■7月15日/アクシアタ・アリーナ,クァラルンプール(マレーシア)/WBA世界ウェルター級タイトルマッチ12回戦
正規王者 ルーカス・マティセ(亜) VS 8階級制覇王者/1位 マニー・パッキャオ(比)
トップランクとの契約を更新せず、未曾有のアメリカン・ドリームを分かち合い、苦楽をともにしたフレディ・ローチとの15年に及ぶ関係も清算したパックマンが、いよいよプロモーターとして独立の第1歩を刻む。
※関連記事
<1>Pacquiao camp says time’s up on Top Rank deal
3月21日/Bad Left Hook
7月8日/ESPN
https://www.badlefthook.com/2018/3/21/17147014/pacquiao-camp-says-times-up-on-top-rank-deal
<2>パッキャオ、ローチ氏との15年間の師弟関係を解消
4月14日/AFP(日本語版)
http://www.afpbb.com/articles/-/3171193
独立独歩とは言っても、そこは流石の古狸。「マニーの保有権を我々は手放していない。未だに彼は、我々の影響力の下にある。」と、御大ボブ・アラムはメディアに向かって繰り返し発信。事実米本土への中継は、トップランク経由でESPNが行う。
パッキャオが自身の興行会社(MPプロモーションズ)を立ち上げたのは、2005~06年にかけてのこと。しかし、積極的な選手のスカウトや発掘は行わず、スーパースターとなったパッキャオに集まる様々な利権を、アラムの独占から守ることが第一の目的だった。
丁度同じ頃、やはり自前のプロモーションを立ち上げたフロイド・メイウェザーも、敢えてプロモーターライセンスは取得せず、アル・ヘイモンにマネージメントを託し、No.2のリチャード・シェーファーが差配していたゴールデン・ボーイ・プロモーションズ(以下GBP)にプロモートを任せていたが、構図はほとんど同じと見ていい。
当然のことながら、ルーカス・マティセを支配下に置くGBPも、今回の興行には一枚噛んでいる。総帥オスカー・デラ・ホーヤと袂を分かったシェーファーの手引きにより、GBPから主力&準主力級を大量に引き抜いたヘイモン一派と対峙する為、アラムとデラ・ホーヤは冷戦を一旦棚上げにして共闘へと路線を転換。
老いたりとは言え、一時はメイウェザーに肩を並べたPPVの(元)トップ・スター。完全に自由の身にさせて、万が一にもヘイモン&メイウェザー陣営に取り込まれたら、それこそ一大事だ。パッキャオ VS マティセ戦の実現に向けて、MPプロモーションズを舵取りするマイケル・コンツ(パッキャオの代理人)と交渉を重ねたGBPは、適度な距離を保ちながらトップランクとも連携を図る。
今回パッキャオをマレーシアに誘致したのは、地元のスポンサー(投資家?)らしい。昨年アミル・カーンとの対戦が話題になった際にも、石油利権で成り上がった中東の投資家グループが3,800万ドル(!)の資金を提供し、UAEでの開催を目指すとのことだったが、「アテにならない。眉唾ものだ。」とアラムは余裕綽々のコメント。
果たして3,800万ドルの資金は泡と消え、パックマンはアラムが用意したジェフ・ホーン戦に応じるしかなく、遥々ブリスベーンまで足を伸ばすと、5万人を呑み込んだスタジアムの特設リングに上がり、信じ難いレフェリング&ジャッジの犠牲となる格好で、丸腰での帰路を余儀なくされている。
同じようにアラムは、「議員との二束のワラジを履くマニーには、様々な話が飛び込んでくるだろう。例え信頼できる筋からだったとしても、慎重には慎重を期すよういつも注意して来たんだが・・・」と、高みの見物半ばに、しかしダッシュで興行に絡む備えを怠らることなく常に様子を伺う。GBPの代表に就任したエリック・ゴメス(マッチメイクの責任者から大出世)も、「ルーカスをマレーシアに送り出す為には、MP(プロモーションズ)が最低でも200万ドルの資金を担保することが必要だ。」と語り、「50万ドルの保証金(バンス)が期限までに振り込まれない限り、交渉はジ・エンド。」と警告を発していた。
