366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

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アンドロメダ図書館

2012年04月30日 | 366日ショートショート

4月30日『図書館の日』のショートショート



地球からわずか230万光年の彼方、最も近い銀河、アンドロメダ星雲の図書館から、蔵書目録が届いた。
職場で聞いた話だと、自宅のパソコンで図書目録の検索や貸出申請ができるらしい。早速見てみたら、こりゃ凄いじゃん。
宇宙歴史小説、宇宙冒険小説、宇宙恋愛小説に宇宙官能小説・・・読んだこともない面白そうな本でいっぱいだ。
宇宙人の書いた宇宙SF小説なんて、ワクワクするじゃないか。
でもいちばん気になったのが連続殺宇宙人事件もののミステリー。横溝星人の『犬神星の一族』。
早速、貸出申請をしてみた。
しかし、230万光年彼方のアンドロメダ図書館である。目録は230万年前のものだ。はたして今も、いや、向こうに届く今から230万年後も開館してるんだろうか。
わくわく待つこと460万年、やっとメールが届いた。
「予約を受け付けました。在庫あります。明日、発送いたします」だって。やったぁ。
翌日、本当に書籍が自宅に届いた。ちゃんとしてるんだ、アンドロメダ図書館。
貸出期間は3週間あったが、早速一気に読み進んだ。次々と殺されていく宇宙人たち。アケチ星人が頭をボリボリ掻きむしる。
ところが!ラスト数ページ、謎解き部分が引きちぎられているじゃないか!犯人はいったい何星人なんだ?ああ、もどかしい。
早速、アンドロメダ図書館にクレームを入れた。
すると460万年後、返事が届いた。「誠に申し訳ありません。とりあえず犯人だけでも調べて連絡してよろしいでしょうか?」
犯人って?推理小説の犯人?それとも本を破いた不心得な利用者のこと?わからないので問い合わせた。
460万年後に返事。「推理小説の犯人だけ教えるなんて不粋なマネはいたしませんよ(笑)本を破って食ったクロヤギ星人に厳重注意しました。ご希望の書籍ですが、同じ書籍を収蔵している880万光年離れたM78星雲図書館に取り寄せを依頼しました。届きましたらご連絡いたします。そちらに住所変更等ないことが確認でき次第、発送いたします」だと。
いったい続きが読めるのは何千何百万年後なんだ?
まだまだ死ぬわけにゃいかないなぁ。 

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昭和テレビ

2012年04月29日 | 366日ショートショート

4月29日『昭和の日』のショートショート

巷じゃ家電の値崩れがとまらないなんて大変です。おかげでとうとう、うちも買っちゃいました。
タイムマシン。
といっても生身の人間が時間旅行できる装置じゃありません。ほら、この昭和のテレビみたいなシロモノです。
この画面を通して見るだけなんですよ。しかも見えるのは過去だけ。
白黒テレビの画面が鏡みたいになって、テレビを見ているお茶の間風景が見える、そんな装置です。
ほら、こうやってチャンネルをカチャカチャっと合わせると、三十年前のボクんちです。
ナショナル坊やみたいな坊ちゃん頭のボクと弟がバカ笑いしています。二人とも母さん手編みのセーター。
父さんも母さんも若いなぁ。サザエさんみたいなアタマの母さん。ステテコ腹巻の父さん。
あ、お祖父ちゃんも元気そうだなぁ。三毛のミィも元気です。
ハハ~ン、『全員集合』を見てるんだな。昔ばなし~クイズダービー~全員集合ってのが週末の王道でした。
音声もなしにこっちを一生懸命覗いて見ている家族の白黒映像が見えるだけ。でもこれが懐かしいんだよな。
ホームドラマの泣かせるシーンに、みんなでうるうる涙浮かべたり。
ほんものは誰だ?を当てっこしたり、タイムショックの答え先回りしたり。
ゲバゲバのタメゴローやコント55号のなんでそうなるの?を一緒に叫んだり。
焼津の半次の目の前に蜘蛛が出てくるのを今か今かと待ち続けたり。
唐突なエッチシーンに、家族全員そわそわして新聞を読み始めたり柱時計を見上げたり。
いや~それにしてもボク、何やってんでしょうか。親の留守中、歌謡番組でアイドル歌手のスカートを覗こうと画面下から必死で見上げてます。
画面にチューなんかすんなよ!バカだなぁ。
今度は夜中に毛布かぶって真剣に見入ってる・・・11PM?トゥナイト?よく新聞タイトルに騙されたなぁ。
まったく、ボクにとって最高のタイムマシンです。
ところがある日、腹を立てた顔で父さんが画面に近づいてきました。画面が揺れます。ガンガン叩いているようです。
父さん、叩いちゃダメだって!なおんないから・・・
あ~あ、言わんこっちゃありません。砂嵐になっちまいました。
仕方なくタイムマシンのツマミを回してオフに。

