366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

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クレーン

2012年09月30日 | 366日ショートショート

9月30日『クレーンの日』のショートショート



夏の朝、玄関を一歩出て息を飲んだ。
なんだ、このクレーンは!
朝の光の中、黒々とした長い影が高く高くそびえ立っているじゃないか。
数軒先にビニルシートの囲いができて、足場が組まれ何やら建築中なのは知っていた。
噂では、医療関係の研究施設だとかなんとか。
先月までは基礎を作る騒音に悩まされたが、今度はこれだ。
建築資材をワイヤで吊り上げ、クレーンが回りはじめる。
ピッピッ、旋回します。ご注意ください。
注意を促す無機質な音声。
眉をひそめて見上げていると、妻も出てきた。
「まあ、怖い。倒れてきたらペシャンコだわ」
妻の言うとおりだ。
最近も強風に煽られたクレーンが横倒しになり、民家が下敷きになる事故があった。
あの高さだと、間違いなくウチに届く。まったくもって迷惑な話だ。
数日後、碁会所に行く。そこでもクレーンの話題でもちきりだった。
「昨日、風が強くてグラグラ揺れてましたよ」
「あんなの倒れてきたらひとたまりもないねぇ」
「まさに危険と隣り合わせの生活ですな」
「役場に苦情の電話、入れてみましょうか」
「なになにまともに取り合うもんですか、年寄りの言うことなんか」
みんな好き勝手に言うだけ言って実際なにするというわけでもなく、クレーンを見上げた。
ニイニイゼミの声がアブラゼミとクマゼミにとって変わり、そしてツクツクホウシになる頃。
玄関を出ると、クレーンが跡形もなく消えていた。
開放的な青空が広がり、足場を撤去された施設の白い壁が目に鮮やかだ。
「よかったわぁ。これでひと安心ね」
妻の声も弾んでいる。
それにしても、この建物はいったい何の施設だろう。
屋上にプレハブ倉庫大の四角いタンクがズラリ並んでいる。
そのひとつひとつに放射線マークが見てとれる。
だが、こんな町中に説明もなしに建てるんだから危険ってことはないだろう。
とりあえずクレーンはなくなったのだ。これで、よし。 

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九月二十九日は招き猫の日

2012年09月29日 | 366日ショートショート

9月29日『まねき猫の日』のショートショート

お店の店先やらレジやらに招き猫ってのが置いてあります。この招き猫、アメリカでも人気があって、小判のかわりに$なんぞを抱えておるそうです。あちらでは日本の手招きはシッシッの動作なものですから、アメリカ猫の手は裏向きのカモ~ンな訳です。
「おい、招き猫ってのは宇佐神宮で作ってるのかい?裏っ側にメイド・イン・USAって書いてあらあ」
なんておっちょこちょいな話もあるもんです。

さてこの招き猫、今でこそ黒やらピンクやら金ぴかやらやりたい放題ですが、元祖は三毛猫です。三毛ってのは遺伝子のどうたらこうたらでオスが大変珍しい。それで昔はオスの三毛が生まれますと漁師さんが高値で買い取ってくれたそうです。

「惣右衛門さん、お宅にオス三毛がおるそうじゃな。わしに売ってくれ。今から漁に出るんだ」
「八兵衛さんじゃないか。あいかわらずせっかちだねぇ。まあいい、今日は九月二十九日、ふくがくるってんで『招き猫の日』だ。売ってやるよ」
「こいつぁありがてぇ!さあ三毛、漁に行くぞ!」
「ラニャ~!」

ってな訳で八兵衛さん、舟の舳先に猫を座らせて沖に出ました。途端、空はかきくもり、波がザブンザブンと船縁を打ちます。
「お?荒れてきやがった。やい三毛!がんばんなきゃ!」
「ラニャ~!」
返事だけは立派ですが、そのうち雷まで鳴り始め、雨もザンザン降ってきます。舟は大波にもまれて今にも沈んでしまいそうです。
八兵衛さん、三毛をつかみ上げます。
「実は、メス猫でしたぁ~ってオチなのか?」
「違うニャ~!」
「三毛ブチが実はペンキでしたぁ~ってオチなのか?」
「違うニャ~!」
八兵衛さん、猫の背中を触って驚きました。
「何だ?背中に一直線に走る、このジッパーは?そんな使い回しのオチで?」
その瞬間、山ほどの大波がザッパァ~ン!!八兵衛さんと猫は舟もろとも海の底へ・・・

