366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

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フェイント昔話『ゾウのおんがえし』

2012年12月31日 | 366日ショートショート

12月31日『大晦日』のショートショート

昔々ある山里に、若い男がひとりで暮らしておりました。
男は、山で薪を切り、町に運んで売って細々と暮らしを立てておりました。
初めて山里に雪が降りつもった日のことです。
男がいつものように薪を背負って町まで向かっておりますと、目の前でゾウがドウと倒れたではありませんか。
駆け寄ると、ゾウの背中には密猟の矢が刺さっています。男は矢を引き抜き、川で傷口を洗ってやりました。
「さあもう大丈夫。森へお帰り」
ゾウはよほど嬉しかったのでしょう。パオーンとひと鳴きすると、男の方を振り向き振り向き、森へ戻っていきました。

それからしばらくたった、寒い夜のことです。男の家の扉をトントン叩く音がします。
こんな夜ふけに誰だろう?男が戸を開けると、そこにはゾウのように大きな女が立っていました。
「何をしてもいいので一晩泊めてください」
男は女を泊めてやり、やりたい放題してしまいました。
翌朝、女は太~いみつゆびをついて言いました。
「すでに実質上夫婦になりました。今日からよろしくお願いします」
男はなりゆきにまかせ、女を嫁に迎えました。

「これからわたしは夕食を作ります。決してのぞかないでくださいね」
女はそう男に約束させると、奥の部屋にこもり、食事のしたくをしました。
「さあ、できましたよ。めしあがれ」
アツアツのお碗を差し出します。ゾウ煮です。男はホフホフほおばりました。
なんと美味いゾウ煮でしょう。男はおかわりもしてたいらげました。
「これからは毎日ゾウ煮ですよ」

来る日も来る日もゾウ煮です。部屋にこもっては、アツアツのゾウ煮を作って出てきます。
さすがにゾウ煮に飽きてきました。
「すまない。今日は別のものを作ってくれないか」
男がおそるおそる頼みました。
女は奥の部屋に黙ってこもってしまいました。しばらくして部屋から土鍋をかかえて出てきました。
ゾウ炊です。
レパートリーがふたつに増えました。

この話の展開からして、女は日に日にやせていくのではないか?
部屋をのぞくと、わが身を削って料理する痛々しいゾウの姿を見るのではないか?
そんな疑念が男の胸をよぎります。でも女は来たときのまま、ゾウのままです。
「もう!矢菱君ったら!のぞいちゃだめだからね」なんて言われたらのぞきたくなるのが男のサガってやつです。
ついに男は誘惑にまけちまって、戸のすきまからのぞいてしまいました。
アッ
なんと女はゾウ煮を作りながら、つまみ食いをしているではありませんか。
だからゾウのまんまなんだぁ。
「あれほど約束したのに、とうとう見てしまったのですね」
「まさか、まさかお前は、あのとき助けたゾウ・・・じゃないのだな?」
「そんなことひとっことも言ってないし」
そのときです。
男の家の前でゴトン、ゴトンと重い音がします。
なんだろう?おそるおそる戸を開けると、戸をふさぐほどに米俵が積みあげられて、
その俵の上にも豪華反物セットやらジュエリーやらがまばゆく輝いているではありませんか。
これはいったい・・・?
雪の夜道を去っていく六つの小さな影。
「まさか、あなたたちはあのとき助けたゾウ?」
「そうです。わたしたち、笠じゾウです」

 

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地下鉄999

2012年12月30日 | 366日ショートショート

12月30日『地下鉄記念日』のショートショート

地下鉄のショートショート333字×3つ・・・そんなわけで地下鉄999でーす。



「123号に爆弾を仕掛けた。われわれの指示に従わねば爆破する」
地下鉄に爆弾だって?地下で爆発炎上すれば、大惨事は避けられない。
「よ、要求は?」
「最大加速後、最高走行速度を5分維持するように123号に指示しろ」
それが要求?そんな無茶な。
「地下鉄は駅の間隔が短いんだ。最高速度を5分間だなんて・・・」
言葉を待たず電話が切れた。
職員一同、青ざめた顔を見合わせる。
犯人の要求の意図がわからない。しかし、とにかくやるしかない。
かくして123号は最大速度で疾駆した。
車両はピストンとなり、地下トンネル内の空気が換気口へと一気に押し寄せていく。
「さっきの電話の男、どうしてこんな所で待たせるのかしら?」
白のフレアドレスのお色気ムンムン美女が換気口の上で待っている。
ププッピドゥッ♪



「地下鉄の電車はどうやって地下に入れたんでしょうかねぇ。それ考えると一晩中眠れなくなっちゃうの」
「また古いネタやなあ。あらかじめ電車を地下に埋めといて、この辺やろかゆうて掘ったんや言うネタやろ。あんな、地下鉄の電車かて地上に整備場があるんや。そこから地下に入っていく引き込み線を通って下って行くわけや。わかったかいな」
「でも地下鉄って都会の道路の下を通っているのに、そんな広い場所がいつもあるんでしょうかねぇ」
「お、それはええ質問やぞ。ほとんどの地下鉄は坂を下って入れんやけど、大阪の地下鉄だけな、クレーンで吊るして穴から地下に突っ込んだそうや」
「へ~、でもなんで大阪だけそんなやり方するんでしょうかねぇ」
「そりゃな大阪人やからツッコミが得意なんや」
「んなアホな~」



