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期待の大器重岡銀次郎がいよいよ世界に名乗り /メヒコの当たり屋(?)バラダレスを一気に潰せるか? - ミニマム級W世界戦 直前プレビュー I -

2023年01月06日 | Preview

■1月6日/エディオン・アリーナ大阪(大阪府立体育会館)/IBF世界M・フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 ダニエル・バラダレス(メキシコ) VS IBF5位 重岡銀次朗(ワタナベ)

最軽量級に出現したプロスペクト,重岡が、プロ9戦目で世界タイトルにアタック。U15全国大会を5連覇した後、熊本開新高校に進み高校5冠を達成(ピン級)。「熊本の天才少年ボクサー」として話題になった。

ジュニア限定ながらも、事実上無敗のままアマ・キャリアを終え、2018年の秋に6回戦でプロ・デビュー。4戦目でWBOアジア・パシフィック王座を獲得して、比国の元コンテンダー,レイ・ロリトを5回KOに下して初防衛)。

武漢ウィルス禍の影響で2020年を丸々1年休み、昨年7月の復帰戦三迫ジムの川満俊輝を2回で粉砕しV2。この後ベルトを返上すると、今年3月沖縄まで遠征し、地元のトップランカー仲島辰郎(平仲)に10回3-0判定勝ち。決定戦を制して日本タイトルを獲得した。

さらに7月、日本ランク1位の春口直也(樋口)を4回TKOで退けV1。地元熊本での凱旋興行をノックアウトで飾った直後、世界初挑戦に備えてベルトを返上。


思い切り良く飛び込んでは、速さと重さを兼ね備えたハードヒットを惜しげもなく放ち、一気に追い詰める攻撃的なスタイルは、1歳年長の実兄優大(ゆうだい:開新高→拓殖大に進んだアマ・エリート/銀次郎より1年送れてプロ転向・6戦全勝4KO)と一緒に、幼くして始めた空手で鍛えたフィジカルの強度がベースになっている。

公称153センチの短句小兵を不利に感じさせない強打は、最軽量ゾーンでは出色と表して良く、国内及び東洋圏では頭1つ抜けた強さを発揮・・・とは言え、現在の105ポンドは人材の枯渇が続き、世界ランカーのレベルダウンに歯止めが利かず、実態はローカルランクとさして変わらない。

京口紘人を擁するワタナベジムなら、現役のトップランカーを招聘するルートも資金力も持っている筈だが、リアルなテストマッチを経ることなく初挑戦が整った。


「大して強いヤツとやってもいないのに、デカい口を叩き過ぎだ。後悔することになる。」

来日したIBFチャンプは、「5回までに倒す」と豪語する重岡のコメントを伝え聞くと、余裕の中にも怒りの感情を滲ませながら反撃に出たとのことだが、確かに現時点の重岡には、名前の通った相手との対戦は無く、IBF5位の評価について高い下駄との印象も否めないが、それ自体がランキングの地盤沈下を示すものとも言ったら言葉が過ぎるだろうか。

もっとも、スポーツブックの賭け率は大差で重岡を支持

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>5dimes
バラダレス:+415(5.15倍)
重岡:-580(約1.17倍)

<2>Bet365
バラダレス:+400(5倍)
重岡:-704(約1.14倍)

<3>ウィリアム・ヒル
バラダレス:4/1(5倍)
重岡:1/7(約1.14倍)
ドロー:18/1(19倍)

<4>Sky Sports
バラダレス:9/2(倍)
重岡:1/6(倍)
ドロー:16/1(17倍)


今年7月、2度目の挑戦を実らせたばかりのバラダレス(メキシコ国内のリングコールではバリャダレスと発音)には甚だ気の毒な数字だが、今の105ポンドではそれだけ重岡の攻撃力が群を抜いているということ。

バリャダレスは80戦のアマ・キャリアに加えて、プロでも既に30戦をこなしている。メキシコのトップレベルらしく攻防に良くまとまったスタンダードなボクサーファイターで、打ち合いを辞さない強気がいかにもメキシカンらしい。

ただし、パンチのキレと破壊力は今1つ。世界タイトルを争うボクサーにしては物足らない上に、頻繁に頭をぶつける衝突壁が気に掛かる。もっとソツなくラウンドをまとめられないものかと、要らぬお節介をやきたくなる拙攻・拙守ぶり。


4ラウンドのテクニカル・ドローに終った初挑戦(2020年2月/メキシコ国内で比国のペドロ・タドゥランに挑戦)に続いて、同じくフィリピンのレネ・マーク・クァトロを2-1のスプリットにかわした7月の再挑戦でも、開始間もない前半で左の瞼をカット。出血に苦しんだ。

基本的なボディワークも使えるし、ふんだんに足を使うタイプではないが、軽量級の選手に必要なステップワークに特別な不足も感じない。適度なウィーブ&ボブも使いながら接近戦を仕掛けて行くと、何故かゴツンとやってしまう。


際立った特徴の無い(失礼)ボクサーファイターのバラダレスに対して、圧倒的なパワーを誇る重岡に前評判が傾くのは致し方のない面もあるが、その分攻撃偏重が目立ち、左の狙い過ぎから単発傾向に陥り易い。