リビングに行くと息子がデジタルビジョンを見ています。
ボクは冷蔵庫から缶チューハイを二本出して、一本を息子に渡しました。
「一緒に見んの?珍しいね」
二人で飲みながら画面を黙々と見つめます。
画面の向こうから年をとった息子がこっち見てるような気がしました。

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象づくし

2012年04月28日 | 366日ショートショート

4月28日『象の日』のショートショート

♪ぞうさん♪ぞうさん
♪おはながながいのね
♪そうよ♪かあさんも
♪ながいのよ
(『ぞうさん』まど・みちお詩・団伊玖磨曲)

私はこの歌がきらいだ。テープのせいかスピーカーのせいか、割れた音が耳に障る。
「象物園にようこそ。さあこちらから」
飼育員が愛想笑いを浮かべて案内する。
「最初の象は、はいこちらです。どうです?ピンときましたか?」
ピンとこない。ただの象じゃないか。
「きませんか。困ったなぁ。第一印象からピンとくるもんだけどなぁ」
檻にプレートがかけてある。第一印象【ダイイチインゾウ】
なんだ・・・駄洒落か。
「じゃあ、こちらの象はどうです?森羅万象【シンラバンゾウ】です」
う・・・そういうギャグのために象だけ集めた動物園を?
怪訝そうな私の顔色などおかまいなし、次から次へと象を見せてくれる。
群盲評象【グンモウヒョウゾウ】
異常気象【イジョウキゾウ】、超常現象【チョウジョウゲンゾウ】
ブロンズ象【ブロンズゾウ】に阿修羅象【アシュラゾウ】
抽象具象【チュウゾウグゾウ】、虚象実象【キョゾウジツゾウ】
腎象肝象【ジンゾウカンゾウ】、人工心象【ジンコウシンゾウ】
犯人象【ハンニンゾウ】に将来象【ショウライゾウ】
3D映象【3Dエイゾウ】にデジタル画象【デジタルガゾウ】
加山雄象【カヤマユウゾウ】に喪黒福象【モグロフクゾウ】
なんだかもう、お腹いっぱいだゾウ・・・
園内にはずっと「ぞうさん」が流れ続けている。
私は「ぞうさん」がきらいだ。
母さんはいつだって言っていた。私は母さんと似ていないって。
母さんの子ならもっといい子のはずなのにって。
「どうです?有象無象【ウゾウムゾウ】の粗製濫象【ソセイランゾウ】。お客さん、大丈夫?」
大丈夫じゃない。助けて、母さん。
「どうです?お客さんも象になりませんか?改象人間手術、今ならお安くしておきますよ」
躊躇している私に飼育員が囁く。
「そうしたら、幸せになるゾウ【シアワセニナルゾウ】」

目が覚める。
私は母さんに寄り添って寝ている。母さんが温かい。
よかった。それにしても変な夢。
私は母さんの鼻に、私の鼻をからめて目を閉じる。

 

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ばーん!

2012年04月27日 | 366日ショートショート

4月27日『婦人警官記念日』のショートショート



バーン!

息急き切って駆け込んだ私の背後で、重い防火扉の閉じる音が響いた。
閉鎖された狭い空間に、私は犯人と至近距離で対峙した。
逃げ場を失い、飛び出しナイフで威嚇する、目出し帽の犯人と。
抵抗を止めるように警告を発したがまったく応じない。。
再度警告したあと、マニュアルどおりにしかたなく拳銃を抜いた。
チーフスペシャル軽量タイプ。訓練どおりに安全装置を外す。
とにかくあと数分間。署から応援が駆けつけるまで犯人をくいとめなくては。
銃口を見つめ、犯人がわめき散らした。怒気に満ちた声は言葉さえはっきりしない。
が、その訛りと、その声質に聞き覚えがあった。
目出し帽から覗いた、大きな瞳にも。
「駿くん。駿くんだよね?私よ。啓子」
わめいていた口を閉じ、ナイフをもつ手がゆるむ。間違いない。彼だ。
高一のクラス。駿くんが委員長で、私が副委員長で、二人ともオクテで。
夏休みのキャンプのときに、告白大会みたいになって、両思いとわかって、テントに二人っきりにされて。
好きな異性と二人っきりになるだけで、あんなに嬉しくてあんなにドキドキするなんて思ってもみなかった。
そして今、こんな状況で二人っきりになっている。
学年末、突然学校に来なくなって、それっきり。駿くん、いったい何があったの?
「オレはそんな名じゃねえ!オマエなんか知るもんか!」
嘘だ。
隠そうとしても、悲しみを湛えたその目でわかる。
「私待ってたんだからね。連絡くれるの、ずっと待ってたんだからね」
「うっせえ!」
駿くんがナイフを握りなおす。私は銃を構える。
「ね、ナイフを下ろして。やりなおそうよ。やりなおせるから」
「やりなおせるもんか。オレはもう死んじまいたい!」
死んでしまいたい?
「わかったわ」
死んでしまえばいい。私が手伝ってあげる。一度死んで、全部やりなおしたらいい。
私は、駿くんの胸の真ん中に銃を向けた。そして、
ばーん!

