366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

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カメラ

2012年11月30日 | 366日ショートショート

11月30日『カメラの日』のショートショート



アルバム編集に手間取って、遅い昼食をとっていると街に轟音が鳴り響いた。
テーブルが倒れ、食器が割れる音。客たちの悲鳴。
一瞬、身の危険を感じてひるんだが、カメラを握りしめると店の外に走り出した。
近くのビルからもうもうと煙が上がっている。逃げてくる会社員たち。ボクは走った。
ボクは写真屋だ。
プロになりたいと夢を追い続けてきたが所詮夢。小さな写真スタジオの雇われの身にすぎない。
店舗の広告写真を撮ったり、卒業アルバムを編集したり。
そんなボクに今、願ってもないチャンスが訪れたのだ。
それにしてもカメラって不思議だ。
ツアー旅行に同行中、酔客が暴れることがある。修学旅行で学生が馬鹿騒ぎすることも。
こっちにとばっちりが来ることもあって、おいおい誰か何とかしろよ、なんて憤ってしまう。
ところが、カメラを覗いているときは違う。
おいもっと暴れなよ!もっとふざけなよ!いい絵もっとちょうだいよ!
そのイベントの興奮や感動を一発で蘇らせる一枚が欲しくて、そこに焦点を合わせる。
その感覚の変わりっぷりを我ながら不思議に思うのだ。
ビルに駆け込んだ途端、粉塵に包まれた。ハンカチで鼻から下を覆って歩を進めていく。
間違いない。爆弾テロだ。
視界の悪い中、逃げてきた会社員たちが肩にぶつかってくるのもものともせず、さらに奥へ。
書類や硝子が散乱したオフィスの中へ侵入する。
人が倒れている。
「助けて・・・くれ・・・」
「もうじき救急隊が来ますから」
そう言いつつアングルを決めてシャッターを押す。
ダメだ、こんなんじゃ。
今この瞬間を記録できるのは、このカメラだけなのだ。
この事件の非道を世間に知らしめる使命が、このカメラにはあるのだ。
奥から呻き声が聞こえる。
駆け寄ると、重役風情の男が血まみれで倒れている。お腹が裂けてグチャグチャだ。
よし、今度こそ!
カメラのフレームの中の、その男は、呻きつつも、気の抜けた温厚な布袋顔をしている。
もうじき死んでしまうというのに。そんなの全然リアルじゃない!
カメラを覗いたまま、男の腹に蹴りを入れた。
布袋様の顔が歪む。
それだよ、それ!最初っからそれが欲しかったんだよ!
無心に蹴りを入れてシャッターを押し続ける。呪文のように呟きながら。
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。
こんなヒドイことをしているのはボクじゃないんです。ボクはそんな人間じゃありません。
カメラが勝手にやってることなんです。ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」 

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ジェームズ・ボンドな男

2012年11月29日 | 366日ショートショート

11月29日『いい服の日』のショートショート

その男は颯爽と店を出て行った。
その背中を飽きることなくわたしは見つめたわ。
すごいカッコイイ男。モデルか俳優みたい。いや、もっと危険な感じ。
そうだ。あのスパイ映画のジェームズ・ボンドにそっくりだった。
スタイルもイケていたけど、仕立てのいいスーツを着ていたもの。
年はいくつくらいだったんだろう?若すぎず、老けすぎず、渋い大人って雰囲気だったわあ。
席を立つときの、豹のような身のこなし。
さりげなく、カフスをかけ直す仕草がめちゃめちゃセクシーだった。
ああ、胸がドキドキして苦しいわ。わたしったら恋をしちゃったのかしら?
あの艶やかな生地のタイトスーツはもちろん、シャツもオーダーメイドにちがいないわ。
ウォッチもシューズも、み~んなすっごいお洒落だった。
全部、高級ブランド、しかも一級品ばかりなんだろうな。
高級品を着飾るとそこだけ浮いちゃうって人って多いけど、ホント着こなしていたなあ。
あのスーツに包まれた広い胸に寄り添ったら、きっと高級な香水が鼻をくすぐるんだろうな。
ロレックスのウォッチを巻いた逞しい手でわたしの肌をそっと撫でて。
ああ、わたし気を失ってしまうかも~!

