366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

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Leap Day

2012年02月29日 | 366日ショートショート

2月29日『跳躍の日』のショートショート



え?
今、なんつった?
なに、その言い方。セクハラかっつーの。
会社の給湯室でカップラーメンにお湯注ぎながら、急須のお茶っ葉捨ててる女子に言う話?
デリカシーないっちゅーか、なんちゅーか。
思わず、引きつった笑顔で固まってたら、お茶っ葉がゴミバケツにボト。
サエキさん、何もなかった顔でお湯入れたラーメン捧げ持って戻ってった。
んなこと、言われたの、モチロン初めてだ。ふざけないでよね。

カタカタカタカタカタ・・・急須の口と湯呑みが触れて・・・止まれ、止まらんか、オイ。
お茶を手に、デスクに戻って本の続きに目を落とす。
誘われてことわりきれなくて始めた手話サークルのテキスト。
ぜんっぜん頭に入らない。平常心、ヘージョーシン!
照明を落とされたオフィス、あたしとサエキさんの場所だけにスポットが当たっている。
落ち着け、落ち着け。

勤務終了時間、あたしはそそくさ帰り支度をしてオフィスを出た。
だってイヤじゃない、待ってる、なんて思われたら。
オフィスを出て駅に向かって・・・げっ、追っかけてきた。
昼間はゴメン?
だったら最初っから、んなこと言うなっつーの。
めし、おごる?
何それ。
なんだと思ってんの?
「あのね、今日はね、Leap Dayなのよ。
女性から男性に告白できる四年に一回きりのチャンスなんだから。だから・・・そんな日に・・・バカ!」
バカはないだろ、バカ?
「バカだからバカって言ったんじゃない、バカ!」
じゃサイナラって・・・え、行っちゃうの?一段飛ばしで陸橋をのぼって・・・とっとと駅へ・・・
いいの、それで?

え、駅前大通りの向こうで、なんか言ってる・・・
こんなに離れて聞こえるわけないじゃない。なにやってんだか。
え・・・
手話?・・・
覚えたんだ。
えっと・・・
えっと・・・
えっと・・・
・・・
もう。Leap Dayだって言ってんじゃないの、バカ・・・

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バカヤロー

2012年02月28日 | 366日ショートショート

2月28日『バカヤローの日』のショートショート

『続いてのニュースです。S岳周辺地域で本日震度3を観測。昨年から相次ぐ地震に地元住民は不安を募らせています』
「あのさ、今週末の合コンのことだけど」
「7時30分だったよね」
「サクラダ君には無理言ったんだけど、タクヤ、やっぱ来れんだってさ。サクラダ君、乗り気じゃなかったよね?」
「ああ、まあ」
「よかった。じゃ、キャンセルってことで」
『続報です。S岳周辺で再び有感地震が観測されました。火山噴火予知連絡会による調査チームが本日現地入りしました』
公園のベンチで弁当を広げる。憩いの時間だ。
子どもが追いかけっこをしてはしゃぐ声が近づく・・・
ドン!
背中にぶちあたって、そのまま走って行った。なんだよ、おい。
サクラダは足元を見下ろす。食べかけの弁当箱の底が空を見上げている。
気がつくと、遠くでうちのOLたちが腹を抱えて笑っている。
『S岳調査チームは本日、S岳周辺の複数の観測ポイントで地中温度が急激に上昇、500°以上に達していると発表しました』
「サクラダ先輩、この書類、Wordっすか?まいったなぁ、字下げインデント揃えないから訂正メチャメチャ大変じゃないっすか。こっちのExcelは、全部手で入力?マクロ使っちゃえば簡単なのにな~。え?なんのことか説明してくれ?説明してわかります?今度やるとき声かけてくださいよ、やったげますから」
『調査チームは、S岳山頂付近の急激な隆起を確認、周辺住民に避難勧告が出されました』
「サクラダ君、お人好しなだけじゃダメだよ。君の同期みんな、ずっと早く昇進してるじゃないか。ま、人生いろいろなんだけどな。ああ、今日のミーティングの報告書、君のほうでまとめといてくれ。できるだろ?君がいちばん暇そうだし」
『緊急退避!緊急退避!退避命令が発動されました。S岳8キロ圏内の住民は速やかに退避してください』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
「バカヤロー!!」
噴煙をもうもうと巻き上げ天を轟かせるS岳を映したニュース映像に向かって、サクラダは吠えた。
「人間はなぁ、会社はなぁ、オマエみたいに単純じゃないんだぁ!」
否、単純であってほしい。噴火するエネルギーよ、おれにもプリーズ。
プシュ。
サクラダは、今晩三本めの缶チューハイを開けた。 

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美少女新選組!