期限ギリギリだったそうだが、幸いにも保証金はGBPの指定口座に振り込まれ、ゴメスとマティセも安堵の一息をつく。パッキャオとコンツが、MPプロモーションズの命運を賭して取り組んだ旗揚げ興行は、無事に陽の目を見る運びとなった。
パッキャオほどの大物になると、その一挙手一投足には、否が応でも世間の視線が集まる。米国内での納税を巡るIRS(合衆国歳入庁)との交渉も含めて、アラムの目が黒いうちは、”完全なる独立”は難しそうだ。
※関連記事
<1>Manny Pacquiao-Lucas Matthysse card to stream live on ESPN+ on July 14
7月10日/ESPN
http://www.espn.com/boxing/story/_/id/24029330/manny-pacquiao-lucas-matthysse-card-stream-live-espn+
<2>Pacquiao-Matthysse on ESPN+
7月7日/Fifhtnews
https://fightnews.com/pacquiao-matthysse-on-espn/24935
<3>With money issues resolved, Manny Pacquiao-Lucas Matthysse is a go
7月3日/ESPN
http://kwese.espn.com/boxing/story/_/id/23980524/manny-pacquiao-lucas-matthysse-fight-malaysia-go
<4>Pacquiao trainer predicts someone will go down in Matthysse fight
3月12日/ESPN
https://www.espn.com/boxing/story/_/id/24053786/pacquiao-trainer-predicts-go-matthysse-fight
<5>Manny Pacquiao announces next fight, but Bob Arum says no deal yet
3月12日/ESPN
http://www.espn.com/boxing/story/_/id/22695170/manny-pacquiao-announces-next-fight-malaysia-top-rank-promoter-bob-arum-says-no-deal-yet
<6>Arum says Pacquiao still under contract with Top Rank
3月10日/マニラ・タイムズ
http://www.manilatimes.net/arum-says-pacquiao-still-under-contract-with-top-rank/385438/
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
□主要ブックメイカーのオッズ
<1>Bovada
パッキャオ:-205(約1.49倍)
マティセ:+165(2.65倍)
<2>5dimes
パッキャオ:-180(約1.56倍)
マティセ:+168(2.68倍)
<3>シーザースパレス
パッキャオ:-220(約1.46倍)
マティセ:+185(2.85倍)
<4>ウィリアム・ヒル
パッキャオ:1/22(約1.05倍)
マティセ:6/4(2.5倍)
ドロー:22/1(23倍)
<5>Sky Sports
パッキャオ:1/22(約1.05倍)
マティセ:13/8(約2.63倍)
ドロー:22/1(23倍)
