366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

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タイムマシン製造法

2012年06月30日 | 366日ショートショート

6月30日『アインシュタイン記念日』のショートショート



インテリジェントビルの最上階、役員室。ノッポの男とコブトリの男がソファに並んで座っている。大富豪のハインツ氏は、デスクの上に両手を組んで二人に話していた。
「あるパーティーで飲んでいたとき、ひょいとタイムマシンを作る方法を思いついたんだ。翌日速攻でタイムマシン製造プロジェクトをスタートした。もちろん、誰かに先を越されてはいけないから極秘裏にね」
「失礼だがハインツさん、あなたは科学者ではない。タイムマシンを思いつくことができるとは信じられないな」
ノッポが言う。コブトリがうなずく。
「そのとおり。私のような科学オンチがタイムマシンなど直接作ることはもちろん不可能だ。私がつかんだのはアイディアだよ。あの晩のパーティーの余興で、すごい霊媒ショーがあったんだ。ある御婦人が亡き母の霊と話して号泣し始めたんだ。まちがいない。本物の霊媒師はいるんだ。そのとき私はひらめいたのさ。複数の霊媒師に天才科学者の霊を呼び出してもらい、タイムマシンを共同開発するというアイディアを」
「なるほど・・・世紀の天才科学者による共同開発チームね。霊媒師が本物なら、歴史的天才科学者の霊を集めて世紀の大発見、大発明ができるというわけか」
「うむ・・・私はパーティーの霊媒師と彼が認める霊媒師たちの五人を雇った。霊媒師たちはそれぞれ天才科学者の霊を呼び出した。アインシュタイン・・・ノイマン・・・ラマヌジャン・・・ファイマン・・・ドクター中松・・・。彼らに研究所を与え、共同でタイムマシンを研究させた」
ノッポ「すごい・・・世紀の大天才を五人も集めに集めましたね」
コブトリ「それでタイムマシンはできたのですか?」
「三人よれば文殊の智恵と言うが、世紀の天才たちだ。やってくれたよ。タイムマシンの理論を半年で完成させおった。だがその理論を、五人は誰にも・・・わしにさえ教えなかった。タイムマシン完成までの間、お払い箱にならないための保険だとぬかしてな。そして、彼らはタイムマシンの製造に入った」
コブトリ「タイムマシンが本当に作られるなんて・・・」
「二年後、立入禁止の研究所で資金と資材を湯水のように使って、彼らはタイムマシンを完成させた。それが二週間前だ。彼らから電話がかかってきた。タイムマシンが完成した、実験するのでたちあってほしいと言ってね。私はまさに飛んで研究所に行ったよ・・・だが、研究所に行ってみると、そこはもぬけのカラ・・・床と壁以外、きれいに何もかも無くなっていた」
ノッポ「奴らは逃げたのですか?」
「わからん・・・床に便箋が一枚落ちていた。私宛の手紙だ。『お先に時間旅行に出掛けます。いつか戻ってきますのでご心配なさらずに。さようなら』・・・う~む、これは書き置きだな・・・」
コブトリ「タイムマシン完成の報酬も受け取らずに?」
「ああ・・・でも研究開発費として渡した金だけでも、五人が一生遊んで暮らせるほどになる・・・タイムマシンの理論も、設計図もすべて彼らが持って行った・・・二週間経つのに帰って来ない・・・よほど楽しいのかな、時間旅行は」
ノッポ「五人の霊媒師は詐欺師だったのかな?それとも本物の天才科学者の霊だったのかな?」
「それを君たち二人に推理してほしいのだよ。君たち二人の霊媒師に名探偵の霊を呼び出してもらって・・・」
ノッポ「では、私はシャーロック・ホームズを呼び出しましょう」
コブトリ「私はエルキュール・ポアロを」
ハインツ氏は諸手を上げて喜んだ。
「君たちのような名探偵二人なら事件解決はまちがいないな、頼んだぞ」
コブトリ、ノッポは揉み手しながら口をそろえて、
「ではまずギャラの交渉から・・・」 