2012年02月27日 | 366日ショートショート

2月27日『新選組の日』のショートショート

(誠忠中学、職員室)
「見てごらんなさい。近藤さん、あなた、どうお思いになって?」
「茶髪金髪、丈の短いスカートに腰パン、指輪にネイルにお化粧・・・腐りきっています、先生」
「そう、膿んでるわ。わたくし、この学校の未来を憂えておりますのよ」
「わたしたち生徒がしっかりしなければ学校は亡びます!」
「そう、そこで近藤さん、あなたたち風紀委員会が選ばれたの」
「はい。風紀委員が一丸となって、先生のご期待に応えますわ!」
「頼んだわよ。じゃ、委員会の羽織りと旗」
「キャー、浅葱色のダンダラ模様入りの羽織りと、わが校の校章『誠』の旗!萌え~!」
「この恰好であなたたち美少女風紀委員が校内見回りをしたら、生徒全員震え上がるわ!」
「はい!」

(誠忠中学、プール裏)
「ふ~危ねぇ危ねぇ。しっかしまいるよなぁ、あいつら」
「怖いよなぁ。ね、肉まん食っちゃう?」
「おう。でもさ、連中、基本的に美少女アイドルグループだよな、沖田なんてすっげーカワイイぜ」
「そこだよ、そこ。そういう演出で気を惹いて校則守らせようっていう戦略」
「はは~ん、防火ポスターのアイドル少女とか、グラビアモデル一日署長とかと一緒だな」
「あのハデな羽織りと幟旗が一番違反っぽいよね、モグモグ」
「息苦しい学校だよな、モグモグ」
「見つけたぞ校則違反!神妙にしろー!」
「キャー!風紀委員だ、逃げろー」

(誠忠中学、職員室)
「近藤さん、あなたたちのおかげで学校らしくなったわ。ありがとう」
「先生!近藤さん!」
「どうしたの?沖田さん。そんなに慌てて」
「誠忠中学の不良たち二十数名が、帰り道の『池田屋』で買い食いしています!」
「なんですってぇ?駄菓子屋で買い食い~?ただちに出動!」
「委員長、すぐに集まれるのはわたしたちと永倉さん、藤堂さんの四人だけです」
「ええい、四人で十分よ。行くわよ、沖田さん!」
「ガッテン!」

(誠忠中学、生徒会室)
「風紀委員の襲撃で、二十数名が補導されたんだったよね、去年の『池田屋事件』のとき」
「そうそう、でもあの事件をきっかけにこのまんまじゃマズイってんで、校則自由化を求めてわが生徒会が立ちあがったんだ」
「校則が改定されて、ホント過ごしやすい学校になったよなぁ」
「うん。でもなんでかな?風紀委員の子たち、今でも人気あるよね」
「カワイかったもんなぁ」
「時代の大きな流れに逆らうはかない美しさみたいな、そんなのかもね」

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ものすごくかけはなれて、ありえないほど遠い

2012年02月26日 | 366日ショートショート

2月26日『咸臨丸の日』のショートショート

空間モニタに恒星間巡航艇が浮かび上がる。
生徒たちが見守る中、ぐるりと一回転、その全容を披露する。
「ずいぶん旧式な船だなぁ」
「これってカンリン号でしょ?」
「え?地球人が初めて、地球人だけの力で恒星間航行に成功したっていう、あの?」
「こんなんでアメリゴ星まで二千光年の旅を?無理だよう」
先生が微笑む。
「昔の地球人はこのカンリン号で37日間かけてアメリゴ星のランフサンシス港に到着したんだよ」
生徒たちから感嘆の声があがった。
「みんなはカンリン号について、どんなことを知っている?」
「カッツ船長!」
「そう、カンリン号の船長はカッツ船長だったね。それから?」
「ユキーチ!」
「そうそう、ユキーチも乗っていたね」
「ジョンマーン!」
「宇宙で遭難してアメリゴ星人に救出されたジョンマーンもいたね」
「地球人だけで初めて恒星間往復航行に成功!」
「うむ、実はそれは違うんだ。カンリン号を実際に指揮したのはアメリゴ星人のブルックだ」
「えー!カッツ船長は?」
「カッツ船長は宇宙嵐と連続ワープの船酔いでほとんど船室にこもったままだった。他の地球人も同様のありさまさ」
「なーんだ」
「まあ彼らのおかげで地球人の能力をアピールできたし、アメリゴ星人の優れた技術や文化を学ぶこともできたわけだ」
地球人がランフサンシス港で歓待を受けている写真が次々と紹介されていく。
ユキーチがアメリゴ星人の美女とツーショットの写真もあった。
授業終了のビープ音が鳴った。
「よし、今日はここまで」
挨拶を済ませた生徒が次々と消えていく。
最後の生徒が消えると、先生はメイン配線を切り仮想教室を閉じて立ち上がった。
そして書斎の窓辺に寄って空を見あげた。
アメリゴ星人の大艦隊が空一面、西へと連なっていく。近く太陽系付近でも大規模演習がおこなわれるのだ。
確かにアメリゴ星人と友好を結んで地球は豊かになった。
だが、地球の陸地の20%がアメリゴの基地となり、他の異星人からの侵略を牽制している。
果たして地球はあの当時より平和になったんだろうか?

