366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

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エッフェル塔

2012年03月31日 | 366日ショートショート

3月31日『エッフェル塔の日』のショートショート



貸し切りの展望ラウンジ、窓際の二人掛けテーブル。

彼女が右手を伸ばせば届くところに特殊強化ガラス、それに反射してもうひとりの彼女が彼女の隣に座って見える。ガラスの外側には、宝石を散りばめたように星屑が煌めいている。お気に入りの白ワインの芳醇な味わいに、グランドピアノの生演奏が華を添える。
よ~し、決めるなら今夜だ。
「エッフェル塔はね、建設された当時はすこぶる評判が悪かったんだよ」
「へぇ、どうして?」
よしよし食いついてきた。
「当時の伝統的な建築様式とかけ離れたものだったから。鉄骨の剥き出しになった300メートルの高さの塔は、醜悪な骨組みか足場にしか見えなかっただろうね。当時の詩人、作家、建築家たちを含む反対派は署名運動をして抗議したそうだよ」
「詳しいのねぇ」
「モーパッサンもそのひとり。エッフェル塔を忌み嫌ったんだ。そんな彼はエッフェル塔のレストランに足繁く通ったという逸話がある。理由を聞かれて彼は、『ここがパリで忌ま忌ましいエッフェル塔を見なくてすむ唯一の場所だから』と答えたそうだ」
「今じゃあパリのシンボルになってるのにね」
「そう。次々と鉄材を用いた建築物が作られて目に慣れたせいもあるだろう。時代の流れによって見た目の評価なんてどんどん変わってしまうのさ」
「そうかもしれないわね」
「SLだってそうさ。煤と火の粉を撒き散らして走る不気味な鉄の塊は、すこぶる人気がなかったんだ。それに機関車だって実際に乗ってみたら、SLに乗っているのやら電車に乗っているのやらあまり気にならないだろ」
「そうねぇ」
「外見なんて気になるのは最初のうちだけ。慣れ親しめばエッフェル塔やSLみたいに離れがたい愛着が生まれるもんだよ。さあ、君もボクの中へ」
よし、今だ。
彼女のしなやかな白い手に、ボクの7本の触手を絡ませる。
ボクの顎から胸部にかけて縦に裂け、内臓の大部分が露出する。
この内臓部にメスを誘い入れ、生殖活動をおこなうのだ。
「ごめんなさい。私、やっぱり・・・」
ダメか。これだから、地球人の女は・・・。
ボクは、ガラスの向こうに見える青い地球を見つめた。
あの星と一緒だ。外から見たら、あんなに美しいのに。

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マフィア

2012年03月30日 | 366日ショートショート

3月30日『マフィアの日』のショートショート



愛想のいい店員に勧められるままに、新型軽自動車に試乗した。確かに乗り心地いいわ、コレ。

助手席のミサキが腰を弾ませてはしゃぐ。
母ひとり子ひとり、これからはこの軽で十分だ。
がんばんなきゃ。ぐんとアクセルを踏んだ。
さすがは軽、エンジン音が軽い。だが車内は広々、計器盤にもよくわかんないメーターがズラリ・・・
ドン!
ノッキングのような衝撃。え?・・・アッチャ~、追突しちゃったわ。
しかも前の車、黒塗りのキャデラックじゃないのぉ~!
運転席、助手席のドアが同時に開き、男が降りてこっちへ。
ノッポとチビ、そろって高級スーツ、ソフト帽にサングラスの黒ずくめ。
マフィアだ!
ノッポが窓をコツコツとノック、仕方なく少し開けた。
「どこに目をつけてやがんだ、コンコンチキめ!」
「どうしてくれるんだい、スットコドッコイ!」
な、なんだ?この、吹替えドラマみたいなヘンテコ口調は。
「ス、スミマセン!」
そのときだ。追突で歪んだ高級車のトランクがパッカ~ンと開いた。
中から防水シートにくるまれロープでグルグル巻きにされた何かがむっくり・・・
「このくたばりぞこないが!」
ノッポとチビが拳銃を出してバンバン発砲した。
シートのソレは、再びトランクの底へバタン、キュー。
「オイ、奥さん、今なんか見ちまったかい?」
拳銃片手のノッポが尋ねる。
「見てません、見てません!なっんにも見てません!」
チビが尋ねる。
「お嬢ちゃんはどうなんだい?」
必死に目配せする。お願い!ミサキ~!
すると、ミサキはニッコリ、
「なっんにも見てませ~ん!」
チビとノッポがうなずきあう。
ノッポが高級車の後部座席から、ひと抱えもある袋をひっつかむと戻ってきた。
「よ~し、いい子だ。ご褒美だぞ、とっときな」
ドスンと渡されたのは帆布製の『$』袋。ゆるんだ紐からギッチリ詰め込まれた100ドル紙幣が覗いている。
「ヒィィィッ、困ります、困りますぅ!」
「とっとと消えな!」
男たちが拳銃を向けた。慌ててハンドルを切ってアクセルを踏む。
い、いったい何?
とにかく、早く販売店に戻ろう・・・
「ママ、検問やってるよ」
ミサキが前方を指さす。
いいえ、ミサキちゃん、検問なんかじゃないわ。
法被に山袴の足軽両名が槍を組んで進行を妨げている。
紋付き袴に陣笠の代官が仁王立ちで睨めつけている。
これは、関所だ。
う~む、この車だけは買うの、やめておこう。