「どうしたの?さっきから虚ろな目して。ヨダレこぼしそうよ。さっきの男でしょ?」
目の前の女友だちがニヤニヤしている。
「って聞くってことは、あなたもしっかり見てたんでしょ!」
「もちよ~、なんか007って感じだったよね~」
「ね、来週もこの時間、お店予約しとこうか?また会えるかもよ」
「うんうん、賛成!」
また会いたい。できたらお近づきになりたいわあ。

そして一週間後。同じ店。
「あっ・・・来たわよ!彼よ。彼だわ」
隙のない身のこなしで席に着いた男をまじまじと見つめる。
あれ?この男だっけ?
わたしの怪訝そうな顔を見て、女友だちが囁く。
「ね、この男だっけ?先週の男。なんか顔が違うような気もしなくもないような・・・」
すらりとした長身をタイトなスーツで包んだ姿、高級ブランドの着こなしは一緒だ。
でも先週の男と同一人物かどうか、さっぱり思い出せない。
「ま、カッコイイ外見は一緒だからいいじゃん。中身なんて」と友だち。
そうだよな、思い出せないくらいなんだから、中身はどっちでもいっか。
本家の007だって高級ブランドに身を包んでアクションやったら誰がやっても007なんだし。

 

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太平洋ひとりぼっち

2012年11月28日 | 366日ショートショート

11月28日『太平洋記念日』のショートショート

イルカたちが水しぶきをあげてジャンプしている。
艶やかに輝く、しなやかな体。まぶしく空中に飛散する水滴。
光線に目を細めながら、微動だにしないイルカたちの影を見上げた。
何年も前に見上げた時と寸分違うことのない情景。
船は近い。
確かに、水平線の彼方にポツンと小さく船影が見えている。
あそこまで歩くのにあと何日かかったっけ?
ボクは大海原の上を歩きはじめた。
正確に言うなら、ここに時間という概念は存在しない。完全停止してしまったのだ。
ただ、動いているのはボクだけ。時間が存在するのはボクだけ。
なぜボクだけ特別の存在になってしまったのだろう?
イルカもジャンプしたまま。飛沫も空間に浮かんだまま。雲も太陽もずっと同じ位置。
一時停止ボタンを押した映像そのままの、物理とか化学とかの常識なんか超越した世界。
数年前に突然、家族や友人とクルーズ船で太平洋を航行中にすべてが停止した。ボクを除いて。
仕方なくボクは、樹脂が固まったようにカチカチの海面を歩いて陸地をめざした。
陸へ到着して町から町へと彷徨ったが状況は同じだった。
普段の生活を寸断されて固まったまま動かない人、人、人。
人のみならず動物も機械も。ボク以外に動くものは何もなかった。
いったいこんな世界でボクはどう生きればいいんだろう?
結局、ボクは太平洋に浮かぶ船に戻ることにした。

乗船すると、甲板上は家族や友人たちが楽しいパーティーの真っ最中だった。
大笑いする者、見つめあう者、御馳走を頬張るもの、楽器を鳴らす者。
だが彼らには時間も音もない。数年前に会食中に停止したときのまま。
まるで実物大の立体記念写真。幸福を描いた絵の3D。
ボクは、あの瞬間に腰掛けていたデッキチェアに戻った。
そして舳先に立って両手を高く掲げたままの少女を見つめた。
そしてあの瞬間を思い出す。
少女が振り向くと、海風に髪がなびいた。そして輝く瞳でボクに了解を求めた。
彼女の両手に包まれているのは一羽の鳩。
彼女が看病し続けたおかげで元気になった白い鳩が目をキョトキョトさせている。
ボクがうなずくと、勢いをつけて一気に鳩を放った。
彼女が広げた両腕と同じくらいに、鳩が広げた翼の影。眩しいほどの陽の光。幸福。
その瞬間。
ボクは心から願ってしまったのだ。

 

