■What's ? WBSS 1
井上尚弥の参戦表明により、国内ボクシング・ファンの間でも大きな盛り上がりを見せる「WBSS」について、簡単にまとめてみることにした。
「WBSS(World Boxing Super Series)」は、昨年秋に開幕したボクシング・イベントで、8名のトップボクサーを一同に会し、トーナメント形式でその階級のNo.1を決めようという試み。各階級の優勝者には、モハメッド・アリの名前を冠した豪華なトロフィーが授与される。
クルーザー級とS・ミドル級の2階級が行われ、両階級とも予選(準々決勝)4試合と準決勝が終わり、後は決勝を残すのみ。王国アメリカではなく、ヨーロッパ(英国とロシア)に軸足を置いた大会となっただけに、日本のファンの間では余り話題にならなかった。
しかし、S・ライト級とバンタム級,L・ヘビー級の3階級で第2弾の計画が明らかにされ、ジェイミー・マクドネル(英)への挑戦が決まった井上に、正式に参加の打診があったと報じられるや否や状況は一変。にわかにトーナメントへの関心が高まった。
そして118ポンドに参加する8名が、ようやく確定した模様。
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■バンタム級(112~118ポンド/50.8~53.5キロ)
<1>ライアン・バーネット(英/アイルランド/26歳)
WBAスーパー王者(V1),前IBF王者(V1)
19戦全勝(9KO)
アマ通算:94勝4敗(2012年ロンドン五輪代表候補)
2010年世界ユース選手権(バクー/アゼルバイジャン)銀メダル
2010年ユース・オリンピック(シンガポール)金メダル
※階級:L・フライ級
身長:163センチ,リーチ:168センチ
トレーナー兼マネージャー:アダム・ブース
※D・ヘイ,G・グローブス,B・J・サンダース,C・ユーバンク・Jr.,J・ケリー,M・コンランらのコーナーを歴任
プロモーター:マッチルーム・スポーツ(英/イングランド)
攻防兼備の右ボクサーファイター
◎ランキング
<1>リング誌:3位
<2>ESPN:4位
<3>TBRB:2位
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
<2>ゾラニ・テテ(南ア/30歳)
WBO王者(V2),元IBF J・バンタム級王者(V1)
30戦27勝(21KO)3敗
アマ通算:400戦超3敗(自己申告)
身長:174.5センチ,リーチ:183センチ
※帝里木下戦(2014年7月18日/神戸)の予備検診データ
トレーナー:ロイソ・ムツァ(Loyiso Mtya)
マネージャー:ムランデリ・テンギンフェネ(Mlandeli Tengimfene)
プロモーター:フランク・ウォーレン/クィーンズベリー・プロモーションズ(英/イングランド)
左ボクサー
◎ランキング
<1>リング誌:1位
<2>ESPN:3位
<3>TBRB:3位
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
<3>エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ/25歳)
IBF王者(V0)/18戦全勝(12KO)
アマ通算:171勝11敗(2012年ロンドン五輪代表候補)
2010年世界ユース選手権(バクー/アゼルバイジャン)銀メダル
2010年ユース・オリンピック(シンガポール)金メダル
※階級:フライ級
身長:168センチ,リーチ:169センチ
右ボクサーファイター
トレーナー:ジム・パガン(Jim Pagan)
マネージャー:ファン・オレンゴ(Juan Orengo)
プロモーター:レオン・マルグレス(ウォリアーズ・ボクシング)
◎ランキング
<1>リング誌:4位
<2>ESPN:7位
<3>TBRB:7位
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
<4>ノニト・ドネア(比/35歳)
5階級制覇王者/43戦38勝(24KO)5敗
IBFフライ級(V3),WBA S・フライ級暫定(V1),WBC・WBO統一バンタム級(V1),WBO J・フェザー(第1期:V3/第2期:V1),WBAフェザー級スーパー(V0)
アマ通算:68勝8敗(2000年シドニー五輪代表候補)
2000年全米選手権優勝
1999年インターナショナル・ジュニア・オリンピック(メキシコシティ)金メダル
1999年ナショナル・ゴールデン・グローブス ベスト8
※階級:L・フライ級