身銭を切って勝敗に賭ける人たちは、4歳年下のマティセ(9月に36歳になる)よりも、今年の暮れに不惑を迎えるパッキャオに分があるとの判断。現役・退役を問わず、ボクサーと関係者の中でも同様の見解が大勢を占めているようだ。
パッキャオの再起戦(2016年11月のジェシー・バルガス戦)の取り扱いに腹を立て、HBOに三行半を突きつけた(あくまで一時的なもの?)アラムは、かつて蜜月関係にあったESPNに接近。「”PPVファイター”の列からは滑り落ちた。」との評価が落ち着き、さしものパックマンにも全盛期の勢いは望むべくもない。
最も顕著な証拠が、1試合で繰り出す手数の総数。12ラウンズをフルに戦った場合、最盛期には少なくとも700~800発以上、多い時は1,000発を超えるパンチを放ち、悪くとも35%前後の着弾率を維持していた。
パッキャオの強さの源泉は、ここぞという場面で踏み込みを躊躇しない勇気と、衰えを知らない闘志にあることは言うまでもないが、旺盛なメンタル・タフネスを支える、並外れたスタミナと足腰の強さを忘れてはならない。
どんなに優れたボクサーでも、ラウンドが長引けば疲れる。手数と身体全体の運動量が落ち、集中力も低下して行く。鍛え上げられたボクサーと言えども、人間なのだから当前だ。なかんずくパッキャオのように攻撃的であればある程、被弾の確率とともに敗北のリスクが増す。
ところがパッキャオの並外れた手数と機動力は、ラウンドが中盤~後半へと進んでも大きな変化が無い。対戦相手は疲労が顕在化し、相対的にスピードと反応が落ちる。両選手の格差は、チャンピオンシップ・ラウンドにおいてより際立つ。ウェルター級に上げて以降のフロイド・メイウェザーは、ディフェンス7割の省エネ待機型戦法に閉じこもり、結果的にパッキャオと同じ効果を発揮した。
前半はもっぱら相手のパンチをかわすことに専念。打ち終わりを正確に1発か2発タッチしては離れ、露骨なクリンチ&ホールドも駆使してとにかく接近戦を阻む。手数と運動量を限界までセーブすることで、パンチの命中率は飛躍的にアップする。メイウェザーを追いかける相手は、勢い振り回す傾向が強くなり空振りが目立つ。「泥臭く無能なファイター」であるかのように見えるというカラクリ。
ジャブ(軽打)とペースポイントの過大なまでの重視は、何もラスベガスに限った話ではないが、メイウェザー戦を担当する彼の地の審判は、普段以上にタッチボクシングの信奉者と化してしまう。手堅いポイントメイクにペース配分・・・一石二鳥の追い風に乗ったメイウェザーは、疲労と倦怠感に見舞われた相手の戦意が低下するのを待ち、溜め込んだスタミナを少しづつ開放しながら単発の強打でクリーンヒットを奪い、「完全勝利」の印象操作を総仕上げするという流れ。
メイウェザーが築き上げた「完全無欠」に見えるスタイルは、正気を失ったとしか思えないラスベガス・ディシジョン、ホールドやプッシング(体当たり),肘打ち上等のL字ガード等の反則にとこどん甘く緩いレフェリングの強力なバックアップ無しには成立し得ない。
稀代の名トレーナー,ローチの薫陶を受け、優秀なフィジカル・コーチの指導で肉体強化を図りながら、膨大な手数を用いた上で「攻めながら守る」という、極めて難易度の高いスタイルに長い年月をかけて取り組み、溢れる野生に近代ボクシングのエッセンスを融合することに成功。どちらがスポーツとしてのボクシングに相応しく、困難な道であるかは一目瞭然。議論の余地は無い。
そうやって築き上げたパッキャオのボクシングにも、いよいよ黄昏が迫っている。2014年11月のクリス・アルジェリ戦で700発近く打った後、2015年6月のメイウェザー戦を含む以降3試合(2016年4月:ブラッドリー第3戦/J・バルガス戦)は、400発台に止まってしまった。白星とベルトを盗まれた昨年夏のホーン戦では、600発近いパンチを放ち、かろうじて30%台の着弾率を残したが、「パックマン強し」の印象が薄れたのは止むを得ない。
◎在りし日のチーム・パッキャオ
