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検証:カシメロ VS 赤穂 レビュー I - ラビットパンチはあったのか? -

2022年12月11日 | Review

■12月3日/パラダイスシティ特設リング,仁川(韓国)/S・バンタム級契約10回戦
3階級制覇王者 ジョンリエル・カシメロ(比) NC2R WBO8位 赤穂亮(横浜光)

失意と落胆の奈落にいる赤穂亮に伝えたいことはただ1つ。

「沈黙は金」


エクスキューズに類する言葉を、一言たりとも発してはならない。無知と不勉強による見当外れの批判と非難,あるいは擁護が、現役・引退取り混ぜたプロ経験者も含めて試合直後から始まっているが、試合内容と結果に関する様々な見解や意見は、プロである以上不可避と悟り、良い意味で諦めることが肝心・・・。

という訳で、自分なりのレビューを書き出したら、やっぱりというか、赤穂が自身のyoutubeチャンネルで新たな配信を行った。

赤穂の事だから、潔く負けを認める筈だと思いながらも、逆境に立たされた人の心は想像以上に脆く、言わなくてもいい余計な一言でさらなる苦境へと自らを追い詰める。

ハラハラしながら映像を視聴したが、まずは無難にまとまっていて安堵した。


◎カシメロ戦を終えて
2022年12月8日/赤穂亮のルーTUBE


反則が絡むコントラバーシャルなトラブルが発生した時、最も大切なことは、試合内容と結果、それらに関わる「事実と印象」をごちゃ混ぜにしないこと。

(1)公式記録上の反則の有無:主審の判断により決定される。

(2)「故意の反則(intentional foul) or 偶発的かつ不可抗力名反則(accidental foul)」のいずれに該当するのかは、主審の判断により決定される。

(3)仮に主審が「明らかに故意の反則」を「偶発的な事故」とみなしたり、ポジショニング等の問題で見逃した場合でも実際の行為がすべて正当化される訳ではない。
 ※反則を行った事実は残る(録画映像及び観戦した者の記憶)

(4)一方の選手(今回で言えば赤穂)が試合中に戦闘不能となり(あるいはその状況を訴えて)、直接的な原因について主審が「故意の反則」とみなした場合、当然相手の選手に「反則負け」が宣告される。よって公式裁定は「反則負け(勝ち)」となる。

(5)同じく主審が「偶発的な事故」とみなした場合、試合を所管するルールに基づき公式裁定が下される。

(6)レフェリングの適・不適
試合が想定外の展開(ラフ・ファイトを含む)となり、イリーガルな状況に陥った場合、そこに至るまでのレフェリングの是非について振り返り、検討を加えなくてはならない。

(7)レフェリングの適・不適を含む公式裁定の妥当性

 

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■試合内容と結果

赤穂自身と石井会長がはっきり認めている通り、カシメロの勝利で間違いない。赤穂も軽量級では十分過ぎる強打者だが、フィジカルの強度とパンチング・パワー,攻防のキメが一桁違う。トラブル続きで株を落としまくっていたカシメロだが、122ポンドのS・バンタム級においても、世界のトップ戦線を賑わすに違いない実力を証明した。

第2ラウンドの開始と同時にギアを上げたカシメロの猛威に晒された赤穂は、深刻なダメージを負って窮地に立たされ、ラビットパンチによる中断が無ければフィニッシュされていただろう。

先制のダウン(左フックを引っ掛けられただけ=ノーダメージ)を奪われたカシメロが、失点を一気に挽回すべく猛攻を仕掛けて、凄まじい迫力で赤穂を追い立てる過程でカシメロの攻勢がラフになり、問題の発端となるラビットパンチが発生したのだが、それはまた後ほど。


◎12.3のイベントが終了して
2022年12月6日/A-SIGN公式チャンネル


◎試合映像(フルファイト)
2022年12月6日/A-SIGN公式チャンネル



第2ラウンドのスタート直後、強打とともに迷いなく踏み込むカシメロの勢いに押されて、後退のステップを踏む赤穂と頭が衝突。荒れ模様を予感させる幕開けとなった。

ここは主審の染谷が直ちに割って入り、両選手に注意。本来なら時計を止めてもいい場面だが、染谷が「タイム(一時停止)」の合図と宣告を行わなかった為、タイムキーパーはそのまま時間を進めている。

