ネットオヤジのぼやき録

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”ドーハの歓喜”ならぬ”仁川の奇跡”を - カシメロ VS 赤穂 プレビュー -

2022年12月03日 | Preview

■12月3日/パラダイスシティ,仁川(韓国)/S・バンタム級契約10回戦
3階級制覇王者 ジョンリエル・カシメロ(比) VS WBO8位 赤穂亮(横浜光)




「最強・最大の相手(17年のプロキャリア中)」

「最後の大勝負」

文字通りの全身全霊、己の全存在を懸けてぶつかるに相応しい、まさしくボクサー人生の岐路,天下分け目の勝負を追い求めていた赤穂亮が、遂に悲願のリングに登る。

「これで終ってもいい。過去最高の状態(に仕上がっている)。」


「自信はある。世界戦を2回やったけど、今回ほどの自信は持てていなかった。」

恵まれたタッパ&リーチとフットワークをベースに、変則的なムーヴを積極的に採り入れたスキルフルなボクシングで、WBC S・フライ級王座を2度防衛した佐藤洋太(協栄/引退)への初挑戦(2012年12月)。

”マジカル・ボックス”と形容される日本人離れしたスタイルを前に、赤穂(対戦時26歳)の強打は空転させられ、大差の0-3判定(112-117,111-117,110-118)に退いた。


佐藤戦を継起にバンタム級に増量。7連勝(4KO)をマークして、WBOインターナショナル王座を奪取した赤穂に2度目のチャンスが訪れる。WBOの世界タイトルを保持するプンルアン・ソー・シンユーへの挑戦がまとまり、国内のファンが勝利を確実視する状況で勇躍渡タイ。

ところが・・・。プンルアンはスタートから赤穂に組み付き、ところ構わず殴りつけて振り回す反則のオン・パレード。ムエタイ流の首相撲も惜しまず繰り出し、まともにボクシングをする気がない。

完全にペースを乱された赤穂は、続く第2ラウンドに反則パンチでダウンを奪われ、最後は後頭部に肘を落とす荒業でショッキングなKO負け(2015年3月/ラチャブリー県)。


当たり前のレフェリングなら、プンルアンの反則負けが宣告される筈だが、ネバダから招聘された主審のロバート・バードは、プンルアンのラフ・プレイをすべてスルーした挙句、ラストの肘打ちも一切お咎め無し。

カシメロもタイでアムナットに挑戦(2015年6月/バンコク/IBFフライ級)した際、同じように組み付かれて投げ飛ばされ続けたが、ヴァージニア州選出のレフェリー,ラリー・ドゲットは、3ヶ月前のプンルアン VS 赤穂戦を裁いたバードよろしく、見てみぬフリを12ラウンズフルに決め込む。

この2試合はyoutubeなどの動画配信サイトにアップされたが、2人の主審を派遣した米本土のボクシングメディアは完全に無視。これがスキャンダルにならないことがスキャンダルだと、心底そう思った。

意識を失って崩れ落ちる赤穂の姿を目の当たりにして、やり場の無い怒りと悔しさで、冗談ではなく体が震えた。在米専門サイトのシニア・ライターのアドレスを調べて、片っ端から抗議のメールを送ったが、当然ナシのつぶて。

タイ陣営に買収されていたとしか考えられない、アメリカ人審判のむちゃくちゃなレフェリングについて、WBOとIBFにもありったけの罵詈雑言とともに抗議のメールを送ったが、こちらもまたナシのつぶて。


「世界戦も開催地のローカル・ルールで運営されていた1960年代~70年代前半ならともかく、21世紀の今日ただ今、これほどの蛮行が大手を振ってまかり通っていい筈がない・・・」

当たり前と言ってしまえばそれまでの話しで、名も無い在野の日本人が、応援していた日本の選手が負けたことを逆恨みして、訳のわからないたわ言を叫んでいる。抗議のメールを受け取った側は、おそらくそんなところだったのだと思う。


やりたい放題の亀田一家がやらかす乱暴狼藉に対して、常に苦々しい表情と物言いを隠さず、事あるごとに挑発的な態度を取っていた赤穂に、「ボクサーの良心と本来あるべき姿」を見い出していたファンは少なくない。

亀田和毅の左ボディで息の根を止められたプンルアンに、僅か2ラウンドで撃沈された。赤穂が負った心の傷は、ファンが受けたショック以上に深く重いものだったに違いなく、S・バンタムでの再起を知った時は本当に安堵した。

そしてまた、赤穂の長く辛い雌伏の旅がここからリスタートしたのである。国内,OPBFレベルからのやり直し。


モチベーションを維持できなくなり、辞めようと思ったことも一度や二度ではないと、自身のyoutubeチャンネルにアップした映像の中で、赤穂は正直に本音を吐露している。