※左からフレディ・ローチ,パックマン,ボブ・アラム
アルゼンチンの雄マティセも、勇気と闘志ならパッキャオに引けを取らない。勇猛果敢かつクリーンに戦う”上手いファイター”として、140ポンドで頭角を現した。アマチュアの戦績は少ないが、群雄割拠で層の厚い国内選手権で優勝を果たし、世界選手権の代表にも選ばれている。
2000年のシドニー大会に合わせて、3分×3ラウンド制から2分×4ラウンド制に移行したアマは、あからさまな先行逃げ切りの横行+タッチゲーム化が一気に促進。長身あるいはリーチに恵まれたスピードスタータイプが圧倒的優位に立ち、踏み込んで強打するパンチャー,ファイターは冬の時代へと突入。
2004年アテネ五輪への出場権を逃した後、21歳で速やかにプロに転向したのは、既定の路線だったとは言え正しい判断と評するべき。明確な決着を是とする筈のプロでなら、大輪の花を咲かせるに違いないと、誰もが確信して止まないマティセだったが、王国アメリカを中心とした欧米各国の採点傾向が年を追うごとにアマ化してしまう。
主戦場を米本土に移した2010年以降、アマ以上にタッチスタイルを高評価するスコアリングに苦しめられることになろうとは・・・。14年に及ぶプロ・キャリアで、マティセはこれまで4度の敗北を記録しているが、すべて米国内で喫したもの。
特に初黒星のザブ・ジュダー(2010年/ニュージャージー州ニューアーク/僅差1-2判定)と、2度目のデヴォン・アレクサンダー(2011年6月/ミズーリ州セントチャールズ/僅差1-2判定)は、ともに黒人のスピード・スター型でサウスポー。いずれも完全アウェイに乗り込んでの敗戦であり、いずれの試合もマティセがダウンを奪っているが、ジャブで当て逃げされた格好。これはもはや、ブラック・ジョーク以外の何物でもない。
同じ右のパンチャー対決となった2013年9月のダニー・ガルシア戦は、念願だったMGMグランド開催。WBAのベルトを保持するガルシアと、WBCの暫定王者だったマティセによる統一戦(WBCは勝者を正規王者として承認)。得意の左フックを軸に、前半戦を優位に展開したマティセだったが、馬力勝負では分が悪いと見たガルシア陣営は、敢えてマティセに打たせて1歩退き、打ち終わりをシャープなワンツーで襲う戦術へと転換。
これでリズムを崩されたマティセは、右眼を完全に潰されるアクシデントも重なり、第11ラウンドにダウンを奪われ完全に形成逆転。最終12回、ようやく主審のトニー・ウィークスがガルシアのローブロー(散々お目こぼしの末)をチェックし、1点の減点を宣告するも時既に遅し。僅差ながら0-3のユナニマウス・ディシジョンで、140ポンドNo.1の座をガルシアに譲った。
そしてこの後、ジョン・モリナ(2014年4月/カリフォルニア州カーソン/11回KO勝ち)、ルスラン・プロヴォドニコフ(2015年4月/N.Y.州ヴェローナ/12回2-0判定勝ち)との激闘を経て、運命のビクトル・ポストル戦(2015年10月/カリフォルニア州カーソン)へと駒を進める。
ウェルター級進出を表明したガルシアが放棄した、WBCの後継王座決定戦。立ち上がりから動きと反応の鈍いマティセは、長身痩躯のウクライナ人が飛ばす左ジャブで突き離され、強引に距離を詰めようとするところを、狙い済ました右の打ち下ろしで脅かされる悪循環。
プロヴォドニコフ戦から半年のスパンを開けてはいたものの、「ダメージと疲労が抜け切れないまま、リングに上がってしまった。キャンプではそれなりに身体も動いたし、何とかなると思ったが、実際はまともに戦える状態ではなかった。」と、精彩を欠くパフォーマンスを率直に認めるしかない。第10ラウンドに右ストレートで左眼を直撃され、肩膝を着いたままテン・カウントを聞くマティセの姿に、多くのファンが言葉を失った。
「あの右で、突然左眼が見えなくなってしまった。あれ以上戦うのは無理だった。」