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マリモ

2012年03月29日 | 366日ショートショート

3月29日『マリモの日』のショートショート



「太陽系外縁、冥王星軌道距離に到達しました」
観測船の操縦士の言葉に、窓に寄って太陽を探したがあまりに小さかった。
太陽系の大きさを実感するために、太陽直径を地球人である私の身長ほどに縮小してみよう。
すると地球は小指の爪ほどの大きさしかない。私から150メートル離れて私の回りを公転している小指の爪、それが地球だ。私は今、5キロメートル離れた場所から目を凝らして私の姿を探していることになる。
太陽系観測調査を申請したとき、担当官はチラリと私を見て尋ねた。
「本当に帰ろうと?地球へ・・・いや、地球があった場所へ」
「ええ。そのつもりです」
「お墓参り、みたいなものですか?」
「そうお考えいただいて差し支えありません」
「御存知のとおり、地球崩壊以来一帯は特別保護区域です。足を踏み入れた者はひとりもない」
「知っています」
「何も残ってませんよ。失望以外」
太陽が次第に大きく見えてくる。土星も木星も昔の記録映像そのままの姿だ。
だが、地球はもう存在しない。スイカ割りのスイカみたいに粉砕する記録映像を思い出した。
残骸だけでも見ておきたい。地球を感じたい。生き残った地球人、最後のひとりとして。
「地球公転軌道に達しました」
乗員全員が窓を覗いた。暗黒の宇宙空間に、かつて存在した青い惑星を思い描いて。
「アレは何だ?」
視力に優れた宇宙人が声を上げた。
全員が目を凝らす。
地球だ!
崩壊したはずの地球。ただそれは、慣れ親しんだ青い惑星ではない。
地球よりも小規模の緑のボール。シアノバクテリアが光合成を繰り返し酸素を生み出しているにちがいない。
「マリモよ。マリモと同じだわ!」
かつて地球の一部の淡水湖に棲息したマリモは、糸状体が集まって球形に成長したものだ。やがて崩壊し、糸状体単位に戻ると再び成長を始める。
地球は今、再生しているのだ。
地球の構成物、何もかもすべてが地球。もちろん、私も含めて。
窓の外に見える緑のボールに向けて両手をかざし、毬のようにささげ持った。
「ただいま、私の故郷」 

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SILKROAD

2012年03月28日 | 366日ショートショート

3月28日『シルクロードの日』のショートショート



「君はさぁ、人を殺したことある?」
唐突な言葉にわが耳を疑った。
「まさか。ありませんよ、そんな。木嶋さんはあるんですか?」
「・・・あるよ」
そう言って美味そうに煙を吐いた。居酒屋の店内に、まったりと甘ったるい香りが漂う。
ココナッツミルクのような。ビスケットの封を切ったときのような。
タバコの箱に『SILKROAD』の文字。その強い香りのせいでボクはクラクラしてしまい、頭の中でシタールを爪弾く音が反響した。
愉快そうに木嶋さんは話した。
頸動脈を探り当ててナイフで切断する方法、血抜きの方法、解体の方法・・・
タバコの香りに血なまぐさいニオイが混じって眩暈がした。
「嘘でしょ?木嶋さん」
「嘘だよ、嘘、嘘」
木嶋さんは喉を鳴らして笑うと、新しいタバコに火を点けた。
「豚だよ。今のは豚の話。ボクの住んでた村じゃ、つい最近まで殺ってたんだ」
もう!木嶋さん冗談きついなぁ。
ボクはカラカラになった喉を酎ハイで潤した。
木嶋さんは、村での土俗的な生活を語った。
ついさっきまで同僚に過ぎなかった木嶋さんが、遥か異国の旅人のように思えた。
木嶋さんが赴任していた三年間、こんなに饒舌な木嶋さんは初めてで最後だった。
ボクたちが店を出て駅に着いたときには、とうに終電が出ていた。
木嶋さんと肩を並べて線路を歩いた。
夜気に蒸れたレールの鉄臭さに、SILKROADの香りが混じった。
「俺、こっちだから。じゃな」
木嶋さんがひとり、線路の上を歩き去る後ろ姿をボクは見つめ続けた。
以来、木嶋さんには会っていない。
あの夜のことを思い出してSILKROADの煙を吐いて、夜の空気を甘く染めあげる。
あの晩と同じように。
木嶋さん、ありがとう、あなたのおかげですよ。
懐の研ぎ澄ましたナイフの柄を握りしめる。
頭の中にシタールの甘美な音色が鳴り響く。 