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無知との遭遇

2012年02月25日 | 366日ショートショート

2月25日『夕刊の日』のショートショート

金曜日の夕刊、テレビ番組欄の下に待ちに待った映画の広告。
「未知との遭遇」
地平線の彼方へと一直線に続く道、その道の果てが光を放つ、あの印象的な広告!
広告を見ただけで心臓がバクバク高鳴った。
翌日半ドンで学校を退けると、ボクはシュンタとチャリを漕いで、アーケード街を駆け抜けて映画館に直行した。
シュンタはボクの親友、幼稚園のときにこの町に越してきて、物怖じしているボクに最初に話しかけてくれた。
みんなにくらべて勉強はさっぱりなボクだけど、シュンタのおかげでみんなに溶け込めた。
映画好きのシュンタの影響で、ボクもすっかり映画マニアだ。
すでに館内は暗くなっていた。そろりそろりと階段通路を下りていく。
うわっ・・・
階段を踏み外して倒れかけた。痛ェ~!座席背板で頭をしこたま打った。
白いビニルカバーがなかったら血が出てたかもしれない。
「大丈夫?」
もちろん大丈夫、映画を見ずに帰れるもんか。頭をさすりながら空いた座席に納まった頃には本編が始まった。
おや?こんな映画だっけ・・・
映画の冒頭、メキシコの砂塵の中、ジープから降り立つ宇宙人たち。ひょろりと手足が長くて胎児みたいだ。
航空管制室、旅客機の緊急事態を固唾を飲んで見守るのも宇宙人。
連れ去られる母子も宇宙人!停電を調べる電気技師ロイも宇宙人。
どうなってんだ?
隣のシュンタを見て、思わず声を上げた。シュンタも宇宙人!そして館内の観客全員が宇宙人!!
驚愕しているボクの顔をシュンタが覗き込む。
「ああ、さっきの」
そうか。ボクは宇宙人の町に越してきてたんだ。宇宙人によって、宇宙人が地球人に見えるようにされたんだ。
「今、なおすから」
シュンタがボクの後頭部に手をやってフタみたいに簡単に開いた。
そして指を突っ込んで、なにやらグチャグチャいじった。
ウッ、ウゲッ
数回、脳震盪のときみたいに頭の中がスパークした。
「これでよし、と」
シュンタがフタを戻す。目を開ける。
映画館の客席は人間たちで埋めつくされている。いつもと同じシュンタの顔。
あれ?なんかさっきまでと違うような・・・おかしいなぁ。
すごい夢を見て目覚めたらさっぱり夢の内容を思い出せないときの、あのもどかしい気持ち。
ま、いいか。そんなことより映画だ。
いよいよクライマックス。光の中、ひょろりと手足が長くて胎児みたいな宇宙人が微笑む。うわ~よくできてるなぁ!

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正義の見方

2012年02月24日 | 366日ショートショート

2月24日『月光仮面の日』のショートショート

男「コラ~おとなしくしろ!」
女「イヤアアア!」
女学生のか細い腕をひっつかみ連行せんとする、黒装束にサタンのお面の怪しい男。
ブロロロロン!
エンジンの音も高らかに現れ出でた仮面の男、三日月を背に男を制す。
?「やめろ!サタン野郎!」
白タイツ上下に白マント、白ターバンにサングラス、サタンより不審な、そのいでたち。
男「何奴?」
?「役者の名前は『?』だが、だれもがみんな知っている。憎むな、殺すな、赦しましょう、正義の助っ人、『月光仮面』!!」
二丁拳銃にひるむサタン男、その手をふりほどいた女学生、月光仮面のマントの陰へ。
よし、これにて一件落着・・・
男「俺は父親だ!娘を返せ!」
え?父親?
?「父親がなんでそんなマスクをしている?」
男「俺は『仮面同好会』なのだ。趣味で日常、仮面を被っているだけだ。何か問題でも?」
ぬぬっそれが問題なら、もっこり白タイツのほうがもっと問題だ。
男「娘はまだ中学生なのです。それがこっそり家庭教師の男とお泊まりなど」
なぬぅ!月光仮面、躊躇なく二丁拳銃を女学生に向けた。ゆるさーん!!
女学生の目から涙が一筋。
女「さびしかったのよ!あたし、さびしかったの!母さんが死んでから、お父さんは家にいても仕事のことばっかり・・・」
お、この展開、これはこれでよしとするか。と、拳銃をベルトへ。
女「・・・それがまさか、巨大ロボットを作っていたなんて!」
え?巨大ロボ?マッドサイエンティストか、こいつは!と、拳銃をかまえる。
男「ああ、父さんは確かに巨大ロボを作った。だがロボは正義のロボットなのだよ」
なんだ、同業者か。と、拳銃戻す。
女「正義なんてチャンチャラ可笑しいわ!原子力エンジンを搭載して戦うなんて安全性度外視だわ!」
男「鉄腕アトムだってドラえもんだって原子力駆動なのだ!安全な利用を図るべきなんだ!」
反対派か推進派か、う~む、ここで正義うんぬんはちょっと・・・
女「百歩譲っても、TPP参加交渉だけは納得できないから!」
男「父さんだって、おまえがイスラムに改宗したのは許せん!」
さあ、正義とは?どうする、月光仮面!
ブロロロロン!
疾風のように去っていくのであった。