座席に腰を落ち着けると、地下鉄の路線図を出して広げた。
路線が複雑に交叉し網の目状に広がっている。
ふと疑問がわいた。
「電車って上りと下りがあるよね。東京駅が基準になってて、東京駅に近づくのが上り、遠ざかるのが下り。でもさ、地下鉄ってどうなの?地下鉄に上りとか下りとかあるの?」
ボクの質問に彼女が穏やかに微笑んだ。
「地下鉄にはね、上りと下りの区別はないの。そもそも東京駅につながっていない路線だってあるんですもの」
そうか。なるほど。
「メーテル、そもそも電車が地面の下だからぜ~んぶ下りだね!」
ボクのダジャレを彼女は聞こえないふりをした。
汽車は天空へと上っていく。
窓の外を見下ろすと、眼下の東京の街が小さくなっていく。
で、今の状況は上り?下り?
くだらない疑問がわいた。 

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ラ・メール

2012年12月29日 | 366日ショートショート

12月29日『シャンソンの日』のショートショート 

群青の空に浮かぶ雲がモコモコの羊たちの群れみたいだ。
どこで聞き覚えたんだろう?さっきから『ラ・メール』が頭の中でリフレインしている。古いレコードのチリチリ音まで。
ボクの左手には、さっき拾った白い貝がら。
そして右手は、母さんの柔らかい手に握られている。
ボクたちが帰ろうとしている堤防が、ずっと遠くに小さく見える。あそこまでずっと干潟を歩き続けるなんて!
頭上でカモメたちが騒ぎ立てる。
見上げると、ボクたちの真上に浮かんで天使みたいに輪舞していた。
白い麦わらのひさしに手をあてて見上げる母さんが逆光になって、ボクは眩しくてたまらなくなって目をシバシバさせた。
満ち潮が追いかけてきた。
母さんがボクを急きたてて岸に向かおうとしたとき。
「サンダルは?ヒマワリのサンダル、どこにやったの?」
言われて初めて裸足で歩いているのに気がついた。
砂山にトンネルを掘るのに夢中になってサンダルを脱いだことを今になって思い出した。
振り返ると、ボクたちがいた辺りはもうとっくに潮が満ちており、
サンダルどころか、誇らしいほどに大きかった砂山も、跡形もなく消えていた。
「もう!忘れっぽいんだから」
母さんが苛立たしげに手をふりほどく。
ゴメンナサイ・・・ゴメンナサイ・・・
とり返しのつかない罪悪感にギュウギュウと締めつけられる。
宝物に思えた貝殻さえ無価値なものへと色褪せていく。
涙がポロポロこぼれる。
ゴメンナサイ・・・ゴメンナサイ・・・

医者が困った顔でボクを見つめている。咳払いをひとつ。
「どう言ったらわかってもらえるかな。君はロボットなんだ。夢は見ない」
ボクがロボット?
「地球から遠く離れた惑星で作られた鉱山作業用のロボットなんだよ。海どころか水も空気もない惑星でね」
海が・・・ない?
「無論、君に母親などいない。気にしなくていいんだよ。そんな記憶は妄想に過ぎないのだから」
母さんがいない?そんなはずがない!
ボクの瞳に涙が溢れる。そして堰を切ったように頬を伝い落ちる。
「泣いている・・・つもりなんだね?涙など出ておらんよ。ほら、君はロボットなんだから」
どうして?
それならどうして『ラ・メール』が頭で鳴り続けるんだ?
どうして唇を濡らす涙が海の味なんだ?

 

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明日の重さ

2012年12月28日 | 366日ショートショート

12月28日『身体検査の日』のショートショー

最近、とんでもないことに気がついた。
体重を量ると、その体重はどうやら翌日夜の体重なのである。

たいして普段と変わりない食事を摂っているにもかかわらず、体重がぐんと増えることがある。
すると翌日、突然の接待で遅くまで飲食することになる。
あるいは普通に食べているのに、ぐんと減ることがある。
その翌日は、急な仕事が山ほど積まれ、食事もおろそかになってしまう。
まさか。半信半疑でカレンダーに体重を書きこんでみて確信した。どう考えても今日記録した体重は翌日の体重なのだ。
明日の体重がわかる男、か。
予知能力、と言えばカッコイイ。だが、こんな能力、何の役に立つんだ?
僕はもう中年になろうというのに独身、引っ込み思案で口ベタときてる。もう少し違う能力ならよかったのに。

そんなある日の風呂上がり、体重計に乗ってわが目を疑った。
0キログラム?
そんなバカな。えっと明日は。
僕は真っ青になった。明日は、国内出張で、飛行機に乗る予定じゃないか。
体重計が警告しているので出張をやめます、なんて言うわけにもいかない。
幸い、相手方さえ納得してくれれば日延べできる用事だったので、丁重にことわりを入れて日を変えた。
その日の昼、国内機墜落の臨時ニュースが飛び込み、テレビは大騒ぎだった。僕が乗るはずだった飛行機が墜ちたのだ。