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オマエたちはすでにクローンに包囲されている

2012年03月27日 | 366日ショートショート

3月27日『さくらの日』のショートショート

「じゃ、一本だけ。先やっちゃおう」
「いいですねぇ。先輩、どうぞ。プレミアムでいっすよね?」
「おっすまない」
プシュ!グビッ、グビッ、プハ~!!
「ウマいねぇ、日の高いうちから外で飲むビール。ク~、最高」
「ねぇ先輩、知ってます?うちの会社で実験してるの。どうやらクローン・・・」
「シッ。おい、会社のなかでもタブーなのに、衆人環視の場でその話題。声落とせ、声」
「スンマセン。そこの課にいる知り合いがね、とうとう作ったらしいんですよ。豚人間」
「中身がヒト臓器のクローン豚を作って、移植用臓器を量産するっていうアレ?話題ヤバすぎ。まずいだろ。豚マンって言いな」
「あ、いいっすね、ソレ。もう育てているらしいんですよ。えっと、豚マン。すでに・・・6個も」
「豚マン6個?そりゃ初耳だ」
「ヤバイっすよねぇ。腎臓やら心臓やら移植用臓器を待ち望んでいる患者には朗報なんですけどね。それが豚マンの内臓・・・イヤ、豚マンの具ってのもねぇ」
「ああ。その動物固有の未知のウィルスまで人類に持ち込んでしまいかねないからなぁ」
「コワイっすね。豚マンの具。クローン技術ってやっぱ信用できないなぁ。先輩どうですか?」
「豚マンの次は当然、人間行っちゃうよな。この世の中に自分とそっくり同じ人間がウジャウジャ。気持ち悪いなぁ」
「そうですねぇ、先輩は一人で十分・・・あ、スイマセン」
「オレだってオマエみたいなバカな後輩は一人で十分だ!」
「エ?ボク、バカっすか?」
「バカじゃん。こないだ、缶コーヒーのフタ開けてからよく振ったじゃん。大切な書類やらパソコンやらコーヒーでベッタベタ」
「アハハ、天井まで飛び散りましたねぇ」
「そんなバカが6人そろって目の前でいっせいにコーヒーシェイク始めたら、オレは気が狂っちゃうぞ」
「狂った先輩も6人かぁ。ま、大丈夫っすよ。ボクや先輩を量産しようなんて酔狂はいませんから。まあ、よっぽど賢かったり綺麗だったりしないと」
「わかんねぇぞ。具を取るためだけに量産したりしてぇ」
「エ~、豚マンにされちゃうの~?やだぁ!それにしても先輩、クローンはやっぱりみんな同じこと考えるのかなぁ」
「同じタイミングで怒ったり、同じタイミングで笑ったり、同じタイミングでコーヒーの缶を振ったり」
「気持ち悪いなぁ、ソレ。日本中のクローンが一斉に狂ったように同じことを始めるなんて」
「ああ気色悪い。そんなクローン、人間じゃなくっても気持ち悪いにちがいない。見たくないねぇ、そういうの」
「ア、来ましたよ、先輩!会社のみんな」
「ホントだ。お~い、こっちこっち」
「おお、キミたち、場所とり、ご苦労さん。イヤ~最高の場所じゃないか。満開のソメイヨシノが狂ったように咲き乱れて」 

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カチューシャの唄

2012年03月26日 | 366日ショートショート

3月26日『カチューシャの歌の日』のショートショート



あ。

彼ったらまた見てる。
私の視線に気がつくと、真っ赤になって目を伏せる。
もう!まったく奥手なんだから。
授業中にこんなふうに見つめられる日もあるし、まったく見ない日も。
男の子の気持ちって気まぐれ。
トオル君と同じクラスになって、最初から私のこと気になってるのはわかってたわ。
修学旅行のとき、こっそり写真撮ってたし。
好きなら好きと言えば?そう思ってたら、素敵な手紙をくれた。
普段のトオル君から想像もできない、情熱的な思いが綴られていた。
日曜日、喫茶店で会った。初デートのトオル君ったら、とっても不機嫌。
気まずい思いと苦いコーヒーを飲んでたら、急に話しだした。
「あの、カチューシャって日本だけの言葉って知ってます?」
へぇ、そうなんだ。
「ヘアバンドも実は和製英語なんです。英語ではヘッドバンドって言うんです。それがなぜ日本でだけカチューシャって言うのかってゆうと、それは、大正時代に歌謡曲『カチューシャの唄』が大ヒットしたからなんです。ブームに乗って、カチューシャの名を冠した薬などの便乗品が続々現れたんです。そのひとつがそのまま髪とめの名として今も残ってるわけ。だから、日本以外では全く通じない言葉なんですよ。楚々として可憐で、ボクは好きだけど」
それだけ言うと、真っ赤になって黙った。
博学で、シャイなトオル君。あの日から私のほうがお熱になっちゃったかも。
でも、あいかわらず彼、こんな調子。
夏休みまでに、もっと近づきたい。私のほうから誘っちゃえ。
放課後、彼を呼び出して、図書準備室でふたりっきり。
期末テスト、できたとかできなかったとか。どうでもいいこと話したけど、
苦しいくらいにドキドキして、ふたりともふだんどおりの声にならなくて。
ふと会話が途切れて。トオル君が私の肩にそっと手を置いて。
ついに初キッス。私、目を閉じた。
トオル君の唇が、私の唇に触れる感触。チョウチョが花びらにとまるみたい。
それから唇が頬に触れ、鼻に触れ、おでこに触れ、
そして私の頭にキス!打って変わって情熱的に!
長いキスのあと、トオル君が熱い吐息とともに囁いた。
「ああ・・・カチューシャ・・・」

