uparupapapa 日記

ようやく年金をいただける歳に。
でも完全年金生活に移行できるのはもう少し先。

こりゃ!退助‼ ~自由死すとも退助死せず~(2)

2020-11-09 12:41:57 | 日記





このイラストは私のblogの読者様であり、
イラストレーターでもあられる
snowdrop様に描いていただいた作品です。


#13イラストのリクエスト〜『板垣退助』 - snow drop~ 喜怒哀楽 そこから見えてくるもの…

皆さま、お疲れ様ですつい最近まで30℃近い日々だったのが一気に10℃下がってま、今は20℃前後寒い地方では10℃以下になってるところもありま...

#13イラストのリクエスト〜『板垣退助』 - snow drop~ 喜怒哀楽 そこから見えてくるもの…

 

 (snowdrop様のblogリンク先)

Snowdrop様
素晴らしいイラストをありがとうございました。
心から感謝いたします。






   第2話 お菊お姉(ねえ)


 退助は5人兄弟の長男であり、
嫡男として大切に育てられた。
 
 しかし退助にはかなわぬ希望があった。
それは姉が欲しいと云う事。
理想の姉。
優しくて、きれいで、自分を可愛がってくれる人。
 母に5人目の妊娠が分かった時、退助は
「今度生まれてくる赤ちゃんは女子(おなご)がいい。」
 「母上、是非女の子を生んでくだされ。」
とせがむのだった。
 母はどうして退助が
女の赤ちゃんを望むのか分からない。
 でも、きっと「女子の赤ちゃんは可愛いから」
と云うのが理由だろうと単純に思った。
 何故なら退助にはすでに
弟も妹もいるから。
 きっと次の子も可愛い女の子だと良いな~
とでも考えているのだろう。

 だが退助は全く別なことを思っていた。
ただし自分の望みの事なのに、
ちゃんとものの道理を理解していない。

 彼が欲しいのは、妹ではなく、
あくまでも『綺麗で優しい姉』なのだ。

 妹たちはビービー泣くし、
泣くと不細工だし、我儘だし、
何より自分が甘えられない。
 そんな妹など、もう真っ平御免である。


 しかし退助はどこまでも抜けていた。
自分より後に生まれてくる姉など存在する訳がない。
 そんな簡単な理屈に気がついたのは、
 末の妹が生まれた後の事だった。

 「ア~!ア~!!馬鹿だ、馬鹿だ、
何て馬鹿なボク!!!」

 誰も居ない部屋で地団駄を踏む退助を見かけ
お菊はいぶかしい物でも見るように
退助の様子を伺った。

 そしてお菊は好奇心に負け
退助に地団駄を踏みながら、
ウ~と唸り、体をくねくねする訳を尋ねた。

 菊の存在に気づき、退助は固まる。
自分が恥ずかしい真似をしたときに限って
必ずお菊に見られる。
 (畜生、畜生、畜生!!)
退助の気持ちが顔と態度に現れ、
お菊はその様を見て「プッ!」と吹き出す。
 その反応に、退助は益々顔を赤くする。

 お菊は容赦ない。
 「ねえ、何が不満なの?
どうして地団駄を踏んで悔しがっているの?」
 「教えない!!」
 「ねぇ、ねぇ、どうして?」
 「教えない!!」
 「ねぇ、ねぇ、ねぇ・・・」
 潤んだ目で退助を見つめ、
甘えた声で答えをせがんだ。
 「絶対~ぃに、教えない!!」
 少々憎たらしい顔でお菊を睨みながら拒絶する。
 怯むことなく見つめるお菊。

 1分も経っただろうか・・・。
お菊にジッと見つめられ続け、
ついに根負けした退助が
蚊の鳴くような声で呟く。
 「お姉ちゃんが欲しかった。」
 「え?」
 「お姉ちゃんが欲しかったんだよ!!」
やけくそになって答えた。
 「妹なんかじゃなく、お姉ちゃんが欲しかった!!」