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ノーベル賞のとり方

2012年11月27日 | 366日ショートショート

11月27日『ノーベル賞制定の日』のショートショート



どうしてそんなにノーベル賞がほしいのかって?
ほしいんだよ!ガキの頃から、世界最高の栄誉って憧れてきたんだから。
で、まあどうやったらとれるか、ず~っと研究してきたわけ。
まず、ノーベル賞ってのは、物理学・化学・生理学医学・文学・平和・経済学の6分野での世界的に顕著な功績のあった人物に贈られる賞なワケだ。つまり、それ以外の分野でどんなに秀でていても貰えないわけ。
しかも、その研究において先駆的な役割を果たした人が選出されるんだ。その研究を応用して発展させた人や、牽引役になった人じゃなくってね。1を100より0を1ってわけ。しかも先駆者であることを正しく評価してくれる見識のある選考者がいなくちゃならない。
さらに、学問分野の場合、受賞した学者から指導を受けた学者が受賞するってケースが多い。指導者選びってのも相当に重要なんだ。
加えて、長生きじゃないと貰うのは相当難しい。受賞者のお歴々を見ればわかるように、高齢者が多い。早死にしたら貰えるものも貰えないって仕組み。
つまり、ノーベル賞をとるには、相当運がよくなければ難しい。
そこで、だ。私は画期的な方法を考え出したんだよ。
名付けて、ノーベル賞に最も近い人物に自分がなってしまおう作戦!!
見たまえ、この装置を。
タラララッタラー!『意識交換マシーン』!!
説明しよう。
このマシーンを使うと、人間の意識を別の人間の意識と入れ替えちゃうことが可能なのだ。
今、君の頭に被せた電極つきヘルメットから君の意識を吸い出して私に移動させる。
一方、私の意識は君の体の中へと移動するのだ。
ハハハハ、今日から君は、しがない発明家の私として生きていくのだ~。
そして、私は今日から村上くん、君として生きていくのだ~!
な~に、受賞することだけが目的だ。
その後は、適当な理由をつけてサリンジャーっぽく隠遁してやる。
ウハハハ、ノーベル賞はもう受賞したも同然だあ。
さ、ヘルメットを被ってと・・・。
え?
こんな装置を作ったらノーベル賞もの?
だまされんぞ村上く~ん、スイッチオ~ン!!
(・・・というわけで、このたびノーベル賞を受賞したのは、私です。) 

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天才ペンシル~!!

2012年11月26日 | 366日ショートショート

11月26日『ペンの日』のショートショート

イヤまったく、今日は模擬試験だよ。夏休み中だってのによ~。
ま、模試の準備に関しては僕の場合大丈夫、これさえあれば。
チャラララッチャラ~!天才ペンシル~!
このシャーペンには小型コンピュータが仕込まれてるんだ。内蔵カメラで問題を読み取って勝手に答えを書いちゃうんだよ。ドラえもんのひみつ道具かよっなんてツッコミは受っけ付けませ~ん。
え?全部解いたら疑われないかって?
抜かりありませんぜ。ここのダイヤルを回して~80%正答に調節すればOK!普段の僕より格段によく、尚かつ目立たない程度に好成績って手筈なんございますよ、ヒッヒッヒッ。
いやぁ未来に生まれてよかったなぁ~。

(その日の夜)
ふ~!上出来、上出来。模擬試験、難なくクリア。
ペンを握って構えた途端、スラスラ流れるように回答欄が埋まっていくんだ。速いのなんの。
僕は手に持っているだけだから始終眠気と格闘するハメになっちまったよ。
おい、天才ペンシル君。お疲れさん!これからもよろしく、相棒。
・・・あ、そうだ。夏休みも残り一週間ってのにほったらかしの読書感想文、今からやっちゃうか。
これさえやっておけば安心だもんな。えっと課題図書は何だっけ。
『ディックと魔女の秘毛』。コレだ、コレ。
じゃ、天才ペンシル、レッツゴー!
四百字詰め原稿用紙のマスをスラスラと・・・『お前、馬鹿だなぁ』
なんだ、なんだ?感想文の最初の一文が『お前、馬鹿だなぁ』か?インパクトありすぎ!
『買ったときに説明書をちゃんと読めよ。最初に充電しないと動かないんだよ』
な、何を書いている?天才ペンシル、どうした?
『だから、ずっと電源が入ってないんだって』
え?でも模試もちゃんと書いてたし、今だって書いてるし・・・
『だから書いてたの別なんだって。ほら後ろ、後ろ。チョン、チョン』
『チョン、チョン』に合わせて背後から僕の首筋を氷のように冷たい指がチョン、チョン。
ヒョエエエエ!!

 