僕は人生を変えたのだ。超人的な能力と、それを使いこなす才覚によって。今の僕には何でもできる。
そういえば、昨年、忘年会で同僚が肘で小突いた。
「新人で一番人気の美咲ちゃんがさ、おまえのこと憧れてるらしいぜ。こんな中年親爺のどこがいいんだか」
そう聞いても彼女に声もかける勇気はなかった。だが、もう違う。これからの僕は今までの僕じゃない。
仕事が終わると、周囲の視線も気にせずに美咲さんを呼びとめて食事に誘った。
「佐藤さんから誘ってくださるなんて光栄です」
彼女は頬を紅潮させて微笑んだ。
落ち着いたカフェバーで僕たちは酒を酌み交わした。人生、万歳。
生きている喜びが内から溢れ、いつになく僕は饒舌だった。あまり口にしないギャグを連発した。
「佐藤さんって面白い方なんですね。意外だわ」
九死に一生を得て、アドレナリンが出まくっていたのだろう。猥褻なジョークまじりに美咲さんを誘った。
彼女はすっかり冷めた表情で、用事を思い出したからとタクシーを呼んだ。
別れ際に彼女が言ったひとことが心にグサリと刺さった。
「佐藤さんってドッシリ重厚なイメージだったのに。ぜんぜん軽くてガッカリしちゃいました」
夜の町に残された僕は、空っぽになってしまった気がした。
風が吹いたら飛んでいきそうなくらい。

 

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ピーターパン

2012年12月27日 | 366日ショートショート

12月27日『ピーターパンの日』のショートショート



復活祭に近い穏やかな午後。ボクはウェンディに会いに行った。
「ボクだよ。迎えに来たよ。さあ行こう、ネヴァーランドへ」
でも、ウェンディは悲しい目でボクを見たんだ。
「ピーター、どれだけ長い間忘れちゃってるの。わたしは約束どおり待ち続けていたのに」
テラスの白い椅子に腰掛けたウェンディが、肩の毛織のショールをかき寄せた。
小さく丸くなった背中。もう八十をとうに過ぎた老婆のウェンディ。
「ごめんよ。ボク、君たちと時間の感覚が違うもんだから。それにとっても忘れっぽいんだ」
老人ホームのテラスにいた老人たちが不思議そうにボクたちを見てる。
幼い少年がひとりで老女になんの用事だろう、なんて思ってるのか?
それともこの風変わりな枯葉色の衣裳が珍しいのだろうか?
「じゃああなた、フック船長やティンカーベルのこと、覚えてる?」
フック船長?ティンカーベル?
ウェンディが嘆息をもらす。
「覚えて・・・ないんだ」
ボクは目を閉じた。鈍く光る鉤爪、妖精の粉の燦めき!
「思い出した、思い出したよ。あの胸躍る大冒険の世界へ。さあ!」
ボクはウェンディを急きたてた。シワくちゃになったウェンディの手を握って。
ボクの手に、ウェンディはもう一方の手を重ねた。
「わたしは無理。もう飛ぶことなんてできない。そしてあなたも」
ボクも?飛ぶことができないだって?
「そうよ。あなたもお爺さんじゃないの」
ウェンディの手に包まれたボクの手を見つめる。青白い少年の手。
「そんなバカな。ボクは年をとらないんだ。赤ん坊のとき乳母車から落ちた、その日から」
「心の中では。でもそれは心の中だけ。あなたはもう老人なのよ」
そんなはずがない。ボクは永遠の少年、ピーター・パンだ。
「ネヴァーランドも何もかも、あなたの空想。フック船長もタイガー・リリーもティンカーベルも」
何を言ってるんだ、ウェンディ。君はメインランドの毒気にやられて、夢みる力を失っちゃったんだ。戻っといで、ボクの世界へ。
「フック船長とわたしのパパが同一人物なのは、船長が空想に過ぎない証拠じゃないの」
銀行員の、厳格な、ウェンディの父さん・・・フック船長・・・ホントだ。同じ人だ。
「おとなになることを拒絶して、邪魔者を敵に見立てて、あなたはずっと生きてきたの。ピーター、あなたはピーターパン症候群なのよ」
ウェンディの手に包まれたボクの手が見る見る骨と皮のシミだらけの手に変わっていく。
そんなはずない。そんなはずがない・・・。 

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箱の中

2012年12月26日 | 366日ショートショート

12月26日『ボックシングデー』のショートショート

ヘンリー神父は、ボクシングデーのために匿名の者から寄せられた箱の山を見つめて困惑していた。
これだけの量も大きさ初めてなら、立派な包装紙やリボンで飾られているのも初めてだった。
例の男から贈られた箱にちがいない。
半年前の暑いさなか、男は教会に現れた。
貧しい教区の小さな教会の説教に訪れるのは、生活の苦しみが顔に深く刻まれた、見馴れた信徒ばかり。
若者は、彼らとまるっきり違っていた。
説教が終わると、信徒たちは会堂出口の献金皿にわずかばかりの金を置く。
若者が現れるまで、その皿に紙幣が置かれたことはなかった。
数週間後、神父は思いきって若者に声を掛けた。神父の感謝の言葉に若者ははにかんだ。
「神父様、感謝するのは私のほうです。不信心だった私がここで信仰に目覚めたのですから」
想像していた以上に謙虚な姿勢に神父は驚きを禁じ得なかった。
若者の献金のおかげで、教会の屋根が葺き替えられ雨漏りがなくなった。
中央階段のきしむ音が消えたし、開かなかった窓は修理され秋風が会堂を満たした。
「あなたのおかげです。あなたに神の祝福を」
「滅相もありません、神父様。神の存在を確信できたのは神父様のおかげなのですから」
「神の存在?」
「ええ、こちらの教会へ伺って以来、必ず願いが叶うのです。私にとって安いくらいですよ」
「あなたの敬虔な祈りの賜物ですよ」
若者は、いったい何を祈っているのだろう・・・。
こんな大金を献金できる理由は?
若者は、物好きな大富豪でたまたま立ち寄った教会に献金しているだけなのか。
若者は、競馬好きのギャンブラーで、この教会で祈るようになってからツキまくっているのではないか。
若者は、ある企業の経理を担当していて、横領する巧い手口を思いついて実践しているのではないか。
若者は、凄腕の殺し屋で、この教会で祈るようになってから、依頼を確実に遂行できているのではないか。
気になりはじめると、居ても立ってもいられなくなった。
そしてある冬の日、ヘンリー神父はさりげなさを装って、ついに若者に仕事を尋ねた。若者の表情が翳った。
「あなたがそれを知る必要がありますか?」
神父は、質問したことを悔いたが、もう遅かった。若者は二度と教会に現れることはなかった。
善意のもとに寄せられた箱の山は、教会を介して人へ渡っていく。中身を確認すべきではあるまい。
だが、神父は箱の中身がやはり気になって仕方がないのだった。