 お菊はようやく理解した。
そしてケタケタと大笑いした。
 腹を抱えて笑うのを見て
 「笑うな!」
 どうしたら良いか分からぬ風で、力なく言った。
 「あら、ごめんなさい、私の大切な退助坊ちゃま。
 坊ちゃまを傷つけるつもりはなかったのよ。」
 「坊ちゃまと言うな!!」
 「ごめんなさい、退助坊ちゃま」
 「止めろ、止めろ、止めろ!!」
恥ずかしさのあまり
ふいにお菊に抱き着き、顔を胸に埋める退助。
 お菊は驚いたが、その時総てを理解した。
 退助坊ちゃまは、私の事を姉だと思いたいのだ。
 私に姉の代わりになって欲しいと云いたいのだろう。

 急に退助の事を愛おしく思い、
しがみつく退助の背中を優しく
ポンポンと叩くお菊であった。




 その翌日からお菊は退助を気に留め、
実の弟のように、
何かと甲斐甲斐しく世話を焼くようになった。

 退助は吹っ切れたのか
生まれたての赤ちゃんを大そう可愛がるようになる。

 母はその辺の事情がよくつかめなかったが、
どうやらお菊が退助に
良い影響を与えているのだろうと察した。

 母の心配は、退助が勉強嫌いだと云う事。

 「腕白でも良い、逞しく育って欲しい」
なんて昔のCMのようなフレーズは
乾家300石の家柄には通用しない。

 太平の世が永く続き、
武勇だけでは家の存続は不可能なのだ。

 いくら退助に手習いを勧めても
気持ちが入らない。
困り果てた母は、
父に相談の上、お菊と一緒の手習いを提案した。

 父は身分の隔たりを超えた
男女一緒の手習いに理解を示し、
お菊の父太右衛門も仰天しながらも
この破天荒な提案を喜んでくれた。

 かくして主家の嫡男と
元武士とは言え、町人の身分の雇人でありながら
その家の娘が机を同じくする状況が誕生した。

 明らかに退助はお菊を慕っている。
あれだけ勉強嫌いだった退助が、
みるみる読み書きそろばんに興味を持ち始めた。



    つづく 





こりゃ!退助‼ ~自由死すとも退助死せず~(1)

2020-11-06 10:56:41 | 日記






このイラストは私のblogの読者でもあり、
イラストレーターでもあられる
snowdrop様に描いていただいた作品です。

#13イラストのリクエスト〜『板垣退助』 - snow drop~ 喜怒哀楽 そこから見えてくるもの…

皆さま、お疲れ様ですつい最近まで30℃近い日々だったのが一気に10℃下がってま、今は20℃前後寒い地方では10℃以下になってるところもありま...

#13イラストのリクエスト〜『板垣退助』 - snow drop~ 喜怒哀楽 そこから見えてくるもの…

 

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Snowdrop様
素晴らしいイラストをありがとうございました。
心から感謝いたします。









板垣退助=乾退助は幼名猪之助、
諱(いみな)は正躬(まさみ)であるが、
この物語では通称の『退助』の名で統一。
姓は後に乾から板垣に改姓する。




     第一話 クソガキ退助




 退助は口を窄(すぼ)めて菊の顔に近づく。
ふいに菊は目覚め、閉じていた瞼を開いた。

退助は一瞬固まり、目はたじろぎの泳ぎを見せる。
無言で見つめる菊の僅か10cmの間の状況で、
退助は言い訳を必死で考えていた。

 「何?何でしょう?」
菊の問いに納得のいく言い訳が見つからない。
 まさか9歳の自分が2歳年上の菊に
寝ている隙に「口吸い」をしようとしたなんて
口が裂けても言えない。
ませたクソガキのくせに。