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モノリス

2012年02月23日 | 366日ショートショート

2月23日『税理士の日』のショートショート

調査船ディスカバリーの甲板に報道陣が集まっていた。
巨大な油圧ウィンチが回転し、海水を滴らせたワイヤを巻き上げていく。
『先月、深海探査艇が発見した謎の物体がついに引き揚げられます!果たしてこれは何なのだぁ?』
海水が泡立ち、波間から石柱のような物体が姿を現した。
黒い。とらやの羊羹『夜の梅』よりも、『おもかげ』よりも黒い。
「古井戸博士、これは一体?」
「なんや見たことあるでぇ。そや、2001年のモノリスや!」
全世界の人々の頭の中にツァラツストラが荘厳に鳴り響いた。
甲板に下ろされたモノリスに博士触れた。激しい閃光。そしてモノリスがしゃべった。
「地球のみなさん、こんにちは。わてがモノリスだす」
古井戸博士と同じ声、同じ口調で。
「つまり、わては一博士の言葉やら知識やらを吸収させてもろおたわけや。これで皆さんとお話できます」
リポーターが勇気を出して尋ねた。
「あなた宇宙人?どこの星からいらっしゃったのですか?」
モノリスが笑った。
「そやなぁ、宇宙人やあらへん。厳密にゆうとパソコンみたいなもんですわ。銀河連邦で働いてます」
「銀河連邦?」
「そや。地球はんもわてを見つけて引き揚げるだけの知恵がついた。ようやっと大人、銀河連邦の仲間入りや。おめでとさん」
なるほど!やっぱりモノリスだ。これが進化の指標となるわけか。
「つきましては、大人の責任として銀河連邦に納税義務が発生します。今年からきっちり決算申告してもらいます」
モノリスの表面に、税務書類が映し出された。慌てたのは古井戸博士である。
「また急な話やな。それに、どない記入しますねん」
「大丈夫や。わて、モノリスが地球さんの顧問税理士、お引き受けしまひょ」
え?税理士って何をする人?
「税理士は、決算申告をお手伝いします。税のご相談もお気軽に。会計士として地球はんの経理に助言します。言わば地球はんの信頼できるパートナーやな」
古井戸博士、頭を抱えた。
「わしが引き揚げたばっかりに。宇宙の相場ようわからへんけど、モノリスはんのお力でまけてもらえまっか?」
「税理士は公正な職務ですねん。まからしまへん!」
ううっ、さすがはモノリス。四角四面だぁ。

 

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しゃべる猫

2012年02月22日 | 366日ショートショート

2月22日『猫の日』のショートショート



「お帰りなさい、あなた」
午後9時過ぎ、やっとこさ仕事を終えて帰宅すると美代が迎えてくれた。ん?まあいいか。
着替えを済ませて、美代と夕食をとった。
食事を済ませると、美代が身をすり寄せて甘えてきた。膝の上にチョコンと乗る。
僕は美代の体を優しく撫でた。美代が目を細める。
「忙しいんですのね」
「ああ、今週はずっと遅くなるよ。すまない」
10月は年度途中の業務評価期間とやらで、前期の業績報告を作成しなければならない。
今夜、もうひとつやり残した書類を作っておかなくちゃ。
「お手伝いしましょうか?」
僕は美代と見つめ合った。
「ありがとう。猫の手も借りたいくらいだったんだ」
ん?

テレビでは報道番組で『宇宙人逃走!』という、ありえないニュースをやっていた。
今日の昼間、近所の公園に円盤が着陸、中から銀色の小人が飛び出して逃げて行ったらしい。
目撃者が撮影したビデオが流される。
チャップリンの帽子みたいな銀色の円盤が、公園水飲み場前に着陸。ピアノ線で吊ってあるようにユラユラ心もとない。
着地した円盤の蓋が開いて、体長30センチほどの銀色の宇宙人登場。どう見ても全身銀塗りの江頭2:50。大慌てで公園の茂みに逃げて行った。
これ、バラエティ番組?くだらね~。僕はテレビを消した。

出荷数や金額は全部、美代が数字テンキーで入力してくれた。睡眠時間を削る覚悟だったのに。
風呂を済ませ横になると、美代がふとんの中に入ってきた。
「ありがとう。助かったよ。君が明日もこうだったらいいのに」
「こうだったら?」
「こんなふうに僕と話ができたり、仕事を手伝ってくれたりさ」
「あなたのサービス次第かもよ」
ん?
何かがおかしい。猫が喋るようになった。それだけのことじゃないぞ、コレ。
猫がニャ~とかミャオとか鳴くかわりに喋ったとしても、もっと単純な表現のはずだ。
お腹空いたよ~とか、お外に出して~とか、もっと遊んでよ~とか。
人間みたいに、いや嫁さんみたいに喋るはずがないじゃないか。
第一、人間の言語を理解して応答できること自体、おかしかないか。
数量を理解してテンキーを叩くなんて、知的生物か?

