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【岡山大学】地球の最深部にマグマは眠っているのか? ~触れるマグマ=ガラスの超高圧実験からの知見~

2022-12-25 21:01:02 | 理工農系

岡山大学は10学部・1プログラム、8研究科、4研究所、附属病院、附属学校を有する地域の中核となる総合大学型の国立大学法人です。

今回、最新の研究成果をわかりやすく紹介する「FOCUS ON」を2022年11月30日に発行しました。ぜびご覧ください!




<発表のポイント>
  • 原始地球の大部分はマグマに覆われていたと考えられているため、マグマの性質を知ることは地球の成り立ちを知る手掛かりとなります。
  • 鉄を含むガラスは高温のマグマを凍結した、言うなれば触れられるマグマであり、鉄を含むガラスを研究することで、マグマの性質を理解することができます。
  • 鉄を含むガラスが地球深部で重くなることから、地球のマントル最深部にマグマが眠っている可能性があります。


◆発表者
 岡山大学惑星物質研究所 特任助教 増野いづみ


◆概 要
 一般的にマグマは岩石よりも軽く、火山噴火などで地表へと上昇してきます。近年、地球深部でマグマが岩石よりも重くなるのではないかという研究報告がなされました。地球内部は深くなるにしたがって圧力が増加しますが、地球のどの深さ(=圧力)でマグマが重くなるのかは分かっていません。マグマが岩石よりも重くなる深さが地球最深部よりも深い条件でしか起きなければ、マグマは浮いてきます。

 逆に、それよりも浅い部分で起きるのならば、地球が誕生した太古の昔から、マグマが地球の最深部に眠っている可能性があります。実際に高温のマグマを扱うのは難しいことから、触れられるマグマといえる鉄を含むガラスの超高圧実験を行いました。

 その結果、鉄を含むガラスの構造が地球最深部よりも低い圧力(浅い深さ)で変化し、密度が高くなる(重くなる)ことが示唆されました。これによって地球の最深部にマグマが溜まっている可能性が高まりました。誕生初期、地球の直径の3分の1近くがマグマの海に覆われていたと考えられています。

 地球最深部のマグマはこの名残と考えられ、超高圧下でのガラスの性質を知ることは、地球がどのようにできあがってきたかを知る手掛かりとなります。

 本研究成果は、2022年6月29日、米国の科学雑誌「Geophysical Research Letters」に掲載されています。


◆導 入
 皆さんは、液体と固体、どちらが沈んでいくと考えますか?ある人はキンキンに冷えたジュースに浮かぶ氷を、またある人は温かいコーヒーに入れた角砂糖が沈んでいく様子をイメージされるかもしれません。もちろん、どちらも正しく、どの物質が沈むかは、基本的には両者の密度の大小が関係します。地球の成り立ちを知るためには、この浮き沈みの関係を知ることが重要になってきます(図1)。
 


 地球の中にある液体といえば、火山噴火の際のマグマを真っ先に思い出し、地球の深部はドロドロのマグマで満たされていると想像する方が多いかと思います。しかし、実際には硬い岩石が詰まっており、現在の地球においてマグマはマイナーな存在です。
 一方、40数億年前には、地球の大部分はマグマの海(マグマオーシャン 注1)に覆われていたと考えられており、時間と共に冷え固まって現在の姿になっていると考えられています。マグマオーシャンの中では、密度が大きいものは下に沈み、密度が小さいものは上に浮いてくることになります。マグマが火山から噴出するように、一般的に地表付近ではマグマは周囲の岩石よりも小さい密度を持ちます。


◆背 景
 近年、この密度関係が地球深部で逆転し、マグマの方が岩石よりも重くなるとの報告がなされました。実際、地震波速度観測データによると、地球の最深部に地震波速度の異常な部分が存在することが分かっており、周囲の岩石とは違う鉱物もしくはマグマが存在することでこの異常が説明できるとされています。マグマは地震波速度異常の原因として有力視されていますが、本当にマグマが安定的に存在できるのか否かは分かっていません。
 