 

 

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おばあちゃんのクリスマス

2012年12月25日 | 366日ショートショート

12月25日『クリスマス』のショートショート



ピロロロロ・・・ピロロロロ・・・カチャ
「ハイ、田中シヅですがの」
「あ、田中シヅさんですか?こちら水前寺町立病院外科医、野々村ですぅ。田中シヅさん、年齢77歳、ひとり住まい、携帯あり、自宅から数100メートルに農協のATMあり、性格はいたってお人好し・・・の、田中シヅさんでよろしかったでしょうか?」
「間違いないの。じゃが、よう調べなさったの」
「じゃ、おじいさんと替わります」
「爺さんは去年死んでしもうたが・・・」
「ホー、ホッホッホッ、メリー・クリスマース!!わしゃサンタクロースじゃ。痛っイタタタタタタ・・・昨夜、大変な怪我をしましての」
「どうなさったじゃ?」
「橇で夜間飛行中に、ボーイング747とニアミスしましての。トナカイどもがパニックを起こして散り散りに逃げようとして・・・そのまま真っ逆さまに墜落ですわ」
「そりゃあお気の毒に、お怪我は?」
「手足に骨折3カ所、肋骨にヒビ2カ所、顔中にトナカイの蹄鉄のあと・・・」
「痛いでしょうなぁ」
「そりゃあもう、アイタ!アイタタタタタ・・・野々村先生に替わります」
「あ、おばあちゃん、サンタさん、お金、フィンランド紙幣しか持ってないんですよ。さしあたりの治療費がなくて困っていらっしゃる。力になってあげてくれませんか?」
「いくら要るんですかの?」
「8万・・・いや、10万かな?出していただけますか?」
「ええとも、ええとも、さぞお困りじゃろうて」
「じゃ、今から指示しますんで・・・携帯持って、農協のATMへ着いたら、こちらに電話してください・・・090-333-33・・・」
「それで・・・その10万で帰れるんですかの?フィンランドへ?」
「え、いや、それは、おばあちゃんが心配しなくても・・・」
「怪我も治されて、遠いお国にも帰られんとならん。子供らに夢を与える仕事を無償でなさって、大怪我なさって。ほんに気の毒で悲しゅうなります・・・そうじゃ、爺さんの残した金が33万、通帳にあります。爺さんもきっと喜びます。全部、全部使うてくだされ」
「・・・」
「お金はええことに使わんと・・・ほんに・・・ほんに・・・大変な目に遭われて・・・」
「おばあちゃん、何も泣くことは・・・泣かないで・・・ちょっと待って・・・サンタさんと話を・・・」
「・・・あ、おばあちゃん、お待たせしました。やっぱ8万でいいわ」
「お願いします・・・33万、使ってくだされ」
「いや、8万で頼みますよ・・・でないと・・・俺たち、困るんです」
「そんなこと言わずに、人生最後にこんな善いおこないができるなんて、神様のおはからいじゃて・・・33万使わせてやってくださいませ」
「ちょっと、待って。またサンタさんと・・・」
「・・・何度もすみませんね・・・おばあちゃん、そっち雪が降り出したみたいです。外、出たら風邪ひくわ、今日は振り込みやめとこうよ。サンタのおじいさんに替わりますよ」
「あら不思議、怪我がぜんぶ治りました。いや、以前よりずっといい。ありがとう、おばあちゃん、メリー・クリスマス」
カチャ 

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今年もサンタがやってくる

2012年12月24日 | 366日ショートショート

12月24日『クリスマスイブ』のショートショート



朝食の食卓で、顔を紅潮させて息子が私に聞いた。
「ねえ、パパ、今年もサンタさん、来てくれるよね?」
息子の声さえキンキン頭に響く。
疲れているのだ。
「パパ、サンタさん、僕にもプレゼントもってきてくれるよね?」
うるさい・・・
私は、何もつけていないトーストを一口かじって首を振った。
「いいや。おまえが寝入ったときにパパがプレゼントを靴下の中に入れるんだ」
息子の笑顔が消える。
「嘘だよね、パパ。サンタさん、ホントはいるよね?」
私は、無視してトーストを咀嚼している。
あきれた妻が息子に言う。
「サンタさんはいるわ。今日のパパはどうかしているの。ママが約束する。サンタさんはあなたのところに、もちろん来てくれるわ。サンタさんが家に入ってきたとこをママは見たこともあるんだから」
妻が私を睨んでいる。
私も妻を睨み返す。
「本当のことを言って何が悪い?プレゼントをこっそり靴下に仕込むのは、いつだってこの俺だ。今までだってそうだ。去年も一昨年も。ずっとそうだったじゃないか」
妻が怒りの目から徐々に悲しい目に変わった。
「あなた、どうかしているわ。まだ5歳の子供に言うことじゃないわ。あなたらしくない。全然、あなたらしくないわ」

