神社仏閣が好きなんだと認識したのは、初めて京都を一人で回った時。
中学生だった。どこへ行こうかガイドブックを熟読して、――まあ京都だから
観光地はほとんどが神社仏閣なわけですよ。
天龍寺の庭に感銘を受けた。下鴨神社の糺の森の佇まい。蘆山寺のこじんまりした庭のさま。
詩仙堂のツツジの大刈込。寂光院の歴史の香り。南禅寺の門の風格。
そうか。わたしは寺や神社が好きなんだ。
そのわりに地元の有名神社などには興味がなかったが……それは安土桃山時代の
派手な建築のせいなのか。京都が好きだし、奈良も。
奈良・平安あたりの雰囲気が好きなんだなあ。
――というわたしが、なぜか伊勢神宮に食指が動かなかった。我ながら不思議。
出雲大社はずいぶん前に行ったのだが。
宗像大社も行ったし、宇佐神宮も行ったし、京都・奈良のおおどころはだいぶ行ったし、
まあ行きたくても行ってない諏訪神社・鹿島神宮・岩清水八幡などなど、
未訪問の神社も多々あるけれども。
どうも伊勢神宮はよそよそしい感じがする、というのがひとまずの理由かと思う。
具体的には、あの塀の、向こうをびっちり隠している感じがよそよそしい。
伊勢神宮といえばこの絵が使われる、拝殿の入口があるじゃないですか。
階段を下からナメた構図。
あそこの佇まいがねー。とにかく惹かれなかったのよねー。
あの場所はわたしを呼ばない。
今回行くに当たって、もう少し理由を考えてみた。
建物に年輪を感じない、ということはあるかもね。
何しろ伊勢神宮は20年に一度遷宮をするお神社柄である。
ということはつまり、20年ごとに建物は新しくなるわけで、
時代感がついて有難味が増す、という可能性はない。
神明造自体も簡素だしね。神棚をもう少し大きくしたような簡素さに味気無さを感じたのかも。
うがって考えると、「うちの神サマは皇祖神!エライ!」という大々的な主張に
多少辟易してたところもあるかもしれない。
まあ神社なんてのはどこもそれぞれのご由緒を後生大事に奉じるものだし、
そうやって個別化をはかることで経済的にも生き延びていたのだろうから、
わからないわけではないけれど。
歴史的な視点に立つならば、神話などはその当時の政治勢力の反映という側面はあるし、
宗教的に見るとしたら、わたしはスサノオ系統の出雲の方に肩入れをする。
どちらにしても、なんかねえ。という気はしている。
これらも遠々しく感じる要因。
これらの理由は理由として、他に伊勢神宮については昔から不思議に思っていたことがある。
内宮の祭神が天照大御神で、外宮の祭神が豊受大御神ということ。
豊受大御神って、古事記のダイジェストなどには全然出て来ない、キャラクター性のない
神さまじゃない?しかも役割は天照大御神の食事係だという。
食事係であれば、むしろ内宮で同居しているべきでは?