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溶けるお父さん

2012年04月26日 | 366日ショートショート

4月26日『ふろの日』のショートショート

今日は26日か・・・ってことは風呂の日じゃん!よ~し、お父さん、一番風呂に入っちゃうぞお。
「ミコリ~ン、ミコリンも一緒に入ろ~」
「絶ッッッ対に嫌!」
こないだまで、父さんと一緒じゃなきゃ嫌だったのになぁ。いいよ、お父さんだけでいただいちゃうから。
チャポ~ン。
ハ~~、極楽、極楽。いいねぇ、一番風呂。
こう気持ちいいと眠くなっちゃうんだよなぁ。
湯船に浸かってイビキかいてるオヤジとか、散髪屋で髭を剃ってもらいながらウトウトしてるオヤジとか、若い頃は信じられなかったよなぁ。でも年とると、なんか眠くなっちゃうんだよなぁ。あ~、いいアンバイだ。・・・グ~・・・
ガラガラ。
あれ?父さんったら。お風呂あがってんじゃない。それならそれって言ってよね。
冷めないうちに入っちゃおう。
チャポ~ン。
ハ~~、極楽、極楽。冬はお風呂が最高だわ~。
「ミ~コ~リ~ン、ミ~コ~リ~ン」
ゲッ、父さんの声!しかも近い!
「父さん!どこなのよ!」
すると湯船のお湯が父さんの声で言ったの。
「ここだよ、ここ。お父さん、油断してたらお風呂のお湯に溶けちゃったんだよぉ」
お湯に?ってことは全裸のアタシの、ココにもアソコにも父さんが?
「ギャー!!」
「そ、そんなぁ~、大慌てで湯船を飛び出してシャワー浴びなくても。父さんじゃないかぁ」
「だから嫌なのよ!もう勝手にお風呂なんかに溶けないでよ。汚らわしい!」
ガラガラガラ。
「ミコちゃん、どうしたの?お風呂で大声出したりして」
あ、お母さん!父さんったらねぇ、かくかくしかじか・・・
「おやおや、そうなの。お父さんったら、お風呂で油断しているからですよ」
「母さん、すまんすまん。とりあえず風呂をあがって茶の間に」
「ダメですよ。それじゃお茶の間が水浸しじゃないの。お風呂で会えるから我慢してね」
え、ナニそれ。
「母さん、アタシ、お父さんじゃないお風呂に入りたい。キレイなお湯がいい!」
「そうねぇ、男風呂だしねぇ。じゃあお父さん、きれいサッパリ水に流しちゃいましょう」
「オイ、栓を抜くな!!オイったら!母さん、最後にお風呂つかってシッポリ濡れようじゃないか・・・ウマイ!夫婦水入らずで・・・しまったぁ!」
ゴゴゴゴゴゴ~。

 

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王様、御安心を

2012年04月25日 | 366日ショートショート

4月25日『ギロチンの日』のショートショート



時は18世紀、歐州佛蘭西、激動の佛蘭西革命の頃のお話でございます。

その頃、ルイ16世という王様が佛蘭西を支配しておりました。御仁、マリー・アントワネット王妃の旦那でございます。困窮する国民がパンも食べられぬと聞き、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」とのたまった、わが国の勘違いタカピー馬鹿セレブ女のはしりであります。
先代の湯水の如き贅沢浪費三昧で経済破綻し、妻の賭博、仮面舞踏大好き派手派手生活が民衆の反感を買って、革命は惹起されたと言われます。反面、この王様、錠前いじりが趣味という超地味地味男であったそうでございます。
さて、このルイ16世、酷い水虫に悩んでおりました。歐米紳士淑女の方々、屋敷の中でも靴をお召しになります。ご自身の王宮だろうが、ヴェルサイユ宮殿だろうが、ベッド以外日がな一日履きっぱなしでありますから、足の御指はムレムレでございます。指間には皮膚滓がブヨブヨ浮いて、その下は赤身がジュクジュク、もう痒くて痒くてたまりません。当時、ブテナロックもダマリンもありません。隔靴掻痒、額に汗。寄せては返す波の如く襲う痒みに苦闘苦悶の日々でございました。
ヴァスティーユ襲撃、ヴェルサイユ行進、一旦火がついた革命の嵐はやみません。あれよあれよと言う間に王制は崩壊、王様も家族も全員牢獄に幽閉されてしまいます。死刑賛成361票、反対360票、僅かに1票差で齡38歳の王様の死刑は確定いたしましたとやら。
死刑当日の朝10時、革命広場に王様を乗せた馬車が到着いたします。2万の群衆が十重二十重と囲む真ん中には台座が設置され、台上に二本の柱、柱上に渡された不気味に光る大きな刃・・・ギロチンであります。内科医ギヨタンが死刑囚の苦しみを少なくする為に考案したという人道主義的死刑道具、正式名称「正義の柱」でございます。
何を隠しましょう、ギロチンのカッターのような斜め刃を考えたのは、機械仕掛け大好きな王様ご本人なのでございます。
手を縛られた王様はゆっくり台座へと上ります。大群衆、無言で一挙手一投足見守っております。
死刑執行官が王様に尋ねます。
「王様、最後に一言お願いいたします」
「・・・足が、足が痒い・・・」
「王様、御安心を。すぐに痒いところをスッパリ取り除いてさしあげます」

