366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

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蓄音機

2012年07月31日 | 366日ショートショート

7月31日『蓄音機の日』のショートショート



「チクオンキから、おじいちゃんの声が聞こえるんだ」
弟のシュンが急にそんなことを言い出したときは、そんな気がしてるだけなんだと思った。
それで、家族みんな、おじいちゃんの部屋に集まった。
「ここの、ラッパみたいなところに耳を当ててたら聞こえてきたんだよ」
まさか、そんなはずない。
「シュン、これは蓄音機なんて名前だけどレコードを再生する機械だよ。レコードが無けりゃ音は鳴らないんだ」
パパが金属ホーンに耳を差し入れて待った。
そのうち、パパの顔が真っ青になった。
驚いたママも、そしてボクも、ホーンに耳を近づけた。
「パパったらふざけないでよ・・・」
ママがパパを叱ろうとした、その時。
確かに聞こえた。
ホーンの奥の暗闇から、小さな小さな、「おーい」と呼びかける、おじいちゃんの声が。
「ホントだ!おじいちゃんだ!」
ママも青ざめてパパに体を寄せた。ボクは思い切りホーンに頭を突っ込んだ。
「おじいちゃーん!ここだよ!こっちだよー!」
ちょっとだけ間が空いて、おじいちゃんの声が帰ってきた。
「おお、コウタ!聞こえるぞ、おじいちゃんだぞ!」
向こうにも聞こえるんだ。
蓄音機を通して、あっちとこっちで会話ができるんだ。
パパがホーンをひっつかんで、叫んだ。
「父さん!お別れを言えないままになって・・・まさか増水で流されちゃうなんて・・・」
「おお、ヒロシ。気にするな。おまえたちの声が聞けて十分幸せじゃ」
パパ、もう泣き出しそうだ。
おじいちゃんもなんだか悲しそうな声。
「こんなことになるんじゃったら、あの日、家を出るんじゃなかった」
「父さん、なに言ってるんですか。よかったじゃないですか、出かけて。敬老会のハワイ旅行」
「よかったものか。帰ってみれば、大雨で家族は家もろとも流されとるなんて。手元に残ったのは、この蓄音機だけじゃ。わしも早くおまえたちのところへ行きたい」 

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悪役レスラー

2012年07月30日 | 366日ショートショート

7月30日『プロレス記念日』のショートショート

お父さん・・・
隠し持っていた凶器を相手のレスラーの額に打ちつけている。
黒い覆面におおわれた悪役レスラーの目がギラギラ光っている。
マスクに隠れていても、ボクにはわかった。
一緒におふろに入ってるお父さんの、背中のホクロやキズを見まちがうはずがなかった。
今日、ほんのイタズラ心で車の後ろに隠れた。お父さんの車は地方の体育館へ。
駐車場にもいっぱいポスターが貼ってあって、プロレスの試合会場に来たんだとわかった。
でも、まさかお父さんが悪役レスラーだったなんて。
お仕事を聞いても、お父さんはいつもごまかしてた。
「まだ十年早い。いや十年たってもわかんない」なんて笑って。
大ブーイングの中、試合は場外乱闘にもつれこんだ。
相手レスラーが長机を潰して倒れ込む。パイプ椅子を振りあげるお父さん。
「お父さん、やめて!!」
ボクの絶叫が届いたのか?悪役レスラーが動きを止め、パイプ椅子を投げ棄てた。
試合は再びリングへ。
強い!
これまでと打って変わって。プロレス技を次々繰り出すお父さん。
これがホンモノのボクのお父さんだ。ブーイングの嵐なんて関係ない。お父さん、勝って!
何度も何度もフォールを狙い、相手レスラーが間一髪ブリッジやロープでかわすたびに拍手がおきる。
ついにお父さんはコーナートップから空中を舞い大技を狙う。会場を包むどよめき!
見事にかわされ、強烈なラリアットを食らって頭からマットに沈んだ。会場は嘲笑に変わる。
そして、スリーカウント。大歓声。
お父さんは負けた。
でもボクにはわかった。この大歓声を演出したのはお父さんだ。
お父さんが悪ければ悪いほど、観客は相手レスラーをヒーローにできるんだ。
お父さんが強ければ強いほど、相手レスラーはもっと強くてかっこよく見えるんだ。
リングを照らすライトがいくつもの光の輪っかが重なったみたいに見えた。
お父さん、ボク、お父さんみたいになるよ。