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星の王子さま

2012年06月29日 | 366日ショートショート

6月29日『星の王子様の日』のショートショート



「ね、ボクにヒツジの絵を描いて」
枕元で少年の声。アタシはビックリとびおきた。
「あんた、どっから入ってきたのよ!」
少年が窓の外を指さす。外からって、2階だっつーの。え?空から?そなアホな。
コイツ、へんちくりんな服装だ。天使そっくりの美少年ではあるが。
「あのね、お姉さんは絵、ヘタクソだぞ」
ヒツジかコブタかわかんないような絵を描いて渡すと、少年は目を輝かせた。
「やっぱり!君は星の王女さまなんだね!」
ハァ?星の王女さまぁ?
小豆ジャージ上下の中3受験生をつかまえて、星の王女さまだとぉ?
目覚ましを見ると、朝6時。ほとんど寝てねーじゃん。勉強のしすぎて幻覚見てんのか?
目ェこすったり頬つねったりしていると、少年が笑った。
「夢なんかじゃないよ。君は宇宙嵐で地球に飛ばされて記憶をなくしてたのさ」
「どこにそんな証拠が?」
「こんなヘタな絵、地球人は描けないよ。地球人離れした不細工な容貌もそう。地球人ほど空気も読めないし。どうしてみんなと一緒じゃないんだろうって、うすうす感じてたはずだよ」
ムッ失礼な。言いたい放題じゃないか、コイツ。
「一緒に帰ろうよ。そして前みたいに暮らそうよ」
「帰るってどこに帰るのよ?」
「ボクたちの星だよ。二人だけの小さな小さな星。バラが咲いてるすてきな星」
「じゃ受験勉強はないの?もしかして学校も?」
「ないよ」
受験も勉強もなし?花に囲まれて王子さまと暮らす?いいじゃないの~星の王女さま。
「よーし、じゃ出発」
「出発?エ?今すぐ?」
そ、そんなに急に?父さん母さんにお別れも告げずに?親友のアーちゃんにメールしないと。と、ユッコにも。しまった、マッキーと週末、映画の約束してたぞ。あ、確か明後日CD発売日!しかも唯一見てたドラマ、最終回じゃん!それに・・・やっべ、今日って日直当番じゃん!
「さ、行こう」
星の王子さまが手を差しのべる。
そう・・・これって幻覚なんだ。現実逃避したい願望が生み出した、ただの幻覚。アタシには現実の生活がある。
「王子さま、アタシ、地球でがんばるから」
王子さまが悲しい悲しい顔になった。
「うん。わかった。それが王女さまの選択なら。ボク、現実逃避の幻覚だったってことにしよう。さよなら」
そう言って、王子さまはゆっくり消えていった。
いつもの自分の部屋に、いつものようにひとり。アタシは思った。
これでよかった
・・・・・・かなぁ? 

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ニワトリ家族

2012年06月28日 | 366日ショートショート

6月28日『ニワトリの日』のショートショート

玄関を入って三歩。
買い物から帰ってきたお母さんが声をあげました。
「もう!お父さんったら買い物の途中でいなくなっちゃうんだから。歩いて帰るハメになったのよ~」
買い物袋をあがりかまちにドサリ、プンプン腹を立てながら靴を脱いでいます。
ビックリしたのは娘のわたしのほうです。
だってお父さん、去年の春に家を出てったきりなんですもの。
母さんったら、ときどき父さんがいるのかいないのかわかんなくなるんです。
きっとさびしいんだろうな。それでつい、お父さんがいっしょにいると思い込んでしまって。
でも、事実は事実。
「母さん、しっかりして。父さんはもういないのよ」
リビングを出て、廊下を三歩。

その言葉に、今度はお母さんのほうがビックリです。
え?どうしたの?父さんはもういないだなんて。
そうか。思春期の娘にありがちな、ついつい父親を避けてしまうという、アレなのね。
でも頭の中から父親の存在すら消してしまうだなんて。
ここは冷静に、冷静に。
「リコちゃん、じゃ玄関に置いてある、この男物の雨傘はだれのかしら?」
そして、スリッパをはいて三歩。

「雨傘?ソレってお兄ちゃんのコウモリじゃないの」
また忘れて行っちゃったのね。あいかわらずドジねぇ。
それにしても母さん、男物の雨傘をだれのかしらなんて・・・。
「母さん、お兄ちゃんのこと、忘れちゃったの?大丈夫?」
と、心配しつつ廊下を三歩。

「な、なにを言っているの?あなたは一人娘じゃないの。しっかりしてよ」
と、母さんが三歩。

「母さんこそ、しっかりしてよ!」
と、娘が三歩。

母娘、買い物袋を一緒に運んで、リビングへ三歩。
「わぁ、お母さん、いい匂い!これって回転焼き?」
「ホントだ。回転焼き買ってるわ。早速いただきましょう」

そのとき玄関の格子戸がガラガラガラ、困り顔の男が入ってきて三歩。
「あのぉ~、それでボク、お父さんでしょうか、お兄さんでしょうか?」

 

