今回は、東京地裁の判断について詳しくお伝えしよう。
【東京地方裁判所の判断】
今回の東京地裁判決は、第一段階訴訟判決と同様、関口博前市長が本件各支出について損害賠償責任を負うか否か、という判断をする目安として、いわゆる一日校長事件判決を挙げている。
すなわち、「地方自治法242条の2第1項4号所定の当該職員に損害賠償の請求をすることを当該普通地方公共団体の長に対して求める訴訟は、財務会計上の行為を行う権限を有する当該職員に対し、職務上の義務に違反する財務会計上の行為による当該職員の個人としての損害賠償義務の履行を求めるものにほかならないから、当該職員の財務会計上の行為をとらえて上記規定に基づく損害賠償責任を問うことができるのは、たとえこれに先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても、同原因行為を前提としてされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られると解するのが相当である(最高裁判所平成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号2753頁参照)。なお、本件訴訟は、地方自治法242条の3第2項に基づくいわゆる第2段目の訴訟であるが、上記で述べたことは当然に本件訴訟にも該当するものと解される。」(判決30~31頁)としている。
これを本件訴訟に当てはめると、「原因行為」とは、関口前市長による住基ネット不接続の継続ということになる。
この原因行為が違法か否かは、本件訴訟の第1の争点であり、すでにご紹介したように今回の判決は、「住基法上の義務に違反する違法なものであった」と認定している。
そして、その原因行為を前提として行われた本件各専決権者(保険年金課長、総務部長及び市民課長)による本件各支出が、当該職員の財務会計上の行為ということになる。
判決は、本件各支出が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであったか否かについて検討するにあたり、まず次のように述べている。
「普通公共団体の長は、当該普通地方公共団体に対して、その事務を誠実に執行すべき職務上の義務を負うところ(地方自治法138条の2)、長が財務会計上の行為をするに当たっては、この誠実執行義務もまた、財務会計法規上の義務の一内容を成すものと解される。そして、国立市長であった被告は、予算執行権限(地方自治法149条2号、220条1項)を有する普通地方公共団体の長として、本件各支出について本来的な権限を有していたのであるから、上記誠実執行義務に基づき、本件不接続を継続するという自らの違法な判断を是正・撤回して住基ネットに接続することによって、本件各支出を阻止すべき行為規範を課されていたものというべきである。」(判決31頁)
そのうえで、本件各支出を行った専決権者の行為の違法性を判断する目安として、次のような最高裁判例を示している。
「本件において、国立市長であった被告は、本件各支出について本件各専決権者に専決させたものであり、保険年金課長、市民部長及び総務課長(市民部長は市民課長、総務課長は総務部長の誤り:筆者註)の職にあった本件各専決権者は、そもそも住基ネットに接続すべきか否かを判断する権限や本件不接続の継続という被告の判断を是正する権限を有していなかったことは当事者間に争いがないところ、このように財務会計行為を行った執行機関又は職員が原因行為を是正する権限を有しない場合には、その原因行為が著しく合理性を欠き、そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるときでない限り、これを尊重し、その内容に応じた財務会計上の措置を執る義務があるというべきである(上記最高裁判所平成4年判決、最高裁判所平成15年1月17日第二小法廷判決・民集57巻1号1頁、最高裁判所平成17年3月10日第一小法廷判決・裁判集民事216号327頁参照)。」(判決31~32頁)
ちなみに、これらの最高裁判例のうち、平成15年判決と平成17年判決については、第一段階訴訟の東京地裁判決では引用されていない。
こうした目安を踏まえ、判決は次のように続く。