僕は優しく美代の背中を撫でるふりをした。そして美代の背筋に一直線に走るジッパーを発見してしまった。
こいつ・・・
こいつ、猫を被っている。

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未来新聞

2012年02月21日 | 366日ショートショート

2月21日『日刊新聞創刊の日』のショートショート



都心のホテルのスイートルームに五人の男女が集められた。皆が皆、テレビでちょくちょくお目にかかる霊能力者である。
「一体だれが私たちを集めたのかしら?」
「じゃ、君も依頼主を知らないわけだ」
「我々の能力で何をさせるつもりかな?」
「我々の能力を競わせて茶化すお遊びなら願い下げだ」
「いったい誰の仕業だ?」
扉が開き、背の高いスーツ姿の男が現れた。
「私です。私が日本屈指の予知能力者の皆さんを、前例のないプロジェクトのために集めたのです」
「プロジェクト?」
男は微笑んで話を続けた。
「言い換えれば、世界初のビジネス。予知能力者の皆さんが未来を予知して未来新聞を作るのです」
「未来新聞?」
「ええ、未来新聞。ただ、遠い将来ではありません。一週間後ですらない。明日です。明日を予知して記事にするのです」
「明日だと?」
「ええ、皆さんなら簡単なことでしょう?」
「ま、まあ・・・そりゃあそうだ。できるとも」
「皆さんが予知した記事の載った朝刊を読んだ人々は、その日おきる事件を事前に全部知ることができる!これまでの新聞が古新聞みたいにつまらなくなるでしょうな」
「天気予報も載せるのか?」
「もちろん。気象庁の予報はよく外れますから重宝されますよ」
「テレビ欄は?」
「基本的には従来の新聞とほぼ同じです。ただ、番組変更があるときには事前にテレビ欄に載せるのです。プロ野球などで放送時間が変更になることも事前にテレビ欄に載せます」
男は席を立って、五人の予知能力者たちに契約書を配って回った。
契約書に目を通した五人は驚きの声をあげた。
「こ、こんな高額、月々払おうというのか?」
「ええ、未来新聞にはそれだけの価値がある。大ヒット間違いなしです。契約していただけますね?署名欄に、早速サインをお願いします」
五人は契約書を睨んでいる。
「いかがです?ご契約いただけますか?」
「ち、ちょっと待て。あまりにも突然で・・・考えがまとまらない。今までの仕事をキャンセルして未来新聞を生涯の仕事にするかどうかなんて即断できない」
他の四人もうなずく。
「無理もありません。突然電話で呼び出され、来てみたら有名な霊能力者が一堂に会している。前代未聞の未来新聞を作るよう依頼され、報酬はとびきりいい。皆さんが戸惑われるのももっともだ」
「まったくです。こんな話、予想だにしませんでした。ビックリしたなぁ、もう!」
ウンウン、他の四人もうなずいた。
・・・
・・・
あれ?
その場に居合わせた全員が一斉に首をかしげた。

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助六

2012年02月20日 | 366日ショートショート

2月20日『歌舞伎の日』のショートショート

はてさて俄雨に祟られまして街道行きかう馬子もお侍も芸者衆も右往左往でござんす。
あるは木の陰あるは庇陰と身を寄せますがさらに雨足強く、
街道筋の旅籠屋は旅客山為してさてさて相部屋となつた次第でござんす。
「先生、蘊蓄斎先生とやら」
「そう哮るな。お客人」
「こう雨に降られちや遊びにも出れねえ。どうだ俺と蘊蓄比べをしないか」
「わしとおまえぢや勝負になるまい。それなりの下駄が必要と思うが」
「先生言うねえ」
「おまえが負ければ五文をわしがいただく。わしが負ければ三十文で如何?」
「そいつァいい。では早速まいるまいる。『助六寿司』を『助六』というは何故?」
「ホホ、簡単なこと。『助六所縁江戸櫻(すけろくゆかりのえどざくら)』のあの粋男、助六のことぢや。恋仲の華魁を総角(あげまき)という。稲荷寿司のあげと巻寿司のまきを合わせてあげまきとの洒落ぢや。では五文をいただこう」
「さすがは蘊蓄斎ぢや。こいつは六助られた」
「おつとそれは『まきあげられた』の洒落と見た。さらに五文いただこう」
「畜生ほれ十文でい。くうう、こいつは赤子の行水でい。ならば俺からまいるまいる。得意な技を『おはこ』というは何故?」
「ホホ、また簡単な。市川團十郎が得意の演目十八番を選び定めたからぢや。台本をはこに収めた故に『おはこ』という。さらに聞き逃すまいぞ赤子の行水。それは「金盥で泣いている」、「金が足らいで泣いている」の意であろう。さらに十文ぢや」
「ヒイイ、こいつァ幽霊のお手討ちぢや。三十七計逃げるに如かず!」
「また言うか。「幽霊のお手討ち」とは「死骸がない」、「し甲斐がない」の洒落だな。ささ五文いただこう。さても「三十七計」とはどういうことぢや?」
「おわかりにならない?では三十文」
「ヌヌ、ほれ三十文ぢや。して答えは?」
「それが俺にもさつぱりわかりません。ぢや失礼いたしやす」
「行つてしもうた。ウウムこいつァ、わりきれねえ」

