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ただいま冷温停止中! d( ̄ ̄;)

東京(2)

2008-08-24 01:22:39 | 日記
♪ 恋人よ 僕は旅立つ
  東へと 向う列車で
  はなやいだ街で 君への贈りもの
  探す 探すつもりだ
                  木綿のハンカチーフ/太田裕美

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「ムーンライトながら」は、空調の効きは最悪でしたがシートはなかなか快適でした


「青春切符」を握りしめて夜行列車で東京に向かうというシチュエーション。なんだかまるで就職列車だ。辛抱たまらず窓から叫ばざるをえなかった。

『母ちゃん、おらビッグになって帰ってくっからよ~」






実は私、東京がどうも苦手だ。
なぜだか過剰な自己意識にさいなまれる。
「歩き方で東京馴れしてへんのがばれへんかなあ…」
「“東京なんて全然普通やん!”って強がってるのみえみえかなあ…」
「東京に意識過剰な大阪人のレッテル貼られへんかなあ…」
「あまり大阪弁にこだわってたら関西の鳥谷的キャラクター視されへんかなあ…」
「かといって標準語喋って、ポロッと大阪弁こぼしたほうが印象悪いかなあ…」
「こっちの人って関西弁喋ってたらみーんなタイガースファンに思ってんちゃうん。ま、わしタイガースファンやけど…」
「エスカレータで、つい右に寄ってしまって“この関西人め!”的白い目で見られへんかなあ…」
「……」



少々空調の効きが悪いとはいえ5時間半の「ムーンライトながら」の車中は快適だ。なあに、たった5時間半じゃないか。あの時のことを思い出せば、いつでも私は「矢でも鉄砲でも持って来い」の気分になる。そう、あれは二十年以上も前、まだ私が会社に入って間もない頃のことだった。仕事で東京に宿泊出張するのは初めてだった。月曜日の午前の打合せのため、前の日からの移動だった。初めての出張、しかも花の東京。ワクワクしながら指定券を持って午後3時過ぎの「ひかり」を待っていた。予定では6時に東京に着いて、それから宿を探そうと無謀なことを考えていた。それから一息入れて夜の東京を散策する算段でいた。ところが、その日の新大阪のホームは人の波でごった返していた。シベリアからの大寒気団に日本列島はすっぽりと覆われ、朝から全国各地に大雪を降らせていたのだ。そのせいで朝から新幹線のダイヤが遅れに遅れて、私が乗る予定の時刻だというのに、まだ二時間以上も前の電車が出発できないでいた。ホームには不安と焦りを募らせる人たちで埋め尽くされていた。こちらも宿探しをしなくていけないので、すこしでも早く東京にたどり着きたかった。いきおい待ちきれず、二時間遅れで出発しようとする目の前の電車に飛び乗ってしまったのだった。まあ、その時はたかが三時間くらいデッキで立ってしのげばいいや、くらいに思っていた。そんな甘い考えを一網打尽に粉砕されるなんて思いもよらなかった。京都を過ぎたあたりからだろうか、前の電車がつかえて、ちょっと走っては止まりを繰り返していた。デッキにはすでに私と同じ考えの人で一杯で、地べたに座ることもままならない状態だった。皆、不安気にひっきりなしに落ちてくる雪を窓から眺めた。もはや途中下車出来なかった。デッキで立ちつくし観念するしかなかった。新大阪を出てから3時間たってもまだ、名古屋にすら着かなかった。デッキは喧騒な空気に包まれていた。やっと3時間遅れで名古屋についても、いまさらここで降りることは出来ない状況だった。とにかく東京に着くのを祈るしかなかった。あちらこちらで怒鳴りあう人の声が聞こえた。すでに時計は夜の10時をまわっていた。雪は相変わらずしんしんと落ちていた。いよいよ憔悴と立ち続けて足の疲労が限界に達する寸でのところで「東京駅」の看板が見えたのだった。時計は深夜の2時を回っていた。11時間の長旅だった。昭和初期、東京-大阪間を12時間で走り抜ける「つばめ」の映像をテレビで見たことあったが、私が乗ったのは「ひかり」ではなく「つばめ」だったのか。タイムスリップする気分だった。真っ黒に塗りつぶされた夜空、真っ白にペイントされた東京の街。そこに放り出された時、まるで自分が親や友達に嘘をついて、なけなしの千円札を数枚握り締めて「青臭い夢を求めて上京」したお上りさんに思えて涙が出そうになった。足もがくがく、腹もぺこぺこ、雪もしんしん降り積もる東京の地で、宿もなく私は路頭に迷っていた。とりあえず臨時で動いた山手線に乗って上野に向かうことにした。上野について雪に足元をとられながら辺りを練り歩いてオールナイトの居酒屋を見つけた時はすでに3時を過ぎていた。早朝9時から打ち合わせだ。とにかく朝までここで過ごそうと思った。お天道様のせいとは知りながら、でも、初めて訪れた東京は、街ごとチルド冷凍室で、冷え冷えとした印象しか残らなかった。私の「東京嫌い」は、そんな理不尽なものだった。

(つづく)