十年後。
夕方のTVニュースは、地元の地方銀行でおきた銀行強盗事件を報道していた。
犯人に対応した、若い行員がインタビューに応える。
「ええ、黒覆面の若い男、ひとりでした。スキあり!てんで、みんなで取り押さえて。いやぁ、ビックリしましたぁ。うちの銀行開業以来初めてらしいですよ」
記者も行員も声を弾ませ、いきいきしていた。

 

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今日は肉の日(729字)

2012年07月29日 | 366日ショートショート

7月29日『肉の日』のショートショート



ハイ、ど~いたしました?
・・・って、患者さん、アンタ顔色悪いね~。
腹痛?下痢?辛そうだぁ。嘔吐も?発熱も?食中毒だよ、ソレ。
食べたもので心当たりは?生肉?
ダメだよ~この季節、生肉は。え?トイレ?ハイ、行ってらっしゃい。
・・・(口笛で『犬のおまわりさん』途中まで)
あ、おかえり。スッキリ?大丈夫?もよおしたら、遠慮せず言っていいから。
あのねぇ、生肉って危険なんだよぉ。レバ刺しもユッケもトリわさも馬刺しも、み~んなデンジャラス。生肉のほうが甘くて美味い?ダ~メダ~メ!飲食店は本来加熱調理用に仕入れた肉を自主判断で客に出してるのよ。行政は、消費者の嗜好だからという理由で生食を規制してないの。つまり生肉食って腹壊すのは消費者の責任になんだよ。
・・・ビックラこいた?今や食中毒の大半、生食が原因なんだよね。
去年、新型インフルエンザ騒ぎでマスクや消毒液がバカ売れしたじゃん。アレのおかげで、去年は食中毒患者が激減したんだよ。やっぱ基本は手洗い消毒なんだよねぇ。
20代~30代の、生肉食べて食中毒、多いんだよなァ。え?トイレ?また?ハイ、行ってらっしゃい。
・・・(口笛『犬のおまわりさん』の続き。TVのニュースの声)
『・・・本田さんは宮野町内の自宅周辺で犬の散歩中・・・』
え?宮野?この辺じゃん。
『コンビニ駐車場に繋いでいた犬が行方不明になったと警察に通報しました』
あ、おかえり・・・アンタ、まさか・・・
え?犬じゃない?
『その後、本田さん本人が消息を絶ちました。警察では何らかの事件に巻き込まれたものと見て・・・』
アンタ、まさか・・・
本田って奴、ヤクザから足を洗ってなかった?汚い手ばかり使ってた?
そんなの食っちゃうから腹壊すんだよぉ。お薬出しとくから。
ハイ、次の方~。 