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もっと光を

2012年06月27日 | 366日ショートショート

6月27日『日照権の日』のショートショート



新学期、転校生がやってきた。
スポーツも勉強も抜群、イケメンぶりも性格もかなわない。
ボクのとりまきだった女子全員が転校生のハーレムへと大移動していった。
たちまちボクは日陰者グループに入会。
「なんですか?光夫くん。相談って」
「先生、この場合日照権の侵害で訴えるわけには?」

「父さん、ボクすっかり日陰者だよう。学校行きたくないよう」
「ナニ言っとんだ、光夫。父さんなんかなぁ、会社の同期からも後輩からも追い越されて頭下げてんだぞ。女子社員たちも名前覚えてくんないし。家に帰っても婿養子で肩身の狭い思いをして」
「父さん・・・ボク、がんばるよ」



 TVが臨時ニュースを告げた。
「月星人からメッセージです!日照権を侵害するな、と彼らは地球に警告しています!」
なるほど、今宵は皆既月食。月面から見れば地球による皆既日食である。
「光夫、俺たちの気持ちがわかるのは月星人だけだな」
「うん。父さん、移住しよう」

 

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雷!雷!雷!

2012年06月26日 | 366日ショートショート

6月26日『雷記念日』のショートショート



カミナリ親爺のところに黒服の男たちが現れた。
「初めまして。関西電力の者です。御存知のように今年の夏は電力供給が厳しい。そこであなたにぜひ協力願いたいのですが・・・」
「え~い、とっとと帰れ!」
ピカッゴロゴロ。
「ああ、もったいない!」



「なになに、『忘れ物に注意しましょう。授業中は集中しましょう』・・・なんだ道真、この通知表は?」
「エヘヘ、面目ない。この次がんばるから」
「根拠のないことを言うな。だいたい、おまえの名前は学問の神様の・・・」
「あんまり追い込むと、怨んじゃうぞ~」
「親を脅迫するな!」
ピカッゴロゴロ

「雷太、何をやっとんだ?どこで買ったんだ?ソレは」
「ヘヘッ、親爺、バイクだぜぇ。カッコいいぜぇ?」
ブンブンブ~ン!
バリバリバリバリ!
「マフラーを改造しとるじゃないか」
「ケッ、雷太鼓を叩いてるなんてダセ~ぜぇ。今からの時代、こうだぜぇ」
「バカモン!」
ピカッゴロゴロ



 「いや~すばらしいカミナリの落としっぷり。お見事。今やカミナリ親爺は絶滅の危機に瀕しておりまして。なにとぞひとつ」
「闇雲に落とすわけではないわ」
「ごもっとも。そこでこちら、成績不良の息子、門限破りの娘、不肖子供セットをお付けして」
「おまえの子供など養わん!」
ピカッゴロゴロ

 

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ガウディ

2012年06月25日 | 366日ショートショート

6月25日『住宅デー』のショートショート



その、宇宙を漂流していた物体をどう形容したらよいだろう?

トウモロコシの芯を格子網で作ったような形状・・・そうだ。サグラダ・ファミリアの尖塔と比喩すればわかりやすいだろう。
しかも本家さながら、いやそれを遥かに凌いでひたすらでかい。
暖色の光が内部から漏れ出している様は、石灯籠のようだ。
何者かが建造した物なのは間違いない。宇宙船?それとも宇宙ステーション?
ボクは、より鮮明かつ詳細な映像を撮ろうと探査艇を物体にさらに近づけた。
見れば見るほど異様だ。圧倒的な存在感というか。
格子を構成する緩やかな螺旋部も格子部も決して一様ではないが、それでいて自然界の植物や動物のような統一感がある。生物のもつ合理性を追求し体現した形なのだ。
そして、ボクは見つけた。
建造している生物を。
その巨大な構造物に対してあまりに小さい生物が構造物に群がって建設を続けている。まるで蟻塚のアリだ。ある者は資材を運び、ある者は建材で組み立てている。
この構造物は建設の真っ最中なのだ。
さらにトウモロコシの本数を増やす工事をしている。いったい何本作る気なんだ?
そればかりじゃない。あまりに巨大なので既に建設した部分が老朽化し修復工事さえしている。
いったい何の目的でこんなバカでかい物を?
建設しながら修復するこの建造物に完成という言葉は存在するのだろうか?
建設している当人たちの生き死にのサイクルを遥かに超えた建築にどんな意味が?
もしや本当に宇宙のサグラダ・ファミリアなのでは?
ということは宗教的なモニュメント?アート?まさか観光資源?
ボクには解答を見つけられないまま、記録した映像を地球に向けて送信する。
人間ならどう解釈するだろう?
探査艇と一体の自律思考型コンピュータであるボクではなく。
そんなボクにまた疑問が浮かんだ。
はたしてこの映像が届く450年後の未来に人類は存在しているのだろうか?
いや、今この瞬間、450光年彼方の地球に人類は存在しているのだろうか?
そのときボクは絶対的な存在を激しく憧憬した。

