日本の心

激動する時代に日本人はいかに対処したのか振りかえる。

孫文「三民主義」第一章「民族主義」 第一節「民族主義の意義」

2021-11-02 21:16:45 | 中国・中国人

  孫文「三民主義」 
 
  


  第一章 民族主義 

 第一節
 民族主義の意義 

〔三民主義は何であるか〕

 抑々三民主義は何であるかと云ふに、掻い摘んで言へば。三民主義は救国主義である。主義と云うのは、一応の思想であり、信仰であり、力寺る。人が或る事を研究するに當って先づ第一に、思想が生まれ、思想はやがて信仰を生み、信仰は,力を生む。主義は思想に始まり、力を生むに至って始めて完成する。 次に三民主義は何故に救国主義かと云ふに、三民主義は支那の国際上、政治上、経済的地位の平等を計り、支那をして長く世界に生存するに適せしむるものである。故に三民主義は救国主義である。

〔民族主義は何であるか〕
 民族主義とは何であるかと云ふに、一言を以て之を言えば国民主義である。支那で最も崇拝して居るのは、家族主義と宗簇主義であって、支那には家族主義と宗簇主義があるが国民主義はない。従って外人は支那人を以て寄合世帯となすのである。支那人は家族と宗簇の団結は非常に強く、宗簇保護のためには、往々身も家も犠牲にして悔いがない。これが国家のことになると、未だ曾て犠牲的精神を発揮したことがない。これ支那人の団結力が宗族に止まって、国民にまで拡大されて居ないからである。

〔民族と国民との関係〕
 次は民族と国民との関係であるが、予は支那の場合には民族主義は国民主義と思う。然し外国では民族と国民は分れて居る。これは一民族がいくつもの国家を造り、或いは一国家に多くの民族が含まれて居る唐である。然るに支那は秦漢以後一民族で何時も一国家を造って居る。 民族と国家のとの間に明らかな区分が或る。民俗と国家は之を造り上げた根本の原動力が異なって居る。民族は自然に造られたものであるが、国家は武力を以て造り上げた者である。支那人の政治歴史に依って之を證明すれば、支那では王道は自然に願うと云っているが、この自然力即ち王道を以て造られた団體が民俗でつて、武力即ち覇道で造られた団體が国家である。例えば、香港の如き民俗の如き、其の他全世界に拡がって居る英国の領土は凡て覇道によって造られたものである。 

〔民族の起源〕
 民族の起源について云えば、人類は之を人種に分かち、人種は更に若干の民俗に分かれる。民族は自然力によりて分れたもので、其の最大原因を為すものは血統である。次は生活の方法、言語、宗教、風俗習慣等で、これ等の要素が結合して自然医一個の民俗を造り上げたのであるから、武力に依って征服された国家とは違うのである。

 古令民族生存の道理から推して支那を救ひ、支那民族を永遠に生存せしめんとせば民族主義を唱へねばならぬ。民族主義を唱えるためには、先ず完全にこの主義を了解せねばならぬ。支那の人口は今日、四億万あるが、漢人種以外のものは僅かに一千万に過ぎないから、先ず同一血統、言語、文字、宗教、習慣を有った一個の民族と見做すことが出来る。然るに支那民族の世界に於ける地位はどうであでるか。世界最大の民族として四千余年文化を有しながらも、世界最貧弱の国家となって居るのは、家族と宗簇團體だけであって、四億萬人を結合して一個の支那を造り上ぐべき民族精神が無いからである。支那民族を滅ぼすまいとすれば、民族主義を唱ふる以外はない。 

〔民族の危険が何処にあるか〕 
 民族主義に依って支那を救わんとするせば、先ず民族の危険が何処にあるかを知らねばならぬ。民族の危険を知るためには支那と列国の人民を比較して見るのが一番好い。欧州戦前世界の強国は七八個を数えたが。戦争で三か国は落語して英米日佛伊の五国を剰すのみである。