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宇宙戦争その後

2012年07月28日 | 366日ショートショート

7月28日『第一次世界大戦開戦日』のショートショート



白い光に充たされた病室にドクターが入ってきた。私のカルテに目を通して微笑む。
「さすがは軍人さんだ。めざましい回復ぶりですね」
「手厚い看護のおかげです。感謝しています」
「あなたが五十年もの間昏睡していたことは、看護師からもうお聞きになりましたね?」
目の前の若いドクターや看護師たちは五十年前の過酷な『宇宙戦争』を知識でしか知らない。
五十年前、巨大円盤が世界中の都市に飛来した。
表面は黒褐色のヌメヌメした鱗片に覆われ、裏には放射状の白い細かなヒダヒダ。
そう、シイタケそっくりの円盤。
円盤からこれまたシイタケそっくりの宇宙人が降り立ち、容赦なく人間を襲った。
かくして『宇宙戦争』が勃発した。
当初、シイタケ星人の圧倒的な軍事力の前に屈するかに見えた人類だったが、ハナツマミ砲弾が絶大な効力を発揮、宇宙人たちを駆逐した。
シイタケ星人最後の円盤に至近距離から砲弾を発射した私は、彼らの放ったシイタケガスを浴びてしまった。
侵略者の円盤が粉微塵に飛散するのを見届け、私は昏睡に陥った。
そして五十年後。
目覚めた私は、私と同じ人間の看護師やドクターたちを見て、戦争の勝利を確信した。
「私の五十年は無駄じゃなかった。人間の未来を築く礎となったのだから」
ドクターの笑みが翳った。
「窓の外をご覧なさい。あなたの目で、五十年後の未来を確かめてください」
私はドクターの肩を借りて、促されるままに窓から覗いた。
未来の街を闊歩する人々が俯瞰で見渡せた。
頭にシイタケ笠を載せて歩くシイタケ人間・・・
全身緑のブツブツのグリンピース人間・・・赤ら顔のニンジン人間・・・
セロリ人間・・・ゴーヤ人間・・・頭がピーマンのピーマン人間・・・etc.etc.
子どもには絶対に見せられない、おぞましい光景。
「純粋な人類はこのタワーにしか残っていません。ここは人類サンプル保存のための収容施設なのです」
「そんなはずがない!我々は『宇宙戦争』に勝利したはずだ!」
「『宇宙戦争』?・・・ああ、『第一次地球戦争』のことですね」
第一次地球戦争!?
そのとき私は悟った。
かの第一次世界大戦は、大戦当時に『第一次世界大戦』などと呼ばれてはいない。単純に『世界戦争』と呼んでいた。
だって二回め以降があろうなんて、思いもしないじゃないか。 

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恐怖のスイカ人間

2012年07月27日 | 366日ショートショート

7月27日『スイカの日』のショートショート

「白状しろ。おまえは、ヒトとスイカの遺伝子操作によって作られたスイカ人間だな?」
「違う!おれは貴様らと同じ人間だ!」
「ではなぜ真ん丸頭、緑地に黒い縦縞なのだ?」
「こ、個性だ」
「個性的すぎるだろ。どんな仕掛けだ?」
「タネも仕掛けもない!」
「スイカなのに?調べてやる」
「ギョエー!」

「白状しろ。おまえは、ヒトとスイカの遺伝子操作によって作られたスイカ人間だな?」
「違う!おれは貴様らと同じ人間だ!」
「いつまでしらをきれるかな?」
「お、おい!なぜ頭まで砂に埋める?
で、なぜひとりが目隠ししてる?
で、なぜ棒をもってグルグル・・・や、やめろ、やめてくれー!」

 

「白状しろ。おまえは、ヒトとスイカの遺伝子操作によって作られたスイカ人間だな?」
「違う!おれは貴様らと同じ人間だ!」
「そっか、覚悟しな。で、くし切りがいいか?くし切りのスライスがいいか?」
「中心部の甘いところが行き渡るように、くし切りから放射状に・・・しまったぁ!」

 

「白状しろ。おまえは、ヒトとスイカの遺伝子操作によって作られたスイカ人間だな?」
「違う!おれは人間だ!」
「ではこの部屋に一日入ってろ」
「熱っ~!ここはサウナじゃないか!」
「フフフ、熟したスイカが温められて腐ったら・・・さあどうなるかな?」
「そんなんヒトでも爆発するわっ」

 