先の見えない暗中模索に、武漢ウィルス禍が追い討ちをかけた。それでも赤穂が辞めずに済んだのは、ご本人の弁によれば「家族の存在」だと言うが、「納得の行く勝負が出来ていない」ことへの絶ち難い渇望も大きく影響したのではないか。

横浜光の石井会長は、カシメロとルイス・ネリーに照準を合わせて難しい交渉をスタート。ネリー戦は妥結の1歩手前まで行ったとのことだが、パンデミックによる渡航制限で足止めを食らう間にネリーがランキングを回復。交渉自体が立ち消えになったという。


陣営のターゲットはカシメロ1本に絞られたが、ドーピング違反+確信犯の体重超過のネリー以上に、カシメロは厄介な問題を抱えていた。

パンデミックの真っ只中で内定していた井上尚弥戦から撤退(トップランクが提示した条件の引き下げを拒否)し、過ぎたトラッシュトークが原因でドネア戦も消滅。

代わりに用意されたWBA王者リゴンドウとの統一戦は、出場強行に対するはく奪を通告していたWBAの態度が変わらず、カシメロの単独王座防衛戦として挙行され、ひたすら逃げに徹するリゴンドウを12ラウンズ負い回しながら、無理な深追いを避けるクレバネスを発揮したカシメロが2-1の判定勝ち。

しかし、ドバイ開催で合意したポール・バトラーとの防衛戦をドタキャン。何と前日計量をすっぽかし、ピンチヒッターを買って出たジョセフ・アグベコとの暫定王座決定戦が承認されるも、はく奪を強制しなかったWBOの決定にバトラー陣営が抗議。試合は行われなかった。


WBOはカシメロとバトラーにあらためて対戦を義務付けしたが、カシメロに由々しき事態が勃発。十代の少女への性的暴行疑惑である。訴えられたカシメロは当局により拘束されたとも報じられたが、今年4月に無事渡英。

一度ドタキャンしたポール・バトラーとの防衛戦に備えて最終調整に入ったが、BBBofC(英国のコミッション)が禁止しているサウナの利用が発覚し、カシメロの出場に待ったがかかる。

ゾラニ・テテとバーミンガムで戦い、衝撃的なKO勝ちで3階級制覇を達成したカシメロと彼の陣営が、英国のローカル・ルールを知らなかったとは考えづらく、自らのSNSにサウナに入る映像をアップしたカシメロに、「マッチポンプ疑惑」まで囁かれる始末。

バトラーは同じ興行に呼ばれていたジョナス・スルタンとの暫定王座決定戦を受け入れ、3-0の判定で首尾良く載冠。さらに、事ここに至ってはWBO王座のはく奪も止む無し。試合から1ヶ月後の5月後半、WBOはバトラーの正規王座昇格を正式に発表した。


WBOのベルトだけでなく、主要4団体すべてのランキングを失ったカシメロは、性的暴行容疑での逮捕拘束を恐れて帰国を見合わせる。

フィリピン国内の実体がよくわからないまま、犯罪者の汚名を着せられ、まさに四面楚歌,八方塞りのカシメロに赤穂戦をオファーした石井会長は、信頼できる弁護士と通訳を立てて現地調査に乗り出す。

レイプ犯の入国を許可する国はまず有り得ない。そしてフィリピンに戻った場合、仮に逮捕収監を免れてたとしても、肝心要のビザの申請が通らない。

調査の結果、カシメロに対する告発は取り下げられていたことが判明。石井会長は秘密裏にカシメロの帰国を計画する。慎重の上にも慎重を重ねて計画は実行に移され、カシメロは無事フィリピンに戻り、韓国行きも認められた。

◎カシメロVS赤穂亮 ドキュメンタリー



この性的暴行疑惑そのものが、カシメロの保有権を主張して譲ろうとしないMPプロモーションズの代表,ショーン・キボンズによる妨害工作だと、ドネアとレイチェル夫人も以前から主張している。

ギボンズはもともとトップランクでマッチメイクをやっていた人物で、デラ・ホーヤ VS モズリーの再戦に関わる八百長疑惑(トップランクのオフィスとアラムの自宅にFBIの強制捜査が入った)の責任を取る格好でアラムの下を離れた。

1999年にはボクシングの八百長を追跡したフロリダの地元紙が、1988年に復帰したジョージ・フォアマンの対戦相手を取材し、片八百長の実体を暴く記事を掲載。ビッグ・ジョージに倒された負け役の口から、片八百長を持ちかけてきた張本人としてギボンズの名前が出ている。


ギボンズはボクシング界を石持て追われたのかと言えばさに非ず。アラムと親しいメキシコ最大手のプロモーション,サンフェル(ザンファー)に移り、アラムの盟友フェルナンド・ベルトランの右腕(?)としてマッチメイカーの仕事を継続。

