入っているか、じっくり見て珍しいものを探す、というテーマが放送されたことがあり、ことのほか面白かったことを思い出した。買ったしらすに、体長5センチのこんなものが入っていたら、私ならたぶん、小躍りして喜んでしまうだろう。

 だけど、同じ日にパック詰めされた商品を回収することにどういう意味があるのかな? 

吉川先生 復活!

2009-09-14 02:03:01 | Weblog
 8月は例年、1年でもっとも暇な時期だ。今年は「集中して原稿を書くぞ」のはずが、エコ生活挫折により、大混乱だった。下旬から出張再開となり、岩手、北海道、島根、長野、仙台と点々。行く先々で「エアコンつきましたか?」と尋ねられ、穴があったら入りたいとはこのことか。
 皆さんの予想通り、「つけてよかった」と思ったのは1週間ぐらい。その後は涼しくなり、ふと気づいた時にはもう夜にはセミが鳴かなくなっていた。
 とはいえ、セミは今も日中は頑張って鳴いている。本当にご心配をおかけしました。ありがとうございました。

 さて、9月11日に食品安全委員会プリオン専門調査会が開かれ、傍聴してきた。前回から約4カ月ぶりの開催。座長の吉川泰弘・東京大学大学院教授の食品安全委員会委員人事が国会で不同意となり、吉川先生は一時は、プリオン専門調査会の座長辞任を委員会に申し出ていたのだが、無事に復帰となった。
 吉川先生はいつも通りのひょうひょうとした雰囲気。お元気そうで、なにより。

 興味深かったのは、議事に入る前に小泉直子委員長が発言したこと。国会人事不同意の件について再度触れ、米国産牛肉に関する食品健康影響評価について、「とりまとめた責任は親委員会にあり、吉川座長にはない」と説明し、「政治の介入に強い危惧を持つ」と委員長談話よりも踏み込んだ発言をした。

 食品安全委員会は今後どうなるのか? 民主党がどう出るのか? だれにも分からない状況のようだ。
 そして、政治がリスク管理に携わり、マニフェスト通り、まったく意味のないBSEの全頭検査に国庫補助を復活させるとしたら、どうしたらいいのか?
 民主党がジャンクサイエンスベースで動かないように、しっかりと見続けなければならないのだろう。

 朝日新聞が9月12日付のオピニオン欄で吉川先生のインタビューを掲載し、「BSEの全頭検査はムダだ」と大きな見出しをつけている。やっと新聞が出してくれたか、という感じ。民主党議員も読んだだろうか。

 ただし、この記事、少し引っかかる。もう一つの見出しが「BSE対策を担ってきた東京大大学院教授 吉川泰弘さん」なのだ。記事中でも、「食品安全委員会でBSE対策の最前線に立ってきた吉川泰弘さん」と紹介している。
 だが、吉川先生は評価をしたのであって、対策を担ったわけではないだろう。ここで既に、管理と評価をごっちゃにしている。

 さらに「取材を終えて」で、記者がこう書いている。

 最新の科学のものさしをあてて、食品の安全性を中立公正に評価する、として6年前に船出した食品安全委員会。しかし、大切な議論では、政治や世論に振り回され、政府の描いた筋書きを追認するだけの印象を残した。(後略)

 政府の描いた筋書きを追認するだけの印象ってどういう意味だ? そう解釈して世論を誘導したのは、新聞などメディアではないの? 解釈は勝手にしてよいことなのだけれど、自分たちがやったことを顧みる気はさらさらないという姿勢を露呈しているような気がして、気になった。 

 

