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本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

< ナウシカ歌舞伎 >(感想・その2)

2021年03月13日 | その他映像関連。
総論はその1で書き、今回は各論。
そう大げさにいうほどのもんじゃないが。


菊之助は。
やはりこの人ありきでナウシカは成立したもんだと思うよ。
わたしはあまり愛着のある役者ではないけど(見る機会がない)。

この人の血筋≒ネームバリュー≒歌舞伎界に占める位置でこそ、できたプロジェクト。
こんなに人を集めて、セットも衣装もここまでお金を使う舞台なんて、
そのへんの役者には出来ませんからね。


正直、今回のナウシカの造型は……これでいいのか?という疑問は若干あった。
ヒロインとして魅力的でないことはないけど。でもこれがナウシカか?
ナウシカはもっと強くて猛々しいものを秘めていなければならないのではないか。
それはあくまでも秘められたもので、表面に出て来てはいけないけれど。

そう思うと、菊之助のナウシカはちょっと優しすぎた。なよやかすぎた。
ただ可憐さはあった。声も美しくて、所作もきれいで――まず文句はつけられない。


現時点では菊之助以外がナウシカを演じてもだめだと思う。
その時、その場の舞台は成功するかもしれない。が、ナウシカという演目を
継続できる可能性があるとしたら、それは音羽屋や成田屋などわずかな家だけだろう。

菊之助は美しい顔を持ち、女形が不自然じゃない人。
歌舞伎の女形は単に女性らしく見えるということだけが価値ではないが、
ナウシカだったらやはり可愛い女性に見えて欲しい。
他の同年代の御曹司で、女形「も」やる人はいるけど、可愛いとはいえないだろうな。
線の細さで幸四郎が可能性を残すが、わたしはあまり評価しない。年齢も年齢だし。

菊之助も年齢的にはぎりぎりだったな。
初演時に50歳とかではさすがに無理があったに違いない。
出来るなら10年以内に2回くらい再演して――20歳過ぎくらいの丑之助に受け渡す、
という形が良さそうだ。6時間舞台の主役を20歳そこそこで張るのは
無理があると思うので、間に一人くらい挟むとしても。


※※※※※※※※※※※※


今回の「ナウシカ」では、とにかくクシャナが良かった。
クシャナ良かったよおおおお~~~!七之助!
まあ元々わたしはあそこの兄弟が贔屓なので、贔屓目で見てしまうかもしれないが。

クシャナが、いたねえ、そこに。
出番もかなり多くて出て来るたびにうれしい。
見ててうれしいほどにはまっている役柄ってそうはありません。

まずクシャナとして求められるのは凛々しさ。それは十分だった。
次に包容力。ナウシカを受け入れるのも、クロトワを許すのも、
第3軍団の兵士たちに慕われるのも、包容力があるからだと思うんだよな。
これも感じたねえ。

父と兄に対する葛藤はもう一歩踏み込んで欲しかった。脚本的に。
でも七之助が演じている部分は十分。

今後七之助以外がクシャナを演じることがあるとしたら、物足りなく感じてしまう
だろうというような出来でした。完璧。眼福でした。


※※※※※※※※※※※※


松也が~~~~。ユパさまやってんかいっ!
と驚いたが、なかなか良かったです。

ユパさま45歳だからね。一体宮崎駿は何を考えてこのキャラクターを
45歳に設定したのかといいたいが、これで45歳だからね。
松也36歳の実年齢と、そこまで乖離しているわけじゃないんだよね。

松也は、特別贔屓とはいえないが、出て来ると贔屓目で見てしまう役者。
多分「知られざる物語 京都1200年の旅」のナビゲーターで見たのが最初なんだよね。

この番組を、猿之助=亀治郎が好きだから、年に数回は見ていて
――好きなのに数回しか見ないのは、旅番組としてはそんなに面白くなかったから―猿之助が忙しくなった頃に、実際の旅人が歌舞伎の若手に変わったんだよね。

それが松也。わたしは猿之助が見たかったのでがっかりし、
松也に変わったことがあまりうれしくはなかった。

その頃はちょっと暗い感じでしたよ。イメージとしては上目遣いの狷介な人。
テレビには慣れてないようだけど、どうせこの人も歌舞伎の御曹司なんだろう。
すぐ大きな役をやるようになる、その手前で顔を売ってるだけなんだろう。
……と思っていたが、この人苦労人なんですねえ。さっき知った。

歌舞伎の世界で若くして父を亡くして苦労する……というのは実によく聞く話だが、
この人もそうだったんだって。
20歳そこそこで父の代からの弟子を3人抱え、借金も抱えて苦しんだそうだ。