なんでけっこう離れた外宮に独立して祭られているんだろう。
対峙して祭られるのならば、なぜ月読の神ではないのか。
(まあ月読も全然キャラクターが立ってなくてそもそも不思議だけど)
あるいは天の岩戸の登場人物の、アメノウズメ、タヂカラオ、
もう一人あんまりピンとこないけど、アメノコヤネの三柱が祭られているのならわかる。
なぜ突然に豊受大御神なのか。
最近伊勢神宮の予習をしている過程で読んだ本で、伊勢神宮の初期の頃の皇后だか天皇の
母方の出自の丹後だか丹波だかの神さまを持ってきたらしいというのもちょこっと
読んだが……まあそれが定説なのかはわからない。
これについてはいずれものの本を読んでみたい気がするが……
※※※※※※※※※
簡単に結論を言うとですね。
行ってみたらなかなか良かった。まあ当然ですか。
建築的な閉鎖性はやはり感じたけどね。建築というか、……まあ塀、垣ですから建築か。
隔てられてるという感じはした。
でも遷宮から10年も経てば、それなりに侘び寂びの味がついてくるし、
写真でよく見る遷宮直後の素木のピカピカした鳥居や塀よりはるかに良かった。
何よりも印象深かったのは五十鈴川です。
境内を流れる五十鈴川。というのは多分話が逆で、清浄な川のほとりに宮を建てたという
順番の方が正解だと思うが、有名な禊場だけではなく、参道をうねうね歩いてる間に
折に触れて出会う五十鈴川、その表情がどこでも素敵だった。
わたしはここは、川の神さまでもいいと思った。川の姫さまがいる気がする。
冷たかったから一瞬だったけど、水にも触って来た。嬉しい気持ちになった。
だが、伊勢の神社をいろいろまわって――
外宮、内宮、その中にも複数お宮があるし、
倭姫宮にも猿田彦神社にも月読宮にも月夜見宮にも二見が浦にも行ったし、
通りかかった小さいお宮も合わせると十ヶ所じゃきかない、
気分は神社オリエンテーリング――思ったことは、
形がみんな同じ、ということ。
もうね、大小さまざまあれどもみんな神明造り。笑っちゃうくらい神明造り。
なので、一つ一つの神社の記憶はありません。写真はそれぞれ撮った気がするけど、
おそらく撮った写真を並べてみても見分けがつかないと思う。
雰囲気が違ったのは唯一、猿田彦神社ですね。ここはなんというか、近しい雰囲気。
多分垣で隔てられてないからでしょう。そんなに広くもないし、古い建物でもないけど
好きな神社でした。
ここでおみくじを引いて、「あ、なんか大吉な気がする」と予感がして
実際に大吉だったので嬉しかったです。
おはらい町、おかげ横丁の雰囲気もベタですけれどもなかなか楽しかったですね。
行ったのはまあまあ早い時間だったので、行きは人通りの少なめなところを、
帰りは人が増えて賑やかなところを楽しみました。
行きは赤福本店で赤福。これが朝食です。吹き抜けのお座敷で寒いけれども、
ところどころに置かれた火鉢がなにやら床しい感じ。
江戸の昔から、旅人がこうやって名物を楽しんできたんだろうなあと思うとニコニコしちゃう。
店の外に流れるのはここも五十鈴川。ここまで下流になると、内宮境内より
だいぶ川幅が広くなり、川の表情も変わります。お座敷から見た川もいいし、
近くの橋から見た川も好き。
内宮の肝は、川でした。
とはいえ、天照大神については引き続き親しみを感じないのですが……
出雲の国譲りの違和感がどうも強固にしみついてるのよねー。
スサノオは乱暴者だっただろうけど。高天原追放されて下界に来てからの活躍は
ヒーローですからね。ヤマタノオロチ退治。ロマンス付き。
オオクニヌシに対してはおっかない義理の父。
やってることも実はけっこうエグい。でもどこかユーモラスで憎めない。
それに対してアマテラスは、たしかに天岩戸のエピソードは目立っているけど、