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パパマスク

2012年02月19日 | 366日ショートショート

2月19日『プロレスの日』

 


『ボクのパパ』

ボクのパパのおしごとは、プロレスラーです。
ゆうめいなだんたいのゆうめいなわるものレスラーです。
きょうきをつかったり、いすをなげたりします。
くろいふくめんをかぶって、いいもんレスラーとたたかって、わざとまけます。
パパはいつも言っています。
わるものがつよければつよいほど、いいもんレスラーがつよく見えるんだ。
わるものがわるければわるいほど、いいもんレスラーがいいもんに見えるんだ。
だから、わるものレスラーはとってもたいせつです。
プロレスのしごとは、しあいのれんしゅうや、ちほうのしあいがあって、なかなか家にかえれません。
でも、おやすみの日、おうちのパパはやさしいです。いっぱいあそんでくれます。
ふというでにぶらさがったり、かたぐるましてもらったりします。
パパ、いっぱいわるいことして、がんばってね。

 正夫が学校で書いた作文、今日の夕方から何度読み返したでしょう。
ママはニコニコ顔で原稿用紙をたたむと、壁時計を見上げました。
もう12時をとっくに回っています。
夜更かししていた正夫も眠気に負けて寝てしまいました。
せっかくのお休みなのに、もうまったく。
ピンポ~ン!
あ、パパ!
「むははははっ、ブラックサバト様のお帰りだぞ~!」
しこたま酔っています。
半分靴を脱いだまま玄関で大の字になっちゃってます。
もうしっかりしてよ、あなた。
抱き起こそうとすると、いきなりのホールドです。
「ママ~、だいちゅき~」
玄関先でやめてちょうだい。お酒くさ~い。
パパったらいきなりママの後ろに手を回すと、ジッパーをジジジ~・・・
「ちょっと、パパ。だめよ、ウフフ」
ママもパパのジッパーを指でつまんでジジジ~・・・

翌朝。
朝食のテーブルで、正夫はトーストをかじりながらパパとママを見くらべます。
パパもママもごきげんです。
「ママ、トーストもう一枚!」
振り向いたパパの頭のうしろに、ジッパーのチャックが見えました。
「は~い、もうすぐできますよ」
ママの頭のうしろ、髪の毛の間にもジッパーがまっすぐ走っています。
パパがパパマスクをはずしたら、ママがマママスクをはずしたら、いったいどうなっちゃうんだろう?
でもそれって、子どもが絶対に聞いちゃいけないんだよね。
「正夫、作文読んだぞぉ。さすが俺の息子だ。今日は遊園地連れてってやるからな」
「わ~い!」
ボクはボクで、こどもマスクかぶってないと、ねっ。
 

 
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エアメ~ル

2012年02月18日 | 366日ショートショート

2月18日『エアメールの日』のショートショート

瀟洒な洋館の大広間、探偵は関係者一同を見渡した。
「皆さん、夜分申し訳ありません」
館の女主人が首回りにショールを寄せながら尋ねた。
「こうして集まるからには、真相を突き止められたのね?探偵さん」
「ええ」
一同がどよめいた。
探偵が質問していく。
「白ヤギさん、あなたは黒ヤギさんにお手紙を書きましたね?」
「はい」
「ヤギさん郵便の配達人さん、あなたは白ヤギさんから手紙を預かって黒ヤギさんの家に配達したんですね?」
「はい。この手で黒ヤギさんに手渡したので、はっきりおぼえています」
「では、黒ヤギさん。あなたは手紙を受けとりましたね?そして読まずに食べてしまった。しかたがないので白ヤギさんに、さっきの手紙のご用事な~に?と尋ねる手紙を書いた」
「そのとおりです」
「ふ~む、では2番に行きましょう。その手紙を配達人さんは受けとりましたか?」
「はい」
「白ヤギさんたら読まずに食べた。そして黒ヤギさんに、ご用事な~に?の手紙を書いた」
「はい」
探偵の眼鏡が光った。
「で、それを何度も何度も繰り返した。どのくらいの回数かおぼえていますか?」
白ヤギも黒ヤギも配達人も遠い目をしてメ~と鳴いた。おぼえていないのだ。
「どちらが始めたか、それはわかりますか?」
再び全員、遠い目をして鳴いた。
探偵は溜息をついた。
「いいですか、それがわからなければ最初のご用事がわからないのですよ」
女主人が口を挟んだ。
「探偵さん、それじゃあこの事件はメ~宮入りじゃないですか?」
探偵は不敵に笑い、前脚を差し出した。
「では、手紙を見せてもらいましょう」
誰一頭、手紙を差し出せない。だって食べてしまったんですもん。
「いや、それはおかしい。常に手紙は循環しているのです。誰かの手になければおかしいのです」
なるほど。
「それがないということは・・・やぎさん郵便は、実はエアメ~ルだったのです!」
エエッ!?
「裸の王様の衣裳のごとく、エアギターのごとく、誰もが存在すると思っていたにすぎない。自分だけが存在しないと言うのを恐れるあまり、全員によって作り出された共同幻想だったのです!」
そうかぁ、そうじゃないかと思ったんだぁ。一同安堵する中、再び女主人が尋ねた。
「それで?メ~探偵さん?そのエアメ~ルとやら、これからどうすれば?紙に戻します?」
ヤギたちの喉がゴクリと鳴った。
探偵が懐から携帯端末を取り出した。
「もちろん、これからは電子メ~ルで!」