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アブダクション

2012年06月24日 | 366日ショートショート

6月24日『UFOの日』のショートショート



意識が回復すると、銀色の部屋に横たわっていた。
入口もなければ出口もない。壁も天井も床もすべてステンレスのキューブの内部みたいだ。
アブダクション!
そうだ。ボクは宇宙人に誘拐されて、この密室に閉じ込められたのだ。ここはUFOの内部にちがいない。
ああ、ボクを地球に返してくれ。お願いだ。
床に腰を据えて、ボクを見下ろしている男がいた。
人間の姿をしている。だが、コイツは宇宙人だ。ボクを誘拐した宇宙人。
「意識が回復したようだな」
ソイツがニコリとした。
「なぜボクを誘拐したんだ?地球に戻してくれ」
「誘拐?キミは誰だね?どこに住んでいたんだね?」
「ボクは・・・」
ボクの名前を言おうとしたが、思い出せない。住んでいた国も地域も。どうしたっていうんだ?記憶喪失?
「どうしたんだね?真っ青だよ。もしかして、まったく思い出せないとか?なんでもいい。思い出してごらん」
生年月日・・・職業・・・血液型・・・家族の名前・・・ペット・・・
記憶を引き出そうとするが、いざ具体的に取り戻そうとしても消えてしまって何も見つからない。
「思い出せないんだろ?なんにも」
「時間さえあれば何か思い出せる。そんな気がする」
男は悲しげに首を振った。
「もともとないんだよ。キミに記憶なんて。キミはナニモノでもないんだ」
バカな。そうか。コイツの仕業だ。コイツがボクの記憶を全部奪ってしまったんだ。
「本人であるかどうかを確認するときってどうする?名前を確認するよね。ニセモノかどうか確認するときは?他人の知り得ない記憶で確かめるよね」
そう。それしか方法はないだろう。
「つまり、自分であるという意識の総体は、記憶の集合体に過ぎないんだ。つまり今、キミはキミではない。白紙なんだ」
白紙?
「ナニモノでもない替わりに、ナニモノにもなれる。ほら」
男の手に、鏡が握られている。信じられない。ボクは何度も鏡を覗き見る。そこには見馴れない宇宙人がいた。
「これがボク?」
「ショックかい?大丈夫。もうじきその生物としての記憶を全部植えつけるから。キミはナニモノにでもなれるんだから」

どこから来たのかもわからない。どこへ行くのかもわからない。入口も出口もわからない。
この銀色の部屋とおんなじだ。
そして、人間はみんな、生れる前の記憶はないし、死んだあとの記憶もない。
おんなじだ。おんなじなのだ。 