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しからずんば肉

2012年04月24日 | 366日ショートショート

4月24日『日本ダービー記念日』のショートショート



まもなく競技が始まる。

緊張のあまり、身震いがする。
鼻息が荒くなっているのに気がついて息をととのえようと思うが、ままならない。
ボクの隣にもボクと同じ連中が肩を並べて、開始の合図を今や遅しと待っている。
あるものは目を閉じて集中している。
あるものは興奮のあまり身じろぎしている。
この中で勝者となるのは誰なのだろうか。
勝者は、観衆の称賛の声に包まれる。そして勝者はプロの競技者として闘い続ける。
もの言わぬ道具として使い捨てにされる。剣闘士奴隷にも等しく。
そう、ボクらは剣闘士と同じ、文字どおりの真剣勝負なのだ。
勇者か、しからずんば肉か。
勝ち残る勇者はひと握り。
1200分の220。約2割が『競技者』に選ばれる。そして残りの8割には『用途変更』のスタンプが押される。
『用途変更』者は競りにかけられる。競りの参加者は、食肉業者たち。
だから『用途変更』者を再び見ることはない。
ファンファーレが鳴り響く。スターティングゲートが開く。一斉に走り出す。
一気に第1障害をクリア。ここからが勝負だ。
脚を止めて力をためる。そして数歩進み、また止まる。互いの様子をうかがいながらスパートのタイミングをはかる。
息切れすることなく第2障害を乗り越えた者が勝者となるのだ。
勝負の行方はここからなのだ。
ボクの目に、コースを見守る者たちが目に入る。
彼らにとってボクはいったい何なのだろう?
輝かしい英雄なのか?
いたわるべき愛玩物なのか?
賭け事の道具なのか?
ただの肉なのか?
いや、それ以上にわからない。
オマエたちっていったいナニ?

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サン・ジョルディの悲劇

2012年04月23日 | 366日ショートショート

4月23日『サン・ジョルディの日』のショートショート

(佐智子)
なになに?今日4月23日は『サン・ジョルディの日』?
愛する女性には赤い薔薇を、愛する男性には本を、互いに贈りあう日なのね。ふ~ん。
ドラゴンの生贄になろうとしていた姫君を白馬の騎士が現れて救ったんですって。ロマンチック~。
ウフ、一郎さんに本を贈ったらきっと驚くわ。
でも今月きびしいのよねぇ。うちに手頃な本ないかしら・・・
『ランボー/地獄の季節』?
アクションものっぽいわ。これなら一郎、喜ぶわ~

(一郎)
う~む。悩ましい。どういう意味なんだ?これは。
愛する男性に本を贈る日・・・帰りがけ、佐智子、確かそう言ってたよなぁ。
で、この本?
『ランボー/地獄の季節』?
なんじゃこりゃ。
おまけにページめくったら、はらりはらりと3万円・・・
これってどゆ意味?まさか今日の分のエッチ料金?ボクってその手のホスト扱い?
ここはマジで結婚考えてること、伝えとかないと。
でもボク、口ベタなんだよな~。ちゃんと真意を伝えられるかどうか。
そうだ、赤い薔薇を添えて返しに行ったら・・・よ~し。

(佐智子の父)
う~む。どこへ消えたんだ?へそくり3万。
よりにもよってランボー詩集なんぞに興味をもとうとはなぁ。
家族に聞くわけにゃいかんし。まいったなぁ。
おや、チャイムが。お客人か?

ガチャ。
「どちら様、かな?」
「ア・・・お、お父さんですね」
「だれがお父さんだね?オヤ!その本は!」
「本とお金をお返ししたいと思って・・・こちらの薔薇と・・・」
「ふむ、なにか事情がおありのようだ。まあ、おあがりなさい」
カチャ、カチャン。
「コーヒーをどうぞ。で、どういう意味だね?それは」
「あの~それがですね、えっと・・・愛する男性に・・・んで・・・3万円・・・」
「愛する男性?3万円?薔薇?・・・き、君はまさか?」
「そ、そうです!ボク、本気で愛してるんです!だから・・・」
「皆まで言うな。実は私もキミをひと目見て憎からず思ったのだよ。いいだろう」
「エ!ホントに?ボクたちのこと認めてもらえるんですね。やった~」
「ではさっそく。で、そのお父さんと呼ぶのもプレイの一部なのかね?」
ザ。
「どうしてカーテンを?お、お父さん!そんなこと・・・アヒ」 