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ツタンカーメンの呪い

2012年02月17日 | 366日ショートショート

2月17日『ツタンカーメンの日』のショートショート

ギュギュと合成皮革のソファが軋む音がしたので目を開くと、隣に痩せた男がいた。
薄暗い午後の病院の待合室、コの字に並んだソファに他に患者が待つ姿はない。
なぜわざわざボクの隣に?それにしても華奢な男だ。生気がまったくない。
足を患っているらしく、洒落た杖を手にしている。日焼けで剥けた皮みたいにカサカサの肌。まるでミイラだ。
「ツタンカーメンの呪いって知ってます?」嗄れた声で尋ねた。
「発掘に携わった人が不審な死に方をしたっていう、あの話ですね。ええ、知ってます」
男は弱々しく笑った。
「あんなの嘘っぱちですよ。発掘後すぐに亡くなったのはカーナーヴォン卿ひとり。発掘調査の以前から病気がちだったんです。あとはもう、新聞や雑誌が噂を書きたてただけ」
男は嬉々として噂話の数々を披露した。
「お詳しいですね」
ああ、喉が渇いた。バッグからミネラルウォーターを取り出すと、男が黄ばんだ目でボトルを凝視した。
「飲みます?」
ボトルを差し出した途端、男はそれを奪うと貪るように喉を鳴らした。
「元気が出ますね、まったく。あなた、ツタンカーメンの死因、撲殺説とか毒殺説とかいろいろ言われてますけど、真相、知りたくないですか?」
正直、どうでもよかった。だが男のほうは話をやめる気なんかさらさらなかった。
「頭蓋骨の陥没は、ミイラに加工する際にできたんです。毒殺説というのも根拠がない。ホントはね、事故で大腿骨骨折など大怪我を負ったのが直接原因なんですよ。マラリヤも患ってたし、もともと近親婚で身体が弱く、鎌状赤血球症で貧血気味、二十歳にもならないのに普段から杖をついてましたから」
喉がカラカラだ。舌が固くなりごわごわする。
男をちらりと見て驚いた。男の顔には血の気が戻り、肌はツヤツヤ、目が輝いている。
「発掘のときなんてひどかったなぁ。マスクを外すために首を切断されたんですよ。棺に癒着した背中を剥がすためにお湯かけてメスで切り裂かれたり。そりゃ呪いたくもなるよ」
ふくよかな顔に笑みを浮かべ、男は立ち上がった。
ボクも立ち上がろうとしてよろけてしまった。
足が棒切れみたいに細くなっている!足に触れたボクの手もまた骨と皮ばかり。カサカサに乾いて、まるでミイラだ。
男がボクの耳元で囁く。
「これがホンモノのツタンカーメンの呪いだよ。さ、君の番」
そして杖をボクに渡すとしっかりとした足取りで去って行った。

 