ガバッ
「あ、何だ、夢だったのか」ひどい汗です。
「あんた、大丈夫かい?具合が悪そうだよ、今日は舟に乗るのはやめといた方がいいよ」
「ああ、やめとこう。もうひと寝入りするわ」
というわけで、かみさんの忠告どおり、もう一度ふとんをかぶるともうひと寝入り。
え?誰が?
ってもちろん江頭2:50星人。

 

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妖怪パソコン小僧

2012年09月28日 | 366日ショートショート

9月28日『パソコン記念日』のショートショート

いやぁパソコンって楽しいねぇ。
今宵も今宵でネット三昧、深夜布団にもぐりこんで目を閉じると何やら気配が。
まさか、幽霊?
目を開いてビックリ、枕元に裸んぼの少年が正座しています。
その頭の四角いことといったらテレビのよう・・・あ、これは以前使っていたパソコンのブラウン管モニターです。
暗い画面に浮かぶ文字。
『シクシクシクシクシク・・・』
どうやら泣いているようです。
「おい、どうした?」
カタカタカタカタ・・・文字が次々表示されます。
『私は、妖怪パソコン小僧でございます』
「なんで泣いてるんだ?」
『まだ使えるのに捨てられた道具の怨念が、妖怪に化けるのでございます』
「だって仕方ないじゃないか。今や液晶モニターしか見かけないぞ」
ガタガタガタッ
今度は押し入れから物音が。襖がスッと開くと、パソコン関係の雑多が雪崩のように流れだしました。
MOドライブだの、スキャナーだの、98ノートだの・・・時代おくれになったパソコンや周辺機器が大暴れです。
電源を入れれば作動する、故障もしていない機械たち。そりゃ化けて出たくもなるだろうなぁ。
パソコン小僧、膝に外付けHDDを抱えています。SCSI接続、数GBの旧式HDD。
『見もしないのにこんなにエッチ画像保存して。まるでカラスだな』
「おまえにとやかく言われたくない!」
『いいんですか?そんなこと言って。恥ずかしいデータ、ネットに流出させましょうか?』
「やめろ!やめてくれ、やめてください」
恐るべし、パソコン小僧。
「頼む、成仏してくれ。願いは何だ?」
『願いはひとつです。道具として生まれてきた身、どうぞ使ってやってください』
使うったって、こんな旧式・・・そうだ。
「中古ショップに売ったり、人に譲ったりしてもいいんだな?」
『もちろんです。使ってやっておくんなまし』
ブーン・・・ブラウン管から文字が消えました。同時にパソコン小僧も消えてなくなりました。
そんなわけで押し入れのパソコン機器たち、ちゃんと売ったり譲ったり。
今頃どこかで使われていることでしょう。以来、パソコン小僧は現れません。
めでたし、めでたし。
おや?
テレビでは緊急特番、物々しくニュースをやっています。
「モスクワに白昼堂々妖怪が出現、パニックが起きています。妖怪は、自分で『核ミサイル小僧』と名乗っています」
簡単簡単、そいつに成仏してもらうには・・・

 

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車が似合う女

2012年09月27日 | 366日ショートショート

9月27日『女性ドライバーの日』のショートショート



キャー!
ニッサンGT-R!しかも、2011年モデル『エゴイスト』じゃないの!かっちょい~い。
うんうん、リア・エンブレムを確認してうなずく。日本の技術の粋を集めた最強マシンだよな、コレ。
車体だけで1500万円くらいだっけ?この車、注文すると栃木工場の製作現場を見に行けるらしい。自宅を建てる工程を見守るみたいな感覚?まあそれくらいの買い物でもあるわけだけど。外見、内実揃った、最高の街乗りマシンだよなぁ。とにかく羨ましい!え?
キャー!
と、二度びっくり。なんと、車から颯爽と降り立ったのは女性ドライバー!
さらさらロングヘアを振って、サングラスを外して。うわっモデルみたいな、い~女っ。駐車場にいた男どもみんな、足を止めて車と女に釘付けだあ。
それにしても、つねづね思うに、車が似合う男ってホントに少ないんだよな。
街に溢れているフェラーリとかポルシェとかの運転席に収まってる男たちって、なんかダサい。
軽薄そうな若者だったり。成金趣味の脂っぽい親爺だったり。
逆に車に乗ってる女性ってなんかカッコイイんだよな。アレってなんなんだろ?
う~ん、つまり車に対する意識に関係してるかもしれない。
男って、車自体に思い入れが強くて、車で自分をカッコよく見せたい意識が見え見えで逆にカッコ悪く見えちゃう人が多い気がする。
で、女性は基本的に車を道具として割り切って乗っているから、そこが颯爽と見えるんだろうなぁ。
ま、女性にしても、ハンドル抱えてガチガチの前傾姿勢で運転してるってのはイケてないけどさ。
ベンツを降りて駐車場を横切り店へと向かう。女たちの熱い視線が自分に向けられているのを感じる。
店の中に入ると・・・いた、いた。さっきの彼女、窓際の席でコーヒーを飲んでいる。
視線に気がついて、彼女が微笑み、照れくさそうに髪をかきわけた。
ミャクあり、か?
彼女が仕草で相席を勧める。彼女の対面に座りながら、挨拶を交わした。
予想に反した野太い声に驚いて、彼女の顔を凝視するとうっすら髭剃り跡が。
「・・・お、男かよ」
その声を聞いた彼女のほうもガッカリ。
「なんだ、女かよ」 

