くにたちの声

国立市の市政について、国立市民・納税者の立場から発言していきたいと思います☆ presented by Y.Suzuki

国立市における違法市政との闘い-第二段階訴訟東京地裁判決- 詳報その1

2013年05月23日 22時40分35秒 | 住基ネット
すでに速報でお伝えしたように、さる3月26日、国立市が関口博前市長に対して損害賠償を求めた訴訟(いわゆる第2段目の訴訟あるいは、第二段階訴訟)の判決が東京地裁で言い渡された。今回は、この判決内容について、詳しくお伝えする。

判決では、まず本件訴訟は、私たち国立市民有志が提起した住民訴訟(東京地裁平成21年(行ウ)第628号公金支出差止等(住民訴訟)請求事件:以下「本件住民訴訟」という)の確定判決に基づいてなされる第2段目の訴訟であることが、以下のように紹介されている。

「普通地方公共団体である原告の住民は、原告が住民基本台帳ネットワークシステムに接続していないことは住民基本台帳法に違反するものであって、この不接続に伴って年金受給権者現況届の郵送費等を支出したことは財務会計上の違法行為に該当するなどと主張して、地方自治法242条の2第1項4号に基づく住民訴訟を提起したところ、当時国立市長であった被告に対して上記郵送費相当額の損害賠償請求をすること等を命じる判決が確定したが、被告は上記損害賠償金の支払いをしなかった。本件は、原告が、被告に対し、地方自治法242条の3第2項に基づき、不法行為に基づく上記郵送費相当額の損害賠償金39万8040円及びこれに対する不法行為後の日である平成21年7月1日から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であり、地方自治法242条の2第1項4号に基づく上記確定判決(いわゆる第1段目の訴訟の判決)によって認定された損害賠償債務の履行を求めるいわゆる第2段目の訴訟である。」(判決2頁)

さらに、上記住民訴訟判決(東京地裁平成23年2月4日判例時報2109号23頁)の内容にも次のようにふれている。

「東京地裁は、平成23年2月4日、原告が住基ネットに接続していないことは住基法上の義務に違反する違法なものであって、その違法は重大かつ明白であるから、これを前提としてされた本件各支出には財務会計上の違法があるところ、国立市長であった被告は、本件各支出を阻止すべき指揮監督上の義務を怠るという財務会計上の違法行為を行ったものであると判断し、国立市長に対し、被告に対して本件各費用の合計39万8040円及びこれに対する平成21年7月1日から支払い済みまで年5分の割合による金員を原告に支払うよう請求することを命じる判決をした。」(判決11~12頁)

本件訴訟の争点は、ふたつ。
第1の争点は、「被告による本件不接続の継続が住基法に違反する違法なものか否か」である。
本件不接続とは、上原公子元国立市長が平成14年12月26日に住基ネットを切断したあと、同元市長の後継である関口前市長が引き続き住基ネットを接続しなかった状態を意味する。
そして第2の争点は、「被告が本件各支出について損害賠償責任を負うか否か」である。
当然ながら、これらの争点は、本件住民訴訟においても争点に含まれていた。

まず、第1の争点に関する原告及び被告の主張は、それぞれ以下のとおりである。

【原告側主張】
原告側主張の核心部分は以下のとおり。これは、第一段目の訴訟(本件住民訴訟)において、私たち原告住民が主張した内容と同様である。
「市町村長は、都道府県知事に対して住民票の記載等に係る本人確認情報を電気通信回線を通じて送信するための住基ネットに接続する住基法上の義務を負うものであり、本件不接続の継続は、この住基法上の義務に違反するもので違法である。そして、本件不接続の継続は、住基法の目的達成を妨害するものであり、また、東京都知事からの是正の要求まで受けているものであるから、その違法は重大かつ明白である。」(判決13頁)

【被告側主張】
 被告側の主張は、概ね以下のとおりである。 
(1) 住基ネットを含む住民基本台帳事務は市町村の自治事務であり、同事務に関する責任は、市町村長が負うべきものとされているのであるから、住民基本台帳事務の適正な運用のために、市町村長が住基法の条項の解釈について独自の判断をすることは最大限尊重されるべきである。
(2) 東京都新宿区、同中野区、同板橋区、同杉並区等の地方公共団体は、住基ネットとの切断に関する独自の条例を制定しており、原告においても、被告が退任した後に、住基ネットとの切断に関する条例を制定している。これらの条例は、住基法36条の2を根拠として、市町村長に、住基ネットの安全性について、国、他の地方公共団体、指定情報処理機関に対する報告要求・調査権限を与え、報告・調査の結果、必要と認めるときに、本人確認情報の送信停止や住基ネットとの切断をする権限を与えているところ、国は、これらの条例を違法とはしていない。
(3) 下記①~④のような実態に鑑みれば、住基ネットの制度や運用は、積極的に本件不接続の方針を変更しなければならないほど明白に安全であると評価し得る水準には達していなかった。そのため、被告は、国立市民の個人情報や生命・身体等を保護する責務を全うするために、住基法3条1項及び36条の2に基づき、住基ネット再接続を留保するという判断をしたものであり、その判断は十分に尊重されるものであるから、被告が本件不接続を継続したことが違法であるとはいえない。
①住基ネットに構造的な欠陥がある
②住基ネットにおけるストーカーやDV等の被害者対策が不十分
③国及び地方公共団体の情報セキュリティが不十分
④プライバシー保護のための独立の第三者機関が存在しない