身長:171センチ,リーチ:173センチ
トレーナー:マイケル・バゼル
マネージャー:キャメロン・ダンキン
プロモーター:リチャード・シェーファー(リングスター・スポーツ)
右(スイッチ)ボクサーファイター
◎ランキング
WBOフェザー級11位(WBA・WBC・IBF:ランク外)
<1>リング誌:ランク外(フェザー,S・バンタムとも)
<2>ESPN:フェザー級9位
<3>TBRB:ランク外(フェザー,S・バンタムとも)
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
<5>ジェイソン・マロニー(豪/27歳)
IBF3位(指名挑戦者)/17戦全勝(14KO)
アマ通算:53勝19敗
2010年コモンウェルス・ゲームズ(デリー/インド)フライ級ベスト8
※マイケル・コンラン(2012年ロンドン五輪銅,2015年世界選手権金)に総合点(10-10)で僅差ポイント勝ち
身長:168センチ,リーチ:170センチ
トレーナー:アンジェロ・ハイダー(Angelo Hyder)
マネージャー:トニー・トルジ(Tony Tolj)
プロモーター:リンデン・ホスキング(ホスキング・プロモーションズ/豪ビクトリア州)
右ボクサーファイター
◎ランキング
WBA:2位,WBO:2位
<1>リング誌:9位
<2>ESPN:ランク外
<3>TBRB:ランク外
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
<6>ファン・カルロス・パジャーノ(ドミニカ/34歳)
元WBAスーパー王者(V1)/21戦20勝(9KO)1敗
アマ通算:不明
2008年北京五輪(2回戦敗退)
2004年アテネ五輪(2回戦敗退)
2005年世界選手権(綿陽/中国)ベスト8
2009年世界選手権(ミラノ/伊)2回戦敗退
2003年パン・アメリカン・ゲームズ(サント・ドミンゴ/ドミニカ)銀メダル
2007年パン・アメリカン・ゲームズ(リオ/ブラジル)銀メダル
身長:165センチ,リーチ:164センチ
トレーナー兼マネージャー:ヘルマン・カイセド(Herman Caicedo)
プロモーター(旧):アイアン・マイク・プロダクションズ,ヘンリー・リバルタ (ドリーム・チーム・プロモーションズ/米フロリダ州)
左ラフ(ダーティ)・ファイター
◎ランキング
WBA:4位,WBC:6位,WBO:1位
<1>リング誌:5位
<2>ESPN:6位
<3>TBRB:5位
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
<7>ミーシャ・アローヤン(ロシア/29歳)
4戦全勝
アマ通算:268勝12敗
2016年リオ五輪銀メダル(ドーピング違反によりはく奪)
2012年ロンドン五輪銅メダル
2013年世界選手権(アルマトイ/カザフスタン)金メダル
2011年世界選手権(バクー/アゼルバイジャン)金メダル
2009年世界選手権(ミラノ/伊)銅メダル
2010年欧州選手権(モスクワ)金メダル
2008年ワールドカップ(モスクワ)金メダル
※階級:フライ級
身長:164センチ
トレーナー(兼マネージャー?):ニコライ・サリコフ(Nikolai Salikhov)
プロモーター:ウマル・クレムレフ(Umar Kremlev),アレクサンダー・ポポロフ(Alexander Popov)/パトリオット・プロモーションズ(Patriot Boxing Promotions)
◎ランキング
WBA5位,IBF9位
※リング誌,ESPN,TBRB:すべてランク外
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
<8>井上尚弥(日本・大橋/25歳)
WBAバンタム級正規王者(V0),前WBO J・バンタム級(V7),元WBC L・フライ級(V1)王者
戦績:16戦全勝(14KO)
元OPBF(V0),元日本L・フライ級(V0)王者
戦績:13戦全勝(11KO)
アマ通算:81戦75勝(48KO・RSC) 6敗
2012年アジア選手権(アスタナ/ロンドン五輪予選)銀メダル
2011年全日本選手権優勝
2011年世界選手権(バクー)3回戦敗退
2011年インドネシア大統領杯金メダル
2010年全日本選手権準優勝
2010年世界ユース選手権(バクー)ベスト16
2010年アジアユース選手権(テヘラン)銅メダル
身長:165.2センチ,リーチ:170.6センチ
トレーナー兼マネージャー:井上真吾
プロモーター:大橋秀行(大橋ジム)
◎ランキング