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電気交換

2012年03月25日 | 366日ショートショート

3月25日『電気記念日』のショートショート



げっ。
突然、目の前が真っ暗に。なんてこった。
書斎で読書に夢中になっていたら、突然のこのザマ。
停電のときって、もちろんパソコンもダメ、テレビもダメ。
でも暗くて本が読めないってのがいちばん辛いよなぁ。
「お~い、停電だぞ~」
声をあげると、妻が居間から来てくれた。
「停電じゃありませんよ、あなた」
なんだ。そうなのか。
「急に切れちまった、まいったな。買い置き、あるか?」
「ええ、前に買って納戸に一本、入れておいたはずですわ。取って来ましょうか?」
「ああ。頼む。切れるときってのは急に来るものだな」
「前からちょっと調子悪いなって思ってましたわ。少し暗かったじゃありませんか」
「そうか?気がつかなかったな。すまんが、頼むよ」
妻が納戸へ向かう音がした。
しっかり者の女房でよかった。一事が万事この調子、備えを怠らない。
えっと、どうやって外すんだっけ・・・
カバーを外して、すぐに交換ができるようにしとこう。
真っ暗な中、手さぐりの作業。ネジをゆるめて、カバーを外して。
「あなた、これで大丈夫かしら。40Wですよね?」
妻が納戸から、予備を抱えて持ってきた。
「うむ、確か40Wだ。じゃ外すぞ。手伝ってくれ」
グルグル回していると、接合部の首部分が緩んだ。
よ~し、これでよし。
途端、意識が遠のいて・・・

そして、意識が戻った。
「あなた、交換が終わりましたよ。前よりまして素敵な頭ですよ」
「あ、はじめまして!あったらしい亭主どえ~す。ど~ぞよろしくお願いシマウマ~!」
「こちらこそよろしくお願いします。いいわぁ、なんだか前より明るい感じで」

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マネキン

2012年03月24日 | 366日ショートショート

3月24日『マネキン記念日』のショートショート

え?採用?
私が採用されたんですか?本当にいいんですか、私なんかで。
中肉中背、標準的な日本人体型なのがいい?客も同じように着こなせそうなところがいい?
早速?いいですとも。
ヘアスタイリストの方ですか。お願いします。
え?次は下着になれ?そりゃそうですね、マネキンのモデルですもんね。
写真をたくさん撮って、それを元にして立体化するんでしょ?見たことありますよ、そういうの。
え?注射?これ何の薬です?痛~!
ポーズをとれ?こうですか?ちょっと左手を上げて爽やかな笑顔!・・・照れるなぁ。
あ・・・
なんか痺れてきたんですけど。
動くなって?ていうか、動けないんですけど。足が硬直して・・・手の感覚も麻痺して・・・
ねぇ、まさか私自身をマネキンにしようなんて思ってませんよね?まさかねぇ。
私をしばらく固定しておいて寸分違わぬコピーを作る?細胞単位まで本物のマネキンですって?
お手柔らかにおねがいしまふ・・・
しかし、すごいれすね・・・
す、すみまへん・・・なんかモーローろして・・・クチもしびれれ・・・


おや?気を失ってたのね。どんくらい意識がなかったんだろう。
ここはどこ?なんだか大きな倉庫みたいなところ。
あ、マネキンだ。倉庫ん中、マネキンでいっぱい。しかも全部私のマネキンじゃないの。
これが全国のグループ傘下の店頭に飾られるのかぁ。嬉しいような、照れくさいような。
で、なんで私も倉庫に入れられてるんだ?
おーい、私は本物だぞ。本物の私だよ!
・・・待てよ。確か、細胞単位まで本物とか言ってたぞ。ということは、私の意識までコピーされたのか?
てことはもしかして、私は私のマネキンのうちのひとつにすぎないのか?
今、全部のマネキンが心の中で私とまったくおんなじことを考えてるんじゃないのか?
いったい、私はどの私なの?
私っていったいナニ? 