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真夜中の怨み節

2012年09月26日 | 366日ショートショート

9月26日『ワープロの日』のショートショート



「あの・・・覚えているかしら、あたしのこと」
真夜中に電話が鳴ると、つい近親者の不幸かと慌てて電話に出てしまう。
すると、聞こえてきたのは、ゾッとするような、か細い女の声。背筋に冷たいものが走った。
聞きおぼえ?う~む、どの女だ?
「忘れてしまったのね、あたしのことなんか」
声に合わせて、キーボードを打つパチパチという音。多少、PCのキーより軽いような。
で、ジ、ジジーという印字する音が。
ある!この音に聞き覚えが確かにある!一気に数十年前の記憶がよみがえる。
「ま、まさか君は・・・」
ボクの声をさえぎる。
「やっと思い出したんだ。そうよね、あたしのことなんか、とっくに忘れちゃったよね」
そんなふうに言われても。
「で?あたしを捨てて、何人と一緒に暮らしたの?正直に教えて」
何人って・・・
「えっと・・・五人?いや、六人かな?いや七人だ」
電話の向こうからため息。
「なんて人なの。次から次へと。さんざん利用して新しいのに乗りかえて。この人非人!」
「そういう時代なんだよ。そうじゃないと時代おくれなんだよ。通用しないんだよ」
「ウウウウウ」
電話の向こうからキーを連打する声がする。
「ウウウウウウウウウウウ」
さらに続く。ボクは気の毒になってアドバイスする。
「たくさん打つときは、コピペしたほうが能率的だよ。そういうの、マウス使うほうが楽なんだよなぁ」
電話の向こうからパチパチパチパチと罵り声が続く。
「とにかく明日早いから。成仏してよね。おやすみ!」
ガチャリ。
霊感が強いってのは困ったものだ。
人の霊ならまだしも、昔使っていたワープロの霊から電話がかかってくるのも困りものだな。
しかし、ワープロの気持ちになればわかる気がしないでもない。
まだ十分使えるのにパソコンの普及とともにお払い箱になって。そりゃ怨みたくもなるだろうな。
同情しつつ眠りについた。
それがまずかったんだろうか?いや~霊感が強いってのはホント困ったものだ。
夜な夜な電話が鳴るようになっちまった。
LDプレイヤー、プリントゴッコ、8ミリビデオ、VHD、98NOTE・・・ 

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怪人カレー男

2012年09月25日 | 366日ショートショート

9月25日『10円カレーの日』のショートショート



「現れいでよ!カレー男!」
シタールの響きとともにドライアイスのスモークの向こうから怪人が登場した。
インド風の衣装に身を包んでいるものの、どう見てもインド人には見えないドジョウ髭。これがジョッカーの科学力の粋を集めた怪人なのか?
ジョッカーの鷹の紋章に飾られた点滅灯に合わせ、エコーのかかった首領の声が響いた。
「カレー男、早速、おまえの企てた世界征服計画を聞こうではないか」
「ハイ、首領。名づけて『10円カレー作戦』でございます」
「なに?10円カレー?」
「首領、日比谷公園のレストラン松本楼で、10円カレーをふるまうイベントがおこなわれているのは御存知でしょうか?」
「知らん」
「客は10円もしくはいくらかを上乗せしてお金を払い、松本楼のカレーを食べます。その売り上げはすべて寄付されるのでございます。準備された1500人分のカレーを求めて、毎年長蛇の列ができるのです」
「その慈善事業と、われわれにどんな関係が?」
カレー男が不敵に笑った。
「そこでございます。善意で供されるカレーにこっそり毒を入れるのです。毒は農薬を使いましょう」
「うわっ、悪い!善意を裏切る極悪非道!農薬ってのも超~リアル!テレビで放送しちゃいけないくらい悪い!その計画、採用!さっそく取りかかれ、カレー男!」
「ははっ」
・・・というわけで当日。
「もしもし!もしも~し!首領、ただいま会場に到着しました。ハアハア、ゼエゼエ」
「遅いじゃないか、カレー男」
「面目ない、ちょっと朝寝坊しちまいまして」
「う~む、朝は苦手のようだな。カレーだけに」
「あの、会場に着いたものの、もう長蛇の列で。今、最後尾に並んだんですけど、なんか整理券も配り終わっちゃったみたいで」
「じゃ計画どころか、カレーも食べられないじゃないか」
「で、今、券を買わないかってダフ屋が声かけるんですけど・・・」
「チャリティーカレーの行列にダフ屋?それ、われわれより悪い!」 