エコ生活 挫折

2009-08-14 00:55:12 | Weblog
 今回は、完全に私的な話。

 4月に引っ越しした。ちょっと理由があり、家財道具は前の家にかなり置いてきた(って、家出じゃありませんので、誤解のないように)。
 それを機に、決意したのだ。化石燃料になるべく依存しない生活に変えよう、と。
 冷蔵庫と洗濯機、テレビ、パソコン以外、ほとんど電化製品のない生活。ただし、電子レンジのない生活は続かず、1カ月後くらいに買った。炊飯器はまだ買わず、土鍋でご飯を炊いている。ガスを使うが、これまでは夜、炊飯器のタイマーをセットして朝、決まった時間にご飯が炊きあがる生活だったから、それに比べればおそらく化石燃料消費量は少ない。
 トースターもない。ガスコンロに焼き網を乗せ、食パンを置いてさっとあぶって焼きめをつける。家族に「まずい」と文句を言われるが、無視、である。
 車も乗らない。春までは地方に住んでいたので車なしでは暮らせなかった。今住んでいる場所は、車なしでもまあ、不自由はない。

 だが、問題はエアコンだった。
 新しい住まいはマンションの8階で、まあまあ風が通るので、エアコンなしでとことん頑張ってみようと私は考えた。家族は文句を言ったが、その都度なだめる。だいたい、家族は昼間は家におらず、涼しくなってから帰ってくるのだから、いいのだ。私さえ、我慢できれば。昼間、原稿を書く時に、なんとかしのげれば。

 暑い中、汗をふきふき原稿を書き電話をかけ、ファクスを送る。取材や打ち合わせなどで「酷寒」のスペースに出かけ、終了後はまた、灼熱の家に戻り仕事をする。合間に食事作り、掃除、洗濯……。
 そうこうするうちに、明らかにおかしくなってきた。私が、である。どうもやる気が起きない。とても機嫌が悪く、悲観的になる。そのうちに、寝られなくなってきた。床に就いても寝られないので、仕事をしようとするけれど、今度は音が気になる。なんと、セミの“声”がうるさいのだ。昼間は我慢するけれど、夜中に大音響で鳴く。暑いので、窓を開けたまま寝ようとするのだが、寝られない。
 
 温暖化のせい、とか、都市化のせい、などと軽々しく言う気はないけれど、深夜1時とか2時にガンガン鳴く都会のセミが恨めしく、恐ろしくなった。気がたってさらに寝られない。

 どんどん、痩せていく。「最近、デブになっていたから、ちょうどいいよ」と自分を慰めていた。第一、「セミが怖い」という話を何人かにしてみたのだけれど、だれも本気で心配してくれない。セミに悩むなんて、私のキャラじゃないのだ。大笑いされて、私も笑ってしまう。
 そして、ついに口唇ヘルペス発症。免疫系もおかしくなっているのだろう。唇に水ぶくれができて腫れ上がり、口が開かず食べられなくなった。こうなると、回復のしようもない。負のスパイラル状態に突入だ!

 ふっと我に返って考えた。これは、だめじゃないか。このまま行ったら、大変なことになる。第一、目前に迫っている仕事の大山場をどうするんだ。でも、なにも考えられない。セミが怖くて(笑)。
 思い切って、都心のホテルに一晩、泊まりにいった。セミの声が聞こえず、ここちよく温度調整された部屋で、家族で爆睡。いろいろ考えた。帰りがけにヤマダ電機へ走って行って、エアコン注文。

 結局、エコ生活はなかなか難しい。暮らしの環境影響を、どう減らしていったらよいのだろう? 今も考えている。深夜、セミの声を聞きつつ、見事な“たらこくちびる”で。わーい、もうすぐエアコンがつくぞ!

吉川泰弘教授のインタビュー

2009-07-30 02:47:48 | Weblog
 食品安全委員会の委員人事で渦中の人となった吉川泰弘・東京大学大学院教授に今月はじめ、3時間近くインタビューした。
 その内容を、先週水曜日から日経BPの「Food Science 食の機能と安全」で計4回にわたって掲載した。
 編集部のご好意で、掲載1週間後には無料で読めるようにしていただいた。現在、第1回が無料で読める。これを機会に、Food Scienceの有料読者に、という方がいてくださると嬉しい。月額500円だ。
 計4回の記事は、特別寄稿からご覧いただきたい。