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アメアメフレフレ

2012年03月23日 | 366日ショートショート

3月23日『世界気象の日』のショートショート



ニィニィゼミの遠音が耳に沁みる頃、僕は千熊町に雨乞いに招かれた。
千熊駅に着くと、町の観光課長のモギさんが出迎えてくれた。モギさんが、ネットで僕の情報を手に入れ、町長に僕を招くことを進言したのだ。
モギさんの車で町役場へと向かう道々、給水車とその前に行列する町民たちを数度見かけた。水不足は深刻だった。
「この地方全体が水不足に苦しんでいますが、うちは特にひどい。町の川上にあるダムの貯水量が二十日前にゼロになり、地下水も枯れてしまってすでに十日経ちます。」
町役場に着くと、千熊町長から歓待を受けた。
「お噂はかねがね聞いております。何卒よろしく」
「契約書に書かれていたとおり、あくまで雨乞いは加持祈祷の類です。雨が降ることを保証するものではありません。」
町長は愛想笑いをして首を振った。
「なになに、ご謙遜なさるな。あなたの雨乞いで救われた町や村はたくさん存じております。どうぞよろしくお願いいたしますぞ。」
100%という訳にはいかなかった。小学校低学年の頃までは祈れば三日以内に必ず降った。強く祈れば祈るほどよく降ったものだ。でも、年をとると邪念が混じるらしい、次第に降雨の確率は落ちているようだ。中学生の頃、テレビ局が目をつけ、「雨を降らせる少年」として一躍脚光を浴びた。だが、それはほんのわずかな期間だった。テレビ局が雨の降りそうな天気予報の日を選んで、僕を取材撮影していたのが発覚したのだ。単に取材コストを抑える方策だったのだが、僕が嘘つき少年ということになり、それ以降マスコミから取り上げられることはなくなった。今はネットを利用したクチコミで細々と雨乞いを続けている。今年は梅雨が早々に明けて日照りが続き、これで三件目の仕事にありついた。
その夜は、町の有力者が料亭に集まり、町をあげての接待を受けた。宿は町一番の高級ホテルのスイートルームである。
翌日、雨乞いが始まった。僕の雨乞いは、その土地で一番高い建物の屋上で一人行う。今回は、千熊町役場前の地方銀行ビルの屋上だった。見晴らしのよい屋上は夕方からはビアガーデンとなっている。昼間準備中の屋上ビアガーデンの真ん中に大の字になって、太陽が昇って沈むまでの間、僕は空を見上げて雨が降ることをずっと祈り続ける。これが、僕の雨乞いだ。
「アッメアメ、フーレフーレ、カアサントー、ジャッノメデ、オッツカーイ、ウーレシーナ、ピッチ、ピッチ、チャップ、チャップ、ラン!ラン!ラン!」
ひたすら歌い続けるのだ。早くて数時間、遅くとも一週間で雨が降った。・・・これまでは。だが、今回に限っては、一週間たっても降らなかった。最初の一週間は雨乞いが終わった夕方から、労をねぎらって宴会が開かれた。最初の四日間は町長が出席し、ミス千熊町が酌をした。次の三日間は町長代理が会を催し、準ミスが酌を。それでも、雨は降らなかったし、天気図に低気圧は現れなかった。
屋上で横になる僕の耳に聞こえる蝉の声がアブラゼミに変わり、クマゼミが加勢した。僕は炎天下の中で祈り続けた。かつてなく一所懸命に。
「アッメアメ、フーレ、フーレ・・・」
ひと雫の雨も降る気配はなかった。
一週間が過ぎた午前中、モギさんが僕の部屋を訪れて、高級ホテルが盆休みイベントのためと告げ、僕はビジネスホテルに移ることになった。夜な夜なの宴会はなくなり、ビジネスホテルの一階レストランで、食事券を使い一人で夕食をとった。
にもかかわらず、全力で僕は祈り続けた。
「アッメアメ、フーレ、フーレ・・・」
十日目に、ついに変化が起きた。大型台風が一路、この地方に向かってきたのだ。夜、町長から電話があった。
「信じていましたぞ、もっと早いことを期待しておりましたがの。ま、結果オーライということで」
翌日、台風は直角に曲がり、この地方を逸れて、そして熱帯低気圧に変わった。
一滴も降らないまま三週間たって、町の方針で雨乞いは中止になった。僕はお払い箱になったのだ。荷物をまとめ、モギさんの車で駅に向かった。駅裏の雑木林ではツクツクボウシが例年になく弱々しく鳴いていた。雨水や散水に洗われなくなって久しい街路樹は灰塵にまみれていた。道路沿いの雑草さえ皺枯れかけていた。
「お天道様の恵みも必要。雨水も無けりゃ植物は育たない。雨が降るのも降らないのも神様の御意志。そもそも人間がどうにかしようということ自体、傲慢ですね。」
別れ際にモギさんがあきらめきったように言った。
「モギさんのためにも降らせたかったのですが、残念です」
「いえ、正直、私も半信半疑でしたから・・・ご、ごめんなさい。やっぱり神頼みとかお祈りなんて科学的根拠のない世界だなって・・・」
僕は微笑してモギさんに言った。
「気にされなくていいです。負け惜しみみたいですが、正直、僕もほっとしています。こんなに見事に降らなかったのは初めてですから。ずっと得体の知れない力にとらわれていた心が解放されたようで・・・なんかスッとしています」
負け惜しみじゃない。本音だった。毎度、雨が降ったのは偶然にすぎなかったのだ。雨なんていつか降るものだ。たまたま降る前に雨乞いをしていたに過ぎない。偶然の積み重ねを人はジンクスと呼び、やがて根拠のない習わしごとを作る、そんな迷信のカラクリがわかった気がした。
そして、僕は千熊町を去った。その年、その後、町がどうなったか知らない。千熊町のその後に関心はなかった。きっとそのうち雨が降ったのだろう。