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胡蝶とアカギレ

2012年06月23日 | 366日ショートショート
6月23日『踏み切りの日』のショートショート



なんでもない夕方、職場に電話がかかってきた。相手は警察だと名乗った。
仕事帰りに警察署に寄ってほしいと言う。何の用かと尋ねたが署で説明すると言う。
取り急ぎ警察署に行くと、別室に案内され年配の警察官から説明を受けた。
妻が踏み切り事故で死んだ、遺体の確認をしてほしい、そういう説明だった。
また別の部屋に案内された。寒々とした部屋の中央に、ステンレスのワゴンが据えられていた。
警察官が白いシーツを剥がすと遺体が現れた。
遺体の顔を覗き込んだ。まちがいない。妻だ。
「どうしてこんなことに」
妻の顔に外傷は見当たらない。眠っているように見えるほどだ。
「奥さんの車が踏み切りで電車に接触して。ショックで心臓麻痺を起こされたらしい」
「心臓麻痺?」
「ええ、もう何年もお悪かったんでしょう?今日も通院の途中だった」
知らなかった。結婚生活二十年をとうに過ぎ、もう何年もろくに話さえしていない。夫婦生活も煩わしいが、離婚するのも煩わしい。そんな関係。
「まちがいありませんか?その・・・刺青も」
刺青?警察官が咳払いをして背を向けた。下着姿の妻を観察する。こんな下着を持っていたのか。凝った刺繍飾りが妙に艶かしくて厭な感じだ。
やっと刺青を見つけた。左内腿の付け根近くにポツンと彫られていた。紋白蝶ほどの大きさの、気持ちが悪くなるほど極彩色の胡蝶の刺青。
どこにでもいそうな地味な女、女性というより主婦そのもの、古女房だったはずの妻が、なぜこんな刺青を?
いつこんなことを?もう何年も関係がないので見当もつかない。いや、関係をもっていた時でさえ気がつかなかったかも。
本当にこの女は妻なのか?
そうだ。昨晩、風呂上がりの妻がソファに座って指のアカギレに軟膏を塗っていた。
指の関節のしわに沿ってカミソリを引いたようにパックリ割れた赤身に、半透明の軟膏を塗り重ねていた。
ピリピリした痛みがこっちまで伝わってくる。俺の見ていない所でやれよ。デリカシーのない女だ。そう思った。
妻の手を握るふりをして、死体の手を確認した。
白い指のどれにも、アカギレも、その痕すらもない。
「ちがいますよ。この女は妻じゃない!」
立ち上がると警察官に向かって言う。そんな自分の姿を想像しながら、黙って女の顔を見つめ続けた。
いっそこの胡蝶の女を妻だということにしてしまったらどうだろう?
いや、本当に本物の妻が胡蝶の女ではないのか?昨日見たアカギレの女の方が妻じゃないのでは?
どっちが俺の妻なんだ?どっちが俺の妻ならいいんだ?そもそも俺に妻なんていたと言えるのか?
横たわった女の顔をしげしげと見つめる。
妻だと思っていた女の顔がまったく知らない、初めて見る女の顔のような気がしてきた。
同じ字を何回も何回も何回も書き続けると、ふと見知らぬ記号にしか見えなくなる、あんな感じか?
いや、こんな女は知らない。見たこともない。
妻のイメージがどんどん透きとおって消えてゆく。
胡蝶だけが鮮やかに現実になってゆく。
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ボウリング

2012年06月22日 | 366日ショートショート

6月22日『ボウリングの日』のショートショート


大衆居酒屋の二人席、課長と新人社員が中ジョッキをカチン。
「ハイじゃ乾杯。どう?慣れた?この会社。入社して三ヶ月。まだ実感わかないか」
「いやぁ、学生気分の抜けてなかったボクがそれなりの営業成績をあげることができたのも、課長のおかげです。感謝してます」
「ハハハ、感謝なんて君ぃ」
「課長はボクの師匠っすよ。いや神かな」
「おいおい、持ち上げすぎだぞ。会社でそんなこと言わんでくれよ。プライベートだけで頼むよ」
「あれ?課長、失礼ですけど二重になってません?まぶた」
「気がついたかね、プチ整形」
「お洒落っすねぇ。若く見えますよ。三十代的な」
「おいおい、確かに髪は後退してメタボだが、ボクはまだ34だよ。でね、なぜ整形したかっていうと、実は今交際中でね」
「エ。課長、独身?」
「見合い23回、晴れて二度めに会う約束をしてね。だが、ここからは未知の領域だから。やっぱり二回めのデートは、アレかね?おとなしめに映画とか」
「どうでしょうねぇ、映画」
「やはり結婚を前提におつきあいしとるわけだから、手を握ったり肩を抱いたりはアリかな」
「いや~おつきあいといっても、実質会ってまだ数時間のわけで」
「消極的と思われんかね?多少強引なほうが女はメロメロにならんかね?」
「どうかなぁ。映画ってあんまり会話できないから、そうだ、ボウリングとかどうです?」
「ボウリング~?♪律子さん♪さ、わ、や、か、律子さん♪のアレかね?古すぎやしないかね、君ぃ」
「最近、そこそこ流行ってるんですよ。スコア計算も自動でやってくれるし」
「だがね、ボクはフォームにキレがないというか、アベレージ80なんだよ。デートの日までに猛特訓して100超えないと」
「そんな必要ありませんよ~」
「イヤ、それじゃあボクが納得いかんよ。彼女にアドバイスしていいところを見せなくちゃ」
「課長、目的はボウリングじゃないですよ。楽しい時間を共有するってことが目的なんですよ」
「・・・」
「どっちが上手いとか関係ないっすよ。これから先、いいことも悪いこともある。でも一緒にいて元気をもらえたり安心できたりする、そんな相手こそベストパートナーでしょ」
「う~む、君の言うとおりだ。君は恋愛の神様だな。師匠と呼ばせてもらっていいかね?」
「エ~恥ずかしいなぁ。プライベートだけでお願いしますよ」
「で、やっぱりベンチ席では手くらい握ったほうが・・・」 