”倒し切るモード”に完全に入っているカシメロは、再開の合図(残り2分35秒)と同時にワイルドな右スウィングを一閃。さらに左をダブルで突いたが、3発目の右に合わせて赤穂が左フックを返し、巻き込まれる格好でカシメロが前のめりに手を着く。


「よっしゃあ!」とばかりにガッツポーズで戦果をアピールする赤穂に対して、カシメロは「しまった!」の表情。規定通りエイト・カウントを聞くと、今度はゆっくり歩きながら赤穂に接近(残り2分15秒)。

ジャブからリスタートするのかと思いきや、またしても強引な右スウィング。赤穂も今一度左を合わせたが、崩れた態勢を立て直すところへ迫るカシメロ。しかし、ここで赤穂が先に左フックを振るう。

タイミングもキレも良く、日本国内・OPBFの並みのランカーなら、おそらく対応できずに貰っている。しかし、カシメロは慌てず騒がず右のガードで難なく対応。そのまま圧力を強めてロープ際まで赤穂を下がらせ、探りの左(ハンド・フェイント)から大きな右。

これを待っていたかのように、赤穂がスルリと左サイドに抜け出る。カシメロも身体の向きを変えながら左を振り回すが、軽快なステップで安全圏へ。


ところが、カシメロはここでも落ち着いており、リング中央にポジションを取る為、左から右へ旋回する赤穂の戻りを待って、数歩を歩くだけで赤穂の正面に立つ。野放図に荒く振り回しているように見えて、相手の動きを冷静に見つめて無駄に動かない。

そしてハンド・フェイント半ばのジャブでまた探りを入れる。赤穂が焦れたように一瞬飛び込むが、カシメロは身体を斜めに倒しながら左腕を伸ばして、ジャブともプッシング(昔ジョージ・フォアマンが得意にしていた反則込みのストッピング)とも取れる動きで押し返す。

想定を遥かに越えるカシメロのパワーを前に、赤穂の表情からはこの時点で一切の余裕が失せてしまい、どうしていいのかわからないといった様子。


カシメロはなおも自分からは動かず、赤穂が右で踏み込むや否や、低い態勢から左フックを振るい、強烈な右をガードの外側からねじ込んだ。

さらに休むことなく左から右をつなぎ、必死の赤穂が返す左フックを鮮やかなダッキングでかわしざま、今度はまた軽い左を2発チョンチョンと突きながら、視線と構えだけで圧力をかけ赤穂をロープに追い詰めて行く(残り1分50秒)。

この辺りの「静」と「動」のシームレスな切り替え、後先考えずにブンブン強振しているだけのように見えて、実に良く相手のダメージと弱り方を観察しつつ、慌てることなく仕止めにかかるのがカシメロの真骨頂。試合前に赤穂が自ら述べていた、「カシメロの柔らかさ」の一端でもある。


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悪夢のような殺戮ショーは、この直後。ススっと頭と上体を沈めてフェイントをかけ、思わず反応した赤穂が右アッパーを準備しようとガードを下げたところへ、豪快な左フック!。

辛うじて赤穂もアッパーを飛ばしていた為、互いのパンチが交錯衝突して被弾を免れる。ドネアが自分を取材に訪れた記者たちに、「彼がジャパニーズ・フラッシュ、アカホだ。次期チャンピオンだよ。」と売り込んでくれた赤穂のスピードが無ければ、この一撃で終っていた可能性も否定できない。

追撃に備えて左へ回り込みながら距離を取ろうとする赤穂だが、ガードが完全にバラけてしまい、青コーナー付近に詰められる。そこへカシメロが大きな右。頭と上体を右へ倒しながら、左を被せ返す赤穂。絶体絶命の大ピンチでも、ボクサーとしての本能と技術はまだ生きている。


カシメロが格下相手の時と同じように、上半身を突っ立てたままの無防備だったら、窮鼠猫を噛んだ赤穂の逆襲が奏功していたかもしれない。しかしこの時は、距離も幸いしてカシメロが上半身を沈めながら右を伸ばしていた為、ダッキングよろしく赤穂の左は空を切り、そこへまたカシメロの左。