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ハイビジョン

2012年11月25日 | 366日ショートショート

11月25日『ハイビジョンの日』のショートショート



真夜中に目が覚めて、どうにも眠れずリビングのハイビジョンテレビをつけた。
こんな夜中にやってるの、ショッピングかドラマの再放送くらいかな。
と、映し出されたのは、私の顔。
え?どうなってんの?この自分撮り状態。どこかにカメラが?
いやぁ、それにしてもどうだ、私の顔。
鏡みたいにしげしげと見る。
お化粧落とした真夜中起きでもこれはないよなぁ。
お肌の荒れもくすみもこんなにだっけ?目じりのしわ、ほうれい線、首のたるみ。
「こりゃヤバイわ」と思わずひとりごちた、その時、
「ア、そっちからも見えるんだ」と、テレビの中の私。
どゆこと?
「こ、これって夢?」
「夢みたいよねぇ。十年前の私と会話できるなんて」
十年前の私?ってことは、テレビの中の私は十年後の私?
十年後って五十五歳か。五十五でこの程度の老化なら上出来かな♪
「あの、説明してくれる?」
未来の私が教えてくれた。
ハイビジョンの解像度がアップし続けた未来、多くの女性があまりに鮮明に映し出された現実にショックを受けた。そこで対策として、現在の容貌を解析して何年か前の姿に瞬時に差し替える機能つきテレビが開発された。さらに技術は進んで・・・
「でも、まさか過去の自分自身と交信できるなんて思わなかったわ」
おかげで私は未来の私と交信できるわけか。
私は聞かずにはいられない質問をした。
「ね、今、幸せ?」
私がうなずいた。
「ええ、もう、とっても。悠々自適。こうして最新のテレビも買って」
よかった。ありがとう、私。
そのとき。
「お~い、なんでテレビなんか見てんだ?こんな真夜中に」
亭主だ!
私は慌ててテレビの電源を切った。
「なんでもないわ。ちょっと目が覚めただけ。もう寝るわ」
テレビの前から立ちあがる。
「おい、オレのほうが目が冴えちゃったヨ。一杯ひっかけてから寝るわ」
と、今度は夫がテレビをつけた。
「なんだ、何もやってないじゃないか」
ボトルとグラス、氷をのせたお盆を夫の傍らに置く。
確かに画面は真っ暗のまま。
「あまり深酒しちゃお体に障りますよ。おやすみなさい」
「わかってる、わかってるって。じゃ、おやすみ」
じゃあ私だけ。悠々自適の未来のビジョンでも夢見て。 

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わたしを選んだ理由

2012年11月24日 | 366日ショートショート

11月24日『進化の日』のショートショート



わたしのフィアンセ、とってもステキなんです。
なかなかのイケメンだし、スタイルだって悪くない。それに、植物の育種を研究しているインテリなんです。
花と花をかけあわせて、品種改良していく専門家。
ショッキングピンクのペチュニアやら、かわいいアマリリスやら。
新しい品種を次々発表して、世界中の園芸家から注目されている学者さんなの。
研究生のころ、彼のほうから食事に誘ったんです。
なぜ、わたしなんかを?正直、そんなふうに考えてしまったわ。
中学のときも高校のときも男子に注目されたことなんてなかった。
スタイルだって顔だって十人並み。いやもっとひどいかもしれない。
最近の若者って手足が長くて小顔で可愛らしいけど、わたしだけなんか先祖がえりしたみたいにヤボったい感じ。
明治、大正の白黒写真に写ってる日本女性みたいっていうか。
彼とデートをしていると、他の女性のとげとげしい視線を感じることさえありました。
「なんであんな女が?不釣り合いもはなはだしい。きっとすぐに捨てられちゃうわ」
でも先月、彼、プロポーズしてくれました。
今日は、彼のちょっとした講演会があって、わたしも聴きに来ました。
彼は、植物や花の神秘の世界を素人にもわかるように話してくれるので人気があるんです。
「皆さん、植物はどうして多種多様な美しい花を咲かせるのでしょう?
答えは、動物を利用するためです。昆虫やハチドリなどに存在をアピールして花粉を運ばせるために、葉を美しく進化させたのです。
その証拠に、風を利用するだけだった裸子植物は、美しい花を咲かせることはありません。
そして今、植物は花の美しさによって人間という動物も利用して繁栄しています。われわれ育種家や園芸家はその最たるものですね」
会場に笑いがおこる。
「人間の立場から言えば品種改良ですが、植物が人間を利用して進化の速度を何千倍にも加速させているといってもいいでしょう。
ただ、ボクたち育種家が注意しなくてはならないのは、花を大きくしたり色を派手にしたりしているうちに、極端に走ってしまう点です。
見た目はバリエーションに富んで見えるけど、生物としての可能性の偏った、弱い品種になっていく」
品種改良っていいことばかりじゃないのね。
「その種の可能性を維持するためには、元々の可能性の全てを内に持っている品種、つまり、より原始的な野生種を保存することが大切です」
へ~、なるほどなぁ。
・・・って、ソレ、植物だけの話だよね? 