仕事に出る前に妻は私を後ろから抱きしめて言った。
「今朝のあなたは変だわ。いつものあなたじゃない。残業が続いて心底まいっているのよ。今日は仕事をお休みしたら?」
私は妻の言葉が理解できなかった。
「な、何を言ってるんだ?今日、休んだら俺はいったい今まで数ヶ月間、何のために仕事をしてきたかわからなくなってしまうじゃないか。バカなことを言うんじゃない」
妻がきっぱりと言った。
「我が子や妻を幸せにできない仕事なら、あなたの仕事なんて意味がないわ」
「・・・」
妻の言うとおりだ。
今月に入って特に仕事は多忙を極め、完全にオーバーフロー状態だ。すまない・・・この仕事が、愛する息子を傷つけ、愛する妻を傷つける仕事であっていいはずがない。
「ごめん。忙しすぎたんだ。許してくれ。必ず償うよ」
私は妻を抱きしめて、何度もあやまって仕事に向かった。

職場に着くと、昨日までに輪をかけて、てんてこ舞いの忙しさだった。
貨物配送担当のマイクは目を充血させていた。徹夜で配送物の仕分け作業を続けていたらしい。
運搬車両担当のピーターは、安全点検の最終チェック中。自慢の最新のグラスファイバー製の橇をピカピカに磨き上げている。
調教担当のビルは、ハーネスを装着した赤鼻のトナカイたちの身体を愛おしくブラッシングしている。
私たち、配達担当、所謂サンタクロースは、朝から、定番の赤いコスチュームの試着や、配送先の住所や侵入場所の確認などの最終チェックが夕方までかかった。
準備がととのった。
「さあ、マイケル、ショウタイムだ」
子供が休み始めた時間を見計らって、我々サンタは全世界の子供たちのもとへ出動した。

数千件に及ぶ、すべてのプレゼントの配達ノルマが終了すると、例年のごとく深夜だった。疲れ切った私は我が家に戻った。
私の手には最後のひとつのプレゼント、我が愛する息子へのプレゼントが載っていた。
ツリーの靴下にプレゼントを入れると、私の帰りを待っていた妻とともに息子のベッドを覗いた。
幸せな寝顔だ。
サンタが来てくれるのを信じているのだ。
「ごめん、朝のパパはとても意地悪だったね。こうやって今年もサンタがプレゼントを持ってきたよ。信じていい。おまえが信じているかぎり、来年も再来年もずっとずっとサンタは必ず来るよ。約束する」
私は妻と手をとりあい、我が子の頬にキスした。
「メリー・クリスマス」 

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地底怪獣ゼミラ

2012年12月23日 | 366日ショートショート

12月23日『東京タワー完成の日』のショートショート



「淳ちゃん、大変よ!」
星川航空の事務所に由利子が駆け込んだ。
「ハハハ、相変わらず慌てん坊だなあ、由利ちゃんは」
「ホントなんだから。一平君!テレビつけて」
由利子に急かされてテレビをつけると、どのチャンネルも特別報道番組ばかり。
現場に押し寄せたレポーターたちはヘルメットを被り、緊張の面持ちである。
『ではもう一度、謎の地底怪獣が代々木の森から出現したときの映像です!』
地底から這い出した怪獣は、どこからどう見てもセミの幼虫。その巨大なことといったら!
「ひゃあ、ホンモノの怪獣だあ」いつものように素っ頓狂な一平の声。
「地底怪獣ゼミラだわ」いつものように唐突に怪獣の名を口走る由利子。
『アッ、科学特捜隊のジェットビートルが駆けつけました!ゼミラの頭上を旋回します』
由利子が叫ぶ。「がんばって、科特隊。特に、フジ隊員!」
ロケット弾を一発発射!ゼミラの腹部に命中!
『ゼミラの腹部が傷つき、白っぽい体液が。ゼミラ、苦しんでます』
「ゼミラがかわいそう」涙ぐむ由利子。
苦しみ悶え這っていくゼミラに同情していたのは、彼ら三人だけではなかった。
『全国から届く苦情の声に、ムラマツキャップは撤収を決意、科特隊が帰還します!』
「怪獣ゼミラの体長は約9メートル。確かにセミとしては超巨大だ。だがダンプカー程度の大きさのセミに過ぎない。攻撃力もないし、そもそも凶暴ですらない」
いつのまにやら事務所に来ていた一ノ谷博士が呟く。
博士がさらに説明を加えた。
「一方、体長40~50メートルのウルトラマンがここで登場すれば、ゼミラは子猫ちゃんほどの大きさなのだよ」
「かわいい!ゼミラなんて呼んだらかわいそう」おいおい、命名したのはおまえだ。
「で、ゼミラはいったいどこへ?」
「万城目君、羽化するために高い木をめざしているのだよ。セミだからな」
一同、ピンと来た。
「東京スカイツリーだわ!」
同じ頃、全国のお茶の間でもピンと来ていた。
がんばれ、ゼミラ。スカイツリーで立派な親ゼミラになってね!!
もはや特別報道番組は、感動の動物番組の様相を呈しつつある。
ビルの谷間を這っていくゼミラ。追いかける報道ヘリ。かぶさる感動のBGM。
ところが!
ゼミラはスカイツリー方面を逸れていく・・・。
「ゼミラ、そっちじゃあない!」
「そっちは昭和だあ!」
「怪獣なら怪獣らしくしなさい!」
ゼミラの行く手には、東京タワーがそびえ立っている。 