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背筋の凍る幽霊の話

2012年07月26日 | 366日ショートショート

7月26日『幽霊の日』のショートショート

その晩、ボクはなかなか寝つくことができなかった。
ベッドに横たわったまま常夜灯を見つめ続ける。毛布を被っているのにゾクゾク寒気がしてたまらない。
時計が時を刻む音だけが単調に耳に響く。
妙な胸騒ぎが襲う。
こんなときに部屋の隅の暗がりを決して見てはいけない。じっとこちらを凝視する霊と目が合ってしまうから。
そんな想像がさらに寒気を誘い、掛け布団で頭を覆い、目を閉じる。
そのとき。
枕元のすぐそばに気配を感じた。エ?そんなはずは・・・。確かにボクのすぐそばに誰かいる。
枕元に座って、ボクをじっと見下ろしている誰かが。全身に悪寒が走る。ああ、助けて。
「・・・・・・」
え?なんだって?そいつが何かささやいている!血も凍るくらい寂しい声で。
「・・・・・・」
え?何て言っているんだ?全神経を耳に集中する。
「バスガイドの笛で、バスが移動・・・」
なに?
「太った人、毛布とっちゃイヤ~ン・・・」
はぁ?
「ジャムおじさん、ジャムを持参・・・」
ええ?
「2016年オリンピック、リオでじゃねぇやろ~・・・」
なんだ、こいつは?ボクは布団から顔を出した。
枕元に髪の青い女が座っていた。華奢な肢体に密着したプラグスーツを身につけて。
「今晩は。綾波霊です」
「な、何しに現れた?」
「ワタシは駄洒落を言わなくてはならない、ダジャ霊なのです。魑魅魍魎にキミ朦朧・・・」
「ボクは寝なきゃ困るんだ。消えてくれ」
「そうはイカのキンタマです。面白くないですか?最後尾でサイ交尾・・・」
「お、ついにシモネタか。幽霊って怖くて背筋凍っちゃうもんだろ?寒いネタで背筋凍らせてどうすんの?」
「そんなひどい。身体検査で新体験さ~・・・」
ボクは無言でダジャ霊に冷たい視線を送った。その視線に耐えきれず、
「ああ、もう新弟子埋葬、もとい、死んでしまいそう・・・」
「死んでるし!」
「笑ってやってくださいまし。笑って成仏させてくださいまし。臭いブリーフにファブリーフ・・・」
だんだん苦しくなってきてるぞ。
ボクもちょっと心配になってきた。こんな駄洒落の羅列、どうやってオチをつけるつもりなんだ?
ボクの心配を察したか、それとも、そろそろいつもの文量、潮時と感じたか。
ダジャ霊が指一本つかんで指一本立てる忍者のポーズ。
「あ、そろそろワタシ、ドロンしますぅ」
白煙とともにス~ッと消えてしまった。それは親爺ギャグでしょ(笑)

 

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かき氷殺人事件

2012年07月25日 | 366日ショートショート

7月25日『かき氷の日』のショートショート

害者はキッチンに倒れていた。頭部に鈍器による傷、しかし凶器が見つからない。
「容疑者の皆さん、舌を出すんだ!・・・よ~し、犯人は舌の青い郡山さん、あなただ!」
「な、何を証拠に?」
「氷の塊で殺害後、凶器をかき氷にして食べたんだ!ブルーハワイにしてな!」

 

「お、俺の舌は生まれつき青いんだ!」
「ほほう、開き直ったね。ではこれから、容疑者の皆さん全員にかき氷を食べていただこう」
「な、なぜだ?」
「もしこの中に二杯めの者がいれば、頭はキーン、お腹はゆるゆるになるはず。さ、どうぞ召し上がれ」
「ウウ、じゃあ今度はイチゴで」

 

「全員食べ終わったが大丈夫なようだな。くそ~強情な犯人め」
「隊長!郡山隊員がいません。脱走したようです」
「やはり奴が犯人だったか。だが、そう遠くまでは逃げられまい。なにせここは南極基地だからな」
「奴、氷削り機とシロップを抱えて逃げてますけど」
「こりゃまいったぁ!」

 

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ゴルゴル13絶体絶命・後編

2012年07月24日 | 366日ショートショート

7月24日『劇画の日』のショートショート



単行本150冊を超える不死身のスーパースナイパー、ゴルゴル13。彼の身に、未だかつてこんな絶体絶命の危機があったろうか。
空港ロビーを歩くゴルゴル13を偶然見つけた殺し屋が拳銃を発砲、偶然だからこそ防ぎようもなかったのだ。
いかに敏捷なゴルゴルといえども、銃弾を避けることなど不可能である。
今、無防備なゴルゴルの胸部に向かって、銃弾は一直線に向かっている。
危うし!ゴルゴル13。

【ゴルゴル13絶体絶命・前編】を読んでいない読者のために前回のあらすじを振り返ろう。
ある晩、超A級スナイパーゴルゴルの自宅の電話が鳴った。
相手はドラえもんサンタ。どうやら応募していた『クリスマスびっくりプレゼント』に当選したらしい。
ひとつだけ、願いごとをかなえてくれると言う。
「いざというときに時間を止めることができる能力がほしい」
それさえできれば、いかなる危機も回避できるではないか。時間のみならず世界も思いのままだ。ハッハッハッ
「ゴルゴルさん、ごめんなさい。時間は止められないけど、時間がゆっくり進むようにならできるよ」
たいした違いはなかろう。
「よし、それ、行ってみよう!」
という訳で、油断して空港ロビーなんか歩いちゃうもんだから、殺し屋に出くわし拳銃が火を噴いたのだ。