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テレフォン相談室

2012年04月22日 | 366日ショートショート

4月22日『清掃デー』のショートショート



「ハイ、こちらテレフォン相談室。早速お悩みをうかがいましょう」
「あの、しばらく家を空けていたんです。そしたら子どもたちが家の中を好き勝手にしてしまって」
「ほほう。それはアナタのお宅?」
「ええ。キレイにして出かけたんですけど、もうそこら中グッチャグチャ」
「そんなに?」
「片付けないくせに、あっちもこっちも汚しちゃって。ああ、もうどこから手をつけたらいいものやら」
「片付けられない病気って最近多いんですよ」
「それだけじゃないんです。子どもどうし、ケンカばっかり。ケンカしてないことがないくらい」
「片付けられないのも、ケンカが収まらないのも、お子さんがまだ幼いからですよ。自分しか見えないから」
「おまけに、お金のことばっかり考えて」
「あのね、いいですか。厳しいようだけど、ちゃんと聞いてくださいね。お子さんがこうなったのはアナタの責任ですよ」
「え?ワタシ?」
「家を空けたっておっしゃっていたけど、まだ分別のつかない子どもを放任したのがマズかったんです」
「ワタシの子どもですもん、きっと大丈夫だろうと思って」
「親はみんなそう言う。でもソレ、『子どもを信じる』って言い訳して教育を放棄していますよ。ちゃんとしつけなきゃ」
「そう、そうですよね。ワタシのせいですね。シクシク」
「起きてしまったことを嘆いていても仕方ありません。これからできることを一緒に考えましょう」
「ありがとうございます」
「ちゃんと向き合って話してみたらどうですか?」
「殊勝なことを声高に言うんです。キレイにしよう!仲よくしよう!ってね。でも、口ばっかりで、行動を伴わない」
「そりゃダメ息子だなぁ。甘やかしちゃダメです。心をオニにして。家から追い出してやるくらい」
「でも、追い出したらきっと生きていけないと思うんです」
「だめだなぁ。それだからツケアガルんですよ。死んだってかまわない。そんなゴミ野郎は追い出しなさい」
「ハイ、わかりました」
「すぐなさいヨ。気が変わってしまわないうちに。善は急げです」

ドドーン、ミシミシミシ・・・
「テレフォン相談室の放送中ですが、ここで臨時ニュースを申しあげます。東京上空に謎の飛行物体が出現、巨大掃除機で人間をどんどん吸い込んでいます」

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FM/AM

2012年04月21日 | 366日ショートショート

4月21日『民放の日』のショートショート



「で・・・これはいったい何なんだ?博士」
深宇宙探査船のラボ中央の丸テーブルに載せられた物体を、艦長はじめ乗組員一同が囲んでいた。
彼らの目の前にあるその箱状の物体は、間違いなく何者かの手によって作られた機械であった。
「宇宙船かと推察します。確かにアンテナはあります。船体表面をご覧ください」
博士が拡大してモニタに映し出した文字、『SONY』、『CF-1600』そして『FM/AM』。その幾何学的記号を解読できる者などいない。
「おそらく、『SONY』は彼らの国名、そして『CF-1600』は宇宙船名、『FM/AM』は何らかの宇宙座標を示しているのではないかと」
「推進装置がどこにも見当たらないな」
「さすがは艦長。未知の推進装置のようです。おそらくはここ」
船体前面右下の、円形部が横に格子状に切り抜かれた場所を指さした。
「そしてこの左下部分に何者かが入っている・・・」
そして四角いボタンの左端、彼らには読めない『EJECT』ボタンをプッシュした。
カシャ。
前面のハッチが開き、四角い板状のボディに二つ穴の物体が飛び出す。こ、これがエイリアン?
ボディが透けて、巻かれたテープ状の内臓組織が見えた。
体表にはやはり彼らには読めない手書き文字。『広川太一郎ギャグ特選集』
「い、生きているのか?」
「ええ、先程確かめました」
博士が板状エイリアンを元に戻した。そして『PLAY』をプッシュ。
「あらたった、こんち、こんち~!ボクらっち、広川太一郎。ドロンもびっくりいい男。魅惑わくわく火鉢の土瓶なんってなことを言っちゃったりなんかして~!」
さっぱり理解のできない未知の知的生物の声。しかし、なぜだろう?ふさいだ気持ちも一気に吹き飛んでしまう、なんたる名調子。
「アラタッタ・・・コンチ、コンチ」
乗組員の誰となく、不思議な言語を口々に復唱し始めた。

さらに遠い宇宙の、遠い未来。
先生「そんだったらふうでこんだったら喋りが、全宇宙共通語になっちゃったりなんかしちゃったわけなんだよなぁ。諸ク~ン、理解できたかなかな~?」
生徒たち「OK、OK、洗面器なんてな~、ツン、ツン」