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部屋掃除

2012年09月24日 | 366日ショートショート

9月24日『清掃の日』のショートショート



部屋片づけには極意がある。
見えなくすることと、見えなくても取り出せることだ。
あれこれが目に見える所にあると見苦しく収拾がつかない。
目に見えない場所にしまうとスッキリするが、場所がわからなくなって探し物ばかりで効率が悪い。
つまり、あるべき場所にしまわれて、無意識に取り出して使えるというのが理想的なのだ。
さも片づけ上手のように語っているが、実はほら、見てのとおり、私の書斎はゴッチャゴチャ。我ながらお恥ずかしい。
小物や本を片づけていると、いちいち気になって見入ってしまったり、
まったく見馴れないものを見つけてしまったり。
年のせいか、過去の記憶が曖昧になって自分の持ち物なのに珍しく感じてしまうんだよなあ。
最近ボケたんじゃないの?なんて平気で妻が言う。困ったものだ。
キャスター付きカウンターを移動すると・・・オヤ?こんなところに地下室入口が。
地下室があったことも、書斎から地下に降りることができることも、まったく記憶にない。
いよいよボケちまってるらしいなぁ。
何はともあれ、入口の蓋を開けて降りて行った。
ランプを灯すと、地下室の全景がぼうと浮かび上がった。
それは信じられない光景だった。部屋の中央には手術台。台の上には切り刻まれた人体の一部。
部屋の壁は、近隣で起きた失踪事件の新聞記事やら、この部屋で写した凄惨な生写真やらで埋めつくされている。
なんということだ!猟奇殺人犯。それが本当の私とは。
ああ、ボケたまま忘れてしまえばよかったのに。部屋掃除なんかしないままに。
私が座り込んで嘆き悲しんでいると、背後から声がした。
「爺さん、部屋片づけが遅いと思ったらこんな所でサボってんのか」
壮年のガタイのいい男が階段に腰掛け、こちらを観察している。
「ど、どちらさまで?」
「何言ってんだ。俺はこの家の主じゃないか。俺が爺さんに掃除を頼んだんだろ。ボケてんなぁ」
なんだ、そうなのか。雇われて無心に掃除をしているうちに自分の家と思い込んでしまったらしい。
ということは、地下室で人を殺していたのは私じゃない。ヨカッタ~!
で、猟奇殺人犯は、この家の持ち主である、この男にまちがいない!
「あなた、いったい何人の人を?」
「19人。・・・・・・あ、もとい、20人」 

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叔父の万年筆

2012年09月23日 | 366日ショートショート

9月23日『万年筆の日』のショートショート



先日、突然、叔父が亡くなった。
叔父宅に焼香を上げにうかがうと、ひとり残された叔母が喜んでくれた。
「どうしても急ぎの用で帰ることができなくて。大変でしたね、叔父さん」
叔父夫婦は五十代半ば、盆に会ったときはあんなに元気だったのに。正直、彼らみたいな夫婦なら結婚もと憧れるほどのオシドリ夫婦だった。
「ホント、急でねぇ。ふだんどおり朝御飯を食べて、歩いて碁会所に行って。急に倒れたそうよ」
「心臓がお悪かったんですか?」
「それが病気ひとつしたことないの。結局、死因は特定不能の突然死ってことになったの」
実家で概略様子は聞いていたものの、叔母の心中を思うと胸が痛んだ。
帰り際、叔母が叔父の書斎から万年筆を持ってきた。
叔父愛用のアンティークな万年筆だ。子供の頃、叔父の書斎で見たことがある。
何度も辞退したが、ぜひにと言うのでありがたく頂戴した。
実家に戻ると、仕事先に明日戻る旨、連絡を入れた。
相手が一方的に取引先からの受注変更を話し始めたので、慌てて内ポケットから叔父の万年筆を取り出した。
そしてメモ紙に走り書きしようとした。
だが、万年筆は勝手に文字を書き綴ったのだ。
『八木栗昌平』
清々しいブルーブラックのインキで綴られた文字は、ボクの筆跡とは全然違う達筆だった。
これは叔父からのメッセージだ!突然の不審死というのは実は・・・
メモをポケットに収め、ボクは急いで叔母に会いに戻った。
居間で本を読んでいた叔母にメモを手渡す。
名前を見つめているうちに、叔母の指が震え始め、涙をポタポタとこぼした。
叔母の口から絞り出すように声が漏れた。
「こいつが犯人なのね」
やはり、やはりそうだったのか。
叔母はひとしきり泣いて落ち着くと笑顔を見せ、読みかけの文庫本をボクに手渡した。
「主人はああ見えてけっこうイタズラ好きでね。主人が先に読んだ推理小説を私が読んでいると、いよいよってところで犯人を教えるのよ。まったくあの人ったら」 