そして【後編】へ。
ゴルゴルの目に、不思議な光景が繰り広げられた。
空港ロビーをせわしなく歩き回っていた乗客や従業員たち全員、ピタリと一時停止したかに見えた。
銃弾は空間にとどまって浮いていた。硝煙は、銃口の周囲にまとわりついて動かない。
助かった!ゴルゴルは弾道を避けて移動・・・?・・・いや!動こうとしても、全身ウンともスンとも動かない!
ゴルゴルは銃弾が床に落とす影を見つめた。最初に影があった場所から判断すると、わずかに1センチ近づいている!
約束どおり時間は恐ろしいほどゆっくり進んでいるのだ。自分も含めて。
やばい!
銃弾は長い時間をかけてじわじわと迫ってくるのだろう。
体に触れた銃弾はじっくりじっくりと肉を引き裂き、骨を砕いていくだろう。
迫り来る死の恐怖!果てしなく続く激痛!ひと思いに死ねたらどんなに楽だったろう。
ゴルゴルは心の中で叫んだ。
助けて、ドラえもん!

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LOVE米

2012年07月23日 | 366日ショートショート

7月23日『米騒動の日』のショートショート



『米からちゃんと炊いて俺のために毎日おにぎりをにぎってくれ!!』
プロポーズの言葉はこれに決めていた。
ヒカリちゃんとはコンビニのバイトで知り合った。コンビニおにぎり数あれど、二人が好きなのは、アッツアツの炊きたて御飯を握ってすぐにホフホフ食べる、塩だけのシンプルなおにぎり。そんな話で意気投合、つきあい始めたのだから。
前の車は動く気配もなく、カーステレオの曲が終わり会話が途切れる。
今だっ。ハンドルを握りしめる。
「米・・・」
緊張のあまり、声が上擦る。
「米・・・米米CLUBっていったい何人グループだっけ?」
い、いかん。ひとしきりヒカリちゃんと米米CLUBの話。よ~し、今度こそ。
「こ、米・・・」
アアッ緊張する!
「米・・・コメッコとおにぎりせんべい、どっちが好き?」
いかん、いかん。またどうでもいい質問を。今度こそ!今度こそキメる。
「こここ、米・・・」
言え!言うのだ!
「・・・米騒動ってどうして起きたか、知ってる?」
アア・・・ダメじゃん。
「1918年、シベリア出兵を契機に米が高騰、全国で米問屋が襲撃するなどの暴動が起きたんだ。しかし実体は、近代化する国内で都市部の工場労働者が膨れ上がり、農村部の若者が農業を捨てて働きに出るという社会構造の急激な変化によるものだ。第一次世界大戦やシベリア出兵は引き金に過ぎない」
「へえ、そうなんだ」
「米の価格が半年で二倍にも値上がりした。となると、地主や商人はより儲けるために売り惜しみや買い占めをおこなう。米の流通量が一気に減少し、不安に駆られた民衆が全国各地で暴動を起こしたわけだ。夏の高校野球が中止され、時の内閣が退陣させられる一大事となったんだ」
ク~・・・なに蘊蓄タレてんだ、ボクは(泣)。
「今でも起きるのかしら。米騒動」
「それはないだろうな。時の政府は、報道が暴動を煽っているとして報道を禁止したんだ。それが余計に群衆の不安を増幅してしまった。今じゃテレビやネットがあるからありえないよ」
「そうかしら・・・」
助手席のカオリちゃんが前方を指さす。やっと前の車が一台だけ動いた。
ガソリンスタンドめざしてギッチリ渋滞しているが、本当に明日から値上げされるんだろうか?
産油国の政情不安やらで値上げの噂が広がり、こうしてスタンドめざして行列している。
根本的になにも変わってないかもなぁ。
・・・アレ?
で、なんの話だっけ? 

