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昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[淫(あふれる想い)] 舟のない港 (七)重苦しいくうきが

2025-01-03 08:00:31 | 物語り

あけましておめでとうございます。
本年(令和7年)が、みなさまにとって、実り多き年となりますよう、ねがってやみません。
わたしにとっても、慶びの年となりますよう、精進するしだいです。
本年も変わらぬご支援を、よろしくおねがいします。
――・――・――

 重苦しいくうきが、また男をおそった。
ふりはらうように時計を見た。
針は、5時40分すぎを指している。
ほんの数分のことではあったけれども、ながい時間に感じた。
かつてあれほどに欲しかった時間が、いまは煩わしい。
 待合室から外に目をむけると、朝焼けの雲がまぶしく光っている。
そしてその下にあるディーゼル機関車の洗練されたスマートさが、皮肉に感じられてしかたがない。
SL機関車とおなじく馬車馬のように猛烈にはたらきつづけ、たったひとつのミスですべての歯車がくるってしまった男には、輝くばかりのエリートが腹立たしい。
そしてその歯車のくるいのために、ひとりの女性の人生までをも変えさせてしまった自分が、さらに腹だたしい。
 尽くされればつくされる程、男のこころの中にある神聖な部屋に土足ではいりこまれるようで、男のこころはいらだった。
激しいののしりあいもいちどやにどではなかった。
そして必ずといっていいほど、その後ふたりは獣になった。
それがたび重なるにつれ、獣になりたいがためにののしり合うのではないか、そんな錯覚をおこしはじめた。
〝これでいいのよ!〟。おんなからのそのことばを信じながらの生活は、ふたりにとって、ときに禁断の快楽であり、また地獄でもあった。
いま、男はそんな生活と決別して、ほんとうの生活――みのりある生活を取りもどすために、そう、希望という舟のない港にふねを入れるべくの旅だった。
「Such is life,will once more !」と、高らかに誇らしく叫び、かびの生えた情熱
をふたたび燃やそうとしていた。
しかし男に、羅針盤はない。
東か南か、どこに行けばそれが手に入るのかわからない。
わからないが故に、ぬるま湯の生活からいま、旅だっている。 

 



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