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ポスト

2012年04月20日 | 366日ショートショート

4月20日『逓信記念日』のショートショート



ちょっと、いい?なんて美佐子さんが急に呼び出すもんだからどぎまぎ突っ立っていると、

いちばん嫌いな食べ物はなに?なんて聞くのさ。
納豆かな、くっさいからってマジで答えたら、彼女、ボクの鼻先に指立てて、
その、くっさい納豆を毎日毎日食卓に出されたらどんな気分?毎日手紙寄こすの、やめてくんない?ゴミになんだけだから。
そうのたまって、プイと帰っちゃいやんの。
う~む、脈なしか。よし次行ってみよう。第二候補ってことになると、バイト先の渚さんかな?
それにしてもさあ、『男子必携!モテモテ講座』って本、信用できんのかよ。
毎日まめにラブレター書けば、女子を高確率で落とせんじゃなかったの?
なんて思ったりもしたけど、
そういや、決してあきらめるな!とも書いてあったっけ。日々是努力!
と気を取り直して、美佐子の次は渚、渚の次は琴美と手紙を書き送ったわけ。
投函するのは決まって近所のポスト。今どき珍しい、コンクリ円筒形のあれ。
そんなある日、手紙を入れようとして手が止まったんだよ。あれ?場所、前からここだっけ?記憶ちがい?
しばらくして、また気がついた。間違いない、移動してるじゃんか。
地域の郵便局に事情でもあんの?せっかくなら角形ポストにすりゃいいのに。
ま、いいか、うちから近くなって便利だしって、そん時は思ったわけ。
ところがポスト、毎日ズリズリ、ズリズリ移動して、やっべぇ、うちの玄関まで来ちゃって。
翌日とうとう、うちにあがりこんじゃってさ。
ほら、今じゃこうして一緒に暮らしてんだよ。
ポストって字が読めるわけじゃないからさ、ハート付きの手紙、毎日渡されてその気になっちゃったんだな(笑)
文句ひとつ言わないし、僕が見つめたら真っ赤になっちゃってさ、いじらしいったら。
抱いて寝るときさ、寸胴でずっしり重いけど・・・それって、どこの御家庭でもありがち、でしょ?
いや~実際暮らしてみっと、なかなかいいもんだぜ、ポスト。

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賢馬ハンス

2012年04月19日 | 366日ショートショート

4月19日『乗馬許可の日』のショートショート



「エ~、テス、テス」

カコッ。キーン。
「おっと失礼、ハウっちゃいましたぁ。(咳払い)只今御指名に預かりましたウマゴヤシです。
僣越ながら乾杯の音頭をば務めさせていただきます。ご唱和、よろしくお願いします、
と、のその前に新入社員の諸君、入社おめでとうございます。心より歓迎いたします。
今年一年は諸君にとって勉強勉強の一年であります。
自分の意見はひとまず置いて素直な気持ちで、われわれ上司の言葉をよく聞き、よく習い、よく学んでいただきたい。学び得たことを糧に、ゆくゆくは諸君が社を支える大きな柱とならんことを期待しております。
さて私は諸君に『賢馬ハンス』の話を贈ります。御存知でしょうか?御存知ない?ではお話ししましょう。
今から百年ほど前のドイツで、数を理解する馬が評判となったのです。馬の名前はハンス、飼い主はオステンという数学教師です。オステンが黒板に数字の『3』を書いてハンスに見せると、コツ、コツ、コツ、蹄で床を3回叩くのです。のみならず、足し算引き算掛け算割り算までも正解するのです。しかも、オステン以外の人間が出題しても正しく答えるのであります。
ところが、ある科学者が賢馬ハンスの真相を暴きました。計算が苦手で答えを知らぬ人間に出題させたのです。するとなんとハンスは答えを出せなくなってしまったのです。
つまりハンスは出題者の様子を見ていただけなのです。蹄を鳴らすたびに高まる興奮、答えに至ったときの感嘆、それらを敏感に感知していたに過ぎなかったのです。
『賢馬ハンス』の一件は、実験者の期待が実験結果にバイアスを与えてしまう効果を示しております。と同時に、馬という群社会を生きる動物にとって、いかに『空気を読む』ということが大切かということも示しているのです。
察しのいい諸君ならもうおわかりでしょう。そうです。諸君もハンスに負けぬよう、しっかり空気を読んで・・・
オヤオヤ?なんなんでしょう。この空気は。
乾杯の音頭に、どんだけ時間を費やして蘊蓄ひけらかしてんだ?ビール温くなったぞ。おまえが空気を読め、という空気ですね。
バカちん!最初に素直に聞けと言ったでしょうが!って~ことで、
乾杯!!」

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転送してくれ、スコッティ

2012年04月18日 | 366日ショートショート

4月18日『発明の日』のショートショート



「ご無沙汰しました。矢菱鰹犇博士、先生の助手だった猫田です」

「おお、君は、矢菱虎犇の孫である私、矢菱鰹犇の助手を一年務めた後、単身渡米していたが、私の画期的な開発を聞きつけ緊急帰国、とるものとりあえず昨年11月に私の研究所に駆けつけた猫田君じゃないか。3カ月ぶりの登場だね」
「実際の会話ではありえない、人物と経緯の説明紹介、ありがとうございます。早速ですが、またとんでもない画期的な開発をなさったという話を聞きつけまして・・・」
「耳の早い男だな。では、秘密の地下実験室に来たまえ」

