林の中で逢った人。

●書いても良いのかな。ちょっと悩みます。
でも、名前も住所も知らないし.....。いいことにしちゃおう。...書いちゃおう。

【毎朝歩いておりますと、自然に顔なじみができるものです。
私、挨拶は欠かしません。「おはようございます。」＆...笑顔。たいていは、それだけです。
長話や、個人的な質問は、極力するまいと思っています。
時には言葉を交わすことも、ありますけれど、つとめて差し障りのないことだけ。煩わしいおしゃべりは、無用です。】

●さて、夏の朝、林で出会ったその人ですが.....。

●なんとも清楚で、さわやかで....美しいのです。女性なのに、ドキッとしました。
スラリとした身体つき。何の気負いも飾り気も無いのに、自然に身についたセンスの良さ。
乱暴な言い方をすれば、青山の裏通りや、軽井沢の白樺の林にこそ似合う人であり、こんな“ど田舎”の雑木林の中に、いてはいけない人でした。

それでも、その後、何度か見かけ、クロの散歩の時も、意外な所ですれ違い.......

数日前。林の中の小さなお社の前で、彼女と、“またまた”すれ違うことになりました。
「おはようございます」の後、思いがけず、言葉が返ってきました。
「いつも、どのあたりを歩いていらしゃるんですか？」

短い時間でしたが、立ち止まって、話し込んでしまいました。

「毎日“どれくらいの時間”歩いてらっしゃるんですか？」という私の次の句に、「毎日２時間くらい....」と言って、ナントカ言う、むずかしい病名を口にしました。
脳の奥に小さい腫瘍があって、そのために糖尿病と似た症状があるのだそうです。
そうだったんだ。...糖尿病と似た症状。たしかあれは、血糖値を下げるために、かなりの時間歩くことを余儀無くされる。ポケットにあめ玉をしのばせて....。「それで、いつも歩いてるんだ。」

幸いなことに、脳の腫瘍は取ることができたそうです。それなのに、２時間..です。
歩く“くせ”が残っているのか、まだ“そうすることが必要”なのか、きちんと聞かずじまいで別れました。ここいらが潮時かなという、暗黙のブレーキもあったかもしれません。

今日も逢いました。
ふた言、三言、言葉を交わしましたが、ほとんど立ち止まることもなく、.....でも、笑顔で、すれ違いました。