でもそこでキャラクターが立っているかというと、それほどではない。
むしろキャラが立っているのはアメノウズメとタヂカラオ。
アマテラスは中心人物ではあるけど、主役ではないですよね。
まあ他の二人(二柱?)が主役かというと微妙だが。
そしてその後、孫を下界に派遣して(平和にオオクニヌシが統治していたと思われる)
出雲の国を根拠なく奪い取る……と、どうしても見えませんか、普通に読んだら。
えー?理不尽!と思うし、どこか別のところで平和に暮らせよ、他人の土地を欲しがらず。
と思う。ここがアマテラスに親しみを感じない点。
お日様は好きなんですけどね。
しかし結局、みんながお伊勢さんをもてはやすのにへそを曲げていた、という結論……
わたしにはそういう傾向があります。ベストセラーしかり。アイドルしかり。
みんなに人気なものにはつい横を向きたくなる。
性格が悪い人にはありがちなことです。まあ昔からそうだから、
今後この部分が変わるとは自分でも思わないが……
伊勢神宮。いいところでした。
中学生だった。どこへ行こうかガイドブックを熟読して、――まあ京都だから
観光地はほとんどが神社仏閣なわけですよ。
天龍寺の庭に感銘を受けた。下鴨神社の糺の森の佇まい。蘆山寺のこじんまりした庭のさま。
詩仙堂のツツジの大刈込。寂光院の歴史の香り。南禅寺の門の風格。
そうか。わたしは寺や神社が好きなんだ。
そのわりに地元の有名神社などには興味がなかったが……それは安土桃山時代の
派手な建築のせいなのか。京都が好きだし、奈良も。
奈良・平安あたりの雰囲気が好きなんだなあ。
――というわたしが、なぜか伊勢神宮に食指が動かなかった。我ながら不思議。
出雲大社はずいぶん前に行ったのだが。
宗像大社も行ったし、宇佐神宮も行ったし、京都・奈良のおおどころはだいぶ行ったし、
まあ行きたくても行ってない諏訪神社・鹿島神宮・岩清水八幡などなど、
未訪問の神社も多々あるけれども。
どうも伊勢神宮はよそよそしい感じがする、というのがひとまずの理由かと思う。
具体的には、あの塀の、向こうをびっちり隠している感じがよそよそしい。
伊勢神宮といえばこの絵が使われる、拝殿の入口があるじゃないですか。
階段を下からナメた構図。
あそこの佇まいがねー。とにかく惹かれなかったのよねー。
あの場所はわたしを呼ばない。
今回行くに当たって、もう少し理由を考えてみた。
建物に年輪を感じない、ということはあるかもね。
何しろ伊勢神宮は20年に一度遷宮をするお神社柄である。
ということはつまり、20年ごとに建物は新しくなるわけで、
時代感がついて有難味が増す、という可能性はない。
神明造自体も簡素だしね。神棚をもう少し大きくしたような簡素さに味気無さを感じたのかも。
うがって考えると、「うちの神サマは皇祖神!エライ!」という大々的な主張に
多少辟易してたところもあるかもしれない。
まあ神社なんてのはどこもそれぞれのご由緒を後生大事に奉じるものだし、
そうやって個別化をはかることで経済的にも生き延びていたのだろうから、
わからないわけではないけれど。
歴史的な視点に立つならば、神話などはその当時の政治勢力の反映という側面はあるし、
宗教的に見るとしたら、わたしはスサノオ系統の出雲の方に肩入れをする。
どちらにしても、なんかねえ。という気はしている。
これらも遠々しく感じる要因。
これらの理由は理由として、他に伊勢神宮については昔から不思議に思っていたことがある。
内宮の祭神が天照大御神で、外宮の祭神が豊受大御神ということ。
豊受大御神って、古事記のダイジェストなどには全然出て来ない、キャラクター性のない
神さまじゃない?しかも役割は天照大御神の食事係だという。
食事係であれば、むしろ内宮で同居しているべきでは?