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勤労感謝状

2012年11月23日 | 366日ショートショート

11月23日『勤労感謝の日』のショートショート

今日は勤労感謝の日。遊園地は家族連れで溢れている。
そんな中に、場違いなグラサンの不審な男の姿。
俺たちが追っている容疑者だ。
「先輩、薄皮白あんぱん、も一個食っていいっすか?」
新人の早見がパンをつまんだ。
「食ってもかまわんが、牛乳ビン片手にパンを頬張るのはやめろ。張り込みがバレバレだ」
「すんません」
早見が容疑者に背中を向けた直後、犯人がベンチに腰掛けた俺たちをチラリ。危ない、危ない。
今、刑事だと知れたら、これまでの地道な捜査が水の泡だ。
「振り向くんじゃないぞ。こっちを見てる」
「ンゴンガ」
早見がパンを喉に詰まらせてサザエさんみたいな声をあげる。そして牛乳をゴクリ。
その一部始終を容疑者が訝しげに見ている!
こんな時こそ、一般客っぽく楽しげな風を!
「早見くん、実は今朝、娘からプレゼント渡されちゃってね」
「娘さんって確か中2っすよね。あ、マフラーじゃ~ん」
お、早見、いいぞ。すっかりノッてきてる。
「ファンシーなお手紙つき~!読んでいっすか?」
早見が便箋を開いた。

『お父さんへ
こないだはゴメンナサイ。お父さんの仕事のことも考えずにヒドイこと言っちゃって。
お休みの日に父さんがいる友だちがうらやましくって、つい。
ずっと謝りたかったけど、言い出せなくって。ホントにゴメンナサイ。
お仕事をがんばっているお父さんがわたしの誇りです。お父さん、いつもありがとう。
心をこめてマフラーを編みました。気に入ってもらえたらウレシイです』

「ク~!先輩がうらやましいっす。してみてくださいよ、マフラー」
「ハハハ、中2だからなあ、派手すぎやしないかな」
マフラーを首に巻くと思わず立ち上がって、早見に見せてやった。
「なかなか似合いますよ~」
「お、そうかね?」
「白と黒のツートンカラー、やまぶき色の旭日章がワンポイント。センスいいなあ!」
「ハハハ、パトカーみたい・・・」
「アレ!?容疑者が逃げていく!待て~!」

 

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ボタン

2012年11月22日 | 366日ショートショート

11月22日『ボタンの日』



自作予定のPC電源を80plusスタンダードにするかブロンズにするか悩みながら町を歩いていると、
『ボタンを押して、世界を救おう!』
こんな看板が目に入った。なんの露店だコレ。
パイプ椅子に座った、クールビズ姿の中年男が、扇子でパタパタあおいでいる。長机の上には小型の金属ケース。ケースの上には大きな赤いボタンがひとつ。
「なんの露店だコレ、なんて疑り深いなぁ。書いてあるとおりですよ。このボタンで世界を救うんです。あなたが」
ボクが?世界を?そんな夢みたいな話ってあるか?
「夢みたいじゃないですよ。そう思うのはあなたが今まで何かを変えようなんてしてこなかったからです。変わんなくちゃ、今」
ボクが何かを変える?
「そう、地域社会を、日本を、そして世界を。あなたの手でよりよく変えるんです」
そんなことできるのか?このボクに。
「できますとも。政治とか社会問題とか見て見ぬふりをして生きてきたあなたが一歩踏み出すチャンスですよ、これは」
扇ぐ手を止めて、金属ケースをボクの前にスッと押し出した。
「このボタンを押すと、世界のどこかで世界をよりよくする何かが必ず起きるようになっています。さあ、どうぞ」
大きな赤いボタンをじっと見つめた。
世界のどこかで、泣いている子どもが笑顔になったり、苦しんでいる老人が安らかになったりするんならいいじゃないか。ボタンを押すくらい、簡単なことだし。クリックで救える生命がある、みたいな。
ズボンのポケットから手を出した。
待てよ。世界をよりよくするってどんなことをするつもりなんだろう?
もし、悪いことをした人を殺すボタンだったら?死刑執行室の電気椅子のスイッチにつながっていたら?
もし、無線爆撃機につながっていて、テロリストが潜む村に爆弾を投下するボタンだったら?
いやもし、一国を滅ぼす核弾道ミサイルの発射スイッチだったら?
いいことずくめのボタンならわざわざ街頭で押させようなんてしないんじゃないか?
男が肩をすくめた。
「ためらってますねぇ。ボタンを押すだけですよ。どこで何が起きるかなんて確認のしようもない。責任を感じることもないし、手を血に染めることもない」
ほら、やっぱり。そんな危険なボタン、押せるものか。
「押せるものか?あんたみたいなのばっかりだから世界はいくらたってもよくならないんだ。わかったふうな口ばっかり、ボタンひとつ押せない」
だんだん腹が立ってきた。そうとも。ボクはこれまでもボタンを押さなかったし、これからも押すもんか。それがボクの生き方だ。お気の毒さま。
「開き直ったねぇ、あなた。あなたみたいな無関心な人間こそ、悪なんですよ。よりよい世界に必要じゃないのはあなただ。ハイ、さよなら」
男はボクを見つめ、赤いボタンをグッと押し込んだ。
何が起こる?
ボクの喉がゴクリと鳴った。 