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怪談下駄の音

2012年07月22日 | 366日ショートショート

7月22日『下駄の日』のショートショート

「カランコロンなんて軽やかな音なんかじゃありませんよ、まったく。
セメントの上を引きずるような、頭蓋に響くイヤな音。
いつなんどきも歩けば必ず聞こえてくるんです。背後に寄り添うようにして。
床についても、近くを歩き回る下駄の音が耳について眠れないし。
先生、ボク、ノイローゼなんでしょうか?」
「ホホウ、下駄の音とな。こちらにお座りくだされ。ではまいりますぞ。
オン キリキヤラ ハラハラ フタラン バッソ ソワカ
オン キリキヤラ ハラハラ フタラン バッソ ソワカ
エイッ、エイッ、エ~イッ」
「・・・先生、それで?・・・」
「フム、其方の前世は其方に似ず好男子、たいへんな女泣かせであったらしいぞよ。前世にいいように扱われ井戸に身を投げた女人の霊が其方に憑いておるぞよ」
「エ~!ボクがモテモテなわけでもないのに理不尽すぎる~!先生、なんとかしてください」
「ウム、なんとかやってみよう。
オン キリキヤラ ハラハラ フタラン バッソ ソワカ
オン キリキヤラ ハラハラ フタラン バッソ ソワカ
エイッ、エイッ、エ~イッ」

一週間後。
「いかがじゃな?その後」
「それがあれ以来下駄の音がピタリとやみました。朝までぐっすり熟睡、いや~すっきりさわやか。こんなことならもっと早く先生に相談すりゃよかったなぁ」
「一件落着ですな。ハッハッハッハッ」
「先生、それで女人の霊をどうやって成仏させたんですか?」
「いやなに、成仏はしとらん。下駄を脱ぐように頼んだまでじゃ」
ズッテ~ン!

ここで一句、
『身を投下駄 逃下駄か脱下駄か ずっこ下駄』
お粗末!

 

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集合写真

2012年07月21日 | 366日ショートショート

7月21日『自然公園の日』のショートショート

「ね、父さんたち旅行でもしてきたら?」
定年以来ゴロゴロしている私を見るに見かねて娘が言った。
その娘がバスや宿泊先の手配までしてくれたのでやっと重い腰をあげた。
行き先は、かねてより妻が行きたがっていた自然公園。
宿泊先も、そこからほど近い温泉郷の老舗の宿である。
行くからには、それなりの準備をせねばならない。
デジカメやらプリンタやらが現役復帰。
散策コースもあるとかでシューズを新調し、履き慣らすためにウォーキングを始めた。
妻も、出掛ける何日も前から持っていくものを鞄に詰めては取り出しを繰り返している。
「二人ともイキイキしてるじゃん」

孝行娘のおかげで夫婦水入らずの旅行を堪能した。

旅行から戻った翌日、早速写真を印刷した。それにしてもたくさん撮ってしまったものだ。
「きれいに撮れてるじゃない」
写真を繰る娘に、夫婦で説明を加える団欒の時間。
「何これ?だれと一緒に撮った写真?」
見ると、湖のほとりで写った集合写真だ。
私たちを含め、三十人ばかりの観光客が満面の笑みで並んでいる。
「そういえば確か湖畔の撮影スポットで団体客と一緒になったなあ」
「そうそう。でも一緒に写ったかしらねえ」
「もう!父さんも母さんもしっかりしてよ。実際こうやって写ってんでしょ」
娘の言うとおりだ。確かにこうやって写ってる・・・
そのとき記憶がよみがえった。
三脚を立てセルフタイマーを使い、背景の湖を入れるために引き気味で。二人でベンチに腰掛けて。
ベンチの後ろはすぐに柵、人が並べるスペースなんてなかった。
撮影後三脚をたたんでいると、団体客を乗せたバスが到着したっけ。
眼鏡を額にずらし、裸眼で確認する。
私たち二人以外の笑顔の面々は、全員微かに透けて背景の湖と稜線が見えていた。

 

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自己説明型Tシャツ

2012年07月20日 | 366日ショートショート

7月20日『Tシャツの日』のショートショート



お気に入りのバンドのライブに行った。
グッズ売り場も大賑わい。熱気と大歓声の中、メンバーがステージに登場した。
メンバー全員、Tシャツ姿。
胸にはデカデカとバンドのロゴ。
ゼットンが「ゼット~ン」と言ったり、ダダが「ダッダ~」と言ったりしてるみたいな。
自己説明型Tシャツ。



