366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

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ピーターパン

2012年12月27日 | 366日ショートショート

12月27日『ピーターパンの日』のショートショート



復活祭に近い穏やかな午後。ボクはウェンディに会いに行った。
「ボクだよ。迎えに来たよ。さあ行こう、ネヴァーランドへ」
でも、ウェンディは悲しい目でボクを見たんだ。
「ピーター、どれだけ長い間忘れちゃってるの。わたしは約束どおり待ち続けていたのに」
テラスの白い椅子に腰掛けたウェンディが、肩の毛織のショールをかき寄せた。
小さく丸くなった背中。もう八十をとうに過ぎた老婆のウェンディ。
「ごめんよ。ボク、君たちと時間の感覚が違うもんだから。それにとっても忘れっぽいんだ」
老人ホームのテラスにいた老人たちが不思議そうにボクたちを見てる。
幼い少年がひとりで老女になんの用事だろう、なんて思ってるのか?
それともこの風変わりな枯葉色の衣裳が珍しいのだろうか?
「じゃああなた、フック船長やティンカーベルのこと、覚えてる?」
フック船長?ティンカーベル?
ウェンディが嘆息をもらす。
「覚えて・・・ないんだ」
ボクは目を閉じた。鈍く光る鉤爪、妖精の粉の燦めき!
「思い出した、思い出したよ。あの胸躍る大冒険の世界へ。さあ!」
ボクはウェンディを急きたてた。シワくちゃになったウェンディの手を握って。
ボクの手に、ウェンディはもう一方の手を重ねた。
「わたしは無理。もう飛ぶことなんてできない。そしてあなたも」
ボクも?飛ぶことができないだって?
「そうよ。あなたもお爺さんじゃないの」
ウェンディの手に包まれたボクの手を見つめる。青白い少年の手。
「そんなバカな。ボクは年をとらないんだ。赤ん坊のとき乳母車から落ちた、その日から」
「心の中では。でもそれは心の中だけ。あなたはもう老人なのよ」
そんなはずがない。ボクは永遠の少年、ピーター・パンだ。
「ネヴァーランドも何もかも、あなたの空想。フック船長もタイガー・リリーもティンカーベルも」
何を言ってるんだ、ウェンディ。君はメインランドの毒気にやられて、夢みる力を失っちゃったんだ。戻っといで、ボクの世界へ。
「フック船長とわたしのパパが同一人物なのは、船長が空想に過ぎない証拠じゃないの」
銀行員の、厳格な、ウェンディの父さん・・・フック船長・・・ホントだ。同じ人だ。
「おとなになることを拒絶して、邪魔者を敵に見立てて、あなたはずっと生きてきたの。ピーター、あなたはピーターパン症候群なのよ」
ウェンディの手に包まれたボクの手が見る見る骨と皮のシミだらけの手に変わっていく。
そんなはずない。そんなはずがない・・・。 


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