「お父さん、起きてよ。こたつのうたた寝は、風邪ひきのいちばんの元だよ」
「ああ…なんだ、明美か。えっ? いつ来たんだ。
というよりはじめてだな、アパートに来てくれたのは。
どうだ、元気しているのか。仕事は、うまくいってるのか?
教師だなんて、厳しいだろう、いまの学校は。
お父さんたちのころの先生は、ほんとに尊敬されていたけれどもな。
いまは、たじたじらしいな。ちょっと待てよ。
えっと…さよ、いやだれか居なかったか?」
饒舌なわたしに、目をまるくしている娘だ。
以前のわたしは、たしかに寡黙な父親だった。
どうしても妻の前では、口が重くなっていた。
というより、わたしが話をしはじめると、すぐにかぶせられてしまう。
ひがみかもしれないが、子どもたちを隔離しているような…。
そういえば世のお父さんたちは、嬉々としてむすめを風呂に入れているとか?
「なによ、だれかと暮らしてるの?
ひとり暮らしだだっていうから、ちょっと心配になって来てみたのに」
娘のなじる声に、あわてて答えた。
「いやいや、ひとりさ。お客さんがな、来てたような…夢だったかな」
たしかに考えてみれば、変なことばかりだった、ありえないことばかりだった。
夢だとしたら、納得がいく。
それにしても、なんて夢だ。あれが、わたしの本性なのだろうか。
“もう女はこりごりだから”などと、職場では言っているくせに。
“もう、ひとり住まいにも慣れたし”といきがってみたりもして。
“勝手気ままに暮らしたいから”と言いつつも、やはり淋しさには勝てないものか。
「お父さん、聞いてる? すこしは、反省してるの?
お母さんが怒るのも、無理ないわよ。
いちどならまだしも、なんとまあ、3度もでしょ。
それも、社内不倫だなんて。
降格はまだしも、部署も物流なんかにまわされて。
きついんじゃない? 仕事。肩なんか、バキバキじやないの。
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