<1>リング誌:P4P5位,階級別2位
<2>ESPN:P4P6位,階級別2位
<3>TBRB:P4P4位,階級別1位
井上戦の可能性について、日本国内のファンも注視していたルイス・ネリーの参戦は、どうやら見送られた。個人的には、ネリーの参加は認められるべきではないと考えるが、第1シーズンのS・ミドル級で、インフルエンザを理由に出場を辞退したユルゲン・ブラーマー(ブレーマー)のように、トーナメントの展開によっては急転直下・・・という目が皆無ではないと思う。
不測の事態(怪我や病気,事故等々)による離脱とピンチヒッターの登場は、この種のトーナメントでは半ば日常的に起こり得る。考えたくない事態ではあるが、慢性化した右拳の故障という宿痾を抱える我らが井上にも、途中リタイアのリスクはけっして小さくない。
西岡と対戦したドネアの参戦は、日本のスポーツ紙でも大きく採り上げられたが、トップランクと決別した”フィリピノ・フラッシュ”は、シェーファー率いるリングスター・スポーツの支配下にあり、シェーファーが押し込んでくること自体は想定の範囲内。最大の問題は、2011年以来7年ぶりとなる118ポンドでの調整。126ポンドのフェザー級まで増量した30代半ばのドネアが、118ポンドまで絞り込んで良好なコンディションに仕上げられるのか。自信があるから、OKしたのだろうが・・・。
バンタム級のNo.1を決める大会に、メキシコのボクサーが1人も参加しない。日本にとってフライ級がお家芸だったように、かつてバンタム級はメキシコの階級だった。通算最多防衛のクラス・レコード(19回)を持つマヌエル・オルティス、最初の大スター,ラウル・ラトン・マシアス、メキシコ史上最高のアイドル,ルーベン・オリバレス、オリバレスの最大のライバルだったチューチョ・カスティーヨ、カルロス・サラテとアルフォンソ・サモラのZボーイズ・・・。
綺羅星のごときトップ・ファイターの列に連なる真の後継者が、今のメキシコには見当たらない。残念であるのと同時に、隔世の感を禁じ得ない。ドーピング違反と故意の体重超過をやらかしたネリーは、本来なら長期のサスペンドに処されるべきだが、コミッションがほとんどまともに機能していないメキシコでは、認定団体であるWBCがその代替機能を担うしかない惨状なのだ。
マウリシオ・スレイマン会長が事実上のコミッショナーなのだから、ネリーが早い時期にリングに戻ってくるのは大方の見立て通り。ネバダのコミッションと専門メディアまでがグルになった、カネロ・アルバレスへの手厚い庇護も含めて、本当にウンザリする。
同じくドーピングテストに失格し、リオ五輪の銀メダルをはく奪されたアローヤンについては、別章で私見を述べたい。なにしろ、ロシアという国は信用ならない。他にも気がかりなこともあるので・・・。
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■What's ? WBSS 2
「WBSS」を運営する「コモサ(Comosa AG)」について、少しだけ触れておかなければならない。
ヘンリー・マスケ(元IBF L・ヘビー級王者/1988年ソウル五輪ミドル級金メダル)の登場により、90年代にボクシング人気が勃興。発祥の地英国に肩を並べるマーケットに成長したドイツを代表するプロモーター、カール・ザウアーラント(ザウアーラント・イベンツ/Sauerland Event)と、オスカー・デラ・ホーヤの右腕としてゴールデン・ボーイ・プロモーションズを急成長させた功労者でありながら、私生活のトラブルが絶えなかった総帥デラ・ホーヤと袂を分かち、自らの興行会社「リングスター・スポーツ(Ringstar Sports)」を立ち上げたリチャード・シェーファーがタッグを結成。
スウェーデンのモダン・タイムス・グループ(MTG)、スイス(シェーファーの出身国)のハイライト・イベント&エンターテイメント(Highlight Event and Entertainment)の支援を取り付け、共同出資する形で設立したのが「コモサ(Comosa AG)」である。
マッチメイクと興行の現場を取り仕切るボクシングの実行部隊(ザウアーラントとシェーファー)、マーケティング(ハイライト・イベント&エンターテインメント)、試合の中継を中心としたメディア戦略(モダン・タイムス・グループ)。このトーナメントが画期的なのは、力と勢いのあるボクシング・プロモーターに、大規模なスポーツ・イベントを成功に導くノウハウとコネクションを有する専門家集団が加わり、運営母体となる会社を設立した一点に集約される。