 英国はアングロサクソン民族であるが、彼等は僅か三千八百万人の少数で、世界最強の国を造って居る。 我が東方の日本は大和民族とよばるる一つの民族によって造られて居る。彼等は開国以来曾て外国の侮りを受けたことがなく、大和民族の精神は飽く迄も保存され、欧化の東漸に際して能く科学の新法を利用して国家の発展を計り、維新後五十年間にアジアの最強国となり、欧米列強と肩を並べて敢えてひけをとらない。
 然るに支那は日本に比べて数倍の人口を擁しながら他に蔑視されて居る所以は、日本には民族主義があり、支那には民族主義がないからだ。日本の維新前の有様は今日の支那と同じく国勢振るわなかったが、外国圧政の恥辱に憤激し、民族主義の精神を奮起して、この五十年間に一躍世界最大強国の一つになったのだ。

〔日本に依って全アジアの民族は無限の希望に満たされた〕
 以前白人は世界に於ける最も聡明で才智ある人種で、他人種より凡てに於いて優秀であり。国家の不況の如きもアジア人には望みなきものと思われて居たが、一日本の新興に依って全アジアの民族は無限の希望に満たされた。日本も従前の国勢は現在に安南、緬甸と同じであった。今日の安南、緬甸も他日日本の如き位置に至り得ないことはなかろう。  日本は欧戦後の平和会議で五大強国の一つに列せられた。日本人は白人の能くし得る所、日本人のなし得ない所がないという慨がある。日本人は人種の色に依って聡明才智に差異があるものではないと云うことを吾人に示した。アジアに強盛なる一日本があるがため、白人が敢えて日本人を蔑視しないだけでなく、アジア人をも軽視しない。欧州人のなし得る所、吾人のなし得ないことはない。 日本が欧州に学んだやうに、吾人は先ず日本に学び、更に欧州に学ばねばならぬ。
   
〔ロシアの革命〕
 ロシアは欧州戦中の革命に依って一つの新国家となった。以前ロシアはその侵略政策で世界に恐れられ、遂に日露戦争となってロシア世界侵略の企図は覆された。其後革命に依って新たな社会主義の国家となり、世界に更に一個の変化を與えた。以前の武力政策は平和政策に改められた。ロシアはただに自国の帝国主義を打倒しただけでなく、世界の帝国主義を打破し、更に進んで世界の資本主義を打破せんとして居る。かくてロシアは新しい意味で世界列強の恐怖となった。 

〔次の戦争は階級戦〕
 欧州戦後、次に起こるべき戦争は人種戰であるとの予言をした人があったが、私は異なった考えを持っている。国際間の戦争は免れないものであろうが、それは人種戰ではなくちぇ、階級戦であろう。被圧迫者の圧迫者に対する戦争であろう。被圧迫民族及び国家は圧迫を脱れんがためにロシアの新主義を歓迎し、白人及び黄人の公理を主張するものが連合して一團となり、白人及び黄人中強権を主義とするものが他の一團となってここに両者間に一大争闘が行われるだろう。

〔支那の人口で蒙古・満人を同化九州、百年後は・・・・。〕
 今日世界の人口の増加率は最近百年内に米国は十倍、英国は三倍、日本は三倍、ロシアは四倍、ドイツは二倍半、フランスは四分の一で或る。然るに人口の大を持って誇って居る支那はどうか。今日迄は其の大なる人口を持って蒙古人、満人の侵略に対し、決して滅亡しなかっただけでなく、漢人は却って彼等を同化して満人に変ぜしめた。今日多くの漢人は満人の姓を名乗って居る。 従って仮令日本人や白人が来て支那を征服しても、支那人はこれ等日本人及び白人を吸収してしまうから心配はない。

 然らば百年の後は如何、従来は彼等が百万かそこらの少数で支那を征服したから、訳もなく同化されたけれども、今後現在の人口三倍或いは十倍した人口を擁した列強が支那に臨んだ時はどうか。現在支那の人口は四億万と言われて居るが、乾隆時代にも矢張り四億万であって、二百年来少しも増加して居ない。この有様では百年後矢張り同じかも知れない。  

〔日本人は人口の増殖に依って支那に発展の地を求める〕 
 然るに日本人は其の人口の増殖に依って支那に発展の地を求めるであろう。しかも百年後には欧米各国は其の人口の増加に依って、逐次気候の温和な物資の豊富な支那を目がけてやってくるだろう。その時は多数の人口を以て、支那の増加しない少数の人口に臨むから、支那は併呑され、主権を失い、亡国の憂き目を見るの外あるまい。 
 
     



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