 地球の深部というのは超高圧高温の世界で、深くなるにしたがって圧力が増加していきます。この密度の逆転は、マグマが圧力をかけると縮みやすい(圧縮されやすい)性質を持っていることに由来します。しかし、この密度の逆転が起こる圧力(=深さ)については明らかになっていません。地球の岩石層(マントル 注2)は深さ2900km, 圧力135 万気圧 注3であり(図2)、密度の逆転がマントルの最高圧力である135万気圧よりも低い圧力で起きていればマグマは沈み(マントル最深部にマグマが溜まる)、135万気圧よりも高い圧力で起こるならばマグマは浮いてしまう(マントル最深部にマグマは存在できない)、ということになります。


◆研究内容・業績
 マントル最深部を再現し、そこに存在するであろう物質のふるまいを観察するには超高圧高温実験が必要となります。一方で、超高温高圧を安定的に発生させることはそう簡単ではありません。高圧を発生させるには周囲を硬い物質(ダイヤモンドや超硬合金)で取り囲み、力を加えなければなりませんが、特に高温のマグマは周りの物質と反応してしまい、圧力が保持できないなどの技術的な困難さが伴います。そこで本研究ではマグマを模したガラスを研究対象とし、超高圧実験を行いました。
 ガラスは高温下にあるマグマをそのまま常温でフリーズ(凍結)させたもので、ガラスは私たちが直接触ることができるマグマであるとも言えます。そのため、ガラスの超高圧下でのふるまいを観察することで、マグマの性質を知ることができます。マグマには鉄成分が含まれているため、鉄を含むガラスの超高圧下での弾性波速度 注4 測定実験を行いました。
 


 その結果、マントル最深部の圧力で、弾性波速度の圧力に対するトレンドの変化が見られました。このトレンド変化は、ガラスの構造が変わり、密度が高くなることに由来します。また鉄が入ることで、鉄が入っていないガラスと比べて、より低圧の106万気圧でトレンド変化が起こることが明らかになりました(図3)。
 この値がマントルの底の圧力135万気圧よりもかなり低いことから、マグマがマントルの最深部に存在することを矛盾なく説明することができます。この結果は、2022年6月29日、米国の科学雑誌「Geophysical Research Letters」に掲載されました。


◆展 望
 原始地球の大規模が、熔解したマグマオーシャンを経て、地球が冷え固まって形成されたとすれば、最下部マントルに存在するかもしれないマグマは、マグマオーシャンの名残である可能性があります。ゆえに、超高圧実験でマグマやそのマグマを模したガラスの性質を調べていくことは、地球がどのようにできあがっていったかを知る重要な手掛かりとなります。
 地球最深部にマグマが存在するか否かは、地球内部における未解決問題の一つにすぎません。実際、マントルにどんな岩石が詰まっているのかも、細かくは分かっていません。火山や地震の震源のもっと下には、まだ拓くべき大きなフロンティアが広がっています。今、皆さんが腰かけている地面の下に何が眠っているのか、私を含め、人類はまだ知らないのです。


◆用語説明
(注1)マグマオーシャン:惑星形成初期に表面を覆っていたとされるマグマの海。近年の研究で、地球は現在のマントル 注2 最深部までマグマオーシャンに覆われていたと報告されています。
(注2)マントル:地球を含む惑星・月などの衛星の深部の岩石層。地球の場合は地殻の下(約30km)から中心核の上(約2900km)に存在し、地球の大部分(地球の体積の約8割)を占めます。
(注3)大気の圧力=1気圧。圧力釜の内部圧力は2気圧程度まで、世界一深い海であるマリアナ海溝では約1千気圧。
(注4)弾性波速度:物質の中を伝搬する振動の波の速度。この速度は密度などに依存します。

 

