「ねえ、遼、秀。君達八月予定ある?」
「まだはっきりしてないけど。なんだ、伸?」
秀が僕の質問にアイスコーヒーを飲みながら返事をした。
7月のある日、僕と遼と秀は喫茶店に入ってお茶をしていた。
三人で会ってみたものの、あまりの暑さに喫茶店に避難して涼みながら話をしていた。
「八月に何があるんだ、伸」
「それはね、遼。君達8月9月と誕生日が続いているじゃないか。だから誕生日祝いを兼ねてどこか
行きたいなと思って」
「へえ~。それはいいな」
「それで、伸。どこか行きたい所ってあるのか?」
「そうだね、僕は房総の九十九里浜なんていいと思うんだけど」
遼が僕に聞いてきたので、考えていた事を話した。
「九十九里浜、か。俺もいいと思うな。行った事無いんだ」
「遼は行った事無いのか。そういえば俺も海って言うと湘南の方になるから外房の方はよく知らないな」
秀も僕の行きたい所に関心を持ってくれたようだ。
「それで僕は東京から割と近いし、サーフインのメッカで温泉もあるって言うから九十九里の白子町がいいなって思ったんだけど」
「そうか、伸はサーフインが得意なんだよな?確かに俺達も伸に一緒に連れて行ってもらったらサーフインも楽しめるしな。
俺は九十九里浜に行ってみたいな」
リョウは笑いながら僕に言った。
「遼も秀もOKなら、そこにしようか。二人とも、8月に行ける日を教えてね。僕が調整して連絡するからさ」
その日はそれから三人で色々と話してから、夕方頃に別れた。後日僕が調整して二人に連絡をするという事にした。僕は自宅に戻ってから自分の都合と、二人の都合のいい日時を整理してからノートパソコンを立ち上げて良さそうな宿に問い合わせのメールを送った。取りあえず良さそうな所が見付かったら二人に聞いてみようと思った。
一週間後、問い合わせのメールを送った旅館から返事が返ってきて、問い合わせた日にちは今の所取れそうな感じだった。僕は二人に問い合わせたメールの内容をメールで送って、取りあえず用事を済ませた。
その後、30分位経ってから遼から電話が掛かってきた。「伸、旅館の問い合わせとかしてくれて本当にありがとう」
「そんな、僕がしたくてやっているんだから気にしなくていいよ、遼」
「悪いな。みんな伸に任せきりで」
「いいよ。僕が行きたい所決めさせてもらったしね。さっき送ったメールの通りでいいよね、遼?」
「ああ、問題ないよ。また行く日に近付いたら確認の電話くれよ。じゃ、また」
そう言うと遼は電話を切った。
僕は受話器を置いてふぅと一息ついた。一服入れようとお茶を入れてカップの殆どを飲み干した所でまた電話が鳴った。
「よお、伸。メール読ませてもらったぜ、色々ありがとうな」「秀もメール読んだんだね、良かった。それにしても、二人とも律儀に電話くれるんだから…」
「当たり前だろ?みんな伸がやってくれてるんだから礼を言うのは当然だ」
「分かった。とにかく、行く日近付いたら秀に連絡するからね」
「ああ、その時はよろしくな」
秀は笑いながら電話を切った。
僕と遼と秀で九十九里浜に出掛ける当日、僕らは総武快速・外房線直通上総一ノ宮行きに乗車する為に
東京駅横須賀線・総武線ホームにいた。改札とかで待ち合わせするより分かり易いとは思ったが、地下五階にホームがあるのでずいぶんエスカレーターで下に潜っていくものだと感じた。
それでも京葉線のように一駅分歩かないとホームにたどり着けないというよりは行き易いのでそれは
良かった。
集合時間である乗車する上総一ノ宮行きの発車時間の30分前には全員集まっていた。
「みんな、予定通り集まったね」
「当たり前だろ?俺は待ち合わせに遅刻した事無いぜ」
「俺も!俺は時間にキッチリしてるの」
「分かったよ、二人とも。僕らの仲間には時間にルーズな人間はいないもんね」
僕は二人の言葉に笑いながら返事をした。
「ところで二人とも、Suicaで今日来てるよね?」
「ああ、伸が切符じゃなくてSuicaでって言ってたから持ってきたよ」
「ここからグリーン車を使うって聞いてたけど、Suicaも使うんだろ?」
二人はバックからSuicaを取り出しながら言った。
「そう、そこのグリーン券売機でグリーン券を買ってSuicaを券売機に入れるとグリーン券のデータがSuicaに入るんだよ」
「昔はSuicaも無かったし、グリーン券も電子化されるなんて思わなかったな」
遼はSuicaを見ながら不思議そうに言った。
「とにかく、グリーン券買わないと電車に乗れないぜ?」
「あっ、そうだ二人とも東京から茂原までのグリーン券を買っておいてね」
「分かった。早くしよう。すぐ電車来るからな」
僕らは手早くグリーン券売機でグリーン券を買った。電車は東京始発で折り返しの電車がホームに入ってきた。東京9時44分発上総一ノ宮行きの4号車グリーン車に乗車した。まだ乗客が乗っていないグリーン車平屋席の所に行き、荷物を置いた。それから、二人掛けシートを回して対面ボックスシートにして三人で座った。
「やっぱり2階建てグリーン車だと二階から埋まるのが早いね」「そりゃそうだろ、伸。東京から景色のいい所行くんだから少しでも高い方がいいじゃないか」
秀が僕のつぶやきに答えた。
「でも、この電車千葉までは市街地の中を走る路線だよな」
「そうなんだけどね、遼。休日だしグリーン車だからみんな二階に行きたいんじゃないかな」
「それもそうか。便利だから普通列車のグリーンにしたけど、旅行気分を味わいたいなら特急に乗りたいよな」
遼は僕の言葉に納得したように返事をした。
僕らが乗車して落ち着いた頃、東京駅9時44分発上総一ノ宮行きの列車は静かにホームから滑るように発車した。東京を出た後も列車はしばらくトンネルを走行し、錦糸町駅に差し掛かる頃に地上に出た。