昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第二部~ 新(三百三十八)

2023-04-13 08:00:50 | 物語り

 翌日からの富士商会の攻撃はすばやかった。
早朝に倉庫横にある食堂に全員をあつめて、湯気の立つそばを食べながらの訓示となった。
「そうだな。取りあえずは、向こう二ヶ月間としろ。
それで、様子見だ。相手のうごきを見て、あとは考える。
いいか、どんなささいなことでもいいから、ちくいち報告しろ。
疑問符のつく情報でもかまわん。その真偽は、俺がしらべるから。
営業たちは、とにかく情報を集めろ。しばらくは、新規開拓はなしだ。
どんなに大口でもだめだ。うわさを聞きつけて声をかけてくるはずだ。
そのときは『現取引先さまだけの特典ですので』と、丁重にことわれ」
 一人ひとりの目をとらえて、ゆっくりとぐるりと見回す。
訓示のさいに、武蔵がかならずおこなう所作だ。
見ているわけではない、しかし武蔵が個々人に話しかけている、そう思わせるための所作だった。

「その代わり、過去においていち度でも、どんなに小額でも、取引があった店なら良しだ。
どんなに小さな個人商店でもかまわんぞ。
『喜んでお届けします』と言え。それからもう一つ。これがいちばん大事なことだが。
これらの取引については、ニコニコ現金払いだ。現金引換えだ。手形類は、いっさい認めない。
この条件をのまない取引先は、このさい切ってしまうぞ。
おまけ不要だから手形で、という取引先も切ってしまう。
踏絵にするぞ、このさいに。経営状態の悪いところとは、このさいおさらばだ。

お荷物会社を、日の本商会に押しつけてやろうじゃないか。
いいか! 温情は持つな! 富士商会だって、大量の血を流すんだ。そこのところを忘れるな。
もうひとつ、二ヶ月間は個々の成績にはしない。売上減は当たり前だからな。
逆に減ってくれた方が、損失が少なくて済むからな。ま、頑張って売らないようにしてくれ。以上だ」
「ふーん、思ったよりやるじゃないか。六割強か、取引先の。
早晩、ぜんぶに回られるな。予想以上の範囲だな、こりゃ。
危なかったな、これは。全取引先に知れわたるのも、時間の問題か。
口止めの効果はなしだな。よし、すぐにおまけ作戦にとりかかれ。
全取引先だ、一部先行して云々ということはなしだ」



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