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ビーチクリーン大作戦

2012年09月22日 | 366日ショートショート

9月22日『国際ビーチクリーンアップデー』のショートショート



今日はビーチクリーンアップデー!!
海岸のゴミをみんなで拾い集めるボランティアの日なんです。
ええ、ボクたち家族、全員参加します。
ママが腕によりをかけてお昼を作ってくれたんです。
子どもたちも、なんだか遠足の日みたいにキャッキャッしちゃって。
楽しくボランティアに参加して自然を大切にする心を養う。ステキじゃないですか。
おい、水筒、タオル、軍手、みんな忘れてないか~?じゃ、しゅっぱ~つ!
・・・
海岸に着いたら、自治会の皆さんもう始めてらっしゃるじゃないですか。
いや~ご苦労さん、ご苦労さん。
会長さんから袋を受けとって、ボクたち家族もさっそく取りかかりました。
遠目に美しく見える海岸も、こうして近くで見ると、いや~あるもんですねぇ、ゴミ。
瓶やらペットボトルやら、発泡スチロール片やら。
もうまったく人間ってヤツは!
「皆さ~ん、お疲れで~す。ちょっと休憩しましょう」
会長さんの一声で、みんな手を休めます。
おや?子どもたちが見当たりません。
「うちの子、見ませんでした?」
「あら、うちの子の姿が見えないわ」
「うちの子もよ!」
子どもたちみんな、いなくなっていたので大騒ぎになりました。
「お~い!いたぞぉ!こっち、こっち」
副会長さんが岩向こうから叫びます。駆け寄ってみると、よかった!子どもたちみんないました。
「パパ!なんかすごいゴミ見っけ~」
大人たち、みんなビックリです。海岸の崖からニョッキリと尖った物が出ています。
会長さんも腕組みして見上げています。
「とにかく海岸にこんな物あったら邪魔ですから、いっちょ掘り出しますか?」
そんなわけで、大人も手伝って掘ることにしました。
ところが掘っても掘っても、キリがありません。
なんか尖ったのはアイスクリームみたいなのの先っちょで。
それを握ってる手が出てきて。次に頭が出てきて。こりゃあとにかくでかい。
そのとき、会長さんが叫んだんです。
「人間が来たぞ!隠れろ!」
驚いたのなんの、キ~キ~大慌てで全員岩影に隠れました。
そうとは知らずに、馬に乗った人間の男女が波打ち際をやってきます。
息を殺して見ていたら、男がさっきのゴミを見上げて、馬から下りるとガックシ膝ついて嘆いています。
いや~なんなんでしょうねぇ。さっぱりわかりませんわ、人間ってヤツ。 