「しかしながら、本件においては、上記1(2)で述べたとおり、東京都知事に対して住民票の記載等に係る本人確認情報を電気通信回線を通じて送信するため、国立市長である被告が住基ネットに接続すべき義務を負っていることは住基法上明らかであっただけでなく、被告による本件不接続の継続は、住民の利便を増進するとともに、国及び地方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする住基法に明らかに違反する(同法1条参照)ものであったところ、前記争いのない事実等(3)イ及びウのとおり、本件各支出がされた平成20年9月29日以降の時点においては、既に平成20年最高裁判決及び平成19年東京高裁判決が出され、その内容が原告の市報に掲載されただけでなく、平成20年9月9日付けで東京都知事から地方自治法245条の6に基づく是正の勧告まで受けていたのであるから、被告による本件不接続の継続の判断が著しく合理性を欠くものであって、予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があることは、本件各専決権者にも明らかであったものと認められる。そして、国立市長であった被告から本件各支出の専決を任された本件各専決権者は、本件各支出を専決するに当たって、被告と同様に誠実執行義務(地方自治法138条の2)を負っていたのであるから、被告による本件不接続の継続の判断が著しく合理性を欠くものであって、予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があったにもかかわらず、その是正を働きかける等の努力をしたり、本件各支出をしないという判断をしたりすることなく、漫然と本件各支出をしたことは、財務会計法規上の義務に違反する違法なものであったというべきである。」(判決32頁)。
要するに、関口前市長による住基ネット不接続の継続は、住基法に違反する違法行為であり、同前市長から本件各支出の専決を任された本件各専決権者による本件各支出は、財務会計法規上の義務に違反する違法行為である、と東京地裁は判示している。
また、本件各専決権者の支出行為が違法であるという認定結果は、第一段階訴訟の東京地裁判決と同様であるが、今回の判決は、本件各専決権者も関口前市長と同様に誠実執行義務を負うとし、関口前市長の不接続継続行為が著しく合理性を欠き、予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があったにもかかわらず、その是正を働きかける等の努力をしたり、本件各支出をしないという判断をしたりすることなく漫然と本件各支出をしたことは、財務会計法規上の義務に違反する違法なものであった、と断じている(判決32頁)。
本件各専決権者に対しては、第一段階訴訟の東京地裁判決よりも一歩踏み込んだ厳しい判断がなされているといえよう。
(続く)
【東京地方裁判所の判断】
今回の東京地裁判決は、第一段階訴訟判決と同様、関口博前市長が本件各支出について損害賠償責任を負うか否か、という判断をする目安として、いわゆる一日校長事件判決を挙げている。
すなわち、「地方自治法242条の2第1項4号所定の当該職員に損害賠償の請求をすることを当該普通地方公共団体の長に対して求める訴訟は、財務会計上の行為を行う権限を有する当該職員に対し、職務上の義務に違反する財務会計上の行為による当該職員の個人としての損害賠償義務の履行を求めるものにほかならないから、当該職員の財務会計上の行為をとらえて上記規定に基づく損害賠償責任を問うことができるのは、たとえこれに先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても、同原因行為を前提としてされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られると解するのが相当である(最高裁判所平成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号2753頁参照)。なお、本件訴訟は、地方自治法242条の3第2項に基づくいわゆる第2段目の訴訟であるが、上記で述べたことは当然に本件訴訟にも該当するものと解される。」(判決30~31頁)としている。
これを本件訴訟に当てはめると、「原因行為」とは、関口前市長による住基ネット不接続の継続ということになる。
この原因行為が違法か否かは、本件訴訟の第1の争点であり、すでにご紹介したように今回の判決は、「住基法上の義務に違反する違法なものであった」と認定している。
そして、その原因行為を前提として行われた本件各専決権者(保険年金課長、総務部長及び市民課長)による本件各支出が、当該職員の財務会計上の行為ということになる。
判決は、本件各支出が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであったか否かについて検討するにあたり、まず次のように述べている。