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長崎は今日も雨だった

2012年02月16日 | 366日ショートショート

2月16日『天気図記念日』のショートショート



苗場のフジロック会場は今年も快晴。ここ何年も雨が降ったことがない。
なのに・・・
僕の大好きなロックグループYouTooのコンサートが始まって間もなく、黒雲が空に湧き始めた。
そして、雨粒がポツリポツリ・・・
「ありえない!そんなこと・・・大切なイベントのときには雨が降らないはずなのにぃ~!」
「気象管理局の怠慢じゃねぇの?」
観客達が空を見上げ口々に言う。
ああ、やっぱり。ずっと家で隠れているべきだった。でも、我慢できなかった。スタジオ録音専門のYouTooが前代未聞の野外コンサートをやるんだから!僕一人なら何とかなると思ったのに。
僕は、雨男。
演奏は中断され、ボーカリストから政府気象管理官がマイクを奪った。
「この会場に、雨男がいる!全員、その場を離れるな!管理官が来たら気象履歴カードを見せろ」
気象履歴カード・・・
個人の過去の気象情報が記録されているカードだ。人生の大切なイベントと、その時その場所の天候が自動的に記録されていくカード。入学式・・・卒業式・・・遠足・・・初デート・・・ことごとく雨が降ってきた僕の記録も。
10年前・・・雰囲気で政権を握った政党が、適当なマニフェストで気象管理局を設立した。そして、日本国中の雨男、雨女を拉致して九州へ連行した。逆に九州の晴男、晴女は本州へ。
政府の見込みでは、本州のイベントの時には晴ればかり、九州では雨ばかり・・・になるはずだった。だが、実際にはそうならなかった。それを国民が非難すると、政府は、隠れ雨男や隠れ雨女のせいにした。かくして、雨男雨女狩り専門の気象管理官がイベント会場に現れるようになったのだ。
雨がザンザン激しくなる。雷さえ鳴り響いた。
僕は思わず震えながら、観客の中を後ずさりしていく。
「止まれ!そこのお前」
見つかってしまった・・・
「カードだ、気象履歴カードを見せろ」
もう、逃げ道はない・・・
「雨男を発見したぞ!」
アナウンスをした管理官がステージで叫んだ。
ステージの上で管理官数名が取り押さえている・・・YouTooのボーカリスト、それにギタリストを。
そうか、彼らも雨男だったのか!それでスタジオ録音ばかり!僕も一緒だ、雨男バンザイ!
「あ、僕だって雨男です。逮捕してください」
僕は、自ら両腕を差し出した。ガチャリ。手錠がかけられる。
観客の間を通って僕は連行されていく・・・
観客達が口々に僕を見ながら、囁き合っている。その声が僕の耳に届く。
僕の足から力がどんどん抜けていく・・・そんな・・・
僕の顔を濡らすのは雨水ばかりじゃなくなって・・・

「かわいそうに」
「長崎に最近、収容所ができたらしいぞ」
「収容所で一人残らず処分してるってよ」
「雨を降らしたんだから、当然の報いさ」
「それで日本中どこでも晴れたらいいね」
「♪あ~した、天気になぁ~れ♪」

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アキレスと菓子

2012年02月15日 | 366日ショートショート
2月15日『お菓子の日』のショートショート

「君が新入社員の森永君かね。入りたまえ」
専務に促されるまま、重役室のフカフカの絨毯に足を踏み入れる。
マホガニーの会議テーブルの向こう、高層ビル群を見下ろす大窓を背景に、社長が革張りの椅子に腰を沈めていた。
「森永倶梨子?この業界にうってつけの名前だ。ま、問題がないわけじゃない。いずれもわが社のライバルなのだから」
社長に合わせて専務も卑屈に笑った。倶梨子は耳まで真っ赤になって試作品を詰め込んだバッグを握りしめた。
「開発部での君の評判は聞いておる。ずいぶんアイディアを思いつくそうじゃないか」
「さ、見せてくれ」
試作品を重役二人直々に見たいだなんて。晴れがましさと不安が倶梨子の中で渦巻いた。
「ではご覧ください。ガムの周囲をキャンディーでコーティングしました。さらに真ん中に濃厚なシロップが。どうぞ試食してください」
社長と専務が試作品を口に入れてモグモグモグ。
「なかなかイケますね」
「うむ。だが、これ食ったことがあるぞ。えっと、これは確か」」
「社長、これ、ハリスのチューイングBONですよ!青リンゴ味が最高だった」


 
ええっすでにこのアイディアが!ではこれならどうだ!
「ビスケットの棒に、ナッツとチョコをコーティング、凸凹に仕上げました」
ボリボリ・・・「おや、これも食ったことがある」
「明治製菓の『かなぼうくん』ですよ、コレ」



ええっこれも?じゃ、これは?
「白いヌガーが渦巻き模様のソフトキャラメル・・・」
「これは不二家のノースキャロライナだよ、キミ」



げっ
「ガムはガムなんだけど、レモン味が超すっぱくてスポーツの後にピッタリの・・・」
「ああ、それはロッテのクイック・クエンチだ」



うげっ
「じゃ、じゃあ、ソフトプラスチックのパズルをおまけにつけた、野球ボール状のガム!」
「そりゃ、カバヤのビッグリーグガムじゃないか」



うげげっ
「ハートやスペードに星型。いろんな形の立体パズル。あれけっこう難しかったなぁ」



うげげげっ
「ええい、思いきって甘辛い味付けの祝鯛の形をしたオレンジ色のあられ!」
「そりゃ鯛あられだ。駄菓子屋のおばちゃんがハトロン紙の小袋にスコップで入れてくれた」



ああ、もうダメ。思いついた菓子は全部先人によって発売されている。
意気消沈うなだれた倶梨子が重役室を出て行った。専務が振り返ると社長は窓辺に立っていた。
「彼女じゃ新製品の開発はちょっと荷が重そうだな」
「そう思われますか?」
「キミは彼女に見込みがあると?」
「入社して短期間にあれだけのアイディアを出せたんです。どんどん現在に追いつき追い抜いて、最先端のヒット商品を開発するのでは?」
「そうだといいが。彼女が進む間に必ず、世間の時間も進んでいる。進めば、世間の時間もまた進む。永遠に追いつけないと思うぞ」
う~む、これはなかなか難しい。
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