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未来ファッション

2012年09月21日 | 366日ショートショート

9月21日『ファッションショーの日』のショートショート

「試着してごらんになります?」
誘われるまま、試してみることにした。
店員が腰のリモコンを操作すると、フリスビー状の円盤が天井を飛んできた。
わたしの真上で静止、ゆっくりと回転する。わたしの全身をスキャンしているのだ。
まもなく、店の奥の試着スペースのカーテンを開き、ドレスを試着した「わたし」が現れた。
わたしそっくりのマネキンロボット。
わたしの前に闊歩してきた「わたし」は、頭のてっぺんから足の爪先までコーディネートされている。
「いかがです?こちらも試してみては」
店員がリモコンを押すと、ドレスが次の候補に瞬時にして変わった。合わせて、アクセサリーやネイルも変化する。
ほんの数年前までは、客自身が着替えては鏡を見るしかなかった。
だがこの試着ロボットが開発され爆発的に普及した。
自分が服を着て動いている姿をあらゆる角度から見ながら似合う服を選べる。自分が着替える手間もなく。
試着室の奥には、性別や体型の違う数体のロボットが待機している。スキャンデータによって本人そっくりの形状になっていく。
立体映像で、髪、服やアクセサリーなどが付加されて完成する。
わたしより「わたし」のほうが幾分スタイルがよくて幾分美形なのはご愛嬌、商売上手ってヤツ。それでも文句を言う客がいるから困ったものだ。
「そうね、最初のにするわ」
わたしはいちばん気に入ったドレスを選んで現物を受けとると店を出た。
次はバッグを買おうかしら。
ショップの前には、数名の女性がいた。全員がショップの最新デザインのバックを持っている。
彼女たちもマネキンロボット。こちらのロボットたちはホログラムが使われておらず、本物の服を着て、本物のバッグを手にしている。
動くマネキン人形といったところ。
「毎度ありがとうございます。ほほう、これはお目が高い!」
店の主人が作り笑いで寄ってきた。
これは本物の人間。
だって脂っぽくて卑屈な感じで、こんな親爺ロボいないもの。

それから百年後。
地球を訪れた宇宙人たちは驚嘆した。
「ナンテ美シインダ!コノ星ハ」
とっくに人類はパンデミックによって全滅していた。
そして無人の工場でマネキンロボットが作られ続け、無人の工場で作られるファッションに身を包み、地球に溢れていたのだ。
にかやかに微笑んでポーズを決める無国籍なマネキンたち。
「コノ星ノ住人ハ実ニ美シイ。ソシテナンテ空ッポナンダ!」

 

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真夜中のバス

2012年09月20日 | 366日ショートショート

9月20日『バスの日』のショートショート



忘年会の夜。2次会の途中で抜けて、千鳥足でバス停に向かった。
最終の11時35分のバスに間に合うように。
タクシーを使う気にはなれないほどの遠距離だ。飲み会の会場が隣町だとこれだから困る。
11時10分。思ったより早くバス停に着いた。
やれやれ。
ベンチに座る。バス停には俺以外誰一人いない。しんとしている。
吐く息が白い。夜中になってどんどん気温が下がっている。コートの中に首をすくめた。

少しウトウトしたと思ったら、バスが来た。
時計を見る。11時35分ジャスト。
バスに乗り込む。
やけに薄暗い車内を見渡す。乗客は誰も乗っていない。
座席にドカリと座り込む。本格的に寝てしまおうか。

寒い。
こんな真冬の夜中なのに、暖房を入れないなんて。
普段なら遠慮してしまう性格だが、酔った勢いで運転手に声をかける。
「運転手さん、暖房入れてよ。寒いよ、これじゃ」
運転手はこちらに顔を向けずに、だが、愛想よく答えた。
「すいませんね、故障しちゃってて・・・」
仕方がない。俺はまたコートの中に埋もれるようにして、目をつむった。

10分もしただろうか?俺は不安になって目を開けた。
乗ってから十数分間、どこのバス停にも停まる気配がないのだ。
行き先や広告を告げるアナウンスもなければ運転手がマイクを使うこともない。
ずっと無言のままだ・・・エンジン音しかしない。
俺は外の景色を見る。
違う。俺の町に向かう国道じゃない。
「運転手さん、これ道違ってるよ」
「そんなことありませんよ」
「このバスは、11時35分発、大迫行き、準快速。国道をずっと通るはずだろ」
「お客さん、それ違うわ。時計見間違えちゃったんですね。このバスは12時35分発ですよ」
思わず時計を見る。午前1時になろうとしていた。
時計の針を酔っていて見間違えたのか・・・いや、待てよ、そんなはずはない。
「だって、11時35分が最終じゃないか」
・・・
運転手がぽつりと言った。
「人間が乗るヤツはね」
な、何を言ってるんだ?俺は運転手を観察した。俺から見えるのは運転手の手だ。
ハンドルを握る手・・・白く細長く、骨のような指先だった。
「お客さん、こんな寒い真夜中に、泥酔して外で眠り込んだら、そりゃあヤバいわ」
「ヤバいわって、俺はこんなバスに乗る気なんかない。降ろしてくれ」
「途中下車はできないんですわ。大丈夫、終点でちゃんと降ろすから。今晩はけっこう忙しくてね、隣町の中央病院と救急救命センター、老人ホーム回って・・・あと五人、お客さん拾うんで、まあ、ゆっくり座っといて」
俺は、半狂乱になってバスの窓を叩く。
「た、助けてくれ!だ・・・だれか!」
窓を叩く音も、俺の叫び声も、音がくぐもって俺自身の耳にさえ、かすかにしか聞こえなかった。
吸い込まれそうな暗黒を、バスは走り続けた・・・ 

