12月25日『クリスマス』のショートショート
ピロロロロ・・・ピロロロロ・・・カチャ
「ハイ、田中シヅですがの」
「あ、田中シヅさんですか?こちら水前寺町立病院外科医、野々村ですぅ。田中シヅさん、年齢77歳、ひとり住まい、携帯あり、自宅から数100メートルに農協のATMあり、性格はいたってお人好し・・・の、田中シヅさんでよろしかったでしょうか?」
「間違いないの。じゃが、よう調べなさったの」
「じゃ、おじいさんと替わります」
「爺さんは去年死んでしもうたが・・・」
「ホー、ホッホッホッ、メリー・クリスマース!!わしゃサンタクロースじゃ。痛っイタタタタタタ・・・昨夜、大変な怪我をしましての」
「どうなさったじゃ?」
「橇で夜間飛行中に、ボーイング747とニアミスしましての。トナカイどもがパニックを起こして散り散りに逃げようとして・・・そのまま真っ逆さまに墜落ですわ」
「そりゃあお気の毒に、お怪我は?」
「手足に骨折3カ所、肋骨にヒビ2カ所、顔中にトナカイの蹄鉄のあと・・・」
「痛いでしょうなぁ」
「そりゃあもう、アイタ!アイタタタタタ・・・野々村先生に替わります」
「あ、おばあちゃん、サンタさん、お金、フィンランド紙幣しか持ってないんですよ。さしあたりの治療費がなくて困っていらっしゃる。力になってあげてくれませんか?」
「いくら要るんですかの?」
「8万・・・いや、10万かな?出していただけますか?」
「ええとも、ええとも、さぞお困りじゃろうて」
「じゃ、今から指示しますんで・・・携帯持って、農協のATMへ着いたら、こちらに電話してください・・・090-333-33・・・」
「それで・・・その10万で帰れるんですかの?フィンランドへ?」
「え、いや、それは、おばあちゃんが心配しなくても・・・」
「怪我も治されて、遠いお国にも帰られんとならん。子供らに夢を与える仕事を無償でなさって、大怪我なさって。ほんに気の毒で悲しゅうなります・・・そうじゃ、爺さんの残した金が33万、通帳にあります。爺さんもきっと喜びます。全部、全部使うてくだされ」
「・・・」
「お金はええことに使わんと・・・ほんに・・・ほんに・・・大変な目に遭われて・・・」
「おばあちゃん、何も泣くことは・・・泣かないで・・・ちょっと待って・・・サンタさんと話を・・・」
「・・・あ、おばあちゃん、お待たせしました。やっぱ8万でいいわ」
「お願いします・・・33万、使ってくだされ」
「いや、8万で頼みますよ・・・でないと・・・俺たち、困るんです」
「そんなこと言わずに、人生最後にこんな善いおこないができるなんて、神様のおはからいじゃて・・・33万使わせてやってくださいませ」
「ちょっと、待って。またサンタさんと・・・」
「・・・何度もすみませんね・・・おばあちゃん、そっち雪が降り出したみたいです。外、出たら風邪ひくわ、今日は振り込みやめとこうよ。サンタのおじいさんに替わりますよ」
「あら不思議、怪我がぜんぶ治りました。いや、以前よりずっといい。ありがとう、おばあちゃん、メリー・クリスマス」
カチャ
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