 吉川先生の発言の細かい部分で賛否はあっても、科学的な事実に基づき判断したいという姿勢にウソはない、ということは分かっていただけると思う。

 民主党は27日にマニフェストを発表した。その中の「食の安全・安心を確保する」という項目に、下記のような文章があった。

「BSE対策としての全頭検査に対する国庫補助を復活し、また輸入牛肉の条件違反があった場合には、輸入の全面禁止等直ちに対応する」

 慄然としているのは私だけだろうか。
 私は、吉川先生のインタビュー記事の第2回目の最後に、コメントとして以下のように書いている。

 現在のBSE検査では若齢牛のプリオン検出は難しいというのは、極めて単純な科学的事実である。全頭検査は、BSE問題に対応した“ふり”をするための措置、つまりポーズであり、それに中央や地方の政治家が乗った。もう一つ、消費者団体の一部も、活動しているふりをするためか、「全頭検査」を強行に主張し、今も主張し続けている。そして、リスク管理機関はおそらく、全頭検査の無意味さを十分に分かっていたはずだが、その流れに逆らえなかった。
 その結果、今もまったく無駄な全頭検査が自治体の負担によって続けられている。私たちの税金も意味のない検査に使われていることに、多くの消費者は気付いていない。

 さて、自民党が31日に発表するというマニフェストは、どのような内容なのか。しっかりとみていかねば、と思う。


 

民主党の談話公開に気がついた!

2009-07-21 02:04:25 | Weblog
 吉川泰弘・東京大学大学院教授の食品安全委員会委員人事不同意について、民主党のウェブサイトにいつのまにか、『次の内閣』ネクスト農林水産大臣の談話が出ていた。しかも、6月2日付。私は、6月30日頃、民主党のウェブサイトで関連する談話等が出ていないか、さんざん探したのだが、出てこなかったのだ。だが、今は簡単に見つかる。不思議だ。
 本当は7月2日に出しているのに、と「ホームページ改ざん疑惑」を主張する人もいるようだけれど、私にはよく分からない。だって、「なかった」ことを証明するのは不可能だもん。どなたか、このページを民主党がいつ出したか、教えてください。

 私は実は、民主党の政策調査会に6月30日付で質問状をファクスしている。連載している月刊誌「栄養と料理」の記事執筆のための質問として、吉川教授の食品安全委員会委員任命人事を、党でまとまって同意しなかった理由/その根拠は、中西準子・独立行政法人産業技術総合研究所安全科学研究部門長の論文なのか/日本学術会議の会長談話に対する党の見解――の3点を尋ねた。
 ファクスを送った後、担当者にアポをとろうと政策調査会に何度か電話を入れた。だが、たった一人しかいないという農林水産の担当者は常に不在という返事だった。ただ、電話に出た人はこう言っていた。「担当者はファクスを見たようで、『回答しなきゃならない』と言っていたようです」。
 本来なら、専門調査会の部屋の前で担当者を待ち、帰ってきたところをつかまえて確認すべきなのだろうが、私もそう暇でもないので、そこまではできなかった。
 ファクスを送る前、私は民主党のウェブサイトに関連する談話等が載っていないか、検索してかなり調べた。最初に書いたように、見つけられなかった。民主党からは今もって、質問状に対する回答はない。まあ、民主党にとって私は、無視していい相手だったということだろう。

 今、民主党のウェブサイトに出ているネクスト農林水産大臣の談話と、その談話が委員人事不同意の根拠としている中西準子先生が、ご自身で書いた6月30日付雑感を読み比べていただきたい。談話をアップした関係者は、中西先生にここまで批判されていることを果たして知っていたのか、知らなかったのか?