 菊は起き上がり、再び退助を見据えた。

退助の脳みそは、
フル回転で言い訳を探した。
「俺は、俺は何もしていない!」
「何もしていないじゃなくて、
何をしようとしていたの?」
「俺は何もしていないんだ!!」
「だから、私に何をしようとしていたの?」
「・・・・・。」
「ん?・・・・ん?」
そう迫られて退助は観念した。
「口吸い。」
「口吸い?何それ?」
「だから、口吸いだよ!口吸い!!
悪いか!!」
やけくそ気味に白状した。
「いやらしい・・・。」
菊は恥じらうように伏し目がちになり、
「どうして私に?
私は年上なのよ。」
退助は返答に困ったが、
菊が自分に対し、
即座に拒絶反応を示さない事に
心の底で安堵した。
退助にとって菊は、
雇人の娘であり、姉のようであり、
一番の幼馴染であり、
淡い憧れの異性であった。


退助は土佐藩の上士であり、
馬廻り格300石取り
乾正成の嫡男として生まれた。
高知城下中島町に
天保8年(1837年)5月21日に生を受ける。

天保8年とは
天保の大飢饉により、
世の中全体が極めて疲弊した年である。
有名な大塩平八郎の乱(大阪)、生田万の乱(越後柏崎)
などの飢餓に対する民衆の不満が多発した。
またアメリカのモリソン号が漂流民を伴い浦賀に現れ、
異国船無二念打払令により
打ち払われたのもこの年の出来事である。

現在でも『てんぽな』と云えば、
地方により大変なとか、
とんでもないとか、途方もないとか
という形容詞として使われるそうな。
それほど『てんぽな』(大変な)年だったのだ。

動揺した幕政の綻(ほころ)びが見え始め、
後の討幕の機運が生まれたのもこの頃である。
そんな年に生まれた退助は
まさに討幕の使命を背負う運命の子であった。

しかし少年に成長した当の退助は、
腕白で学問嫌いで、
正義感が強く、卑怯な振る舞いを嫌う母に
頭が上がらない子である。

だから菊に
「退助様のお母上に言いつける」
と言われたら、
この世の終わりに等しい大事(おおごと)だったのだ。

菊はと言うと、
家は元武士の出であったが
お家改易のため、浪々の身の折り
父の代に退助の祖父の窮地を救った功績により
召し抱えられた。

その時すでに武士の身分を捨てている。
生活のため他国行脚の末、土佐に流れ着き
カツオ漁や農家の刈り入れの日雇い人足として
生計を立てていたのだった。

故に土佐の下士にも該当せず、
町人の身分として中間(ちゅうげん)=奴(やっこ)
として雇われ、妻は奥向きの台所を任されている。
当時の雇人としては破格の待遇で迎えられ、
家族は単なる雇人以上の振る舞いが許される
特別な存在とされた。

菊の家の出目を知る主人の乾正成は
菊の父太右衛門が娘に施す教育を黙認。
様々な支援をし続けた。

元々300石の高禄でありながら、
身分の上下の隔たりに甘く、
分け隔てない行いを旨とした人であった。


そうした環境から、退助は
自宅屋敷内を第二の住処のようにふるまう
菊という娘が自分にとって
最も身近な他人の異性であるのは
仕方ない。


現実に戻る。


菊はじっと退助を見つめ続け、
どうしたものか思案した。

退助はいたたまれない。
この場を逃げ去りたい思いで一杯だった。
「退助様は、私に口吸いして、
その後どうするつもりだったの?」
「知らないや、そんなの。」
あっちの方角に視線を落とし、
菊の問いにボソッと応えた。
「退助様は菊の事が好きなの?」
完全に菊の優位な状況が成立している。
顔を真っ赤にした退助は、
「知るか!知るか!!知るか!!!」
そう言って握る手が震え出した。
あまり退助様を虐めてはかわいそう。
年下だし、反応がかわいらしいと思う。
この辺にしておこうか。
「いいわ。このことは誰にも内緒にしてあげる。
退助様も誰にも言ってはダメよ。」
「分かった。」
ホッとした退助は恐ろしい程素直に受合う。

その日を境に退助と菊の立場が定まった。


  つづく