これも当たってはいたが、赤穂も何とか反応して芯を外す。けれども、もはや一杯一杯の体(残り1分45秒)。思い出したようにガードを上げ、左をチョンチョンと突くカシメロに対して、一端右へ動くフェイントを入れて左へ大きめに足を運ぶ。

崖っぷちの状態でなければ、そのままステップを踏んでリング中央に戻りながら反撃の態勢を取り直せていただろうが、雰囲気だけで圧を強めるカシメロを見て足が止まる。


「逃げられない・・・」

勝手な解釈で申し訳ないが、そう悟らされたようにも見えた。誤解を恐れずさらに付け加えるなら、赤穂は既に戦意を喪失している。

また右方向へ(青コーナー)戻る赤穂。するとカシメロが囮の左を軽く振るフリから右スウィング。ダッキングでかわす赤穂の起き上がりに合わせて、返しの左がヒット!。腰を落としかけた赤穂はロープに背中をもたれかけ、その反動を利用して身体を入れ替え、左サイドから抜け出す動き。


「ルーtube」の配信で顎の骨折(右の顎に大きな絆創膏)について言及があったけれど、この左かもしれない。上述した右とともに、この左は本当に効いていた。

「2ラウンドに赤穂の顎にいいのが当たったんだ。」

試合後にカシメロが話していた「いいパンチ」は、おそらくこの2発のパンチのいずれかだと思う(左の可能性が高い?)。


「逃してなるものか!」と左を振るって追いかけるカシメロが、右から左を返しつつ、対角線上にニュートラルコーナー方向へと後退を続ける赤穂を追う。赤穂も強引に左のスウィングを返すが、ダッキングでかわしざまクロス気味の右オーバーハンドを合わせる。

これが当たっていたのは確かだが、カメラの角度の問題でダメージの程度はよくわからず、赤穂は上体を前のめりに深く前傾したまま耐えるしかない。カシメロはすかさず左アッパーを3連発。ロープに赤穂を押し込み、フィニッシュの態勢へ。

ロープを背にした赤穂はガードを上げて一度上半身を起こし直すが、カシメロがまた上体を沈めながらの左フック。スウェイ気味に身体を倒してかわした赤穂が、また頭を深く前傾する。

そしてここからラビットパンチが始まり、(結果的に)連射の格好となった(残り1分30秒~)。エキサイトマッチの振り返り配信で、ジョーさんが「どっちもどっち(後頭部を殴るカシメロも頭を下げたままの赤穂も)」と表した場面。

◎赤穂亮vsカシメロ戦について語ろう!│エキサイトマッチのリングサイド会議【WOWOW】
2022年12月3日
https://www.youtube.com/watch?v=czrcWwWeGrQ


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レフェリングの項で詳述するが、染谷主審はこの時ニュートラルコーナーの前にポジションを取り、一連のラビットパンチをしっかり目撃している。

この1発目のラビットパンチ(右)は危険度の高い殴打で、「あっ!」と声を上げそうになった。染谷主審に止めに入って欲しいと思ったし、結果論で誠に恐縮だが、ここで一旦試合を止めていたら、この後の展開は大きく違っていたかもしれない。

赤穂は一旦身体を起こして態勢を立て直そうとするが、襲い掛かるカシメロを見てすぐにまた深く前傾。カシメロの返しの左が首に当たり(2発目)、そのまま肘を赤穂の後頭部から首にかけて乗せるお馴染みの格好。

赤穂に精神的な余裕が残っていれば、ここで大きく両手を広げてブレイクをアピールしたり、何がしかの動作で流れを中断できたのだろうが、もうそんな状況ではない。


おそらく本能的に頭を起こしかけた赤穂に、右を狙い打ちするカシメロ(3発目/残り1分27秒)。まともにナックルは当たっていないが、頚椎部分に着弾。頭を下げたまま、抱きつくように前に出る赤穂。

クリンチさせたくないカシメロは、後退しながら(ラビット)パンチを続ける。小さな右で首と頭の付け根部分を打ち(4発目)、左を追加(5発目/ナックル部分ではないがやはり頭の付け根付近に着弾)。もう1発カシメロは小さく左を連射しているが、これは当たっていない。