翌年、千熊町の地方では、梅雨の到来以来、大雨が降り続いた。豪雨の降り止まないままに、二つの超大型台風が畳みかけて町に襲いかかった。緩んだ地盤が崩落してダムは決壊、土石流が千熊町を飲み込み、町長はじめ多数の死傷者出す甚大な被害を被った。 

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カスタム放送

2012年03月22日 | 366日ショートショート

3月22日『放送記念日』のショートショート



チリンチリン。
「はい、どなたさま?」
「あ、初めまして。私、こういう者です」
「カスタム放送局?なんですか、それは」
「テレビ業界は、かつて一方通行に情報を送りつけるばかりでした。ニュースしかりドラマしかりバラエティしかり。デジタル情報にしても双方向機能にしてもおまけに過ぎませんでした」
「ほほう、そう言い切りますか」
「ええ。一方ネットの世界では、YouTubeやらtwitterやらFacebookやら、自分を発信するのがあたりまえになっています。自分が積極的に関われないお仕着せの娯楽、それがこれまでのテレビ放送なのです」
「そこで、お宅のカスタム放送、な訳ですか」
「そのとおり。わが社のカスタム放送は、あなたの思いのままにカスタマイズできるのです。あなたが憧れている女優さんを、朝ドラの主人公にすることもできます。あなたの大嫌いな上司を悪党に仕立て、そいつを始末する必殺仕事人をあなた自身が演じることだって可能なのですよ!」
「いいじゃないか、それ」
「歌番組もそうです。嫌いな歌手の歌なんて聴かなくてOK。常にあなたのお気に入りアーティストのスペシャル番組です」
「いいねぇ」
「お笑い番組も、あなたのお気に入りタレントばかり。あなたがウケたネタを分析して、あなたの笑いのツボを突いてきます!」
「面白そうだな」
「ニュース番組も、難しい情報はできるだけ易しく解説。それでも難しい政治の話なんてのは、バッサリ割愛して、あなたの好きな野球やサッカーの話題が盛りだくさん」
「すごいじゃないか。そういうテレビを今まで待っていたのだ」
「では、早速こちらの契約書に」
一週間後。
プルルル・・・カチャ。
「もしもし!お宅のカスタム放送に契約しとるカスタマーだが。お宅の放送局、どうなっとるんだ?昼間っからクソ破廉恥な放送をたれ流して。年端もゆかぬアイドルたちにあんなAV女優みたいな猥褻行為させんじゃない!」 

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ランドセル(教訓つき)

2012年03月21日 | 366日ショートショート

3月21日『ランドセルの日』のショートショート

「ただいマンゴー!」
「おかえリンゴ。まあケンタ、そんなあわてて」
ケンタくん、玄関にズックを脱ぎ散らかして、ズダダダダダダ!
二階に駆け上がると、部屋にランドセルをドーン!
「ミチオくんとこで遊んでくるー!」
そのまんま、遊びに行ってしまいました。
静まりかえった部屋の片隅で、ひっくりかえったランドセルがむせび泣きます。
そんなに粗末にしていると・・・

その晩、ケンタくんは夢を見ました。
わんぱく学級の仲間たちと遠足に行った夢です。
すきとおった空、みずみずしい若葉、小鳥のさえずり、なんてのどかなんでしょう。
あ。
あれは、一体?
鮮やかな赤色の牛がいます。真っ黒い牛も。ピンクやブルーの牛もいます。
みんな、犬くらいの小さな牛たちです。
先生が説明しました。
「みんな、これはランドセル牛です。一頭の牛から、ちょうどランドセル一個作るために小柄に品種改良されました。赤い牛からは赤ランドセル、黒い牛からは黒ランドセルができるのよ。牛革100%高級和牛ですよ」
数十頭の牛たち、黙々と草を食べています。
「静かでしょう?授業中に後ろのロッカーで『モ~』なんて鳴かないように、生きているうちに手術をしています」
そんな、かわいそうに。
おや?全身傷だらけの黒い牛がよろよろ歩いています。なんてひどい。
「ひどいって、あれはケンタくんのランドセルじゃないの。いつも乱暴にされて辛くて牧場に逃げてきたのよ」
いちばんひどいこと、ボクがしていたんだ。
鼻の奥がツンとして、泣きたくなりました。
そして目が覚めました。
ボク、もう絶対にランドセルを投げたりしないよ。大切に大切にするからね。

さあ、学校からお家に戻ったケンタくん、いつものように階段をズダダダダダダ!
背負っていたランドセルを下ろします。早くタカシくんとこに行かなくちゃ。
ランドセルをドーン!