試合後ロサンゼルス市内の病院に直行し、眼窩底骨折の診断を受けたマティセは緊急入院。手術は成功して、心配された眼筋マヒの後遺症も残らずに済んだが、心身に受けた傷は深く、母国での長期休養を選択。再起戦のオファーを複数回キャンセルし、再起までに1年7ヶ月を要した。
昨年5月、ラスベガスのT-モバイル・アリーナで行われたカネロ VS チャベス・Jr.戦のアンダーで出場。中堅クラスのエマニュエル・テーラーを5回TKOに下し、無事にカムバックを果たすと、今年1月イングルウッド・フォーラム(リナレス VS メルシト・ゲスタ戦とのダブル・メイン)でタイのティーラチャイを8回KOに沈め、WBAウェルター級王座に就く。
スーパー王者キース・サーマン(米)が負傷続きで実戦から遠ざかってしまい、具体的な復帰の目処が立たないことによる優遇措置であり、なおかつ国際的には無名のタイ人ランカー相手という状況から、「マティセが本当に回復したのかどうか、断定するのはまだ早い。」との意見があることも確か。
正直な気持ちを言うと、「実現が遅過ぎた。5~6年早ければ・・・。」との印象は拭えない。年齢とこれまで積み重ねた歴戦の疲労、政治活動とのダブル・ワークを考慮すれば、パッキャオのコンディションはまずまずだ。フィリピンでキャンプを打ち上げ、現地入りしたパックマンの動きは悪くない。
マティセもまた、気合の入り方がまるで違う。パンチと足の運びにキレがあり、生命線となる右ストレート,左フックにも、往時の迫力が蘇った感が無きにしも非ずだが、やはりスピードの違いは小さくない。マティセが遅いという訳ではなく、一定レベルの敏捷性を未だに維持するパッキャオを褒めるべきなのだが・・・。
ジュダーとアレクサンダー(手足の速いサウスポー)を捕まえ損ねた2度の惜敗が、オッズに影響を与えているのは間違いなく、何より眼窩底骨折の重傷を負った左眼の状態が気になる。前述した通り、パッキャオの手数がかなり落ちている上、最盛期ほど縦横無尽に動かれる心配もない。マティセのプレッシャーもそれなりにかかる筈なのだが、ガルシアのように上手く出はいりされ、誘い出されて空振りしたところを左ストレートで狙い打たれると、手の施しようがなくなる恐れはある。
右サイド(マティセの左)の死角に素早く出るのと同時に、鋭く抉るように弧を描く右フックも怖い。左眼をまた傷めるような事態になれば、そのままテンカウント、あるいはストップという最悪のシナリオも想定の範囲内。
一方のパッキャオも、国会議員との二束のワラジでも大変なのに、三束目(プロモーター)の仕事が加わった。実務はマイケル・コンツがこなしてくれているとは言え、自からが勧進元となって手掛ける初の大興行を成功に導く為に、時間と労力を大いに割かれたに違いない。
フレディ・ローチとの離反が、その負担をさらにマイナス要因として増大させ得るとの指摘は、やはりトップランクとの関係を清算して独立の道を採り、我らが木村翔(青木)にKO載冠の大金星を献上したゾウ・シミンの例を引くまでもなく、懸念材料として取り沙汰されるのは止むを得ない。
積極果敢なマティセとは「手が合う」と話し、2009年11月(ミゲル・コット戦)以来途絶えて久しいノックアウトへの感触も掴んでいる様子だが、余り無理をせずボクシングに専念するのが得策。スピードのアドバンテージを最大限に活かし、冷静なアウトボックスに徹することが、確実に勝利を引き寄せてくれるだろう。
慎重かつ丁寧な出はいりと精度に注力したコンビネーションの活用を前提に、順当なら中差程度の3-0判定でパッキャオの勝ち。KOを狙って正面に立つ時間が増え、無理な打ち合いに雪崩れ込んでしまうと、マティセの左フックと右ストレートを浴びて思わぬ波乱も有り。
◎マティセ(35歳)/前日計量:146ポンド3/4
WBAウェルター級正規王者(V0),元WBCライト級暫定(V3)王者
戦績:44戦39勝(36KO)4敗分け1NC
身長:169センチ,リーチ:175センチ
アマ通算:37勝35勝1敗1NC
