2024(令和6)年 8月 27日
国立大学法人岡山大学
<発表のポイント>
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明らかになりつつある新型コロナ後遺症のさまざまな潜在的寄与因子には、宿主内残留ウイルスによる持続感染が直接的あるいは間接的に関与しています。
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ワクチン並びに抗ウイルス薬による新型コロナ後遺症の予防効果並びに治療効果を、細胞免疫学的知見に基づく宿主内免疫応答の数理モデルを用いて検討しました。
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後遺症患者の宿主内残留ウイルスは、ワクチン接種により一時的な増加を示し、症状悪化のリスクが示されました。
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一方、抗ウイルス薬との同時併用は、そのリスクを最小限に抑え、ワクチン接種による抗体産生が、1年以上継続する大幅な残留ウイルスの抑制を導きました。
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ワクチンと抗ウイルス薬の同時併用は、後遺症回復の効果が望める治療法として期待されます。
◆概 要
国立大学法人岡山大学(本部:岡山市北区、学長:那須保友)の高等先鋭研究院異分野基礎科学研究所の墨智成准教授らは、細胞免疫学的知見に基づく宿主内免疫応答の数理モデルを用いて、ワクチン並びに抗ウイルス薬による新型コロナ後遺症の予防効果を明らかにするとともに、ワクチンと抗ウイルス薬の同時併用が、後遺症の回復に有効である可能性を見出しました。
また、ワクチン追加接種の間隔が2年以上離れると、ワクチンによって誘導される免疫応答に必要な宿主内抗体量が不十分になり、追加接種による十分な抗体産生が見込めない可能性が、シミュレーション実験により示されました。
本研究成果は2024年8月9日、「Frontiers in Immunology」にオンライン掲載されました。
本研究成果は、ワクチン接種計画を立てるうえで参考となる知見であり、また、今回提案した既存のワクチンおよび抗ウイルス薬の同時併用は、コロナ後遺症の比較的安価な治療法として利用することが可能です。担当医による適切な指導の下、新型コロナ感染症の予後改善に貢献する可能性が期待されます。
図. 残留ウイルスによる持続感染を伴う新型コロナ後遺症患者に対する抗ウイルス薬投与およびワクチン接種による影響。
(a)ウイルス感染による発症後180日に抗ウイルス薬を通常投与した場合のウイルス量の変化(青線。比較のため、治療なし(赤線)と通常の5倍の量の抗ウイルス薬を投与した場合(水色の線)も示す。
(b)ウイルス感染による発症後180日に、ワクチンのみを接種した場合(黒線)、ワクチン接種と通常量の抗ウイルス薬を投与した場合(青線)、ワクチン接種と通常の5倍量の抗ウイルス薬を投与した場合(水色の線)におけるウイルス量の変化。(a)と(b)共に水平の波線はウイルス検出限界を示す。
◆墨智成准教授からのひとこと
2022年に提案した数理モデルをベースに、ワクチン接種を考慮出来るようにアップデートして、宿主内残留ウイルスによる持続感染を伴う後遺症患者に対するワクチン接種の効果を調べました。ワクチン接種直後にウイルス量が一時的に急上昇する様子を観測したときは、少し怖さを感じると同時に、ワクチン接種が後遺症の「回復」にも「悪化」にもつながるという臨床報告の意味を理解しました。
本研究で提案した「ワクチンと抗ウイルス薬の同時併用」は、症状悪化のリスクを最小限に抑えたいという考えに基づくものです。担当医の適切な指導の下、後遺症に悩まされている患者の方々の少しでも助けになれば幸いです。
◆論文情報
論文名: Vaccine and antiviral drug promise for preventing post-acute sequelae of COVID-19, and their combination for its treatment
掲載誌: Frontiers in Immunology
著者: Tomonari Sumi, Kouji Harada
DOI: 10.3389/fimmu.2024.1329162
URL:https://www.frontiersin.org/journals/immunology/articles/10.3389/fimmu.2024.1329162/full
◆研究資金
本研究は、公益財団法人岡山工学振興会の学術研究助成および独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(JP20K05431, JP22H01888, JP22K12245)の助成を受け実施しました。
◆詳しい研究内容について
持続感染を伴う新型コロナ後遺症の予防法並びに治療法の検討〜ワクチンと抗ウイルス薬の同時併用には症状回復の効果が期待される〜
https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r6/press20240826-1.pdf
◆参 考
・岡山大学異分野基礎科学研究所(RIIS)
http://www.riis.okayama-u.ac.jp/
◆参考情報
・【岡山大学】新型コロナ後遺症の原因とされる宿主内持続感染は起きるのか 〜全身性感染と不十分な免疫応答は持続感染のリスク要因に〜
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000778.000072793.html
・【岡山大学】最終普遍共通祖先LUCAの炭素代謝経路を支配する新たな速度論的仮説 〜速度論的競合が生み出す炭素代謝経路の多様性〜
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000306.000072793.html
・【岡山大学】水はタンパク質の立体構造を不安定化する ~長年信じられてきたタンパク質変性メカニズムの見直しへ~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000249.000072793.html
・アザラシの海洋適応に伴うタンパク質進化のしくみを解明
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000233.000072793.html
・【岡山大学】ムスカリン受容体依存シナプス可塑性の仕組みとアルツハイマー病との関係 〜学習と記憶を司るNMDA受容体依存シナプス可塑性との統一的理解〜
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001261.000072793.html
・【岡山大学】タンパク質と水と共溶媒の「三角関係」を解く方法を考案 ~タンパク質医薬品の開発に必要な膨大な計算コストの効率化に貢献~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001698.000072793.html
◆本件お問い合わせ先
岡山大学異分野基礎科学研究所 准教授 墨 智成
〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中3-1-1 岡山大学津島キャンパス
TEL: 086-251-7837
http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~sumi/index.html
<岡山大学の産学官連携などに関するお問い合わせ先>
岡山大学研究・イノベーション共創機構 産学官連携本部
〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
TEL:086-251-8463
E-mail:sangaku◎okayama-u.ac.jp
※ ◎を@に置き換えて下さい
https://www.orsd.okayama-u.ac.jp/
<岡山大学のスタートアップ・ベンチャーなどに関するお問い合わせ先>
岡山大学研究・イノベーション共創機構 スタートアップ・ベンチャー創出本部
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※ ◎を@に置き換えて下さい
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岡山大学「THEインパクトランキング2021」総合ランキング 世界トップ200位以内、国内同列1位!!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000070.000072793.html
岡山大学『大学ブランド・イメージ調査2021~2022』「SDGsに積極的な大学」中国・四国1位!!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000373.000072793.html
岡山大学『企業の人事担当者から見た大学イメージ調査2022年度版』中国・四国1位!!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000122.000072793.html
国立大学法人岡山大学は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を支援しています。また、政府の第1回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞しています。地域中核・特色ある研究大学として共育共創を進める岡山大学にご期待ください
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岡山大学 文部科学省「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に採択~地域と地球の未来を共創し、世界の革新の中核となる研究大学:岡山大学の実現を加速とともに世界に誇れる我が国の研究大学の山脈を築く~