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ショートケーキの日

2012年12月22日 | 366日ショートショート

12月22日『ショートケーキの日』のショートショート

2月22日水曜日。
彼女とよく利用するイタリアンの店で食事をした。
石窯焼きのカリカリのチーズピザを分け合ってから、
彼女はカルボナーラ、ボクはバジリコ。
よく冷えたジンジャーエールで喉を潤す。
いつの間にか、この店ではこのメニューが定番になった。
ボクたちがお互いの仕事の都合で水曜日に会うのが普通になったみたいに。
「今日はケーキも食べちゃおうかな」
彼女、お店に入ったときにケーキのショーウィンドウで一瞬立ち止まったっけ。
あのとき食べたいケーキの目星をつけておいたにちがいない。
「だって今日は、ショートケーキの日だもん」
なんだ、それ。
「はい、クイズです。今日、22日はどうしてショートケーキの日になったんでしょうか?」
え、クイズ?
「2月22日が?」
「ヒントです。2月だけではありません。毎月22日はショートケーキの日です」
そんなの、君の勝手な都合じゃないの?
「はいブブー、ちがいます。シンキングタ~イム」
彼女はそう言い残して、ケーキを物色しにショーウィンドウへと向かった。
毎月22日・・・なんか語呂合わせがあるにちがいない。
11月11日が+-+-で『電池の日』だったり、
2月10日が『ニットの日』だったり、
2月20日が『尿漏れ克服の日』だったりするように・・・
「わかった?」
彼女が戻ってきて尋ねた。テーブルにショートケーキとコーヒーが並んだ。
ボクは肩をすくめ降参した。
彼女、したり顔で、ショートケーキのイチゴをすくった。
「あのね、22日の上にはかならずイチゴが乗ってま~す」
月カレンダーの22の上は、必ず15。
ふ~ん、なるほどね。必ず15が上に乗っているからショートケーキねぇ。
ここで必ず余計なことを言ってしまうのが、ボクの悪いクセだ。
「そのイチゴのショートケーキ、イチゴの上に8がとまってるんじゃない?」
彼女、思わずフォークをとめて、やな顔をする。
「ちょっと変なこと言わないでよ」
「しかもそのショートケーキ自体もお皿じゃなくて、お29の上に乗ってるし」

 

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遠距離のこころえ

2012年12月21日 | 366日ショートショート

12月21日『遠距離恋愛の日』のショートショート



後輩のミカが二人でランチしたいなんてどうゆう風の吹き回し?と思ったら、案の定、恋愛相談だった。しかも遠距離。
近所のファミレス、奥のソファ席に落ち着いて話を聞いた。
よくある遠距離の悩み。
連絡をくれない彼の気持ちが離れていってんじゃないか、浮気してんじゃないか・・・。
打ち明けながら、ミカは今にも泣き出しそう。
「遠距離してる女の子なら、みんな悩むことよ。でも、彼を信頼してあげなきゃ」
ミカが顔をあげた。
「遠距離って、いつも会えないってことが最大のネックよね。会うために費やす時間やお金も大変だけど、相手が離れていっちゃうんじゃないかって不安がやっぱり大きいわ。だからつい、相手が何をしてるか気になって電話したりメールしたり、同じことを相手にも求めたり。
でもさ、つきまとわれてる、うっとうしい、なんて思われたら逆効果。
遠距離って逆にメリットにもできるの。たまに会うからこそ得られる充実感!相手に束縛されない自由な時間!遠距離のよさを自覚すれば、もっと素敵な関係が築けるはずよ」
ミカがコクンとうなずく。
「なんだか元気出てきました。先輩、詳しいんですね、遠距離のこと」
私はふっとため息をついた。
「あたしの場合、もっと遠いところに行ってしまったんだ。タカシ、昨年派遣先で交通事故に遭って・・・」
ミカが青ざめた。
「先輩、ごめんなさい。そんなこととは知らずに・・・」
「いいのよ。あたしの助言が役に立ったら」
そのとき、ミカの携帯が鳴った。
ミカの顔が一気に華やぐ。着メロで相手が彼だとわかったらしい。
私はレシートを手元に引き寄せ、彼女に席を立つように促した。
ミカは一礼、大急ぎで店の外に出て行く。嬉しさで泣き出しそうな顔で。
なんだなんだ、さっきの悩みは。
私は、隣の席をちらりと見た。タカシがニヤニヤしている。
ソファ席に足をあげてふんぞりかえり、鼻をほじりながら。
「ねぇ、女の子の相談、立ち聞きしてて楽しい?」
「座ってるし」
遠くに行ったタカシだが、こうやっていつでもどこでもつきまとってイライラさせる。
遠距離ってホント、相手との距離感、大切だわ。
とっとと成仏してよね、お願いだから。

