昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百十九)

2022-04-13 08:00:44 | 物語り

 ひとり合点する武蔵、しかし茂作にはいまいましく聞こえる。
“ふん。なんで、わしが行かにゃならん! 娘婿が来るのが当然じゃろうが。
仕事が忙しいからと、舅をないがしろにするような男なんぞ! 
まあいい、こんな男に会いたいとも思わん。しっかりと金を稼いでくれればいいさ”
 憤慨する茂作だったが、
“我ながらいい口実を作ったもんだ。小夜子を実家に帰らせれば爺さんも喜ぶし。
俺もまた、命の洗濯としゃれこむこともできる。
こいつは一挙両得の妙案じゃないか”と、武蔵に浮気心がむくむくと起き上がってくる。
つい、不遜な笑みをつい洩らしてしまった。

「小夜子、どうした? お前、泣いているのか? 初めて見たぞ、お前の涙なぞ。
感の強い娘じゃとおはばさまがおっしゃられていたが」と、涙をこぼす小夜子に声をかけた。
「そりゃ、泣けてもくるじゃろう。好いた殿御と結ばれるのじゃからして。
しかもこのような、立派な三国一の花婿さんときた。
茂作さんのことも、良う考えていてくださるし。感激するのも当たり前のことよ」
「いやしかし。それにしても、あの小夜子が……。てっきり、竹田ん家の正三だと思っていたが」と、まだ信じられぬといった繁蔵だ。

「アーシアという大の仲良しを失ってからの小夜子は、泣き虫になりました。
まあ今まで、気を張って生きてきたのでしょう。いまは人の情が分かる、良い娘になりました。
この間、従業員の身内を付きっきりで看病をしてくれまして。病院でも評判でしたよ。
実のところ、わたしも驚きました。とに角鼻っ柱の強い娘でしたから。
もっとも、そこに惚れたのですが」

「社長。そのアーシアとかのは、何ですかの? 可愛がっていた犬か猫の類ですかの?」と助役が尋ねた途端に、小夜子の顔がみるみる赤くなった。
「アーシアを動物だなんて! バカ、バカ、バカあ! あんたになにが分かるのよ! アーシアは、あたしの命だったんだから」と、涙ながらに奥の部屋に駆け込んだ。

 唖然とする二人に、武蔵が言葉を足した。
「許してやってください。姉と慕う娘なんです、アーシアというのは。
アナスターシアと言うロシア娘でしてね、ファッションモデルなんです。
男の我々にはとんと縁のない、世界的に有名なモデルでして。
若い娘さんに聞いてください、良く知っていると思います。
その娘と、姉妹の契りを結んだようなんです。
いやいやこれはホントの話ですわ。で、一緒に世界を旅するつもりだったようです。
その為に一生懸命、英会話を習っていましたからね。お義父さんもご存知ですよね、たしか」



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