「普通公共団体の長は、当該普通地方公共団体に対して、その事務を誠実に執行すべき職務上の義務を負うところ(地方自治法138条の2)、長が財務会計上の行為をするに当たっては、この誠実執行義務もまた、財務会計法規上の義務の一内容を成すものと解される。そして、国立市長であった被告は、予算執行権限(地方自治法149条2号、220条1項)を有する普通地方公共団体の長として、本件各支出について本来的な権限を有していたのであるから、上記誠実執行義務に基づき、本件不接続を継続するという自らの違法な判断を是正・撤回して住基ネットに接続することによって、本件各支出を阻止すべき行為規範を課されていたものというべきである。」(判決31頁)
そのうえで、本件各支出を行った専決権者の行為の違法性を判断する目安として、次のような最高裁判例を示している。
「本件において、国立市長であった被告は、本件各支出について本件各専決権者に専決させたものであり、保険年金課長、市民部長及び総務課長(市民部長は市民課長、総務課長は総務部長の誤り:筆者註)の職にあった本件各専決権者は、そもそも住基ネットに接続すべきか否かを判断する権限や本件不接続の継続という被告の判断を是正する権限を有していなかったことは当事者間に争いがないところ、このように財務会計行為を行った執行機関又は職員が原因行為を是正する権限を有しない場合には、その原因行為が著しく合理性を欠き、そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるときでない限り、これを尊重し、その内容に応じた財務会計上の措置を執る義務があるというべきである(上記最高裁判所平成4年判決、最高裁判所平成15年1月17日第二小法廷判決・民集57巻1号1頁、最高裁判所平成17年3月10日第一小法廷判決・裁判集民事216号327頁参照)。」(判決31~32頁)
ちなみに、これらの最高裁判例のうち、平成15年判決と平成17年判決については、第一段階訴訟の東京地裁判決では引用されていない。
こうした目安を踏まえ、判決は次のように続く。
「しかしながら、本件においては、上記1(2)で述べたとおり、東京都知事に対して住民票の記載等に係る本人確認情報を電気通信回線を通じて送信するため、国立市長である被告が住基ネットに接続すべき義務を負っていることは住基法上明らかであっただけでなく、被告による本件不接続の継続は、住民の利便を増進するとともに、国及び地方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする住基法に明らかに違反する(同法1条参照)ものであったところ、前記争いのない事実等(3)イ及びウのとおり、本件各支出がされた平成20年9月29日以降の時点においては、既に平成20年最高裁判決及び平成19年東京高裁判決が出され、その内容が原告の市報に掲載されただけでなく、平成20年9月9日付けで東京都知事から地方自治法245条の6に基づく是正の勧告まで受けていたのであるから、被告による本件不接続の継続の判断が著しく合理性を欠くものであって、予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があることは、本件各専決権者にも明らかであったものと認められる。そして、国立市長であった被告から本件各支出の専決を任された本件各専決権者は、本件各支出を専決するに当たって、被告と同様に誠実執行義務(地方自治法138条の2)を負っていたのであるから、被告による本件不接続の継続の判断が著しく合理性を欠くものであって、予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があったにもかかわらず、その是正を働きかける等の努力をしたり、本件各支出をしないという判断をしたりすることなく、漫然と本件各支出をしたことは、財務会計法規上の義務に違反する違法なものであったというべきである。」(判決32頁)。
要するに、関口前市長による住基ネット不接続の継続は、住基法に違反する違法行為であり、同前市長から本件各支出の専決を任された本件各専決権者による本件各支出は、財務会計法規上の義務に違反する違法行為である、と東京地裁は判示している。
また、本件各専決権者の支出行為が違法であるという認定結果は、第一段階訴訟の東京地裁判決と同様であるが、今回の判決は、本件各専決権者も関口前市長と同様に誠実執行義務を負うとし、関口前市長の不接続継続行為が著しく合理性を欠き、予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があったにもかかわらず、その是正を働きかける等の努力をしたり、本件各支出をしないという判断をしたりすることなく漫然と本件各支出をしたことは、財務会計法規上の義務に違反する違法なものであった、と断じている(判決32頁)。
本件各専決権者に対しては、第一段階訴訟の東京地裁判決よりも一歩踏み込んだ厳しい判断がなされているといえよう。
(続く)