366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

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明日の重さ

2012年12月28日 | 366日ショートショート

12月28日『身体検査の日』のショートショー

最近、とんでもないことに気がついた。
体重を量ると、その体重はどうやら翌日夜の体重なのである。

たいして普段と変わりない食事を摂っているにもかかわらず、体重がぐんと増えることがある。
すると翌日、突然の接待で遅くまで飲食することになる。
あるいは普通に食べているのに、ぐんと減ることがある。
その翌日は、急な仕事が山ほど積まれ、食事もおろそかになってしまう。
まさか。半信半疑でカレンダーに体重を書きこんでみて確信した。どう考えても今日記録した体重は翌日の体重なのだ。
明日の体重がわかる男、か。
予知能力、と言えばカッコイイ。だが、こんな能力、何の役に立つんだ?
僕はもう中年になろうというのに独身、引っ込み思案で口ベタときてる。もう少し違う能力ならよかったのに。

そんなある日の風呂上がり、体重計に乗ってわが目を疑った。
0キログラム?
そんなバカな。えっと明日は。
僕は真っ青になった。明日は、国内出張で、飛行機に乗る予定じゃないか。
体重計が警告しているので出張をやめます、なんて言うわけにもいかない。
幸い、相手方さえ納得してくれれば日延べできる用事だったので、丁重にことわりを入れて日を変えた。
その日の昼、国内機墜落の臨時ニュースが飛び込み、テレビは大騒ぎだった。僕が乗るはずだった飛行機が墜ちたのだ。

僕は人生を変えたのだ。超人的な能力と、それを使いこなす才覚によって。今の僕には何でもできる。
そういえば、昨年、忘年会で同僚が肘で小突いた。
「新人で一番人気の美咲ちゃんがさ、おまえのこと憧れてるらしいぜ。こんな中年親爺のどこがいいんだか」
そう聞いても彼女に声もかける勇気はなかった。だが、もう違う。これからの僕は今までの僕じゃない。
仕事が終わると、周囲の視線も気にせずに美咲さんを呼びとめて食事に誘った。
「佐藤さんから誘ってくださるなんて光栄です」
彼女は頬を紅潮させて微笑んだ。
落ち着いたカフェバーで僕たちは酒を酌み交わした。人生、万歳。
生きている喜びが内から溢れ、いつになく僕は饒舌だった。あまり口にしないギャグを連発した。
「佐藤さんって面白い方なんですね。意外だわ」
九死に一生を得て、アドレナリンが出まくっていたのだろう。猥褻なジョークまじりに美咲さんを誘った。
彼女はすっかり冷めた表情で、用事を思い出したからとタクシーを呼んだ。
別れ際に彼女が言ったひとことが心にグサリと刺さった。
「佐藤さんってドッシリ重厚なイメージだったのに。ぜんぜん軽くてガッカリしちゃいました」
夜の町に残された僕は、空っぽになってしまった気がした。
風が吹いたら飛んでいきそうなくらい。

 


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