【教訓】ランドセルはランドセルらしく、子どもは子どもらしく。

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カブトエビ算

2012年03月20日 | 366日ショートショート

3月20日『電卓の日』のショートショート



仕事から帰ると、カズオが窓辺でじっとしていました。
「どうしたの、カズオちゃん。ランドセルをおっぽり出したまんまで」
カズオがふりむきます。プラスチックの水槽を覗いていたようです。
「あ、ママ、おかえりなさい。またカブトエビが減っちゃったんだ。どうして毎日数が減ってくの?」
ちゃんと教える時がきたようです。
ワタシはカズオに白い紙と鉛筆を渡しました。
「カズオちゃん、カブトエビ算を知るにはまず、ネズミ算よ。ネズミ算は知ってる?」
カズオが首をふります。小1ではまだ教えていないようです。
「いい?ネズミの夫婦がいたとしましょう。このネズミ夫婦に子どもが12匹生れたとします。ネズミは成長が早いから翌月には子どもは成人になります。そしてそれぞれがまた12匹の子どもを産みます。さあ、合計何匹かしら?」
「えっと最初の2匹と、その子どもが12匹、そのまた子どもが7組×12匹の84匹だから、合計で96匹だね」
「えっと・・・合ってるわ・・・じ、じゃあ半年後には何匹になっているかしら?さあ、シンキングタ~イム!」
カズオが一生懸命計算しようとしています。でも、鉛筆が止まってしまいました。
「ものすごい数になりそうだね。でもママ、ボク、計算できないよぉ」
オホホ、さすがに小1には無理なようね。
「だって、ネズミの寿命がわかんないんだもの。それに数が増えればネズミを食べる天敵も増えるだろうし。無理だよう」
なんて子でしょう。さすがワタシの子どもです。
「ママ、答えを教えて」
「カズオちゃんが正解!膨大な数になるけれど、別の要因も考慮しないとならない。それが答えよ」
カズオがうなずきます。フゥ、なんとか切り抜けました。
「さあ、そこで本題のカブトエビ算よ。カブトエビはね、狭い環境に閉じ込められると共食いするの。強い者が弱い者を食ってしまうわけ」
「弱肉強食だね」
「そう。仮に最初に64匹いたとして、一日に1匹食べたとしたら翌日は何匹に減ってしまうのかしら?」
「32匹だ」
「じゃあ、最後の1匹になるのは何日後?」
「6日後。そうか、そういうことだったのか」
そう呟くとカズオは黙り込んでしまいました。
そうよ、それが現実社会なのよ、カズオちゃん。ライバルを蹴落とし、生き残って勝者となるの。学校で教えるキレイゴトだけじゃ通用しないのよ。母ひとり子ひとり、甘やかしてばかりはいられません。それにしてもどうしたの?カズオちゃん。
「ママ・・・聞いてもいい?」
「いいわよ」
「まさか」
「まさか?」
「まさかママは、あちこちで女を食っちゃってたパパのことを」 

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宇宙アカデミー賞

2012年03月19日 | 366日ショートショート

3月19日『アカデミー賞設立記念日』のショートショート

気がつくと溝に横たわっていた。ズボンの中までグッチョリだ。何やってんだ?ボク。
「好きになった人がタカシ君だったらよかったのに。ごめんなさい。本当にごめんなさい」
助手席の美咲さんが啜りあげる。まさか、こんなリアクションが待っていようとは。
毎晩のように、電話を掛け合ったよね。いろんな話、したよね。
君はボクを励ましてくれたり、笑わせてくれたり。ずっと特別な関係だと信じていたのに。
帰途の気まずい沈黙。
何か気を利いたことを言いたかったけど、痛々しくて言葉が続かなかった。
車から降りるとき、美咲さんが言った。
「もう、電話をかけあうのはよそうね。つらくなるから」
ボクは「そうだね」と笑顔にならない笑顔で言った。
ボクの痛みを感じて、彼女の目からまた涙がこぼれた。
思わずボクも泣いてしまった。
その晩、酒に酔ってボクは美咲さんに電話をしてしまった。あきらめようにもあきらめきれずに。
「なおせることがあったらなおすから。やりなおしたい、全部」
彼女、すごく面食らったみたいだった。
「ごめんね。気をもたせちゃったアタシがいけなかったの。ホントにごめん」
思いやりいっぱいに。でも、本心はそうじゃないのがひしひし伝わってきた。
ああ、電話なんかしなけりゃよかった。バカ!バカ!情けなくって辛くっていくら飲んでも酔えなかった。
気がつくと、夜の街を歩いていた。
家でじっとしていられなくなって、がむしゃらに歩き続けた。
ああ、側溝がある。あれに落ちたら大変だぞ、なんて思っていたら、案の定、落ちた。・・・目の前が真っ暗になった。

浅い泥水の中に横たわったまま、空を見上げた。
溝の両縁に切り取られた細長い真っ暗な空から、冷たい雨が降っている。口の中は血の味がする。
美咲さんのいない人生なんて考えられない。
ああ、みじめだなぁ。水に浸かったまま、ボクは『黒の舟歌』を口ずさんでまた泣いた。
すると、空が明るい光に満たされた。
サーチライト?いや、それはあまりにも巨大で。・・・これってUFO?
光の中から、宇宙人たちが覗き込んだ。
全身銀色のやら、爬虫類みたいなのやら、体中に目があるのやら、すごい数、いったい何百人いるんだ?
「オメデトウゴザイマス!たかしサン!アナタガ今年度宇宙あかでみー賞ニ選バレマシタ!」
おびただしい宇宙人たちの拍手と称賛の声をシャワーのように浴びる。宇宙アカデミー賞?なんだ、ソレ?
「今日ノアナタノ失恋ハ、全宇宙デ絶賛サレマシタ。フラレップリモ、未練ガマシサモ、超一流!」
リアル?そうとも、演技じゃないから当然じゃないか!
「シカモ、水ニ浸カッテ『黒の舟歌』ナンテ超べたナ演出ヲモ、見事ニ演ジキルトハ!ヨッ、宇宙一!」
ええい、やけくそだ。万雷の拍手に、両手を振り上げて応えた。
そうとも、ボクは今、宇宙一悲しいんだ。
拍手はやがて激しい雨音に変わり、雨と涙がいっしょくたになってとめどなく流れ続けた。