案内されて地下実験室に入ると、博士が扉を閉める音が暗く広い室内に響いた。
博士が蛍光電灯のスイッチを入れる。
研究所の地下に建設された地下実験室は、格納庫のように広かった。
室内には、直径4mほどの円形ステージが二つ並んでいた。ステージはガラス張りになっている。
「物質転送装置スコッティだよ、猫田君」
「こ、これが物質転送装置?」
「スタートレック宇宙大作戦で、エンタープライズ号から惑星に降り立つときに使っていたものを現実に作ってしまったのじゃ」
「あの、転送装置を!スタートレック制作当時、惑星への着陸、離陸シーンを撮影するには技術的に難しいので、簡単に移動するアイディアとして作られた、あの装置を!」
「まあね。この装置、理屈は簡単なのだよ。こちらの送信用Aポッドの中の物体に転送ビームを照射して、量子レベルに分解する。これを位相変換コイルによってエネルギーに近い形で放射送信するのだ。受信用Bポッドでは、このビームを受け取り、位相変換コイルで量子に変換して再構築するのだ」
「いや~博士、あなたは天才だ。僕にはチンプンカンプンですよ」
「では、猫田君、君は実験してみたくないかね?物質転送実験を」
「エエッ、僕の服にハエがとまっていて、転送された僕がハエ男になってしまうじゃないですか」
「それは『SF恐怖の蠅人間』じゃないか。君自身にポッドに入れとは言わん。さぁ、これとこれをポッドに入れるんだ」
猫田助手は、差し出された矢菱博士の手から二つのコップを受け取った。
ひとつのコップにはコーヒーが入っていた。もう一つのコップには牛乳が。
猫田助手は、送信用ポッドの中に入ると、二つのコップを置いた。矢菱博士はにっこりと頷く。
「こ、これを転送できるんですか?」
「まあ、見ていたまえ。転送してくれ、スコッティ」
博士が転送装置の操作盤のスイッチを入れた。
強烈な電子音の波が猫田助手の耳を襲う。
二つのポッドが青白く光り始める。電子音と共に光は強さを刻々と増す。
激しい真っ白な閃光が猫田助手の目を射た。
猫田助手が再び目を開けると、送信用ポッドは空になり、受信用ポッドに、ひとまわり大きいコップが置かれていた。中身は・・・コーヒー牛乳だ。
「見たまえ、実験は大成功だ」
満面の笑みで握手を求める博士。猫田助手は握手をしながら、狐につままれたような顔だ。
「こ・・・これが物質転送装置ですか?」
「そのとおり。まだコーヒー牛乳しか成功していない。だが近いうちには、焼酎とお湯を転送して湯割りを作ることもできるようになる」
「そ、そのために、この装置を?」
「猫田君、見くびっちゃあいかんよ。わたし矢菱鰹犇、もっとすごいことを目論んでおる。君があまりの驚きに卒倒してはいかんので小出しにしたのじゃ」
矢菱博士はニヤリと笑った。
「ゆくゆくは、チョコレートとクッキーを転送してチョコクッキーを作ることも可能になるじゃろう。レーズンとパンを転送して、ぶどうパンを作ることさえも!!どうじゃ?」
「いや・・・どうじゃって・・・生物を転送したりは・・・」
「おっと、話を先回りしては困るな。当然、考えておる。ついに君に究極のこの装置の活用法を言わねばならんな、フフフフフ」
「おっ、博士、待ってました」
「将来的には、ライオンとヒョウを転送してレオポンという動物を作るつもりだ。そればかりじゃない。ロバとウマからラバを。イノシシとブタからイノブタを!」
「・・・」
「これは人道的な問題があるので内緒だが、人間の転送も考えておる・・・」
「やっぱり!」
「もちろん、人間の転送こそ、究極の目的じゃ。別々の人種を転送してハーフを作ることも可能じゃ。男女を転送してニューハーフを作ることさえも!」
「博士、博士にとって物質転送装置って・・・」
「何か問題でも?」

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恐竜100万円

2012年04月17日 | 366日ショートショート

4月17日『恐竜の日』のショートショート



子供の頃、僕は恐竜が大好きだった。
父に買ってもらった『恐竜図鑑』で、片っ端から名前を覚えたものだ。ステゴザウルス・・・ブロントザウルス・・・トリケラトプス・・・ティラノサウルス・・・プテラノドン・・・。世界の国旗、新幹線の駅名、野球選手、自動車・・・子供ってのは、何でもスイスイ覚える。それが僕の場合、恐竜だったわけ。
恐竜が僕を魅了したのは、ともかく大きいこと。雷竜の超弩級スケールにも、肉食恐竜の牙の馬鹿デカさにも、ただただ度肝を抜かれるじゃないか。
お盆や年末、TVの洋画劇場で恐竜映画が放送される日は、朝から大興奮だった。いつもは9時までに床に就いていたが、この日ばかりは夜更かしが許された。映画解説者の口からハリーハウゼンという名前を聞いて覚えた。『恐竜図鑑』をいきいきと動かしてしまう、憧れの魔術師!