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霧笛

2012年12月20日 | 366日ショートショート

12月20日『霧笛記念日』のショートショート



赤い光、白い光、そして赤い光。点滅を繰り返す灯台をアパトサウルスは見つめた。
霧は濃さを増していたが、岬の岸壁と、その突端に立つ灯台の黒い影ははっきりと見てとれた。
今年も聞こえるだろうか。あの懐かしい音が。
アパトサウルスは待った。
待ち続けた。
波打ち際の砂に立ち、首を長くして。
冷たい海のざわめきとともに、霧が帳を下ろしていく。
まもなく聞こえるはずだ。霧笛の響きが。
アパトサウルスは知っていた。
それが、濃い霧の中を心細く航行する船に灯台の位置を知らせる信号であることを。
船舶レーダーやGPSの普及によって、この灯台の霧笛もまた近々廃止されることさえ。
だからこそ霧笛を心にとどめておきたかった。
そして、そのときが来た。
太い大きな叫びが空気をぶるぶると震わせた。
驚いたカモメたちがトランプをテーブルにばらまいたように飛び立った。
父さん!
アパトサウルスは思わず声に出した。
父さんのプーが聞こえる!
アパトサウルスが目を閉じると、ひとすじの涙が頬を伝った。
彼のまぶたに、昭和のお茶の間の光景が目に浮かぶ。
卓袱台の前に胡座をかいた父親が、新聞紙を掲げ持って読んでいる。
禿げあがった頭に老眼鏡をのせ、一心に読むのはスポーツ欄。
ラクダを履いて丹前を羽織った父の姿は、威張りくさった波平さんといったところ。
胡座の姿勢のまま、左の半ケツを浮かせる。
途端に鳴り響く放屁の音。
太く大きく高らかに延々と。
霧笛、霧笛、霧笛にそっくり。
懐かしさのあまり、アパトサウルスは咽び泣いた。
不作法な父親だったが、今はただもう懐かしいばかり。
だが、アパトサウルスなんて名前をわが子につける感覚だけは、どうにも理解できない。 

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スカイフォール

2012年12月19日 | 366日ショートショート

12月19日『日本初飛行の日』のショートショート

日本人で初めての航空事故生還者は、相原四郎海軍大尉である。
1909年12月5日、旧制第一高等学校キャンパスにて、フランス人ル・プリウールと相原四郎海軍大尉によってグライダー実験がおこなわれた。これまでにも飛行実験を繰り返し変人扱いされていたル・プリウールが、同じ青山に住んでいた相原に初めて会ったとき、彼は妻子そっちのけで紙飛行機飛ばしに夢中になっていたという。
すっかり意気投合した二人は複葉グライダーを製作した。相原はル・プリウールを物理学教授田中舘愛橘にひきあわせ、愛橘は学長新渡戸稲造に飛行機開発の重要性を力説、一高での実験の快諾を得た。
凧揚げの原理でロープを引くと無人のグライダーは軽々と浮き上がった。学生たちからどっと歓声があがった。
「これなら、人が乗っても飛ぶぞ」
早速ル・プリウール、相原が搭乗するが今度は地面を離れない。
「体重の軽い、子どもなら?」
ル・プリウールの一言で、顔見知りの八百屋の息子が名乗りをあげた。
「操縦桿をしっかり握っておくんだぞ。それ!」
グライダーはふわりと3メートル近くも浮上した。
「ぼくも!ぼくも!」
子どもたちがグライダーを囲んだ。
日本で初めて飛行機で空を飛んだのは、二十数名の子どもたちである。
その四日後、再び飛行実験がおこなわれた。より広い場所として不忍池の池畔が選ばれ、グライダーは自動車によって牽引された。
かくしてル・プリウールが搭乗したグライダーは100メートル以上の飛行に成功したのである。日本初、アジア初の快挙に、集まった三千人の大観衆が喝采を送った。その中には、後日、日本人初の動力飛行を成し遂げる徳川好敏と日野熊蔵の姿もあった。
次に、相原が操縦桿を握り機が浮上した途端、事故は起きた。20メートルの高さから一気に機首を下げ真っ逆さまに墜落したのである。白い尾翼が不忍池の泥水に突き刺さった。
「相原大尉!」
一同水面を見守る中、ずぶ濡れの相原が浮上した。奇跡的に無傷であった。
リリエンタールが墜落死したのは15メートルの高さからである。墜ちた先が池でなければ生命はなかったであろう。

翌年3月、航空技術習得のためにドイツ視察を任ぜられた相原は、ドイツに渡り気象学や航空操縦法を学んだ。
翌1911年1月4日。同乗していた飛行船の墜落事故によって負傷した相原は、事故から四日後に三十一歳で客死した。
日本人で初めての航空事故犠牲者は、相原四郎海軍大尉である。

 

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甦れ、毛根

2012年12月18日 | 366日ショートショート

12月18日『頭髪の日』のショートショート



三十代の後半から、髪が薄くなってきた。
細く頼りなげになって、湿気のある日はペシャンとボリュームがなくなった。
洗髪していると抜け毛の多さに悲しくなった。雨粒が頭皮に直に触れて冷たかった。
四十の半ばでこのとおり。
そんなとき、人づてにスゴイ薬を開発した博士がいるという話を聞いた。
藁にもすがる思いで、その研究所を訪ねた。
博士は七〇歳くらいか、にもかかわらず豊かな黒髪を撫でつけいてる。こいつはイケるかも。
「このビデオをご覧ください」
テレビに動画を映し出した。どうやら毛根の顕微鏡映像らしい。
「ここにワタシの開発したこの薬を投入!」
薬成分が頭皮に噴霧される。数秒後に変化は起こった。
毛根細胞が見る見る肥大化し、黒々とした逞しい毛根がニョキニョキと生えてきたのだ。
「え?コレって合成ですよね?」
「疑り深いな、キミは。嘘なんかじゃない。毛根も髪の毛も本当に甦るのじゃ!」
本当かなぁ・・・
「半信半疑のようじゃな。では、まずこちらの一週間お試しサービスを試してみたまえ」

