上原正稔日記

ドキュメンタリー作家の上原正稔(しょうねん)が綴る日記です。
この日記はドキュメンタリーでフィクションではありません。

暗闇から生還したウチナーンチュ 16

2013-04-26 09:53:33 | 暗闇から生還したウチナーンチュ

カンパのお願い 

5月30日に結審があります。 

徳永弁護士も手弁当で支援して下さっていますが、 

打ち合わせ等をするにも交通費等の出費を無視できません。 

カンパは支援している三善会にお願いします。 

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ゆうちょ銀行からの振込の場合 
【金融機関】 ゆうちょ銀行
【口座番号】 記号:17010 口座番号:10347971
【名  義】  サンゼンカイ
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ゆうちょ銀行以外の金融機関からの振込の場合 
【金融機関】 ゆうちょ銀行
【店  名】  七〇八(読み:ナナゼロハチ)
【店  番】  708
【口座番号】 普通:1034797
【名  義】  サンゼンカイ 


前回の続き

~轟の壕編~ 10

 立派な軍国少女だった山里和枝さんも「友軍ってこんなむごいことをするんだね。あんな子供の黒砂糖を取り上げて、その上、撃ち殺すなんて、友軍ってこんなものだったのか」と思った。あの恐ろしい鬼畜米英に向けられていた敵憮心は、この時から友軍に向けられるようになった。敵はアメリカ軍ではなく、かえって友軍だと思うようになった。
 お国の為、天皇陛下の為に命を捧げても惜しくはない、と思っていた和枝さんも、尊敬していた島田知事に「日本軍と行動を共にするな。白旗を挙げて投降せよ」と言われ、今、目の前で子供から黒砂糖を取り上げるため、子供を射ち殺す日本兵の姿を見て、生きてやろうと、いう気持ちがふつふつとわいてきた。
 その後、赤ちゃんが泣くと、母親の周囲のみんなが、子供を泣かすな、と言うようになった。泣くな、と赤ちゃんに言っても泣きやむはずがない。赤ちゃんが泣くと、母親はたまらず、オシメを赤ちゃんの口に押し込んで、泣き声を止めようとするが、赤ちゃんは息ができず、死んでしまった。こんなことが何度も続いた。
 名前は伏せるが、ある母親の話をしよう。その母親はまだ九カ月の女の子を背負い、家族と共に南部をさ迷って、敵の艦砲射撃の中、友軍の壕に助けを求めて入った。「兵隊さん、お願いします。避難させて下さい」と言うと、いきなり「バカヤロー、お前らがついてくるから、敵が嗅ぎつけて、オレ達はヒドイ目に遭っているんだ。出て行け、撃つぞ」と銃を向けた。
 どの壕に入っても同じことだった。戦争が始まるまで、友軍の兵隊さんにひもじい思いをさせてはいけない、と進んで食べ物をあげたのに、いざ、となったら、こんな仕打ちを受けるのだ。
 この母親も山里和枝さんと同じく、 「家族みんなを一撃で死なせて下さい」と願った。それが当時の沖縄の人々の共通の思いだった。これ以上、愛する家族が苦しむ姿を見たくなかったのだ。
 そんな中で、彼女と家族は轟の壕に辿り着いた。壕の下に降りて行くと、開口部の出入り口に負傷した老人と子供が座っていた。「ここは民間人も避難できますか」と尋ねると、老人は「ウー、ナイビンドー」 (入れますよ)と答え、右(東)奥には友軍がいるから、左側に行くよう、教えてくれた。彼女と家族九人は壕の奥の暗闇の中に、人をかき分け、進み、ひっそりと座り込んだ。戦場の音は聞こえず、別天地だと思った。
 一息つくと、みんなお腹が空いてきた。この十日間、食事らしい食事はとってなく、生きていることが不思議だった。子供はマンマが食べたい、と訴えた。壕の入り口に大鍋があったので、そこへ行き、コゲでももらえないか、頼んだ。
 それは大塚部隊の大鍋だったが、幸いにも部隊の炊事婦が知り合いの「辻の女性」だった。彼女はこっそりと、おにぎりを分けてくれたのである。四個のおにぎりを九人の家族で分け合い、足元を流れる小川の水をガブ飲みして、腹をふくらませた。その親切な「辻の女性」のことを彼女は今も忘れない。
 世間では「ジュリ」や「慰安婦」と言われる女性たちに同情するが、理解していない。彼女たちが「人間が試される究極の舞台」である戦場で、実に人間的に生きたことを忘れている。アメリカ軍の記録では、沖縄の女性たちが嫌がる臨時看護婦の仕事に、懸命に尽くしてくれたのが、朝鮮人の慰安婦だった、と感嘆しているのだ。
 話を戻そう。彼女らの一行が轟の壕に入ったころ、壕の中では赤ん坊の泣き声や幼児が食べ物をねだる声がうるさいほどだった。明かりは、ところどころに点されていた。アメリカ軍の馬乗り攻撃の前だったが、日本兵らが川下の避難民のところへやってきて、脅かした。 「子供を泣かすと殺すぞ」

つづく


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