 ちなみに、6月5日に開かれた参議院議院運営委員会の議事録によれば、民主党の議員は不同意について、こう発言している。

「言うまでもなく、食品安全委員会は、規制や指導等のリスク管理を行う関係行政機関から独立して、科学的知見に基づき客観的かつ中立公正にリスク評価を行うべき機関です。しかしながら、政府が二〇〇五年十二月、米国産牛肉輸入再開を決定した際には、食品安全委員会は、科学的評価は困難だとしながらも、輸入再開に事実上お墨付きを与える内容の答申をまとめました。
 今回、食品安全委員会委員の候補者となっている吉川泰弘氏については、当時、食品安全委員会プリオン専門調査会座長として問題の答申をまとめた重大な責任があります。特に、その答申を出したことについて同専門調査会のメンバーの半数に当たる六人が辞任されるに至ったことを考えれば、民主党としては、同氏について同意することはできません。
 今後、食品安全委員会は原点に立ち返り、国民の健康と安全のため自らの職責を果たされるべきことを改めて申し上げ、意見表明とします」

 うーん、ネクスト農林水産大臣の談話とかなり違う。いずれにせよ、これが民主党だ。

日本学術会議が会長談話発表

2009-06-30 14:44:51 | Weblog
 食品安全委員会の委員に吉川泰弘・東京大学教授を任命する人事が、参議院で不同意となったことを、6月21日付で取り上げた。

 この問題に対して、日本学術会議が今日6月30日、「食品安全のための科学に関する会長談話」を発表。このページから読める。下記のような書き出しで、説明している。

 科学者が直接責任を問われるのは、故意に不正行為(ねつ造、改ざん、盗用など)を行った場合と科学的判断を誤った場合などですが、問題にされた事例はそのいずれにも当てはまりません。この出来事の根底には、「安全のための科学」に対する重大な誤解があると考えられますので、国民の皆様に正しいご理解をいただきたいと考え、談話を発表することにしました。

 ぜひ、全文を読んでください。


食品安全委員会の吉川教授参院不同意と、中西準子先生の論文

2009-06-21 12:43:28 | Weblog
 記事をあげるのが、予告よりかなり遅くなってしまいました。お許しいただき、おつきあいください。

 食品安全委員会の委員として吉川泰弘・東京大学大学院教授を任命する人事案が5日、参議院で不同意となった。民主をはじめとする野党4党の議員が反対した。
 
 その理由について、毎日新聞は5日付で次のように書いている。
『民主は「吉川氏が05年に食品安全委プリオン専門調査会座長を務めていた際、牛海綿状脳症(BSE)問題で輸入が止まっていた米国産牛肉の輸入再開を事実上容認する答申をまとめた」と説明している。』

 朝日新聞は14日付で、『野党側は、05年当時、吉川氏が米国産牛肉輸入再開を事実上容認する答申をまとめる立場だったことを問題視した』と書いた。
 『米国は牛肉の輸入再開を要求。日本政府は「科学的に判断する」として安全委に諮問。同調査会は「データが少なく科学的評価は困難」としながらも、「脳や脊髄(せきずい)などを除いた生後20カ月以下の牛という条件が守られるならば、国産牛との安全性の差が非常に小さい」との答申をまとめ輸入再開に道を開いた。』というのだ。

 これに対して、食品安全委員会の見上彪委員長はよほど腹に据えかねたのだろう。11日の食品安全委員会会合で発言し、12日付の同委員会メールマガジンにも掲載している。長いが、紹介する。

「今回の食品安全委員会委員の同意人事におきまして、政府が提案した吉川氏の人事案が、先週、参議院で否決されました。私が報道から理解するところでは、食品安全委員会が行った米国産牛肉のBSEに係る食品健康影響評価が米国産牛肉の輸入再開に事実上のお墨付きを与えることになったものであり、吉川氏がその評価結果をプリオン専門調査会座長として取りまとめたことを反対理由として挙げているように思われます。私は、これを突き詰めれば、食品安全委員会が当該評価を科学的知見に基づき中立公正に行わなかったと言っているのと同じなのではないかと思います。今回の人事案がこのような理由で否決されたのであるとすれば、食品健康影響評価を科学的に中立公正に実施することを使命とする食品安全委員会自体が否定されたことを意味し、断腸の思いです。
 私は、食品安全委員会委員長として、米国産牛肉のBSEに係る食品健康影響評価がこのように理解され、また、国民に誤解を与えるような情報発信が行われている事を憂慮するとともに、非常に残念に思います。私は、食品安全委員会委員長として誇りを持って断言いたしますが、プリオン専門調査会も食品安全委員会も、米国産牛肉のBSEに係る食品健康影響評価を科学的知見に基づき中立公正に行うことに誠心誠意努め、また、その姿勢を貫き通すことができたと考えています。その事は膨大な議事録と詳細な評価書をお読み頂ければ、明らかであると思います。これだけは、国民の皆様にご理解いただきたいと思い委員長として一言申し上げさせていただきました」