人気と実力を兼ね備えた一流のチャンピオンや有力選手を保有するプロモーターと、高額な放映権料を提供するテレビ局がメイン・スポンサーとなり、1万人規模の集客が可能な会場を押さえて大きな興行を打つ。中継を軸にしたマーケティングとメディア戦略は、テレビ局がその総てを差配する。これが旧来からある、プロボクシングのビジネス・モデルであり、洋の東西を問わない基本形だ。
日本国内では、ボクシング・ジムの会長(プロモーター兼マネージャー)+地上波民放キー局(CS・BS・一部専門ペイTV&ネット配信)+電通という構図であり、王国アメリカ(と欧州)の場合は、有力プロモーター+敏腕マネージャー(分業化が法律によって義務化されている)+大手ケーブル局(衛星中継とネットを含めたペイTV及び専門チャンネル)という形態になるが、基盤となる仕組みそのものに大きな差異はない。
ボクシングに限らずスポーツの人気とポジションは、国や地域,時代によって異なる。日本のボクシング界が我が世の春を謳歌したのは、1960年代半ば~70年代初頭にかけての数年間だが、1964年の東京五輪開催に合わせて家庭用TVが爆発的に売れ、地上波キー局は人気の高いスポーツ・コンテンツを我先にと奪い合う。
戦前のピストン堀口を凌ぐヒーローとして、野球のON(王・長嶋),相撲の大横綱大鵬と人気を分け合ったファイティング原田(世界フライ級,バンタム級王者)は、防衛戦1試合のファイトマネーが4千万円とも6千万円とも言われた。60年代後半~末にかけて、米本土で世界王座奪取に成功し、シンデレラ・ボーイと呼ばれた西城正三(WBAフェザー級王者)は、人気の面で原田からバトンを受け継いだトップスターだが、長嶋茂雄の年俸が日本プロ野球史上初の4千万円に乗った同じ頃、1回の防衛戦で3~4千万円を手にしていたという。
70年代以降、稀代のスーパースター,モハメッド・アリの存在とともに、スポーツの収益基盤を根底から変革する衛星放送の本格的な商業利用と、現代のPPVにつながるクローズド・サーキットがスタートする直前。徴兵拒否により、リングから強制退去させられたアリの不在を埋める格好で、世界ヘビー級王者となったスモーキン・ジョー・フレイジャーは、5~7千万円の報酬でニューヨークの殿堂マディソン・スクウェア・ガーデンのリングに上がり、1万人を超える観客の前で防衛戦を戦っていた。
今現在の日米間格差,ビジネスとしての規模の違いは、ケーブル局とネット配信を基盤にしたPPVの有無が大きく影響している。単純な比較はできないとは承知しつつ、常に新しいモデルを模索し、目先の数字のみに囚われることなく、メディアミックスを積極的に推し進めてきたアメリカと、100%地上波依存の旧態然とした寡占状態から、1歩も抜け出そうとしなかった(出来なった)日本との格差と表するべきか。
「遅れている」と散々言われ続けてきた我が国の通信インフラは、総務省の資料によれば、通信先進国の評価が高い北欧スウェーデンと韓国、アメリカを下に従え、堂々の世界第1位という位置づけになっている。
「5G」と「IoT」の開発について、ノキア(フィンランド),エリクソン(スウェーデン),ファーウェイ(中国)の最大手3社が、それぞれNTTドコモ,KDDI,ソフトバンクのキャリア3社,丸紅等と技術提携した一件は記憶に新しいが、安定性(固定ブロードバンドのクォリティ+高品質なセキュリティレベルが担保されたサーバの数)も含めた総合評価でも、第3位ということらしい。
※調査対象は90ヶ国
1つの言語で構成したコンテンツを、全世界に向けて同時に販売(中継&配信)可能な英語と、いちいちコンテンツを翻訳しなければならない日本語の壁は勿論小さくないけれど、例えば、英語のみならずスペイン語による映像と記事の配信を行っているESPNの例を引くまでもなく、やれる工夫は様々あるだろう。
閑話休題。
丁度1年前の昨年7月8日、モンテカルロのグリマルディ・フォーラム(ロシア・バレエの大きなガラやEVER Monaco,UEFAチャンピオンズリーグの抽選発表会等で有名な会場)で行われた「World Boxing Super Series Draft Gala 2017」は、S・ミドル級とクルーザー級に出場する全18選手が一堂に会し、上位4名がリングに見立てたステージに次々と登り、自らの口で直接対戦相手を指名(ドラフト)する演出で大いに盛り上がった。
以下にご紹介する映像をご覧頂くのが一番分かり易いけれど、モハメッド・アリのフィーチャリングが凄い。これでもかというほど、徹底されている。優勝者に授与されるトロフィーに、アリの名前が冠されていることは既に述べたが、トーナメントのシンボルと表して間違いない。