「なんだかわかる気がするわ、自己説明型Tシャツ」と、彼女。
「だってTシャツの色柄、デザインや着こなしで、どんな人かおおよそわかるもの」
「まさかぁ!じゃ、ボクは?」
「う~ん、ゴメン。なんだか人でも殺してそうな・・・」
(どうしてそれを?この女、生かしておけない・・・)



試写の途中、映画会社重役が渋い顔でフィルムを止めた。
「監督、この映画は本格推理ものだよな?」
「ええ。全員に自己説明型Tシャツを着せて撮影しました。『容疑者』『刑事』『探偵』、みんな胸に書いてあるのでたくさんの登場人物も一目瞭然!」
「なるほど。で、『実は真犯人』もいるわけね」



『会社愛』『一心不乱』『チームワーク』『忍耐』
今日も一日、いろんなTシャツを着て仕事に精を出した。
夜遅く電車に揺られ、『父親』に着替えてマイホームへ。
ぐっすり眠っている愛娘の頬にキス。
「わたしたちもおやすみしましょ」
ふりかえると、妻が『貞淑』を脱ぎ捨てるところだった。



オヤ?どうやらボク、地獄に堕ちたみたいです。
ここも自己説明型Tシャツ?
鬼たちみんな『鬼』なんてロゴのTシャツ着ていて失笑です。
奴ら、舌を抜く準備始めています。
「嘘なんかついてませんって。勘弁してくださいよ!」
『閻魔大王』が黙ってボクの胸を指さします。
エー!ボクって『二枚舌』! 

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マッターホルン

2012年07月19日 | 366日ショートショート

7月19日『マッターホルン登頂の日』のショートショート

機会あって、昨年の暮れ、評判の割烹料理屋で会食した。
店長は某テレビ局で料理コーナーを担当するほどの有名な料理人で、朴訥な人柄でファンも多かった。
旬の食材を使って手間隙惜しまず仕込んだ料理の数々は、なるほど評判だけのことはある。
十二分に堪能し店を出るとき店長と奥さん自ら見送りに出て、ボクたち一人ひとりにカレンダーを配った。
テレビで見かけたとおりの腰の低い夫婦だった。
一同、手渡されたカレンダーの豪華さに驚いた。
キャンバスでも収めてそうな差込箱、それも畳のように大きく、タクシーに乗るときにつっかえたほど。
自宅に戻って箱から出すと、著名なカメラマン撮影による『世界の絶景カレンダー』だった。
マッターホルンやらエアーズロックやら。
近景から遠景まで全面に焦点が合成された、高解像度のパノラマ写真の壮大さに息をのんだ。
ただ、日付は写真下に一列に並んでいるだけで、カレンダー本来の機能は期待できない代物ではあったが。
高級な店でお値段はそれなりだったが、料理とカレンダーで十分元は取った気がした。
以来、わが家のリビングの壁に、絶景を見渡せる窓ができた。

七月のある日。
夕食後のひととき、コーヒーを片手にカレンダーの前に立った。
子どもの頃から憧れた、マッターホルン北壁の勇姿をしげしげ見つめていた。
え?
思わず声をあげて、写真に目を近づける。
マッターホルンを背景に、蟻のように小さく見える観光客の一群がバルコニーに集っている。
その客の中に、店長夫婦が寄り添って「はい、チーズ」。旅先の記念写真そのままのカメラ目線だ。
カレンダーをバサリバサリめくる。『ウォーリーをさがせ!』でもやってる気分になった。
はたして、毎月全部の写真に料理長夫婦の芥子粒大のツーショットを見つけた。
グランドキャニオンのスカイウォークにも、ナイアガラ瀑布のテーブルロックにも。
個人的な記念写真を著名な写真家に撮らせ、大判カレンダーに仕立てあげるセンスって?
それを何食わぬ顔で客に配る神経って?
「ずいぶん気に入ってるのね、そのカレンダー」
妻が声をかけた。
「美味しかったんでしょ。今度、連れてって」
「そうでもないよ」
半年間鎮座していたカレンダーを壁から無造作にひっぺがした。

 