 そして私は、驚くべき情報を聞いた。野党側議員が、反対の根拠として中西準子・独立行政法人産業技術総合研究所安全科学研究部門長の論文を挙げているというのだ。
 複数のルートから聞いた話だから、間違いない。

 たしかに、中西先生は専門調査会について批判している。毎日新聞05年11月5日付では「もし、調査会としてリスクについて判断できないあという見解ならば、一刻も早く解散し、新しい調査会を組織すべきではないか」と書いた。(先生の05年11月8日付雑感で 記事が読める。
 中央公論06年6月号の論文「英国、日本のBSE問題から考える 科学者に求められる責任とは何か」でも、「リスク評価を放棄するに近い結論」と書いている。

 だが、中西先生がご自身のウェブサイトも含めて書いているのは、米国産牛肉のリスクの推定はかなりの程度可能であり、「米国と日本、少しづつ重点の置き方が違うが、どっちもどっち、同じくらいだなという印象を持つのだが、これをもって、輸入禁止にするほど、米国牛のリスクが高いと主張する人の気持ちが分からない。根拠が理解できない」ということだ。12月27日付雑感では、「米国産牛肉のBSE問題は、そのリスクとは別の政治的な目的で、危険が過大に言われ続けた」と主張している。
 
 中西先生の専門調査会への批判は、調査会が「米国・カナダ産牛肉と国産牛肉のリスクについて科学的に同等性を評価することは困難」、しかし、「米国政府が提案している安全措置である輸出プログラムが遵守されたと仮定した場合、米国・カナダ産牛肉等と国内産牛肉等のリスクの差は非常に小さい」としたことに向けられている。
 中央公論の論文には、こうある。「リスク評価のためのデータが少なければ少ないなりに、その少なさを考慮して評価する、そして、データが少ないためにリスク推定値が大きくなるのであれば、だから調査が必要とか、だから受け入れられないと米国に要求することもできる、これがリスク評価・管理の原則である」

 つまり、科学者は「評価できない」とするのではなく、こういう問題に答えるための科学をつくり、リスク評価をするべきだ、と専門調査会のあり方に疑問をなげかけているのだ。「米国・カナダ産牛肉のリスクは高いのに、間違った結論を出した」という批判ではない。

 だから私は、吉川委員反対の根拠の一つが中西先生の論文だったということに、とにかく驚いた。
 おそらく、議員たちは中西先生の論文を読んでいないか、意味を理解できないのだろう。中西先生は、政治的に利用されないための「新しい科学」の確立を主張しているのに、その論文の都合の良いフレーズだけを抜き出して使っている。科学者の責任や中立性をないがしろにして政治的に利用しているのは、まさにこうした議員たちである。

 リスク評価を、科学的な見地からではなく政治的に批判し、中西先生の批判、提言も大きく曲解した政治家たち。彼らには科学が分からないのか? リスク評価と管理の違いも理解できないのか? これは、絶望的な状況だ。

 この問題について、中西先生は大変、心を痛めておられるのではないか、と思う。中西先生の05年12月27日付雑感「国産牛肉のPRを見て考える」をぜひ、読んでいただきたい。とんでもなくねじれ曲がった事態になっていることが、分かるはずだ。
 中西先生は、近いうちにご自身のウェブサイトで書かれるはずなので、それを待ってから、この問題はもう一回考えてみたい。
 ただ同時に、私は不思議に思う。なぜ、ほかの科学者たちは怒らない? 動かない?  そうした姿勢のままでは、科学の政治的な利用が加速してしまう。なぜ?