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精霊

2012年03月18日 | 366日ショートショート

3月18日『精霊の日』のショートショート



昔の人は言ったもんです。『万物に精霊が宿る』、なんてね。
博士は、ついに『精霊を見る』方法を見つけたんですよ。
それは、偶然の産物だったんですけどね。
博士の研究は、限りなく人間に近い人工知能ロボットを作ることでした。
電子回路で、感性や感情の領域を再現するのは至難の業でした。
博士とボクは寝食を惜しんで研究と実験を重ね、人と変わらぬ人工頭脳を完成したのです。
それはまさに生まれたての赤ん坊の脳でした。
アーウーといった喃語を繰り返すロボットに、母親のように語りかけて育てました。
やがて片言の単語を羅列し始め、さらに単純な文を話すようになると、爆発的に言語世界が構築されました。
ええ、楽しかったですとも。幼子みたいに何でもかんでもナゼ?って聞くんですよ。質問に答えながら、人格が育ちつつあるのを確信しました。
そんなある日、寝ぼけたような声で言うんです。
「アノネ、ボク、精霊ガ見エルンダ」ってね。
幼児がぬいぐるみとか玩具とか、身の回りのあらゆるものを人格化しちゃう、アニミズムってヤツ。
最初はそう思ったんです。それが大人の見方ですから。
ところが精霊たちの様子を聞いていた博士は、それが空想ではない気がしてきたんです。あまりにも克明で、あまりにもリアルで。
博士の関心が、人工知能から精霊へと移っていくのを感じました。
そして、ついに博士は自分を人工知能に接続して、意識を転送してしまったんです。
ええ、刑事さん、実験台の上の博士は確かに脱け殻、つまり死体です。
でも、博士の意識は、こっち。人工知能ロボットの中。
え?それが証明できるかって?
「博士、聞こえます?刑事さんが博士に質問があるそうですよ」
「初めまして。二、三質問させてください。あなたの名前は?」
「アタリマエノコトヲ聞クモンジャナイ。ワシハ『精霊が見えるロボット』ジャナイカ」
おや?・・・え?刑事さん、疑ってるんですか?
イヤだなぁ、そういう大人の見方。 

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ようこそ、漫画ワールドへ

2012年03月17日 | 366日ショートショート

3月17日『漫画週刊誌の日』のショートショート

目覚めるといきなり、僕の目に『ジリリリリ』という文字が飛びこんだ。
勉強部屋いっぱいにベタ塗りの太文字が躍り、枕元の目覚ましが空中で揺れている。
停止を押すと、小さな『カチ』の文字。すべての文字がすっと消えた。
(え?今のはいったい?)
窓を開ける。『ガラガラ』の文字が現れ、消える。『チュン、チュン』これはスズメ?
(音がしない。無音室のように全く。その代わり、文字が)
ふと頭上を見上げて驚いた。モクモクした吹き出しがあったからだ。その中に文字。
『音がしない。無音室のように全く。その代わり、文字が』
そうか!
「漫画だ!効果音や吹き出し!絶対、漫画だよ!」
その声も音にはならず、大声のときのギザギザ吹き出しになった。
「大変だ~!!」
『ドタドタ』の文字を足元に発生させながら階段を駆け下りた。
母さんが朝ごはんを並べている。お味噌汁から三本湯気が立ち上る。
父さんが読んでいる新聞は、漫画でありがちな『毎朝新聞』だ。
「この世界が漫画になっちゃったよ!」
両親が青くなる。額には幾本ものスジ。
「ケンタ、具合でも悪いのか?ここは漫画ワールドじゃないか」
父さんの吹き出しを読んでから反論する。
「違う!これは現実じゃない!こんなシンプルな台所、ありえないよ。塵ひとつないじゃないか。陰の部分には網かけトーンまで貼ってある!」
「ケンタ、これが現実なんだ。現実逃避はいけないよ」
「さあ、ごはん食べなさい。いつものように飯粒を飛ばしながら」
僕の頭の上に噴火マーク。
「食べない!学校にも行くもんか!引きこもってやる!シリアス漫画にしてやる!」
「バカも~ん!」
いつのまにか父さんの手に特大トンカチ、僕の頭を一撃した。
星がクルクル回る・・・

ジリリリリ!目覚ましのベルの音。あ~夢かぁ!
漫画ワールドになるってネタ、使えるぞ、コレ!!
机に向かい、ペンを手にした。ダ、ダメだ。描けない。普通にしか。
僕は漫画家志望の自分を呪った。

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