第1の争点について、判決は、原告側主張を全面的に認め、「市町村長は、住基法に基づき、都道府県知事に対して住民票の記載等に係る本人確認情報を電気通信回線を通じて送信するため、住基ネットに接続すべき義務を負っているものと解するべきであるから、国立市長であった被告が本件不接続を継続して東京都知事に対して住民票の記載等に係る本人確認情報を電気通信回線を通じて送信しなかったことは、住基法上の義務に違反する違法なものであったというべきである」と判示した(判決27頁)。
この判断は、第一段目訴訟における東京地裁判決(平成23年2月4日)と同様であり、住基ネット不接続という行為は違法、と断じた、極めて妥当な結論であるといえよう。

これに対して、被告側主張は、悉く退けられている。
まず、(1)の主張について、判決は、「地方公共団体は国の法令に違反してその事務を処理してはならないことは当然のことであって(地方自治法2条16項参照)、そのことは自治事務についても同様である」と一蹴している。
そして、「住基法上、市町村長が都道府県知事に対して住民票の記載等に係る本人確認情報を電気通信回線を通じて送信するために住基ネットに接続すべき義務を負っていることは、同法30条の5等の規定に照らして明らかである。また、住民基本台帳法に関する事務の広域化による住民サービスの向上と行政事務の効率化を図るという住基ネット導入の目的は正当かつ合理的なものであって、住基ネットは憲法13条の保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものでもない(平成20年最高裁判決参照)から、住基法が、市町村長に上記のような義務を課しており、住基ネットに接続するか否かの判断権を市町村長に付与していないことが、憲法が保障する地方公共団体の団体自治(憲法92条、94条)を侵害する違憲無効なものとはいえない」と判示している(判決28頁)。
そのうえで、「住基法に基づく住民基本台帳事務が市町村の自治事務であるからといって、被告が本件不接続を継続したことが同法に違反する違法なものであることには何ら変わりがない」と結論づけている(判決29頁)。
国の法令に違反するようないかなる事務処理をもしてはならない、という結論は、日本が法治国家である以上、当然といえば当然である。

次に(2)の主張に対しても、判決は、以下のように退けている。
「被告は、東京都新宿区、同中野区、同板橋区及び同杉並区等の地方公共団体において、住基ネットとの切断に関する独自の条例を制定していることを指摘する。しかしながら、これらの条例は、いずれも住基ネットに接続することを前提に、送信情報の管理の安全性が侵害される差し迫った危険性があるときなどに住基ネットの運用停止等をすることができる旨を定めたものであるから、これらの条例が住基法に反するものではないからといって、住基ネットにおよそ接続しないという本件不接続の継続が住基法に反しないとはいえないことは明らかである。」(判決28頁)
実に歯切れのよい判断である。もともと合理性に欠ける被告の主張を、まさに一刀両断にしている。
 
さらに(3)の主張についても、次のように述べて、一蹴している。「住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり、そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危機が生じるとはいえないことは、平成20年最高裁判決が判示しているとおりであり、被告が種々主張する点を考慮しても、原告が住基ネットに接続することにより、国立市民の個人情報や生命・身体等に対する具体的な危機が生じるおそれがあったとは認められない。」(判決29頁)

そして、住基法3条1項及び36条の2の解釈についても、被告側主張を以下のように退けている。
「住基法3条1項は、『市町村長は、常に、住民基本台帳を整備し、住民に関する正確な記録が行われるように努めるとともに、住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるよう努めなければならない』と規定し、同法36条の2は『市町村長は、住民基本台帳又は戸籍の附票に関する事務の処理に当たっては、住民票又は戸籍の附票に記載されている事項の漏えい、滅失及びき損の防止その他の住民票又は戸籍の附票に記載されている事項の適切な管理のために必要な措置を講じなければならない』と規定しているにとどまる一方、同法30条の5第1項及び第2項は、市町村長が住民票の記載等を行った場合に都道府県知事に対して当該住民票の記載等に係る本人確認情報を電気通信回線を通じて送信することを明示的に規定していることからすれば、同法3条1項及び36条の2が、市町村長が住基ネットを利用した本人確認情報の送信をしないことを許容するものとは到底解されない。したがって、被告の上記主張は採用することができない。」(判決30頁)

こうした(3)の主張に対する判断も、第一段目訴訟における東京地裁判決とほぼ同様である。

なお、第1の争点に関する今回の判決には、次のような大変興味深い一節がある。

「そもそも、当時国立市長であった被告において、住基ネットに接続すれば国立市民の個人情報や生命・身体等を保護することができないため本件不接続を継続するとの判断をしたのであれば、東京都知事からされた平成21年2月16日付けでされた是正の要求について、国地方係争処理委員会に対する審査の申出(地方自治法250条の13第1項)をし、その手続きにおいて本件不接続の継続が違法ではない旨主張して国の関与の取消しを求め、最終的には裁判所の判断を求める(同法251条の5第1項)ことが、地方公共団体の長としてあるべき事務処理であるというべきところ、被告は、法が定めた手続きを履践することなく独自の判断に固執したものであって、手続的な視点からみても正当性がないことは明らかである。」(判決28~29頁)

この部分は、2009年5月29日付けの私のブログ記事とほぼ一致している。
実に痛快というほかない。

(続く)

*判決文中の「平成20年最高裁判決」については、以下を参照されたい。最高裁判所平成20年3月6日第一小法廷判決・民集62巻3号665頁。
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