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苗字いろいろ殺人事件

2012年09月19日 | 366日ショートショート

9月19日『苗字の日』のショートショート

【容疑者多すぎ殺人事件】
「駆けつけたときには、害者にまだ息があったというのか?」
「はい警部。で、尋ねたんです。誰にやられたのかって」
「で?」
「ウウウ・・・佐藤、鈴木、高橋、田中、渡辺、伊藤、山本、中村、小林、斉藤・・・」
「それ、多い苗字ランキングじゃんか」

【珍名さん連続殺人事件】
「冽鎌、梶谷垣内、勘解由小路、吉弥侯部、不死川。ずいぶん殺したな。しかも全国ひとりの珍名さんばかり。おまえのせいで日本から珍名が五つも消滅しちまったじゃないか。連続殺人犯め、死刑確定だ」
「ボク、霧万蛇路っつう名前で全国ひとりなんだけど」
「嘘こけ」

【連続バレバレ殺人事件】
「諸君、ご承知のとおり校内で男子生徒連続殺人が発生しておる。被害者は、織田君、水田君、雪戸君、団君、金子君、声田君、そして花津君だ」
「先生、犯人がわかったのですか?」
「うむ。犯人は、被害者男子全員から結婚を迫られた女子・・・マリちゃん、君だ!」

 

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大人になりたい

2012年09月18日 | 366日ショートショート

9月18日『かいわれ大根の日』のショートショート



アナ「ちんぷんかんクッキング、本日ご紹介するお料理は、『大人になりたかったよサラダ』です。本日の講師小練逍雲先生、よろしくお願いします」
逍雲「ハイ、よろしくネっと」
アナ「渋い声ですね。今日は若山弦蔵ですか?日高晤郎?」
逍雲「近藤洋介で」
アナ「渋いとこ来ましたあ。で先生、今日はまた変わった名前のサラダですね」
逍雲「ま、ひとことで言うなら大人になれなかった食材の成仏を願うサラダだね」
アナ「では、早速作っていただきましょう。あ、これはカイワレダイコンですね」
逍雲「君、カイワレの気持ちにちょっとなってみて」
アナ「え、カイワレですか・・・こんな感じかなあ?こんにちは!ぼく、カイワレ。スポンジなんかにゴチャゴチャ種まかれて、やっと芽が出たと思ったらもう収穫されちゃってさ。ちゃんと一本立ちすりゃダイコンになれたのに。こんなヒョロヒョロなのに大根なんて呼ばれちゃたまんないよ。大人になりたかったよ~!」
逍雲「うまいじゃないか、キミ。声優になれるぞ。じゃあ、次はちりめんじゃこ、やってみたまえ」
アナ「え?ちりめんじゃこ?ハイ。こんちは!ぼく、ちりめんじゃこ。茹でられて真っちろで~す。ぼくってカタクチイワシの稚魚なんだよ。大人になったら15センチくらいの立派なイワシになれるのに。こんな幼い命を釜茹でにしやがって~!」
逍雲「その調子、その調子。では、じゃことカイワレ、混ぜ合わせます。さ、両者になったつもりで言い争って」
アナ「おい雑魚野郎、おれたちカイワレはなぁ、刺身のツマや彩りにされたりされて超脇役なんだぞ、不幸だろ~?やんのかカイワレ、オレたちじゃこなんかこんなにちっちゃいのに、チビッコから『目が怖~い』なんつって言われちゃうんだぞ!」
逍雲「あるある。で、こちらの辛子明太子を投入!」
アナ「お前ら、ちょっと待ったぁ!オレなんかタマゴだぞ!まだ生まれてすらないんだぞ。ヒトハラ20万個のたった一粒がオレなんだぞ、まいったか~!」
逍雲「で、混ぜ合わせたところで、こちらのお皿に準備しておいた生野菜サラダにパラパラッと」
アナ「おいおい、オレたち全員で、トッピングかよ!先に言え、この野郎~っ」
逍雲「まあまあそんなに怒らないで大人になりなさい」 