今から考えれば、わたしが初めて見た頃はその苦労の時期がようやく終わるか
終わらないかの時期か。苦労が表情に影を落としていたのか。

でもとにかくその番組で顔を覚えたものだから、松也が出て来ると
その度に「あ、松也だ」と思い。松也だと思うたびに少しずつ親しみは
感じていくわけですよ。贔屓とまではいかないが。

「おんな城主 直虎」の今川氏真役は良かったですねえ。
白塗りの、腰抜けの、お公家さん風大名。でもあの話では最後の方まで
ちらっと出て来て、見てくれに反して義理堅いふるまいをするんだ。
無力だけれど。いじらしかったね。

「オペレッタ狸御殿」も、おや、松也だ。と思った。
それでもなかなか歌が上手かったので驚いた。ほほー、こんな才能が……

近年はけっこうテレビで見るようになっていましたね。
あんな上目遣いの狷介な人っぽかった人が、ずいぶん明るくなった。
順調に大きくなっている。


そしたら、今回はユパさまの役だって!ええっ、松也が!?
でも重厚さが出ていた。やっぱり脚本的にそんなに見せ場は作れなくて、
場つなぎ的になっちゃうんだけど、その中でかなり健闘していた。

わたしが見た録画の時は、場面転換にだいぶ時間がかかったらしく、
ずっとテトの後をついてまわらなきゃいけなかったようだが、
その間に場を白けさせなかった。
死ぬ時はもう少し見せ場を作ってあげたかったねえ。

歌舞伎で松也を見られたのは初めてなので、見られて良かった。


※※※※※※※※※※※※


その他の人は、あまり知らないので言及できません。
そもそも役柄自体を思い出せてない。

歌舞伎は設定を詳細に理解する必要はないという前提でいうなら、
ケチャの中村米吉が可憐で良かった。
でも女形をやるならもう少し華のある名前の方が良かろうなー。

チャルカはそもそもいい役。中村錦之助がはまっていた。
クロトワもいい役。片岡亀蔵はたしかどこかで楽しませてくれた記憶が……
あ、「阿弖流為」の蛮甲ですな。こういう役がはまるんだね。

「右近」と聞くとわたしの中では前の市川右近なのだが。←現市川右團次ですね。
ユパさまは、わたしは右團次のイメージだった。
尾上右近はこれから来ますね。わたしが知らないだけでもう来てるのか?
ほほう、「ワンピース」でルフィか。イメージ違うけどなあ。
わたしが見た時は猿之助だった。

中村吉右衛門、市川中車を声に持ってきているのは上手い使い方だったのでは
ないでしょうか。


※※※※※※※※※※※※


ストーリーはもっと練り上げて欲しい。
特に後半。特に終盤。特に最終盤。

たしか原作も大風呂敷をたためずに終わったはずだから、その派生作品である
歌舞伎にきっちりとした結末を望むのは荷が重いかもしれないけれど、
これから創り上げて欲しい。

ジブリの鈴木Pも言ってましたよ、「風の谷のナウシカという名前さえ変えなければ
何をしてもいい」と。
これはある程度の基礎的な信頼があるのと同時に、この原作をまとめるのは
無理だな、という判断があるせいではないかと思う。

――ま、わたしは鈴木Pの言葉を聞いて「宮崎さんはそうは言わないだろうけどなあ」
とは思いましたけどね。むしろ宮崎さんは他の誰がどんな風に作っても、
世界の全ての人が素晴らしいと言ったとしても、他人が介入したナウシカを
気に入ることはない気がする。


終盤。連獅子を持ってくるのは、歌舞伎的にはよくわかる気はするけど、
ナウシカとしてはそれじゃあ収まらない気がするんだよね……
歌舞伎をよく見ている層にはアピールするかもしれないが、
6時間の話の最後に近い見せ場が連獅子というのは地味だ。

そこに限らず、舞踊部分はだいたい邪魔だと感じた。
菊之助の舞踊が見せ場なのはわかるが、中盤の舞踊は長すぎた。

そして話のあの流れででクシャナとヴ王の親子の葛藤の話になってしまうと
ナウシカの主人公の立ち位置が微妙になってしまうわけでね。
そこで最終盤のバラバラ感になってしまう。尻すぼみ。


難しいけど、新しい結末を作るべきなんじゃないだろうか。
そうすることで忠臣蔵のように伝統になり得る演目なんじゃないだろうか。
期待したい。



どこをどうしたらいいかはわたしも目下、ノーアイディーア。
そのうち原作のマンガを読み直して検討したい。


 
久々に長文を書いてしまった。
最近そういう欲が全然なかったので、内容はともかく、
書くことが出来てうれしいですよ。
どうもありがとう。



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