てなわけで、お試しサービスの薬を頭皮に噴霧してみた。
翌朝、強烈にむず痒くて目が覚めた。鏡を見てビックリ!本当だ!黒々と太い頭髪が生えているじゃないか!
豊かな髪をクシで撫でつける。ボクって、かっけ~!すっかり自信を取り戻した。
通勤電車の中、足を高々と組んで座った。周囲の注目が集まるのを感じた。
そんなに魅力的かな?
職場でも、仲間がチラチラとボクを見ているのを感じた。
ハハハ、カツラなんかじゃないぞ。本物だぞ~!
有頂天になっていると、美咲ちゃんがボクを給湯室に連れ込んだ。
「どうしたの、ソレ!」
「え?生えてきたんだよ、ホントホント!」
「そんな気色悪い」
気色悪い?
美咲ちゃんから渡された手鏡でボクは頭を見て、アゴがはずれそうになった。黒々とした髪の一本一本がウジョロウジョロと蠢いているじゃないか!
これじゃ妖女ゴーゴンの蛇頭と変わらないじゃないか!
そんな・・・思わず手を頭に。すると手にウジャラウジャラと髪の毛がまとわりついた。
そのうちの一本がハラリと床に落ちた。落ちた髪の毛はミミズのようにのたうち、逃げまどう。
き、気色悪い!
美咲ちゃんのいうとおりだ。
見れば見るほどこりゃハゲよりも気色悪い。
髪が嵐の海のようにウネウネ勝手に波打っている。アゴの剃り跡からニョロニョロ顔を出すヒゲは、まるでカマキリの肛門から顔を出したハリガネムシ。
気色悪すぎ!

ボクは大急ぎで研究所に向かい、薬を突き返した。
「普通に髪がはえてくればいいのに!こんな生きている髪なんて、余計目立ってカッコ悪いじゃないか!」
博士が悲しい目になった。
「そうなんですよね。結局みんな目立ってカッコ悪いのを避けたいだけなんだ。わたしなんて七〇歳過ぎて黒髪がワサワサ生えているのが恥ずかしい。一般的な年寄りのように薄くなりたいし、白髪になりたい。結局われわれ、ノーマルに近づきたいと思っているのに過ぎないんですよね」
そうなのかもしれない。それだけなのかも。
「とにかく、この薬はボクにはもう必要ないです」
博士は悲しい表情になった。
「残念ながら、この薬じゃもうからないでしょう?」
すると博士、ここぞとニヤリ。
「ええ、まさに。も~けがない」 

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ライト兄弟

2012年12月17日 | 366日ショートショート

12月17日『ライト兄弟の日』のショートショート

「え?噺家のあっしがライト兄弟にインタビュー?へえ、生きてたんすか。長生きな兄弟もあったもんだねえ」
「バカ言っちゃいけねえ。タイムマシンを使うんだよ。1903年に行ってくんだよ」

とまあそんなわけで1903年12月17日のキティホークまで出掛けてまいりました。
砂丘を登って行くってえと、あらら見えてきたよ、ライトフライヤー1号。
「あんたら、ライト兄弟はんでっか?」
二人の男がふりむきます。広い額に照った夕陽がまぶしいっ。
「ザッツラ~イト!わたくし、兄のウィルバーざんす~っ」
「おら、弟のオーヴィルだど。二人そろって、ハイ!♪ライトブラザ~ス~~♪」
う~ん、いろんな意味で明るい。そして軽い。さすがはライト兄弟。
「あっしゃあ未来の日本からやってめえりやして」
「え?将来、わたくし有名人ざんすか?」
「そりゃもう人類初の有人動力飛行に成功したんすもん。超~有名」
ライト兄弟ったら抱き合って号泣です。
ライト兄弟の成功はアメリカでほとんど無視され、名誉回復は1942年、アメリカでフライヤー1号が博物館に展示されたのは1948年。そのとき、兄弟はこの世にいなかった、な~んてことはヒミツ、ヒミツ。
そのときです。
『悪魔殺しの丘』に猛烈な突風がビュウ~~ッ。
フライヤー1号は無人のまま、ふわりと浮き上がったかと思うと、一転二転、三転!ゴロンゴロン、ゴロ~ン!
「あんれまーざますー!!」
「どっひゃーだどー!!」
風がやんだときには、ひっくり返った無残な飛行機、というか大破した残骸。
兄弟の額から青いスジがタラ~。
「こりゃもう修理不可能ざます~」
「今日の実験、これにてオシマイ、♪ライトブラザ~ス~~♪」
そ、そんなあ。歴史が変わる~。
「今日、あんさんらは飛行実験に成功するはずやのに」
あっしがつぶやくと、兄弟、ビックリです。
「なに言ってんざます!今日はもう4回飛んでるざます!」
「んだど。おら、写真いっぺー撮ったど」
そっか。そうゆうことね。
どうやら、まちがいなく初飛行の日に来たんすけど、ちょっと遅かったみてえです。
いや~失敗、失敗・・・ムニャムニャ。

「ち、ちょっと!起きてくださいよ!こんなときに居眠りして、なんの夢見てるんですか?」
「え?ここはもう未来の日本?」
「まだ寝ぼけてる。機長、マズイっすよ。操縦席で居眠りなんか」
「なに言ってんの、あっしゃ噺家だよっ。じゃそろそろオチに・・・」
「キャー!!」

 

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