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モノレール

2012年09月17日 | 366日ショートショート

9月17日『モノレールの日』のショートショート



子どもの頃ってどうしてあんなにすぐに仲直りできたんだろう。
けんかして、仲直りして。またけんかして、また仲直りして。
なにがなんでもゆるせないなんて絶対ダメだと思っていたし、相手もそう思っていると心から信じていた。
数軒先の借家に住んでいた金田くんは、赤ちゃんの時から一緒だった。
幼稚園も一緒に通ったし、小学校も一緒に登校した。
小三の夏に金田くんが遠くに引っ越しをするまで。
夏休み、金田くんの親戚のお兄さんが火の山公園に車で連れて行ってくれた。
金田くんがボクと一緒に行きたいと頼んだらしかったけど、お兄さんは乗り気じゃなかった。ボクと金田くんが車の後ろではしゃいでいると、ボクだけ叱られた。
火の山展望台に着くと、お兄さんは金田くんにだけジュースを買った。金田くんにだけ記念メダルを買った。今から考えれば、ボクのほうじゃ金田くんに招待されたお客さんのつもりだったからムカムカした。
ボクはバカだから、金田くんに意地悪して、もって行き場のない気持ちを晴らした。
帰りの車中で、
「覚えてる?空中モノレール。透明な管の中を走る未来の乗り物」って聞いてきたとき、
ボクは覚えているのに、
「覚えてない」と言った。それだけじゃない。
「モノレールってレール一本に車が上に乗ってたりぶら下がってたりする乗り物じゃん。管の中走ったらモノレールじゃないし」
なんて、余計なことを言ったものだから、金田くんはすっかりしょげてしまった。
「そっか。ちがったんだ」
あのさびしい声。
「そっか。もうボクたち、ちがうんだ」みたいな。
それっきり、二人とも黙りこくって。おざなりなお別れを言い合って。それっきりになって。
それがモノレールだろうとモノレールじゃなかろうと、どうだってよかったのに。
漫画雑誌の巻頭カラー、小松崎茂だったか、未来都市の細密なイラストに二人で目を見張ったときの、あのワクワクを共有すればそれだけでよかったのに。
あれからもう何十年も時が流れた。
夏空を見上げる。
紺碧の空に、入道雲が本物の大巨人のように屹立している。それも、幾重にも。
その雲をものともせず、透明なチューブがひたすら伸びている。入道雲の肩をかすめて、その遥か先までずっと。
あのチューブの中、ごめんなさいの気持ちをモノレールに詰め込んで発進すれば、金田くんのところまで届きそうな気がする。 

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マッチ売りの少女のために

2012年09月16日 | 366日ショートショート

9月16日『マッチの日』のショートショート



たとえばオレが大晦日に雑踏を歩いていたとしようじゃないか。
路傍のあちこちにはガチガチの雪が残っていて、冷たい風に身も心も凍てついてしまう。
そんな往来の片隅で、いたいけな少女がひとり、手提げ籠を抱きかかえ声をあげているんだ。
「マッチはいかがですか?マッチを買ってくださいませんか?」
気忙しく行き来する人は誰も気にもとめない。
薄手のみすぼらしい服に身を包んでいるきり、手袋も靴下もない。
紫色の唇が震えているのは、寒さと空腹のせいにちがいない。
このまま一本のマッチも売れずに家に戻れば、鬼のような親方の折檻が待っているにちがいない。
家に帰れぬまま、夜が訪れるだろう。
あまりの寒さにマッチを灯す。消えるまでのわずかの間だけ、心にもまた明かりが灯る。
一本、また一本と灯していくうちに、すべてを燃やし尽くす。
そして翌朝、雪に埋もれた少女の亡骸がひとつ。
ああ神様、こんな幼子にかくも過酷な試練をお与えになるのですか。
「マッチはいかがですか?マッチを買ってくださいませんか?」
おや?ひとりの男が足を止めた。
「おいおい、今どきマッチを買ってくれ?百円ライターですら景品で貰えるような時代、マッチなんて見かけなくなって久しいぜ。わざわざ道端で買う奴がいたら見てみたいよ」
鼻で笑ってそのまま立ち去っちまった。
またひとりの男が立ち止まった。
「マッチをいかがだと?道端でマッチを買って何に使えって言うんだ?今、禁煙中なんだ。マッチなんか買っちまったらオシマイじゃないか!オレを肺癌にする気か?くそっイライラする!」
怒鳴りつけると、足早に消えた。
がっくり肩を落とす少女。暗くなり始めた空一面、薄雲に覆われ始める。まもなく雪が舞うだろう。
少女を、彼女を救えるのは、そう、オレしかいないじゃないか!

「それで?」
それでって・・・今日び、マッチ売りの少女を救えるのはオレしかいないってことさ。プハ~ 

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