長らくパッキャオの代理人を務めたマイケル・コンツがMPを離れることになり、ギボンズが新社長に納まったという次第。魑魅魍魎が蠢くボクシング界の闇と言うと大袈裟だが、興行の世界が簡単ではないことが良く分かる。

何はともあれ、カシメロの潔白が明白となったことは良かった。最大の難関だったビザも取得できて、高過ぎるハードルを乗り越えた石井会長の真摯かつ丁寧な仕事に、心よりの感謝とともに超特大の天晴れを差し上げたい。


「普通に勝ちます。」

「どんな勝ち方でもいい。どんなに泥臭くて格好悪くても、今回だけは勝ちにこだわる。」

赤穂はかつてない心身の充実と手応えを率直に語り、併せて勝利への揺るぎない決意について、自身のyoutubeチャンネルで繰り返し触れている。

「何も思い残すことがない。」

そう言い切れるだけのトレーニングを積み、最上最良の状態に仕上げたと断言できることそのものが、現実の勝敗を別にして、プロボクサー赤穂の確固たる勝利を物語る。


スポーツブックの賭け率はカシメロに分がある。国際的な認知と実績の差を考えると、もっと差が開いても良さそうなものだが、昨年8月のリゴンドウ戦以来続いた試合枯れと、キャリア最重量となるS・バンタムでの調整等々、トラブル続きのカシメロにも一抹の不安が拭えない。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>betway
カシメロ:-699(約1.14倍)
赤穂:+400(5倍)

<2>Bet365
カシメロ:-714(約1.14倍)
赤穂:+400(5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
カシメロ:1/6(約1.17倍)
赤穂:4/1(5倍)
ドロー:20/1(21倍)

<4>Sky Sports
カシメロ:1/8(約1.17倍)
赤穂:5/1(6倍)
ドロー:20/1(21倍)


「パンチは粗っぽいんだけど柔らかい。意外とディフェンスも上手い。」

赤穂が認めるカシメロの上手さは、ひたすら追いかける展開の中で、リゴンドウにカウンターの機会を許さなかった試合運びが証明している。

火を噴くような激しいスパーリングを通じて、互いに高めあった信頼とリスペクトに裏づけされたドネアとの素晴らしい交流は、窮地を救ったカシメロにもそのまま当てはまりそう。

◎カシメロ、赤穂亮の対談



好漢赤穂の勝利を心から願いつつ、拙ブログの勝敗予想はカシメロの3-0判定勝ち。

バラけ易いカシメロのガードの隙を、赤穂が矢のような右で貫く。その瞬間を繰り返し脳内スクリーンに浮かび上がらせ、あらぬ妄想にほくそ笑む誘惑に抗いつつ、「反応と柔軟性」の差が、際どい分水嶺となって結果に反映する・・・としておこう。


◎カシメロ(33歳)/前日計量:121.25ポンド(55.0キロ)
前WBOバンタム級(V4/はく奪),元IBFフライ級(V1/返上),元IBF J・フライ級(V4/返上:暫定→正規昇格),元WBO J・フライ級暫定(V0)王者
戦績:35戦31勝(21KO)4敗
世界戦通算:16戦13勝(10KO)3敗
身長,リーチとも163センチ
右ボクサーファイター


◎赤穂(36歳)/前日計量:121.75ポンド(55.2キロ)
WBO8位・IBF14位・WBC19位
元日本バンタム級(V1/返上),元WBOインターナショナルバンタム級(V0/返上),元OPBF S・フライ級(V3/返上)王者
戦績:43戦39勝(26KO)2敗2分け
世界戦:2戦2敗
身長:168センチ,リーチ:170センチ
右ボクサーファイター


◎前日計量



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■予定全カード

<1>S・バンタム級10回戦
ジョンリエル・カシメロ(比) VS 赤穂亮(横浜光)

<2>S・フェザー級10回戦
ジョニー・ゴンサレス(メキシコ) VS 渡邉卓也(DANGAN AOKI)

<3>ウェルター級8回戦
岡田博喜(角海老宝石) VS JIN SU KIM(韓国

<4>58キロ契約8回戦
嶋田淳也(帝拳) VS WON SEOP SHIN(韓国)

<5>S・フライ級6回戦
増田陸(帝拳) VS Ji Min Yuh(韓国)

<6>バンタム級6回戦
内構拳斗(横浜光) VS Kyung Min Hwang(韓国)

 

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■WOWOWオンデマンドでライヴ中継

<1>オンデマンド:12月3日(土)午後3:00頃~

<2>WOWOWライブ(録画放送):12月5日(月)午後9:00~

<3>エキサイトマッチ 放送・配信予定
https://www.wowow.co.jp/sports/excite/

<4>番組インフォメーション
https://www.wowow.co.jp/info/info.php?info_id=8212&which=0


◎カシメロvs赤穂亮 生放送決定!
2022/10/24