2001年世界選手権(ベルファスト/英アイルランド)初戦敗退
2001年パン・アメリカン選手権(サンファン/プエルトリコ)優勝
2000年アルゼンチン国内選手権優勝
2003年パン・アメリカン・ゲームズ(サント・ドミンゴ/ドミニカ)初戦敗退
※階級:L・ウェルター級
攻撃的な右ボクサーファイター
◎パッキャオ(39歳)/前日計量:146ポンド
8階級制覇王者
戦績:68戦59勝(38KO)7敗2分け
身長:166センチ,リーチ:170センチ
左ボクサーファイター
□獲得タイトル
<1>WBCフライ級:V1/1998年12月~1999年9月
<2>IBF J・フェザー級:V4/2001年6月~2004年1月(返上)
<3>リング誌フェザー級:2003年11月~2005年3月(S・フェザー級転出)
<4>WBC S・フェザー級:V0/2008年3月~2008年7月(返上)
<5>WBCライト級:V0/2008年6月~2009年2月(返上)
<6>リング誌J・ウェルター級:2009年5月~2010年7月(ウェルター級転出)
<7>WBOウェルター級:V3/2009年11月~2012年6月(第1期)
<8>WBC S・ウェルター級:V0/2010年11月~2011年2月(返上)
※8階級制覇達成
<9>WBOウェルター級:V1/2014年4月~2015年5月(第2期)
<10>WBOウェルター級:V0/2016年11月~2017年7月(第3期)
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■オフィシャル
主審:ケニー・ベイレス(米/ネバダ州)
副審:
スタンリー・クリストドロー(南ア)
ジャン・ロベール・レネ(モナコ)
ネルソン・バスケス(プエルトリコ)
立会人(スーパーバイザー):レンツォ・バグナリオル(ニカラグァ/WBAインターナショナル・コーディネーター)
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■ローチのいないコーナーに不安は?
2001年にアメリカに主戦場を移して以降、パッキャオの傍らには必ずローチの姿があった。互いに寄せる信頼は厚く、師弟の枠を遥かに超えて深く結びつき、綻びのきっかけすら見当たらない。
「その時(引退の時期)が来たら、私からマニーに直接話す。彼を私のようにしたくない。エディ(ファッチ)から辞めるよう諭された時、私はどうしても納得できずに彼から離れ、確かもう5~6試合を戦った。」
「エディの言う通りにしていたら、この病気(パーキンソン病)に苦しまずに済んだかもしれない。今なら素直にそう思える。」
パッキャオの引退が噂になる度び、ローチは繰り返しそう答えてきた。稀代の名匠は、自らに憑り依いた難病について、「外傷性(現役時代のダメージが原因)」であることを公に認めている。
「自分で決めたことだから、後悔はしていない。ただ、あの時の判断が本当に正しかったのかどうか、それについては随分思い悩んだこともある。ボクサーは永遠にボクサーではいられないんだ。若い連中に自分の経験を聞かせることも、大事な仕事の1つだと思っている。」
恩師ファッチの忠告を無視して戦い続け、予期せぬ後遺症に見舞われながらも、完治を諦めずに治療を続け、還暦を前にした今も第一線で世界のトップレベルの指導に当たる現状について、「神のご加護としか言えない。勿論出来る努力は惜しまずにやってきたつもりだが、すべてを自分の力で成し遂げたなんて言えるほどの自信家じゃない。」と微笑む。
パッキャオとの関係解消について、ローチは率直に心情を吐露している。モハメッド・アリとアンジェロ・ダンディ、あるいはマーヴィン・ハグラーとペトロネーリ兄弟のように、プロ入りからリタイアまでずっと同じチームで戦い続け、現役を退いた後も良き友人として暖かい交流が続くケースは極めて稀だが、ローチとパッキャオもその列に並ぶものと思われていた。
