第一夜
こんな夢を見た。
甲子園のライトスタンドで、阪神-広島戦を観戦していた私は、5回表の広島の攻撃を終えるのを見届けて、急いでトイレに駆け込んだ。
急ぐには理由があった。5回裏は、1番赤星からの好打順だからだ。
用を済ませてスタンドに戻ろうとしたとき、ふっと売店に目が留まった。
店に立つその店員は、明らかに日本人離れした風貌で、否が応でも視線が釘付けになった。
スラリと細身で長身。とりわけ細く長く伸びた腕が際立っていた。そして、一番目を見張ったのは、手のひら、眼球の白目、そして、たまにちらりと見せる歯の白さを除けば、見えている身体の肌という肌は、みごとに黒光りしていたことだった。白いタオルの鉢巻が巻かれた額には、黒褐色の肌に玉の汗が滲んでいた。
(ダーウィン・・・。なんでこんなところで、焼きそば焼いてるん?)
慌てて私は周りを見渡してみたが、誰も気にする様子もなく、そそくさとそのお店の前を通り過ぎるだけだった。
私は引き寄せられるように、そのお店のほうに近づいていった。
そして、その男の焼きそばを焼く慣れた手つきを、しばらく眺めていた。
「オニイサン、ナニシマショ?」
男の傍らで派手な緑色のバンダナをした、やはり細身、長身の茶褐色の女性が、私に、そう尋ねてきた。
私は、はっと我に返って女性の顔を見つめると。
「ダ、ダーウィン・・・」
無意識に、そう口走ってしまった。
女性は事務的に、こう尋ねてきた。
「ヤキソバダーウィン、イクツシマショ?」
「あっ、ひとつ・・・」
「450エンデス」
「あっ、ありがとう・・・」
財布からお金を出しながら、何故か、そう口にした私は、そのやり取りの間も、なんども男のほうに視線をやった。そういえば4月の開幕時に一軍枠に入れず、二軍で調整しているはずだったが、ここしばらくは音沙汰が無かったことを思い出した。
「もしや・・・」
そのとき、男はこちらに視線を返してきて、一瞬、ニヤリと笑った。
いや、笑ったような気がした。
ふっと屋台の下のほうに目をやると、ケバいペインティングで、こう描いてあった。
試合終了後、もう一度、その場所に行ってみた。
すでに店は閉店していた。
屋台の看板には、ただ「焼きそば 450円」とあるだけだった。
参考記事:コラボ(喜八さん)
こんな夢を見た。
甲子園のライトスタンドで、阪神-広島戦を観戦していた私は、5回表の広島の攻撃を終えるのを見届けて、急いでトイレに駆け込んだ。
急ぐには理由があった。5回裏は、1番赤星からの好打順だからだ。
用を済ませてスタンドに戻ろうとしたとき、ふっと売店に目が留まった。
店に立つその店員は、明らかに日本人離れした風貌で、否が応でも視線が釘付けになった。
スラリと細身で長身。とりわけ細く長く伸びた腕が際立っていた。そして、一番目を見張ったのは、手のひら、眼球の白目、そして、たまにちらりと見せる歯の白さを除けば、見えている身体の肌という肌は、みごとに黒光りしていたことだった。白いタオルの鉢巻が巻かれた額には、黒褐色の肌に玉の汗が滲んでいた。
(ダーウィン・・・。なんでこんなところで、焼きそば焼いてるん?)
慌てて私は周りを見渡してみたが、誰も気にする様子もなく、そそくさとそのお店の前を通り過ぎるだけだった。
私は引き寄せられるように、そのお店のほうに近づいていった。
そして、その男の焼きそばを焼く慣れた手つきを、しばらく眺めていた。
「オニイサン、ナニシマショ?」
男の傍らで派手な緑色のバンダナをした、やはり細身、長身の茶褐色の女性が、私に、そう尋ねてきた。
私は、はっと我に返って女性の顔を見つめると。
「ダ、ダーウィン・・・」
無意識に、そう口走ってしまった。
女性は事務的に、こう尋ねてきた。
「ヤキソバダーウィン、イクツシマショ?」
「あっ、ひとつ・・・」
「450エンデス」
「あっ、ありがとう・・・」
財布からお金を出しながら、何故か、そう口にした私は、そのやり取りの間も、なんども男のほうに視線をやった。そういえば4月の開幕時に一軍枠に入れず、二軍で調整しているはずだったが、ここしばらくは音沙汰が無かったことを思い出した。
「もしや・・・」
そのとき、男はこちらに視線を返してきて、一瞬、ニヤリと笑った。
いや、笑ったような気がした。
ふっと屋台の下のほうに目をやると、ケバいペインティングで、こう描いてあった。
阪神クビアン 美味い!焼きそばダーウィン 450円 ヒヤマサンもビックリや!(桧山選手が目を丸くしているイラスト) |
試合終了後、もう一度、その場所に行ってみた。
すでに店は閉店していた。
屋台の看板には、ただ「焼きそば 450円」とあるだけだった。
参考記事:コラボ(喜八さん)