やはりエキサイトマッチの振り返り配信中、西岡が「(ラビットパンチは)5発当たってます。(録画を見直して)確認しました。」と述べていたが、流石に良く見ている。


ここでようやく両者が離れて、ミドルレンジで正対する。頭を下げながら、カシメロが再び突進。赤穂はワイルドな左を狙うが、右の肘でブロックしながらこれをかわしたカシメロが左フック。

ダッキングの状態で右サイドへ動き、左を貰わずに済んだ赤穂。打ち終わったカシメロの脇の下に頭を入れて停止。ここはさしものカシメロも手を止め、染谷主審のブレイクを待つ(残り1分22秒~1分18秒)。

2人を分けてカシメロにラビットパンチの注意をするのかと思いきや、染谷主審はごく普通にブレイクして再開を指示するに止まった(残り1分17秒~1分16秒)。これもレフェリングの項で詳述するが、この後の流れを左右する。


「どうして赤穂は、この場面でラビットパンチをアピールしなかったのか?」

赤穂に批判的な人たちでなくとも、素直に抱く疑問。

赤穂自身に聞かないとわからないけれど、再開が合図されたにもかかわらず、赤穂は直ちに臨戦態勢に入れていない。カシメロが前に出て距離を詰めて来るのに気付き、半ば慌て気味にガードを上げ腰を落としている。

少し朦朧とした様子もあり、一連の被弾で十分に効かされていた為、ラビットパンチを貰っていたという記憶自体が曖昧になっていたのではないか。


そしてカシメロに圧をかけられ、ニュートラルコーナー付近に下がりロープを背にする赤穂。例によってチョンチョンと左を突いてタイミングを図り、豪快な右スウィングを振るうカシメロ。ガードをしながら、大きくヨロけて態勢を崩す赤穂(残り1分9秒)。

左右の強打でいよいよ詰めに入るカシメロ。亀の状態で耐えながら、懸命に左を2発返す赤穂。左サイド(赤コーナー側)へ動きながら起死回生のカウンターに懸ける赤穂だが、強引なカシメロの右を深いダッキングで外すと、密着した状態でまたカシメロが右を振り下ろす(残り55秒)。

これは滑るように外れて当たらずに済んだが、また赤コーナー付近のロープ際でカシメロが大きな単発の左右。赤穂も左を返すものの、足元が覚束なくなり、上から右を振るったカシメロの脇に頭を入れた状態でフラフラと前進。

ここでようやく染谷主審がラビットパンチのチェック(残り44秒~43秒)。これを見た赤穂が、我に返ったかのように後頭部を抑えてニュートラルコーナーに歩き出す。この後の顛末は周知の通り。


注意を受ける直前のパンチは確かに当たっておらず、「オレは後頭部を打ってなんかいない」というカシメロの主張も理解はできる。

◎カシメロ 試合後インタビュー CASIMERO post-match interview
2022年12月4日/A-SIGN公式チャンネル



youtubeには「Best Actor!(名優赤穂)」と揶揄する編集動画がアップされているし、「下手な演技をしやがって!」「日本人の面汚し」「卑怯者」と罵りたくなる気持ちもわからなくはない。

ただし、西岡が振り返り配信で触れていたように、ラビットパンチは実際にあったし当たっていた。染谷主審がチェックを行ったタイミングにも問題があり、見た目の印象を悪くしたのも確かである。


※プレビュー II へ続く


◎カシメロ(33歳)/前日計量:121.25ポンド(55.0キロ)
前WBOバンタム級(V4/はく奪),元IBFフライ級(V1/返上),元IBF J・フライ級(V4/返上:暫定→正規昇格),元WBO J・フライ級暫定(V0)王者
戦績:36戦31勝(21KO)4敗1NC
世界戦通算:16戦13勝(10KO)3敗
身長,リーチとも163センチ
右ボクサーファイター


◎赤穂(36歳)/前日計量:121.75ポンド(55.2キロ)
WBO8位・IBF14位・WBC19位
元日本バンタム級(V1/返上),元WBOインターナショナルバンタム級(V0/返上),元OPBF S・フライ級(V3/返上)王者
戦績:44戦39勝(26KO)2敗2分け1NC
世界戦:2戦2敗
身長:168センチ,リーチ:170センチ
右ボクサーファイター


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■オフィシャル

主審:染谷路朗(日/JBC)

副審:
福地勇治(日/JBC)
キム・ジェボン(韓国)
シン・キョンハ(韓国)