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ジムノペディ

2012年07月18日 | 366日ショートショート

7月18日『光化学スモッグの日』のショートショート



錆び朽ちたフェンスにもたれて待っていた。
ジェット機が西へ翔けていく。工場のサイレンと爆音が混じり合い夕暮れ空に轟く。
栄養ドリンクを注いだコップ越しみたいな、おぞましい空の色。
遠く鉄塔から風が吹いてきて、草原を波立たせてわたしに迫り、そしてわたしを越えて行った。さらに日が翳って、さらに空気を陰鬱にしていく。
わたしは目を閉じてジムノペディをハミングした。マスクの中で歌声がくぐもった。
すぐ傍で金網が鳴った。目を開かなくても、彼が来たのがわかった。
「明日は休校だってさ。レベル6なんだと」
「今月になって、何回めだっけ?増えたよね、最近」
確かに増えている。警報レベルの日が年々増えて、外出できなくなっている。今年になってさらにひどい。
ホントに隣の国から汚染された空気が流れ込んできているのが原因なんだろうか?
原因が特定できないまま、対策が行き詰まったまま、じわじわと状況は悪化している。
わたしが小さかった頃は、風がない、陽射しの強い日に限られていた。それが今や常に注意報レベルに達している。
うつむくわたしの手に彼の手が触れる。そして手を握りあう。もちろん手袋越しだが。
わたしは彼の目をのぞきこむ。そして見つめあう。もちろん防護マスクのシールド越しだが。
口元のキャニスターがぶつかってカチャカチャ音を立てた。
マスクを外して、頬を寄せ合うことも唇を重ねることもできない。
そういう行為は大人にしか許されない。
自宅に清浄な空気テントを備えることができた大人たちだけに与えられた特権なのだ。
それさえあれば子孫が残せるというわけでもない。
最近、妊娠する女性が激減している。病気に因るものか汚染に因るものか、専門家も原因を特定できないままだ。
日没の空に黒雲が幾重にも蠢き、とぐろを巻くドラゴンに見えて身震いした。
「わたしたちに未来ってあるのかしら?」
「愛しあって結婚して子どもが生まれて、子どもが成長してまた愛しあって。その繰り返しさ」
彼が後ろから抱きしめてくれた。
悩んでも悩まなくても、なるようにしかならない。・・・でも。
父さんや母さんの時代には、光化学スモッグ警報が出ただけでニュースになったという。
わたしたちの子どもたちは、いったいどんな空気の中で生きることになるのだろう。 

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東京みやげ

2012年07月17日 | 366日ショートショート

7月17日『東京の日』のショートショート



お父ちゃんが単身赴任から帰ってきた。
長いこと東京で仕事をしてはったんや。お疲れさま、お父ちゃん。
「え?何これ。東京みやげ?
ボクに?
わあ、うれしいなぁ。なんやろうなぁ。
それにしても長細い箱やなぁ。振ってみてもええ?なんやゴトゴトゆうとるで。
プラモデルかいなぁ。フィギュアかいなぁ。
開けてみてもええのん?ほな、開けるで。
・・・ア!
これってもしかして『東京スカイツリー』やないの?
かっこええなぁ!
ようできとるなぁ、コレ。ほんまもんそっくりや。
お父ちゃん、おおきにな。大切にするさかいな。ほんま、おおきに。
なぁお父ちゃん、いつまで家おれんの?
またお仕事で遠くに行かへんとならんの?
大変やなぁ。警察のお仕事って。
囚人の護送って、怖ないのん?
かっこええなぁ。お父ちゃんって正義の味方やな。
ボクもおとなになったらお父ちゃんみたいになりたいなぁ。
アレ?
なんやテレビで臨時ニュース流してるで。なんや大騒ぎやな。なになに。
・・・建設されて間のない新しい観光名所、あの東京スカイツリーが根こそぎ消えた?
お父ちゃん、まさかコレ・・・
コレって、ほんまもんやないか!
ほんまもんのスカイツリー、おみやげにしてどないすんの!もぉ、なにしとんのや。
囚人に逃げられたり、そいつ殺してそのまんまそこ住んだり、ほんまそそっかしいなぁ。
お父ちゃん、はよ返してきて!」
ジョワッ 

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