あれから25年。
スピルバーグの恐竜映画で、リアルに動く恐竜が見たいという夢をもう見続けなくていいことを、すでに僕は思い知らされていた。
そして10年前、遺伝子操作によって恐竜が復活し、翌年、生きたミニチュア恐竜がペットとして発売された。
当初の販売価格100万円。
それでもオトナ買いで、アッという間に売り切れた。大増産がおこなわれると同時に、後進国から小型恐竜の粗悪品が輸入され量販店のワゴンに並び、やがて子供たちの手の届く価格になった。
小型恐竜ブームが世界を席巻した。ブームの終息と共に、恐竜はありふれた存在となり、恐竜のロマンもまた終焉した。

会社から我が家に帰る道すがら、カーラジオから流れるニュースを聴いていた。
「現在、都市中央空港では、翼竜がジェットタービンに吸い込まれる翼竜ストライクが発生し、離発着を見合わせています」
おっと!道路上で車に轢かれてペシャンコになった死骸をよける。イグアノドンのようだった。
やれやれ、ペットの恐竜が野生化して増え続け、連日世間を騒がせている。
この時期、我が家の周囲でもサカリのついた野良竜が不気味な声を上げて一晩中大騒ぎだ。カーポートの真砂土に糞をするヤツもいて、涙が出るほど臭い。
もうロマンもへったくれもない。
先日、オークションで『恐竜図鑑』の原画が100万円で落札されていたっけ。結局、ロマンはあそこにしかないわけだ。
あ!忘れるところだった!妻から今日はケンタのセットを買って帰るように頼まれていた!
危ない、危ない。
僕はハンドルを切って、ケンタッキーフライドダイナソーのドライブスルーに車を向けた。

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回転寿司モダンタイムス

2012年04月16日 | 366日ショートショート

4月16日『チャップリンデー』のショートショート



軽くタッチすると自動ドアが開いた。ラッシャイマセ~!威勢のいい店員たちの声。
明るい照明に、ステンレスの床壁が鈍く光っている。広い店内をグルリと巡るベルトコンベアの上を、色とりどりの寿司を載せた皿が流れていく。
ゴクリ!まさに食のメリーゴーラウンド!どんなネタを?どんな順序で?この瞬間こそが最高の瞬間!
それにしても、なんというネーミングだろう!
『回転寿司モダンタイムス』・・・ブラックジョーク?それとも自虐ネタ?しかし、この店、徹底した品質管理と低価格が支持されて繁盛しているらしい。先月、東京葛西に2号店を出店したくらいだ。

さすがに食事時を外したので、客はまばらだった。
厨房引込み口に近いカウンター席に座る。粉っぽい緑茶を啜り、腕時計を外しテーブルに置いた。
ネタのひとつにマーキングして再びそのネタが自分の前を通過するまでの時間を計測するのが、回転寿司での僕の習慣だったのだ。その他愛もない遊びによって僕は先日、モダンタイムスの秘密を知ったのだ。
店内を巡るコンベアは厨房に引き込まれ、古いネタが処分され新しいネタが追加される。通常、回転寿司店のコンベアのスピードは毎分5メートル。その厨房での所要時間が異常に長いのである。ちょうど、もう一店巡ることができるほどに。

僕は大胆な仮説を立てた。何らかの方法で空間をつないで、モダンタイムスは1号店と2号店のネタを共有しているんじゃないか?2号店の客席から厨房に引き込まれた寿司は、1号店の厨房から客席へと巡っているのではないか?そういう仮説。
今日はそれを確かめるのだ。

遠距離恋愛中の彼女、奈々子が、打ち合わせどおり、東京葛西の2号店で待機している。
彼女の方は厨房から客へネタが出てくるカウンター席で。
奈々子が大好きなネギトロの皿の下に、僕はミニメッセージカードを忍ばせる。
『僕たちそろそろ将来を考えるべきだと思う』
煮え切らず、彼女を悲しませていた僕にしては大胆なことを書いたものだ。
果たして彼女にメッセージは届くのか?カードは壁向こうの厨房へと吸い込まれていく。
長い長い数分が経過・・・カードは無くなっていた。
彼女が受けとったのか?それとも厨房で捨て去られたのか?

彼女からのメッセージカードは届かなかった。
僕は肩をすくめて、大好きな穴子の皿を手にした。
皿の縁が重なるほど連なり、カチャカチャ音を立てる。イカの皿、シラウオの皿、鉄火巻きに、るいべの皿・・・
穴子を頰張る。思わず目を見開いた。
ウマイ!!
そうか、これはメッセージだ!穴子、イカ、シラウオ、鉄火、るいべ・・・あ・い・し・て・る!!
成功だ!
気をよくして僕はポケットから小箱を取り出した。フタを開けるとオルゴールが『スマイル』を奏でた。箱の中で指輪が輝く。
ためらわず、僕はベルトコンベアに小箱を置いた。文明の利器を活用しながら自分を見失わないこと・・・それが僕のモダンタイムス。
遥か彼方へと果てしなく続くコンベアの上を、小箱と僕の運命が前進していく・・・

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