なんでけっこう離れた外宮に独立して祭られているんだろう。
対峙して祭られるのならば、なぜ月読の神ではないのか。
(まあ月読も全然キャラクターが立ってなくてそもそも不思議だけど)
あるいは天の岩戸の登場人物の、アメノウズメ、タヂカラオ、
もう一人あんまりピンとこないけど、アメノコヤネの三柱が祭られているのならわかる。
なぜ突然に豊受大御神なのか。
最近伊勢神宮の予習をしている過程で読んだ本で、伊勢神宮の初期の頃の皇后だか天皇の
母方の出自の丹後だか丹波だかの神さまを持ってきたらしいというのもちょこっと
読んだが……まあそれが定説なのかはわからない。
これについてはいずれものの本を読んでみたい気がするが……
※※※※※※※※※
簡単に結論を言うとですね。
行ってみたらなかなか良かった。まあ当然ですか。
建築的な閉鎖性はやはり感じたけどね。建築というか、……まあ塀、垣ですから建築か。
隔てられてるという感じはした。
でも遷宮から10年も経てば、それなりに侘び寂びの味がついてくるし、
写真でよく見る遷宮直後の素木のピカピカした鳥居や塀よりはるかに良かった。
何よりも印象深かったのは五十鈴川です。
境内を流れる五十鈴川。というのは多分話が逆で、清浄な川のほとりに宮を建てたという
順番の方が正解だと思うが、有名な禊場だけではなく、参道をうねうね歩いてる間に
折に触れて出会う五十鈴川、その表情がどこでも素敵だった。
わたしはここは、川の神さまでもいいと思った。川の姫さまがいる気がする。
冷たかったから一瞬だったけど、水にも触って来た。嬉しい気持ちになった。
だが、伊勢の神社をいろいろまわって――
外宮、内宮、その中にも複数お宮があるし、
倭姫宮にも猿田彦神社にも月読宮にも月夜見宮にも二見が浦にも行ったし、
通りかかった小さいお宮も合わせると十ヶ所じゃきかない、
気分は神社オリエンテーリング――思ったことは、
形がみんな同じ、ということ。
もうね、大小さまざまあれどもみんな神明造り。笑っちゃうくらい神明造り。
なので、一つ一つの神社の記憶はありません。写真はそれぞれ撮った気がするけど、
おそらく撮った写真を並べてみても見分けがつかないと思う。
雰囲気が違ったのは唯一、猿田彦神社ですね。ここはなんというか、近しい雰囲気。
多分垣で隔てられてないからでしょう。そんなに広くもないし、古い建物でもないけど
好きな神社でした。
ここでおみくじを引いて、「あ、なんか大吉な気がする」と予感がして
実際に大吉だったので嬉しかったです。
おはらい町、おかげ横丁の雰囲気もベタですけれどもなかなか楽しかったですね。
行ったのはまあまあ早い時間だったので、行きは人通りの少なめなところを、
帰りは人が増えて賑やかなところを楽しみました。
行きは赤福本店で赤福。これが朝食です。吹き抜けのお座敷で寒いけれども、
ところどころに置かれた火鉢がなにやら床しい感じ。
江戸の昔から、旅人がこうやって名物を楽しんできたんだろうなあと思うとニコニコしちゃう。
店の外に流れるのはここも五十鈴川。ここまで下流になると、内宮境内より
だいぶ川幅が広くなり、川の表情も変わります。お座敷から見た川もいいし、
近くの橋から見た川も好き。
内宮の肝は、川でした。
とはいえ、天照大神については引き続き親しみを感じないのですが……
出雲の国譲りの違和感がどうも強固にしみついてるのよねー。
スサノオは乱暴者だっただろうけど。高天原追放されて下界に来てからの活躍は
ヒーローですからね。ヤマタノオロチ退治。ロマンス付き。
オオクニヌシに対してはおっかない義理の父。
やってることも実はけっこうエグい。でもどこかユーモラスで憎めない。
それに対してアマテラスは、たしかに天岩戸のエピソードは目立っているけど、
でもそこでキャラクターが立っているかというと、それほどではない。
むしろキャラが立っているのはアメノウズメとタヂカラオ。
アマテラスは中心人物ではあるけど、主役ではないですよね。
まあ他の二人(二柱?)が主役かというと微妙だが。
そしてその後、孫を下界に派遣して(平和にオオクニヌシが統治していたと思われる)
出雲の国を根拠なく奪い取る……と、どうしても見えませんか、普通に読んだら。
えー?理不尽!と思うし、どこか別のところで平和に暮らせよ、他人の土地を欲しがらず。
と思う。ここがアマテラスに親しみを感じない点。
お日様は好きなんですけどね。
しかし結局、みんながお伊勢さんをもてはやすのにへそを曲げていた、という結論……
わたしにはそういう傾向があります。ベストセラーしかり。アイドルしかり。
みんなに人気なものにはつい横を向きたくなる。
性格が悪い人にはありがちなことです。まあ昔からそうだから、
今後この部分が変わるとは自分でも思わないが……
伊勢神宮。いいところでした。