ワル仲間とのあそびに興じはじめた定男に、身重のあかりが反発した。
喧嘩がたえなくなり、とうとう「赤ちゃんなんか、いらない!」とさけんだ。
言いあらそいに嫌気をさした定男が、やむなく孝道に泣きついた。
結局ふたりは別れることになったが、定男が戻ることはなかった。
孝道のお説教が毎晩つづき、町中をあるけば「根性なし」だとか「はらませた男」と、侮蔑のことばをあびせられる。
「おれだけがわるいのか!」。そう言いのこして、ワル仲間のもとに戻った。
ふたりの赤児は孝男が引きとることになった。
渋る道子にたいしシゲ子が言いはなった。
「あとつぎができるんだから、感謝してほしいぐらいだよ」
顔を合わせるたびに、シゲ子のつめたい視線が飛んでくる。
「だから言ったんだよ、わたしゃ。あの娘さんにしときなって」
3回目の見合いで、やっとシゲ子のおメガネにかなう女性があらわれた。
しかし孝男の偏執的な性格をくみとった相手の母親が、強硬にはんたいをした。
さらには「あの母親じゃ、この子が苦労するだけだ」と、銀行員というお堅い職場にほれこんだ父親を説得した。
そのことばを聞いた孝道が、すぐさま道子に頭をたたみにこすりつけんばかりに懇願した。
「婆さんのたわごとだ、気にせんでくれ。
道子さんには申し訳ないが、産まれてくる赤児に罪はない。
養子にと考えんでもなかったが、相手のお嬢さんのことを考えると…な。
すまんが、こらえてくれんかね」
あわてたのは道子だ。
舅にここまでされては断るわけにもいかない。
孝男は、お前にまかせるの一転ばりだった。
〝あたしはあなたを愛せないかもしれないけれど、大事にそだてるから勘弁してね〟
家族のだれにも愛されない赤児だった。
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