「(契約の解除は)人を介して伝えられた。とても残念だし、傷ついてもいる。しかし、いつまでも感傷に浸ってはいられない。私を待つ若者が、今日もジムにたくさんやって来る。」
引き際を勧告する機会はおろか、最期となるかもしれないコーナーに付き添うことも叶わない。しかもパッキャオ本人からではなく、代理人を通じての解雇通知。ローチの無念たるや、いかばかりであろうか。ローチほどのトレーナーでさえ、15年連れ添った弟子に「雇われコーチ」の扱いを受ける。しかしこれもまた、プロボクシングの世界では日常茶飯。
そしてローチの後継に指名されたのは、フィリピン時代からの盟友ブボイ・フェルナンデス。渡米後もパッキャオにぴったり寄り添い、アシスタントとしてコーナーにも必ず付いてきた。バギオで行う一次キャンプはもとより、フィリピン国内における日常のジムワークでミットを持ってきたのも彼だ。
アンパンマンみたいなまん丸の顔と太鼓腹がトレードマーク。明るいキャラクターは、ムードメイカーとしてもチームに欠かせない存在で、アリが頼りにしていたブンディニ・ブラウンに似たところもある。
米国ボクシング史上最高と謳われるエディ・ファッチから、ローチへと伝えられた近代ボクシングのセオリーやノウハウを吸収しつつも、ブボイにも彼なりの方向性や見る眼があって然るべきであり、ミットを持つローチの背後から声をかけ、身振り手振りでアドバイスをすることもあった。
本来ならば、チーフのローチを差し置いてそんな真似はとても出来ない筈だが、パッキャオを勝たせたいと思う気持ちは他の誰よりも強い。正念場となるラウンドを迎えたコーナーで、ローチを押しのけて檄を飛ばすことも・・・。ローチもまた、ブボイの立場をそれなりに尊重して、「余計な口を出すな!」と頭ごなしに退けることまではしない。
唯一最大の問題点は、年齢も含めてパッキャオに近過ぎる点。お互いのすべてを知り尽くしているが故に、パッキャオの言いなりになってしまいはしないか。指導に当たるローチの全身から、自然に醸し出される威厳や貫禄,無言の説得力を、40歳を過ぎたばかりのブボイに求めるのは酷。
パッキャオを乗せて気持ち良く練習させるのは抜群に上手いだろうが、その一方でスケジュールを遅らせることなく、厳しく律して嫌なことにも取り組ませる、コーチとして必須の役割を果たすことができるのか。
対するマティセも、再起に向けて昨年トレーナーをチェンジした。新たに招かれたジョエル・ディアスは、ティモシー・ブラッドリーを長くサポートしたベテラン。ブラッドリーとマティセの特徴はまったく異なるけれど、打倒パッキャオに備えた過去の分析と研究は無駄にはならない。
マティセとの息も悪くはなく、公開練習や会見の様子を見る限り、良好なコミュニケーションが取れているようだ。
「どんなに強いボクサーにも、終わりの時は来る。パッキャオも人間なんだ。何時までもチャンピオンではいられない。老いとの戦いは、想像以上に過酷だ。ルーカスも若くはないが、マニーに比べれば全然余裕がある。」
「パッキャオが議員活動に専念できるよう、ルーカスと一緒にフィニッシュしてやるつもりだ。具体的なことは何も言えないが、ヤツの弱点はわかっている。キャンプでみっちりやってきた。8階級制覇のヒーローも、これがラスト・ファイトになる。まあ、見ていてくれよ。」
地元の南カリフォルニアでもなかなか観客を動員できず、不人気に喘いでいたブラッドリーは、パッキャオ戦をきっかけに念願だったトップ・スターの仲間入りを果たした。第1戦の判定は国際的なスキャンダルに発展し、WBOによる検証作業でブラッドリーの勝利は事実上無きものとされたが(ネバダ州は公式裁定を変更せず)、多くの障害を乗り越えてトップランクに移籍した甲斐があったというべきか。
マティセの顔と名前は、米国内でも充分に知られていると見ていいけれど、実力に見合った評価と言えるかどうかは微妙なところもある。勝敗は別にして、見応えのある熱戦を期待したい。