沖縄でやった日本王座決定戦では、重岡の粗が露になったと言っていいだろう。プロ9戦目での挑戦について、「パンデミックだったから止むを得ないが遅い」と見る向きもあるようだが、拙速との批判も成り立つ。

今のところはプレスし切って勝てているからいいけれど、上半身が硬く直立気味になる為、カウンターを貰ったらどうなることかと、ヒヤヒヤしながら試合を見守ることになる。


「いや、それだって仲島に決定的な反撃を許さなかったし、終盤のガス欠にも大きな不安を見せなかった。十分に挑戦資格を満たしている。」

重岡押しの人たちの言い分も、勿論理解はできる。普段通りの素早いステップインと強打で距離を詰めた後、重岡が一気に攻め崩す場面も容易に想像ができてしまう。

しかしそうした反面、慎重に構えたバラダレスにスカされ、打ち終わりをショートで叩かれて空回りさせられるケースも想定の範囲内にはなる。いずれにしても、立ち上がりの攻防が重要なキーポイント。

重岡のウィークネスをバラダレスが上手く突いてペースを握ることができれば、クリンチ&ホールドも駆使しつつ後半のラウンドをやりくりして、僅少差の判定で逃げ切るシナリオも描けなくはない。


拙ブログの勝敗予想は、期待値込みで重岡。まともにランキングが機能していたら、バラダレスはごくごく平均的な中位~下位ランカーが精一杯。世界タイトルマッチのリングに上がることはできたと思うが、載冠は夢のまた夢といのが偽らざるところ。

90年代の105ポンドに圧巻の強さで君臨したリカルド・ロペスは言うに及ばず、プエルトリコ発のスピードスター,イヴァン・カルデロンや、角海老に所属してWBC王座に就いたイーグル京和(デン・ジュラパン/タイ)、減量&防衛疲れが健在化する以前のオーレイドン、そして我らがロマ・ゴンにも到底歯が立たない。

明白な力の差をこれでもかと見せつけて、一方的に突破したい水準の相手ではあるが、拓大に進んで東京五輪のメダルを目指していただけあり、柔らかさと巧さを前面に出す兄の優大に、より着実な可能性を感じてしまうのも確か・・・。


最も注意すべきは、バラダレスが十八番にする(?)バッティング。ここ一番の勝負どころで攻め急ぐと思わぬカットに悩まされかねず、早い時間帯で発生してしまうと、中途半端な負傷ドローという最悪の結末も有り得る。

「勉強になりました。」

圧勝の予想とは裏腹に、仲島辰郎にタフな10ラウンズを強いられた重岡は、素直にそう語りつつも、「こんな筈じゃなかった」とでも言いたげに首を捻っていた。

「ミニマムのベルトを防衛しながらだって経験は積める。問題など無い。」

どこかからそんな声が聞こえて来ても不思議がないほど、最軽量ゾーンのランキングは空洞化が進んでしまった。「取り返しのつかない惨状」と言い切ってしまうことに、昨今はさほどの抵抗も感じなくなった。


どれほど優れたポテンシャルに恵まれた逸材でも、不断の節制・努力と場数(経験)を抜きして大成は望めない。そして最近の日本人サウスポーに共通するマイナスが、右フックの不足だ。

偉大な足跡を残した海老原博幸と、後に続いた具志堅用高,渡辺二郎を頂点として、20世紀に活躍した邦人レフティは皆右が巧くて強い。とりわけ素晴らしかったのが、ドンピシャのタイミングで顎を射抜く「返しの右」。鋭いショートのカウンターである。

バンタム級時代の長谷川穂積は、再戦でウィラポンをフィニッシュした芸術的な右フックや、ネストール・ロチャを捻り潰した一撃など、例外的な存在として記憶に刻まれているけれど、左構えが増えた割には総じて効果的な右が打てていない。

これは現在の重岡にも当てはまる共通項で、打ち終わりに頭を逃がす動きの少なさと相まって、クロスレンジにおける小さからぬリスクを呼び込む。


◎バラダレス(28歳)/前日計量:104.7ポンド(47.5キロ)
戦績:30戦26勝(15KO)3敗1分け
アマ通算:77勝3敗
身長:160センチ,リーチ:163センチ
※計量時の予備検診データ
血圧:117/84mm/Hg
脈拍:83/分
体温:35.9℃
右ボクサーファイター


◎重岡(23歳)/前日計量:105ポンド(47.6キロ)
戦績:8戦全勝(6KO)
アマ通産:57戦56勝(17RSC)1敗
2017年インターハイ優勝
2016年インターハイ優勝
2017年第71回国体優勝
2016年第27回高校選抜優勝
2015年第26回高校選抜優勝
※階級:ピン級
U15全国大会5年連続優勝(小学5年~中学3年)
熊本開新高校
身長:153センチ
※計量時の予備検診データ
血圧:120/79mm/Hg
脈拍:64/分
体温:36.3℃
左ボクサーファイター


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■オフィシャル

主審:クリス・フローレス(米/州)

副審:
マイク・フィッツジェラルド(米/ウィスコンシン州)
ロベルト・ラミレス・ジュニア(プエルトリコ)
イグナシウス・ミサイリディス(豪)

立会人(スーパーバイザー):ベン・ケイティ(豪/IBF Asia担当役員)