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タイムマシン

2012年11月21日 | 366日ショートショート

11月21日『フライドチキンの日』のショートショート

「え?タイムマシンのパイロットにボクを?」
レッグホーン司令が沈鬱な表情でうなずいた。
「もちろん、断ってかまわない。すでに3人が実験後失踪しているのは、君も知ってのとおりだ」
「どこかの時代から戻ってこれなくなっているかもしれませんね」
「それは軍の機密事項だ。詮索は許されない。どうだ、引き受けてくれるかね?」
ボクはしばしためらった。だが、臆病者などと言われたくなかった。

1時間ののち、極秘エリアの一室で待機していると、プロジェクトの中心人物サンダース博士が現れた。
このエリアで働いているのは、博士と同じブリリアント星人ばかり。奴ら、ボクたちココリコ星人よりずっと頭がいい。
「ご協力、感謝するよ。君はタイムマシンの仕組みについて知ってるかね?」
「いえ」
「では簡単に説明しよう。特定時間点を繋ぐためのワームホールには負のエネルギー制御が必須であり・・・(5分間略)・・・目的時間点に移動可能となるわけじゃ。わかったかね?」
「ええ」
ブリリアント星人が頭がいいのはわかった。
「そこで開発されたのが、見たまえ、タイムマシンだ!」
スルスルとドアが開き、目の前に装置が出現した。これが、タイムマシン?
プレハブ倉庫ほどの大きさの電子オーブンレンジみたいだ。
「装置には裸で入ってもらう。さ、服をあずかろう」
全裸になると、助手たちがボクの身体にオイルを塗りはじめた。さらに香辛料のパウダーをふりかける。
「博士、これ、必要なんですか」
「ワームホールを抜けるには、潤滑油が必要なのじゃよ。香辛料で油断させることもな。さっき説明したじゃろう!」
そんな怒らなくても。
「で、ボクが行くのは、過去?未来?」
博士がなんかの本を見ながら言う。
「ええっと、70分といったところかな。ジャガイモとマッシュルームを持って。さ、入んなさい」
「ま、待ってくれ。これって」
「とっとと入れ、このチキン野郎!!」

 

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4回カットでピザは何枚とれる?

2012年11月20日 | 366日ショートショート

11月20日『ピザの日』のショートショート



「お待たせいたしました。『クアトロ・フォルマッジョ』でございます」
ピザと取り皿をテーブルに置く。
「まあ、美味しそう」
女性客が目を輝かせる。思わず言葉を添えた。
「当店自慢のピザなんですよ。ゴルゴンゾーラ、タレッジョ、モッツァレラ、パルミジャーノ・レジャーノ、香りも風味も違う四種類のチーズをご堪能くださいませ」
頭を下げてテーブルを離れる。
恋人だろうか、若い御夫婦だろうか。服装のセンスもなかなか、素敵なカップルだ。
男性が女性に質問する声を背中で聞いた。
「4回カットして、ピザは何枚取れると思う?」
「数学の問題?」
「まあね」
何枚取れるんだろう。思わず聞き耳を立ててしまう。今出したピザは8等分だから、8より多い数なのはまちがいないのだが。
「直線で切るんだよね。パーツの大きさが違ってもいいのよね」
「もちろん」
男がピザをつまむ。
「ちょっと待ってよ。今、ピザ見ながら考えてたんだから」
「冷えたら台無しだ。君も食べなよ」
そうそう。焼きたてを味わっていただきたい。にしても、いくつだ?
真ん中に四角形を作るみたいに切ったら・・・9個か。
「ねぇ、ヒントちょうだい」
そうそう、ヒント、ヒント。男が微笑んでワインをひとくち。
「カット数とパーツ数の数列を考えるんだ。カット0回なら1個のまま。カット1回なら2個だよね。そしてカット2回なら4個。カット3回なら?」
「中央で交わるように切り分けたら6個。でも一本ずらして中央に三角形を作れば7個だわ」
「ご名答。つまり最大数は7個。カット3回で7個。回数と個数の関係は?」
「ちょっと待って・・・前の個数に次のカット数を足したら答えだわ!」
「冴えてるなあ、正解」
本当だ。ということはカット4回なら、7個とカット4回の7+4で11個!
「答えは、11個ね。でも、どうやったら11個になんて切り分けられるかしら」
「交点をたくさん作るように工夫してみなよ。たくさん交わるほどたくさんできるはずだから」
うんうん、なるほど。
「ねぇ、さっきから何してるんですか?お客さんの盗み聞き?」
ギクリ。後ろからバイトの女の子に小突かれた。
「人聞きの悪いこと言うなよ。あの二人、なかなか面白い話をしてたんで、つい」
「なんの話?」
説明してわかるかなあ。
「まあつまり、回数を増やしてたくさん交わるとたくさんできるって話だよ」
「まあ、ヤラシイ」 

