昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

青春群像 ご め ん ね…… 祭り (十五)

2023-10-01 08:00:19 | 物語り

 小屋のうら手に煌こうと電燈がともり、プンプンと酒のにほいがする別の小屋があった。
十畳いやもう少し広いだろうか、板べいの小屋だった。
 ちいさな窓から中をのぞきこむと、七、八人が車座になってすわっている。
そして並々と注がれたコップ酒を、次つぎにからにしていた。

その中には、呼びこみの男がいた。
短剣をなげて喝采を浴びた中国人風の男もいた。
お手伝いをしていたチャイナ服がまぶしかった女性もいた。
割りばしをチリ紙で叩きわった武士道の先生もいた。

 みな、顔を赤くしている。そしてそのなかにひと際大きな嬌声をはっしている、あのへび女がいた。
舞台の上で着ていた真っ白な着物すがたで、やはりコップ酒を飲んでいた。
おおきく胸元をはだけている。身ぶり手ぶり大きく、話している。
白くもり上がった乳房が目にはいったとき、ふたりとも思わず目を伏せた。

「どういうことだ、どういうことなんだ!」
「へび女だよね、まちがいないよね。いっしょに居るよね、おさけを飲んでるよね」
 そして改めてのぞいたとき、いままさに、かれらに封筒が手渡されているところだった。
その中身がなんであるかはふたりにもよく分かった。

そしてなにより、友人はもちろんぼくにも衝撃だったのは、皆がみな、あのへびを食べていたことであった。
その瞬間、ぼくの胸の熱いものがスッと消え、目がしらに熱いものがこみあげてきた。
横の友人をぬすみ見すると、ただ黙りこくっていた。
ギラギラとした光が、目から消えたように感じられた。

 お互いなんのことばもなく、急に重くなった背中のリュックー炭酸飲料に菓子パンにインスタントラーメン、そしてせんべいの入ったリュックをおたがい見つめ合い、どちらからともなく笑った。
そして友人の目になみだが光り、ぼくのそれは頬をつたっていた。
幾重にもかさなったその夜の月は、いまでも脳裏に浮かんでくる。



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