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スナック三昧

2012年06月21日 | 366日ショートショート

6月21日『スナックの日』のショートショート


やっめられない、とまらない~♪
つって、スナック菓子のことじゃないんです。ボクの浮気グセ。
もちろん妻はいるんですけどネ。愛されてますよ、トーゼン。
でもさ~やっぱ浮気は男の本性っすよ、甲斐性っすよ、スナック菓子っすよ~。
三度三度のごはんをちゃんと食べてても、小腹が空くときってあんじゃないっすか。
それを満たしてくれるのがスナック菓子。
アハハ、それでついつい手が出ちゃうんだよな~。まいったまいった。
えっと今、つきあってるコは、さしあたり『堅あげポテト』。つきあう前は、おカタい感じだったけど、噛めば噛むほど味があるっつーか、クセになんだよなあ。
その前につきあってたコは、辛辣に絡んでくる女だったけどかなり情熱的。『カラムーチョ』って呼んでた。
その前は、軽~い『カール』ちゃんだったかな?とんがった『とんがりコーン』だったっけ?おっちょこちょいの『おっとっと』?
そうそう、めっちゃセレブな和風美女『かっぱえびせん匠海(TAKUMI)』っつー金のかかるコもいたなあ。
あ、携帯が鳴ってる。
このメロディ・・・『キャラメルコーン』。ずいぶん久しぶり。マメなとこ、あんだよなあ。今宵は『キャラメルコーン』にしときますか。
あ、やっめられないとまらない~♪っと。いってきま~す。

その晩遅く帰宅すると、ダイニングテーブルに手紙が乗っていました。妻からです。
『この浮気者。しばらく距離を置いて今後のことは考えます。探さないでください』だって。
あっちゃー、なんでバレたんだあ?
最近、食べ過ぎてて家で食欲がなかったもんなあ、失敗失敗。
でも~、そんな~、困るぅ~。
主食あってのスナック菓子。スナックだけじゃ生きていけな~い(泣)


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スッとしたい病

2012年06月20日 | 366日ショートショート

6月20日『ペパーミントデー』のショートショート



名前を呼ばれると診察室に軽やかに滑り込んで座る。その身のこなしに医師は驚き微笑んだ。
「さっと座りましたね。元気よさそうですよ」
この医者なら治せるかもしれない。僕は妻が浮気しているか不安で眠れないと訴えた。
「嫉妬ですね」
そうそう、その調子。だが、それが僕の病気なのか?他に症状はと尋ねるので、バーガーショップでバーガー&ポテト&ドリンクを無意識に貪ってしまうと嘆いた。
「セットでねえ」
医師が感嘆する。思うつぼだ。いっそ妻に激しく詰問したいと医師に告げた。ほらこんなふうに。医師の肩を激しく揺する。
「そっとですよ、そっと」
手を止めて医師に詫びた。そして薬の処方を依頼した。医師が微笑んだ。わかってくれたのか?僕の病気を。デスク引き出しから瓶を取り出す。カラカラ振ると、手の上にブルーのタブレットが二錠こぼれ出した。すごいぞ、名医だ!医師は嘆息し、僕の病気は一種のパラノイアであると告げた。医師が二錠を僕に渡す。僕はそれを僕の口ではなく、医師の口に押し込んだ。タブレットを噛み砕く音。ミントの香りがした。そして医師がつぶやいた。
「スッとした。あなたもでしょう?そういう病気ですよ」 

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野球犬

2012年06月19日 | 366日ショートショート

6月19日『ベースボール記念日』のショートショート

キキッキキ~~~!!
耳をつんざくブレーキ音が交差点に響きわたった。とともにドン、ドン、ドンと鈍い音。
ま、まさかと人々が目をやれば、横断歩道中央に大型トラックと倒れた三人の若者の姿。
血に染まった野球のユニフォーム。そのひとりの腕の中から仔犬が無邪気に駆け出した。
あわれ、仔犬を守ろうと球児たちの尊い生命が奪われようとは。