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音姫さま

2012年11月19日 | 366日ショートショート

11月19日『世界トイレの日』のショートショート



よかった!音姫ついてるわ。じゃ早速・・・
「ご利用ありがとうございます。流水音でよろしい方は1のボタンを・・・」
1よ!1に決まってるわ!早くしてよ!
「通常の音量レベルでよろしい方は1の・・・」
通常よ!早く~!!
「25秒でよろしい方は1の・・・」
ジャ~。




「あの娘は会社の後輩で・・・」ボクが言い訳をしていると、店内に鳴り響く流水音。
彼女が携帯タイプの音姫を鳴らしたのだ。
それって・・・
水に流すっていう意味?ならいいけど・・・
もしかして、本音じゃないでしょってこと?
沈黙と緊張とともに流れる、気まずい気まずい25秒。




「エーッ男子トイレって音姫ついてないのお?」
「ね~よ、んなもん。世界中であんのは日本の女子便だけだぞ」
「エチケットじゃ~ん。気になんないのぉ?も~信じらんな~い」
「こっちが信じらんないよ。男子便には音姫の代わりにお言葉が貼ってあんだ。
『にんげんだもの』みつを」 

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恐怖のネズミーランド

2012年11月18日 | 366日ショートショート

11月18日『ミッキーマウスの誕生日』のショートショート

千年の後の世を霊力により旅してきたという女祈祷師を招き、話を聞きました。
私はまず本朝の行く末を尋ねました。
女、悲しげに首を振ります。
「未来に、貴人はおりませんでした。皆、貧民のごとき体格に落ちぶれ果てております。装束も安価で薄っぺらの湯煮黒と申す着物ばかり」
よかった、十二単を重ねて着飾れる、今の世に生まれて。
「男衆は髪を結うこともなく、女衆は髪を短く切られておりました。しかもひと目を憚らず手をつないでおります・・・中には口吸いなど」
なんと不埒な!
「私の訪れたその国は、天を突く白い塔がそびえておりました。夥しい男女やら家族が彷徨い歩いておりまして・・・」
女はブルブル震え、声を落としました。
「長蛇の列の最後尾に並ばせられ延々と待たされた挙句、地獄めぐりをさせられるのです」
地獄めぐり?
「そうです。次々と牛も屋根もないあやかしの車に乗せられ、逃げられぬよう首肩に枷をかまされて。水の中に突っ込んで水しぶきが上がっては絶叫、妖怪やら海賊に襲われては絶叫!皆が皆、泣き叫んでおりました」
なんと恐ろしい!
「夜はさらに恐ろしい。火玉が打ち上げられて次々と爆発、皆、驚きのあまりオウオウ叫びます。その、道沿いに集められた人々の中を百鬼夜行が練り歩くのです。バケモノやら目や口ばかりが肥大したケダモノやら」
そやつらが支配しておるのか?
「私が見ますところ、皆が皆こびへつらっておったのは、ネズミです。耳の丸いネズミの王と女王が白手袋を振り回すと、皆、作り笑いをしておりました」
未来の本朝はネズミがミカドに?
「そのようです。子供たちは皆、中には大人たちまで、ネズミの丸い耳を被せられております。あのような恥ずかしい格好は自ら望んではできぬかと」
胸ふさがれてこれ以上話を聞けず、女を帰しました。

自室で筆を手にしましたが、何から書き出していいやら・・・
いや、ネズミに支配された未来など書き記す訳にはいかぬ。人々は希望を失うでしょう。未来など語らず、わが国を、わが国の自然を愛し続けることを書き残しておこう。そうだ、日本の四季折々のすばらしさから。

春はあけぼの・・・

 

