昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛の横顔 ~100万本のバラ~ (二十七)

2024-01-31 08:00:18 | 物語り

“わたしはほんとうに、トップに立ちたいの? 
ただ幼いころにいだいた憧れの気持ちに酔っているだけじゃないの? 
わたしの居場所は、あの教室の、一講師にすぎないのでは?” 
“わたしはトップに立てるの? そして上り詰めたその座は、本当にわたし居場所なの? 
それにいつかは、いまのわたしのように、だれかに追い落とされるんじゃないの?”

疑念が渦巻いてる。
松下という男を信じていいのか。
しかし「結婚」ということばすら口にした、愛人ではなく、妻として迎えると言ってくれた。
激しい高揚感につつまれる。
“そうよ! 自分の居場所はトップなのよ!”
そしてそれは、いま、目の前にいる松下によって与えられるものなのだ。
意を決して、栄子が二人を前にした。

「決めました、あたし。松下さん、お世話になります。
あなたの妻にして下さい。そして、トップスターにしてください。
あなたの出された条件、受け入れさせてもらいます。
待って、正男。あなたには、本当に申し訳ないことをしたわ。
あたしが相応しいかどうかなんて、はじめから分かってた。
年上の女ということではなく、あたしとあなたでは住む世界がまるでちがうの。

嬉しかったわ、百万円ものお金を用意しようとしてくれたなんて。
松下さんは一億円でも…と言って下さったけれど、お金の多寡じゃなくて、気持ちよね。
でもね、あなたは分かっていない。
ネット上で夢を語って多くの支援者を募るなんて、若い人だからの発想ね。
だけど、本当のロマンというものが分かっていない。
どんな愛の姿が、女を動かすのか分かっていない。

お金の多寡じゃないって言ったけど、それは魅力的なものよ。
ねんねじゃないもの、お金で買えない物があるなんて言わない。
でもね、穴蔵のような部屋に一日こもって、モニターとにらめっこして稼いだお金をね、惜しげもなくこんなあたしに遣おうなんて…どぶに捨てることになるかもしれないのに。
それが嬉しいの」

 途中何度も口をはさもうとする正男だったが、その度に栄子の指が正男の口を押さえていた。
そして席を立つ折に栄子が、正男の肩に手を置き、強い言葉で告げた。
「あたしはダンサーなの。そう、トップダンサー。死ぬまでずっとね」
                                                                                                 

 

*全27話、完結しました。
わたしの思いの丈は、すべてこめることができたように思います。
思えば、「100万本のバラ」というシャンソンを聴いて、ぎゅっと胸をつかまれる思いでした。

かつて所属していた同人会において
「この作品は、嫌いだわ」。「女を敵視してるのね」と、酷評されました。
「案外に、こういうものも有りじゃないですか?」。
救いの手を差し伸べてくださる方もいましたが、女性陣には不興でした。
ぼくとしては、女性を崇めているつもりなんですけどね。
そうそう、全話を、ホームページの方に載せておきます。
一気読みなさりたい方は、ぜひ[ やせっぽちの愛 ]においでください。 



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