366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

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箱の中

2012年12月26日 | 366日ショートショート

12月26日『ボックシングデー』のショートショート

ヘンリー神父は、ボクシングデーのために匿名の者から寄せられた箱の山を見つめて困惑していた。
これだけの量も大きさ初めてなら、立派な包装紙やリボンで飾られているのも初めてだった。
例の男から贈られた箱にちがいない。
半年前の暑いさなか、男は教会に現れた。
貧しい教区の小さな教会の説教に訪れるのは、生活の苦しみが顔に深く刻まれた、見馴れた信徒ばかり。
若者は、彼らとまるっきり違っていた。
説教が終わると、信徒たちは会堂出口の献金皿にわずかばかりの金を置く。
若者が現れるまで、その皿に紙幣が置かれたことはなかった。
数週間後、神父は思いきって若者に声を掛けた。神父の感謝の言葉に若者ははにかんだ。
「神父様、感謝するのは私のほうです。不信心だった私がここで信仰に目覚めたのですから」
想像していた以上に謙虚な姿勢に神父は驚きを禁じ得なかった。
若者の献金のおかげで、教会の屋根が葺き替えられ雨漏りがなくなった。
中央階段のきしむ音が消えたし、開かなかった窓は修理され秋風が会堂を満たした。
「あなたのおかげです。あなたに神の祝福を」
「滅相もありません、神父様。神の存在を確信できたのは神父様のおかげなのですから」
「神の存在?」
「ええ、こちらの教会へ伺って以来、必ず願いが叶うのです。私にとって安いくらいですよ」
「あなたの敬虔な祈りの賜物ですよ」
若者は、いったい何を祈っているのだろう・・・。
こんな大金を献金できる理由は?
若者は、物好きな大富豪でたまたま立ち寄った教会に献金しているだけなのか。
若者は、競馬好きのギャンブラーで、この教会で祈るようになってからツキまくっているのではないか。
若者は、ある企業の経理を担当していて、横領する巧い手口を思いついて実践しているのではないか。
若者は、凄腕の殺し屋で、この教会で祈るようになってから、依頼を確実に遂行できているのではないか。
気になりはじめると、居ても立ってもいられなくなった。
そしてある冬の日、ヘンリー神父はさりげなさを装って、ついに若者に仕事を尋ねた。若者の表情が翳った。
「あなたがそれを知る必要がありますか?」
神父は、質問したことを悔いたが、もう遅かった。若者は二度と教会に現れることはなかった。
善意のもとに寄せられた箱の山は、教会を介して人へ渡っていく。中身を確認すべきではあるまい。
だが、神父は箱の中身がやはり気になって仕方がないのだった。

 

 


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