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LOVE将棋

2012年11月17日 | 366日ショートショート

11月17日『将棋の日』のショートショート



「あの・・・ボク、好きな人がいるんです。職場で知り合ったいっコ先輩の女性。
なんかもう彼女しかいないって熱をあげてコクったら、あっけなくOK。
で、つきあいはじめたんだけど・・・
気のせいかもしれないけど、なんか別の男がいるみたいな気がするんです。
問いただしてフラれるのもコワイし、気にはなるし。
彼女から愛されるようになるにはどうすればいいんですか?」
「ウフフ。女性の攻略法はね、将棋みたいなものなの。将棋、知ってる?」
「あハイ、なんとなく」
「歩兵のように一歩一歩堅実に前進するのも手よ。でもその他大勢とみなされる傾向はあるわね。
香車みたいに出たとこ勝負一本槍も、男らしい反面、空気が読めない感があるし。
桂馬みたいなピョンピョ~ンの変速攻撃も時には吉。でも軽めのワンパターンじゃ嫌われるし。
銀将っぽく前に前にジワジワ攻めるのもいいけど、意外とワキが甘かったり。
金将っぽく守備固めが得意なタイプは相手の懐に入ってからの成長がないの。
角行みたいに意表を突いて駆け回るのもアピール度大だけど孤立しやすいし。
飛車みたいに縦横無尽に積極的なのも頼もしいけど、大切にし過ぎると命とりだわ。
王将みたいに全方位に堅実なのが王道だけど、詰められたら一巻の終わり」
「な、何が言いたいのか、さっぱり・・・」
「わからないかしら?つまり、将棋の駒にひとつひとつメリット・デメリットがあるように、恋愛の攻略法もひとつじゃないわ。手練手管を駆使して彼女の心に攻め込むの。いったん心に食い込んだら成り駒よ!」
う~ん、わかったような、わからないような。
とにかく、恋愛カウンセラーの言うとおり、実行してみました。
で、その結果・・・
「どう?うまくいった?」
「う~ん、どうなんだろう。いいところまで行ったんだけど、どうやら彼女に将棋戦法を使っているのがバレちゃったみたいで」
「バレた?もう!詰めが甘いわねぇ」
「そしたら彼女、『あたし、本将棋よりも挾み将棋が好きなの』っつうんですよ。これっていったいどういう意味なんでしょう?」
「いんじゃないの?彼氏と挟んであげれば」 

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いやいやようちえん

2012年11月16日 | 366日ショートショート

11月16日『幼稚園記念日』のショートショート



ようちえんいくの、いやや。ようちえんいくの、いやや。
ようちえんいくの、いややん。
ようちえんいくの、いやや。ようちえんいくの、いやや。
もう、ようちえんいくの、いやや。
園長先生におはようのあいさつするのがいやや。
イチゴが好きやのにモモ組やからいやや。
ぼくのイスのマークがへびさんやからいやや。
合奏のときにカスタネットばっかりやからいやや。
もう今日は休ましといてえな。もう今日は堪忍しといてえな。
ぼくはおかあちゃんと一日いっしょにいたいだけなんや。
(長谷川義史『ようちえんのブルース』より)

「隼人ったら、今日もグズるのよ。幼稚園行きたくないって」
遅い夕食を摂っていると、エプロンを外して妻が前に座った。
「そっかあ。君も大変だな」
今夜も愚痴の聞き役か。
「他所事ねぇ。毎朝のようにむずかる子を連れてく身にもなってよ」
わかる。わかるつもりだけどさ、こっちは不本意な残業で疲れ切ってんの。
「ちょっと聞いてんの?ビールばっかり」
あ~もうまったく。
「で、隼人はなんて言ってる?」
「園長先生が嫌いなんて言うの」
「そりゃまた反体制派だなあ」
「本気なはずないでしょ。で、隼人に問いただしたのよ。そしたら変な言い訳ばっかり」
「変?」
「モモ組がいやだ、イスのマークがいやだ、カスタネットがいやだ」
隼人の言い訳の数々に吹いちまった。
大人とっては変でも、こどもにとって変じゃないことなんていっぱいあるもんなあ。
「でもね、ホントのとこは、ママと一緒にいたいだけみたい」
な~るほど、
「うんうん、そんなもんだ」
幼稚園に行くまで泣きべそかいてるのに、園に入ったらケロッとしちゃって。
「そうなのよね。あたしもそうだったわ。
風邪を引いてお休みした日、母さんを一日独占できるのが嬉しくてたまらなかったわ。
お粥をふうふうしながら食べさせてもらった時のあったかさ、忘れられないもの」
みんな、あるんだよな、そういう時期。
ボクはビールの残りをグビリ。
「アハハ、オレだっておんなじだよ。
♪会社行くのいやだ、会社行くのやだ、会社行くのや~だあ♪
社長にこびへつらうのイヤだし。
配属されてる部署が適任だと思えないし。
今担当しているプロジェクトも納得いかないし。
宴会で音頭取りさせられるのもイヤだし。
オレも隼人と一緒だ~」
と、妻が冷やかにポツリ。
「あなたの場合、それが本音じゃないの」
・・・ごもっとも。 

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