「おい、マーくん、ケント、頭の上に輪っか、乗ってるぞ。背中に白い翼も」
「チョンボ、おまえもだぞ。てことは、オレたち死んじゃったんだ」
「野球のユニフォームの天使姿ってサマになんないなぁ」
すると、上方より幾筋もの金色の光とともに清らかな天使の調べが降りそそいだ。
♪野球す~るなら~、こ~ゆ~具合にしやしゃんせ♪アウトッ、セーフッ、ワワンのワン!
ワワンのワン?
現れ出でたのは、一匹の犬。犬は犬でも神社の狛犬そっくりだ。
「あんさんたち、実に殊勝やったで。さすがは球児や」
「こ、狛犬がしゃべった!」
「わては狛犬やない。野球の神さん、野球犬や」
「野球犬?」
「そや。あんさんたちの行為にえろう感動してな。あんさんたちの望み、なんでもかなえたる。さ、マーくんから言うてみ」
「ボクたち三人、生き返らせてください」
「お、そう来たか。我が身のみならず仲間も。ええやないかマーくん、さすがは球児や。願いかなえまひょ」
狛犬がそう言うと、マーくんの姿が消えた。
「さ、お次はケントはんの番や」
「ボクたちのチームを甲子園に出場させてください」
「甲子園出場が唯一の夢?ええやないか、さすが球児や。その願い、かなえまひょ」
ケントの姿も消えた。
「最後はチョンボはん、あんたや。願いごとを言うてみ」
「あの、ボク、天国でかまいません」
「ここにおってかまへん。けど、ここにおんのは願わなくてもすむことや。また聞きに来るさかい、願いごと、考えときなはれ」
再び金色の光溢れ、狛犬の姿が消えた。

キキッキキ~~~!!
耳をつんざくブレーキ音。とともにドンと鈍い音。
「チョンボー!」
マーくん、ケントの悲痛な声。横断歩道中央に大型トラックと倒れたひとりの若者の姿。

三ヶ月後。
「いや~、うちのチーム、まさかホントに甲子園出場しちゃうなんてなぁ」
「強いのなんの、ピッチャーは160キロ剛速球。バッター全員、打率ドカベン並み。予選全試合完全試合のコールドだもん」

天国。
「チョンボはん、そろそろ願いごと、決めたやろな?」
「ここの暮らしに不満なんてありません。でもひとつだけ。ひとりだとキャッチボールができないのが残念で。マーくんとケントにこっちに来てもらえると助かるなぁ」
「天国でもキャッチボールとは。さすがは球児や。その願い、かなえまひょ」

 

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イミグラント

2012年06月18日 | 366日ショートショート

6月18日『海外移住の日』のショートショート



遥か宇宙、ペコリンコ星人の外宇宙管理局。タコそっくりの局長が数本の触手で頭を抱えていた。
「で?そいつの記憶はちゃんと消えてなかったのか?」
銀河系担当官は、きっぱりと否定した。
「これはただの偶然かと」
局長が茹でダコみたいになった。
「んなわけないだろ、このタコ!計画がおじゃんになる前に、そいつを処分してしまえ」
「おじゃんになりますかねぇ。地球侵略計画」
「なってからでは遅い。われわれの存在を公にさせるな」
「公って言っても、ネットに過ぎません。アクセスなんて数が知れてますし、誰も真実だと思いませんよ」
担当官の弁にも一理ある。偶然の可能性は高いし、看過して支障ないかもしれない。
数十年前、銀河系探査中に太陽系第三惑星が発見された。
早速、地球侵略計画が立てられた。
地球人になりすましたペコリンコ星人を大量に地球に送り込んで、なしくずしにペコリンコ星人の星にしちゃうぞ作戦である。
地球人たちに決して気づかれないために、まず移民たちは人間と同じに肉体を改造された。
念には念を入れて、移民たちからペコリンコ星の記憶一切が消された。
機が熟すまでの間、つまりモノホンの人類の数をペコリンコ星人の数が凌駕するまで、移民たちは自分たちが人類だと信じ切って生活しているはずだったのだ。
ところが、侵略計画の秘密を、今まさに世間に公表しようとしている移民がいるのだ。
「誰も信じませんって。しばらく様子を見てみましょう」
担当官の言葉に、局長が渋々うなずいた。

ま、こんな感じかな。
そう呟くと、矢菱虎犇は『ブログ記事編集画面』の『投稿する』ボタンをクリックした。
間もなく画面が切り替わり、『投稿が完了しました』の文字。
一応、確認!っと、『ブログを見る』をクリック。
今、投稿したばかりのショートショート『イミグラント』を読み直した。
ん~、今回のお話、オチがないぞ。こんなの、なんで書いちゃったんだ?

