366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

ニワトリ家族

2012年06月28日 | 366日ショートショート

6月28日『ニワトリの日』のショートショート

玄関を入って三歩。
買い物から帰ってきたお母さんが声をあげました。
「もう!お父さんったら買い物の途中でいなくなっちゃうんだから。歩いて帰るハメになったのよ~」
買い物袋をあがりかまちにドサリ、プンプン腹を立てながら靴を脱いでいます。
ビックリしたのは娘のわたしのほうです。
だってお父さん、去年の春に家を出てったきりなんですもの。
母さんったら、ときどき父さんがいるのかいないのかわかんなくなるんです。
きっとさびしいんだろうな。それでつい、お父さんがいっしょにいると思い込んでしまって。
でも、事実は事実。
「母さん、しっかりして。父さんはもういないのよ」
リビングを出て、廊下を三歩。

その言葉に、今度はお母さんのほうがビックリです。
え?どうしたの?父さんはもういないだなんて。
そうか。思春期の娘にありがちな、ついつい父親を避けてしまうという、アレなのね。
でも頭の中から父親の存在すら消してしまうだなんて。
ここは冷静に、冷静に。
「リコちゃん、じゃ玄関に置いてある、この男物の雨傘はだれのかしら?」
そして、スリッパをはいて三歩。

「雨傘?ソレってお兄ちゃんのコウモリじゃないの」
また忘れて行っちゃったのね。あいかわらずドジねぇ。
それにしても母さん、男物の雨傘をだれのかしらなんて・・・。
「母さん、お兄ちゃんのこと、忘れちゃったの?大丈夫?」
と、心配しつつ廊下を三歩。

「な、なにを言っているの?あなたは一人娘じゃないの。しっかりしてよ」
と、母さんが三歩。

「母さんこそ、しっかりしてよ!」
と、娘が三歩。

母娘、買い物袋を一緒に運んで、リビングへ三歩。
「わぁ、お母さん、いい匂い!これって回転焼き?」
「ホントだ。回転焼き買ってるわ。早速いただきましょう」

そのとき玄関の格子戸がガラガラガラ、困り顔の男が入ってきて三歩。
「あのぉ~、それでボク、お父さんでしょうか、お兄さんでしょうか?」