◆論文情報
 論 文 名:Acoustic Wave Velocities of Ferrous-Bearing MgSiO3 Glass up to 158 GPa With Implications
for Dense Silicate Melts at the Base of the Earth's Mantle
 掲 載 紙:Geophysical Research Letters
 著  者:Mashino, I., Murakami, M., Kitao, S., Mitsui, T., Masuda, R., Seto, M.
 D  O  I:10.1029/2022GL098279
 U  R  L:https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1029/2022GL098279

 



◆参 考
・岡山大学惑星物質研究所(IPM)
 http://www.misasa.okayama-u.ac.jp/jp/
 

 岡山大学惑星物質研究所紹介(YouTube 4:53)
 https://youtu.be/UQtAxdYGI0k


◆参考情報
・【岡山大学】在日フランス大使館担当官、日本原子力研究開発機構理事長らが惑星物質研究所を視察 ~探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから採取した試料を観察~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000848.000072793.html
・【岡山大学】岡山大学惑星物質研究所「すぐにわかる小惑星リュウグウの起源と進化」が知の拠点【すぐわかアカデミア。】で動画配信スタート
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000833.000072793.html
・【岡山大学】小惑星リュウグウがかつて彗星であった可能性を理論的に指摘〜小惑星探査機「はやぶさ2」が採取した小惑星物質の起源解明へ〜
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000573.000072793.html
・【岡山大学】3億キロ離れた小惑星「リュウグウ」から採取した試料をイベントに合わせて一般公開しました!
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000170.000072793.html
・【岡山大学】惑星物質研究所の中村栄三教授が「令和2年度星取県推進功労者知事表彰」を受賞
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000060.000072793.html
・「スペースサイエンスワールド星取県」基調講演/スペシャルトークセッションに中村栄三特任教授が登壇
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000152.000072793.html
・内閣府「国立大学イノベーション創出環境強化事業」に採択 イノベーションエコシステムの構築を加速(令和2年10月20日付岡山大学プレスリリース)
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/news/news_id9724.html


◆参考情報:FOCUS ON
・【岡山大学】全身性エリテマトーデスで免疫力が低下する原因分子を同定
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000419.000072793.html
・【岡山大学】酵母が必要としている栄養素を酵母に語らせる技術を開発
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000516.000072793.html
・【岡山大学】神経内分泌腫瘍治療への新しい挑戦 ~新しい放射線治療の導入~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000582.000072793.html
・【岡山大学】岡山大学病院麻酔科蘇生科におけるAcute Pain Serviceへの取り組み ~手術を受ける患者様への安全・安心・満足度向上を目指して~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000615.000072793.html
・【岡山大学】フェイクコンテンツの真偽判定技術 ~AIによるウソ発見器~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000703.000072793.html
・【岡山大学】新炭素材料Qカーボンでエネルギー・環境問題に挑戦
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000708.000072793.html
・【岡山大学】岡山の古墳人は「炊いたお米」を食べていた? 歯石内残留デンプン粒の検出から得られた新たな知見
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000772.000072793.html
・【岡山大学】医療ビッグデータを用いたデータサイエンスによって広がるドラッグリポジショニングの可能性
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000807.000072793.html
・【岡山大学】体中で高機能な抗体が作られる仕組みを解明し免疫能力の向上を目指す
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・【岡山大学】遺伝子・ゲノムの改変で環境変動に適応した高品質なオオムギを作る
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001117.000072793.html

 

岡山大学惑星物質研究所(IPM)(鳥取県東伯郡三朝町)

岡山大学惑星物質研究所(IPM)(鳥取県東伯郡三朝町)

 

岡山大学惑星物質研究所の位置(googleマップより)

岡山大学惑星物質研究所の位置(googleマップより)



◆本件お問い合わせ先
 岡山大学惑星物質研究所 特任助教 増野いづみ
 〒682-0193 鳥取県東伯郡三朝町山田827
 TEL:0858-43-3761
 http://www.misasa.okayama-u.ac.jp/jp/

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国立大学法人岡山大学は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を支援しています。また、政府の第1回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞しています

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https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001122.000072793.html

 


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