ジャスパー・ビンツァー(Jesper Binzer/ビンゼル,ビンツェル?)というデンマークの人気ロック・ミュージシャンにテーマ音楽を書かせ、イベントに使用されるBGMもわざわざ委嘱して作らせる念の入れよう。マーケティングとメディア戦略のプロが、本気で関わることの意味と効果の大きさを、良くも悪くも実感させてくれる。
◎参考映像:WORLD BOXING SUPER SERIES: DRAFT GALA 2017
2017年7月8日/モンテカルロ
https://www.youtube.com/watch?v=vzJCKwgchtU
司会に指名されたのは、UEFAのイベントで複数回プレゼンターを努め、この会場とは縁の深いメラニー・ウィニガー(スイス出身の著名なモデル兼女優)。もう何年か前のことになるけれど、UEFAの優秀選手発表のプレゼンターを仰せつかった際、バルセロナのルイス・スアレス(ウルグアイ代表のエース)が、彼女の美しいヒップラインに釘付けとなり、ガン見している恥ずかしい写真が世界中に配信され、話題になった美貌の才媛である。
そしてイベントの冒頭、「コモサ(Comosa AG)」の舵取りを行う現場のトップ3も登場し、トーナメントの概要について簡潔な説明を行った。リチャード・シェーファーには「Chairman of the Americas」の肩書きが付き、事実上の勧進元となるカール・ザウアーラントは、「Chief Boxing Officer」と紹介された。
ラストの3人目は、ロベルト・ダルミーリョなる人物で、「MP&シルバ(Media Partners&Silva Limited)」のコマーシャル部門を統括しているらしい。この人の肩書きは、「Head of Management Board」となっている。
プレス・カンファレンスやリリースの文書を見ると、モダン・タイムス・グループからは、副社長のマシュー・フーパーという人物が馳せ参じていたが、試合映像の販売に関する一切の権利を、世界有数のメディアエージェンシーとして知られる「MP&シルバ」が請け負い、その責任者としてCCOのダルミーリョ氏が派遣された。
MP&シルバは、ワールドカップとチャンピオンズ・リーグはもとより、テニスのグランドスラム,F1などのカーレースを手掛け、一応ボクシングも守備範囲に入っているとのこと。日本でも注目度の高い「プレミア12(野球)」で、第1回(2015年)と第2回大会(2019年)のメディア・スポンサーシップを獲得したのも同社だった。総額5千万ドル(50億円超)と伝えられる巨額の賞金も含め、資金調達の要となるのがこの人という次第。
ボクシングの人気は、1950~70年代半ば頃までをピークとして、80年代に入って以来下降の一途を辿り続けてきた。これは王国アメリカと言えども例外ではなく、プロがほとんど活動停止状態に追い込まれたお隣韓国や、不人気マイナー競技に転落して久しい我が国ほど酷くはないが、優れた資質と身体能力に恵まれた黒人の若者を、NBA,NFL,陸上を始めとするメジャー競技に吸い上げられ、ヘビー級を筆頭に人材の枯渇が健在化。深刻なスター不在は勿論だが、選手の絶対数そのものが足りない。
興行を支えるトップクラスを自前で容易に輩出できなくなり、ヒスパニック系のコミュニティと旧共産圏のステートアマに頼らざるを得ず、パッキャオ&ドネアの登場、長谷川穂積,西岡利晃,山中慎介,石田順裕らの活躍がきっかけとなり、80年代以降まったくと言っていい程顧みられなくなっていた東アジアにも、再び(およそ半世紀ぶりに)欧米の関係者が目を向けるようになった。
90年代にルイシト・エスピノサの個人マネージャーを買って出て、見事WBCフェザー級王座に復活させ、米本土での認知獲得にあと1歩まで迫ったジョーさんは、マルコ・A・バレラをストップしてセンセーショナルな成功を手にしたパッキャオの試合を解説しつつ、「ルイシトにこれをやらせたかった。」と無念の一言を漏らしている。
サッカーやテニスといったメジャースポーツで確立されたメディア・ストラテジーが、マイナースポーツでもロール・モデル足り得るのか。このトーナメントが多くの視聴者の支持を得て定着すれば、ボクシングという競技の経済的ポテンシャルを拡大可能な、新たな扉が開くかもしれない。ロベルト・ダルミーリョの手腕にかかる期待と責任は、とりわけ重大である。
第2シーズンの「Draft Gala」も、20日にモスクワで行われた。140ポンドと118ポンドの腕達者16名の中には、我らが井上尚弥の姿も。第2シードとなった井上は、ファン・カルロス・パジャーノを指名している。
詳細は次の記事にて・・・。