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未来警察

2012年06月17日 | 366日ショートショート

6月17日『おまわりさんの日』のショートショート



クソ~うっせえなぁ。こんな朝っぱらから誰だよ、まったく。

アパートの出入り口を開けたら、ゲゲッ、警官が数人立ってえじゃねえか!なんだ、なんだ?
「シロタカブオさんですね?」
「おう。オレにマッポがなんの用でえ?おたくらの世話になるようなマネしてねえぜ」
「ええ、今のところは。少々込み入った話でして。中で聞いてもらえますか?」
オレの部屋にぞろぞろ警官が上がり込んだ。
早速、いちばん上司らしい年配が切り出した。
「単刀直入に申しあげます。今から48時間後に貴方は殺人事件を起こします。結果35年の禁固刑を受けることになる」
「なんでいそりゃ?なんで明後日のことがわかんだよ?」
「我々は未来警察。未来の犯罪をキャッチして未然に防ぐための国家プロジェクトなのです」
「んなことできるわけねえだろ」
「そう言い切れます?こちらの面々でも?」
若い警官が端末のディスプレイに次々と人物を映し出す。テレビや雑誌でお目にかかったことのある顔、顔、顔。
「御存知でしょう?日本屈指の有名占い師の皆さんを結集しました。予想的中間違いありません」
ウ~ム、こんだけの奴らが口をそろえて言うんなら間違いないかも・・・
「で?予想どおりだとして、オレにどうしろと?」
「身柄を拘束するという手もありますが、それでは抜本的な解決にはなりません。そこでシロタさんに更生手術をおすすめします」
「更生手術?」
「ハイ。費用一切を国が負担します。痛みもありません。犯罪を引き起こす攻撃性にだけ修正を加えるのです」
「じゃ、オレは元のオレのままなんだな?記憶も意識もそのまんま?」
「もちろんです。おまけに術後は特別年金が支給されます。潜在的犯罪者を消すことで社会貢献したわけですから。いいことずくめでしょ?」
ムショ暮らしで人生の大半を棒に振るか、悠々自適の年金暮らしか。悩むまでのこたぁねえか。
「その手術、受けてやるよ」
・・・
「で、いかがでした?シロダさん、手術を受けてみて」
「そうですねえ。痛くもなんともなくて、アレ?終わったの?って感じでしたあ。でもね、手術後は誠に気分爽快。毎日が幸福感に満ち満ちてるんだよなぁ。ボクはボクのまんまだし。もっと早くに手術しとけばよかった~」
「ありがとうございました。シロタカブオさんと間違われて手術してしまったシロダカズオさんでさえ大満足!犯罪予備軍の皆さんも、そうでない皆さんも、更生手術、いかがですか?」

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ケーブルテレビ

2012年06月16日 | 366日ショートショート

6月16日『ケーブルテレビの日』のショートショート



「殿様ぁ、行くぞ、熱血~!」
懐かしのTVチャンネルで『ダンディ2華麗な冒険』を楽しんでいたら電話が鳴った。
ボリュームをミュートにして、電話に出る。
「こちらケーブルTV局です。御利用ありがとうございます」
「こないだ地上波がデジタル化したじゃん?十分な画質で見ることができるようになって、ケーブルTVのメリット感じなくなったんだよな。解約手続き、教えてよ」
「お客様ぁ、アンテナ受信だと、画像にブロックノイズが入ったり、画面真っ暗になって『受信信号が低下しています』なんて表示が出たりして大変ですよ。ケーブルだとそんなトラブルはなしです」
「でもアンテナだと近隣他県の放送局も見れちゃったりするんだよなぁ」
「そのかわりケーブルだと、衛星放送とか、懐かしのTVチャンネルとか、オプションで思いのままに増やせますよ~」
「そこだよ。アンテナだと最初に屋根に立てる初期投資でメンテナンスはほぼ不要じゃん。でもケーブルって月々の基本料金がかかるし、さらにオプションを付けたら加算されていくじゃない?結局、高い金使っちまうんだよ」
「いえいえ、ネットや電話もケーブルサービスで統一していただくと、割安になるんですよ~」
『ダンディ2』が終わった。これでシリーズ全作終了。もうこれでケーブルTVに未練はない。
「さらに、うちは地域密着型のチャンネルも充実しておりまして・・・」
「決めました。やめます。ケーブルTV」
「え?基本放送も全部?」
「ケーブルからの受信、一切やめます。ハイ、これ決定!」
「・・・わかりました。御利用ありがとうございました」
次の瞬間、目の前が真っ暗に。
え?どゆこと?
目を開くと、見馴れたアパートの一室は姿を消していた。
ボクの周囲には、六角形に仕切られた部屋が並んでいる。果てしなく、果てしなく。ハチの巣そっくりだ。
隣もまたその隣も、各部屋にブヨブヨした白い人間が入っている。手足が退化してハチの子そっくりだ。
そして、ボクもそのひとりに過ぎない。
慌てて、ライフライン回線を通じて、ケーブルTV会社に再契約を申し込んだ。
「御利用ありがとうございます。ああ、さきほどの。それで、つなぎます?もっとはずします?」
・・・もっとはずせる?
・・・もっとはずしたら、いったいナニ? 

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